『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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ボッチの試合を見た高町家。

「ま、まさかあの技を本当にやる人がいるなんて……お兄ちゃんが聞いたら発狂して喜びそう」
「恭也さんも?」
「うん。……もしかしてそっちも?」
「うん、クロノ、全巻持ってるってこの間言ってた」
「男の人って、そう言うの好きだよねー」
(言えない、私も時々かめはめ波の練習をしてたなんて、言えない!)
「フェイトママー、どうしたのー?」

本作のフェイトママは漫画やアニメの影響を受けやすい模様。

八神家の場合

「すっげー、本当にあれをやる奴がいるなんて、バカなんだか天才なんだかわかんねーな!」
「リスペクト精神って奴かしらね」
「何れにせよ、彼が相当の実力者であることには変わりはない。……機会があれば管理局にスカウトしたいモノだ」
「因みにはやてちゃんはあの漫画で誰が好きです?」
「ベジータ一択」
「流石は主、ブレない」

因みにはやてのベジータ押しはあのツンデレ具合が堪らない模様。





その12

───僕がその人の試合を最初に見たのは、二年前のU25のトーナメント。多くの格闘技選手が世界王者を目指して開かれるDSAA最大規模の武道大会。格闘技の大会と称しておきながら大規模魔法の使用を許された文字通り何でもありのその大会で………彼がいた。

 

並みいる強豪を己の肉体と体術のみで打ち倒し、絶体絶命の危機を難なく突破するその姿は当時私達の中でも大きな話題となっている。その戦い方はヴィヴィオさんやアインハルトさん、私を含めた大勢の格闘技選手達の心を掴んで離さなかった。

 

そして決勝戦を勝ち抜き、全次元世界が注目したタイトル戦。当時の現チャンピオンも物凄く強い人で、格闘技選手として最高水準の力を持っていた。そんな二人が戦う姿に僕はテレビにかぶり付くように眺めていた。

 

繰り出される拳と蹴り、魔法と魔法、力と技の凄絶なぶつかり合いに僕は息をするのも忘れて見入っていた。

 

速すぎる攻防、目では追い付けず、理解することも困難な激しい戦い。戦いの舞台である無人世界を縦横無尽に駆け回りながら戦う二人はさながらお伽噺に出てくる伝説の戦士達の様だった。

 

彼等の戦いに誰もが心を奪われた。鮮烈で、苛烈で、だけど何処までも楽しそうに戦う二人に僕達は自分の理想を重ねた。いつか、自分もあんな風に戦ってみたい。

 

────そんな二人の戦いは唐突に終わりを迎えた。チャンピオンの攻撃を1、2回程受けた彼はダメージが大きいのか体をふらつかせていた。

 

それがチャンピオンにとって好機に見えた。無論、僕達もその瞬間試合の流れが完全に決まったと思った。最後の技の為に“溜め”をするチャンピオン、きっと現場では物凄い迫力なのだろう。画面越しからでも伝わってくるチャンピオンの気迫、空を染め上げる程に巨大な魔力を前に、彼は悠然と佇み。

 

『10倍界王拳ンンンンッ!!!』

 

その力の全てを爆発させた。

 

『かぁ~めぇ~はぁ~めぇ~………』

 

『私の、勝ちだァァァッ!!』

 

『波ァァァァァッ!!!』

 

ぶつかり合う魔力と魔力、その威力は凄まじく、余波で周囲の環境を破壊し、観客席からはどよめきの声が、実況者の人は実況する事を忘れて解説の人と一緒に悲鳴を上げている。

 

軈て画面の全てが白に染まり、光で埋め尽くされた。しばらくして収まる光、その中央で佇んでいたのは………上半身のバリアジャケットが全損し、その肌を露にした彼が拳を天高く掲げている。その彼の向かい側には目を回して気絶している現チャンピオンの姿があった。

 

新たな世界王者の誕生に観客席からは大きな歓声が沸き起こった。実況の人も、解説の人も、感動と感激で何を言ってるのか分からない程に興奮していた。

 

きっと、当時の僕達も同じ気持ちだったのだろう。新たな世界王者シュウジ=シラカワ選手、U25というどの格闘技大会でも最も過激とされるDSAA最高峰の舞台。その頂点を極めた人が新しく誕生した事に僕は自分の事の様に盛り上がった。

 

それから暫くはヴィヴィオさん達とはこの話題で持ちきりだった。アインハルトさんも是非一度本気で手合わせしたいと目を輝かせていたし、ハリー選手に至ってはシュウジ選手の大ファンとなり彼の戦い方の研究をしている程だ。

 

エレミア選手もヴィクター選手も、彼には決して小さくはない興味を抱いていただけに、シュウジ選手の突然の引退には酷く落ち込んだ。どうして引退したのだろう。記者会見等を開かず、淡々と引退した事だけを告げて去っていったシュウジ選手。

 

派手な戦いをする割に謎の多い彼に多くの諸説が浮かんでは消えた。曰く、古代ベルカに伝わる伝説の戦士の末裔。曰く、その戦士本人。曰く、世界を越えて現れた迷い人。

 

突拍子もないその諸説は結局どれも的を得たものはなく、やがて話題は薄れ、世間も彼の事を忘れて僕自身も忘れようとした時に……。

 

『初めまして、本日から暫くの間ここで働かせて頂くシュウジ=シラカワです。接客業は結構得意ですので、宜しくお願いします!』

 

平然と、笑顔でやって来た彼に僕は思わず変な声が出た。

 

半年という長いようで短いバイト期間、ヴィヴィオさん達に紹介しようかずっと悩んでいた間に気付けばバイトを辞めていて、そして新たに喫茶店を開いた彼に僕は言葉にし難い感情を覚えた。

 

それからだろうか。彼に対して割と容赦のない言葉を口にするようになったのは。嘗ての世界王者がクラナガンの隅でひっそりと喫茶店を営んでいるなんて、一体誰が想像できるだろうか。

 

驚きを通して軽く悪夢だと思うのは僕だけじゃない筈、しかも理由を聞けばお金が欲しかったからという単純な動機で格闘技を始めたというから余計に質が悪い。

 

────でも、DSAAの大会に出たときは楽しかったと語るシュウジさんに僕は何も言えなかった。笑顔で、子供みたいに当時を語る彼に僕はもう納得するしかなかった。

 

やっぱり、彼は伝説の世界王者なんだなと改めて思う。世界一強いチャンピオンはきっと誰よりも格闘技に、魔法の戦いに夢中になった人に送られる称号なのだから。

 

だから、僕も目一杯楽しもうとする。これから始まる試合に勝つために、そしてもう一度ヴィヴィオさんと戦う為に………いつか、彼と一緒に格闘技を楽しむ為に。

 

『それではこれより第二試合、リンネ=ベルリネッタ選手とミウラ=リナルディ選手の試合を始めます。両選手、入場!』

 

ミウラ=リナルディ、全力で頑張ります!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

G月G日

 

フーカちゃんが勝った。昨日のウィンターカップ最初の試合でルーキーながら鮮烈な勝利を飾ったフーカちゃんの実力はその日の内に格闘技界に知れ渡る事になった。

 

1RKOという鮮烈で強烈なデビューを飾ったフーカちゃん、しかもその体捌きと身のこなしから自分に縁のある者ではないかと早速噂になっているらしい。幸い店にそう言った話は来ていないからまだバレてはいないだろうけど、そろそろ自分の事を隠し切るのは難しくなってきているみたいだ。

 

まぁ別にバレてもいいんだけどね。隠しているつもりはないし、知ったら知ったで堂々としてりゃあいいしな。フーカちゃんも今更その程度で動じたりはしないだろうし、もしメディア連中が押し掛けてもその時はアインハルトちゃんの時みたく俺の特製麻婆を完食する事を条件にすればいい。………個人的にはこの条件は凄く納得いかないが、今は他に代案もないから仕方ないものとする。

 

で、大会はナカジマジムの娘達は無事に勝ち進み、アインハルトちゃんは勿論ヴィヴィオちゃんも無事に次の試合に進める事に成功した。

 

ただ、ミウラちゃんだけは残念な事に次の試合に勝ち進む事は出来なかった。別にミウラちゃんに悪いところはなく、ただ対戦相手のリンネちゃんがその上を行っただけだ。

 

しかし驚いた。まさかミウラちゃんの抜剣、あれをマトモに受けても打ち返せる耐久力を身に付けているなんて、どうやら彼女の専属コーチであるジル=ストーラさんの手腕は飛び抜けて優秀らしい。効率良く選手を育成する事に関してだけ言えば、ナカジマ会長の手腕を大きく越えているんじゃないだろうか。

 

強いわけだ。しかし逆に言えば勢いがありすぎるというのがリンネちゃんの虚を付ける隙に成り得る筈。

 

次のリンネちゃんの対戦相手はヴィヴィオちゃんだ。彼女の眼ならきっとその隙を突いて突破口を開ける筈。

 

───あー、惜しい。もし俺が彼女のコーチだったらその目の良さを活かしたジョルトカウンターとか教えてあげられたのに……言っても仕方がないとは言えそう思わずにはいられない。

 

で、肝心なミウラちゃんだが、今は病院で大人しく治療を受けている。其処には優秀な治癒の魔法使いの娘が付いててくれるみたいだから、そんなに心配はしていない。自分も顔を出したが、泣くのを精一杯我慢している彼女にこれ以上邪魔をするわけにも行かず、フーカちゃんと一緒に帰路に就いた。

 

フーカちゃんに限らず、何かに一生懸命な子は何度も挫折を経験し、涙を流し、そして立ち上り強くなっていく。涙の数だけ人は強くなれる。月並みの言葉だが、少なくとも俺は信じている。

 

だって、嘗ては泣きじゃくるだけで何もできなかった娘が、今では立派に格闘技をしているのだ。きっとミウラちゃんも立ち上り、次に向けて足を進めるのだろう。

 

次に彼女がウチの店に訪れることがあれば、その時は暖かく迎えてやろう。以前彼女の店で自分がそうして貰ったように……。

 

 

 

 

 




「そう言えば、シュウジさんて車二台持ってるんですね。一つは移動用なのは分かりますが、もう一台はどうして使わないんです? 凄く手入れはされてるみたいですけど……」
「あぁそれ? 実は趣味で一時期走り屋をしててね。良く峠を攻めてたよ」
「と、峠を攻める?」
「その時に一人の女性の走り屋と知り合ったんだけど、顔は見れなかったんだよねー。常に車越しだったし、向こうの窓も外から見えない仕様になってたし」
「は、はぁ……」
「彼女との走りは中々面白かったけど、右コーナーがちょっとお粗末でね。俺の敵では無かったね」
(シュウジさんが自慢しとる……じゃと!?)
「名前は何て言ったかな、ライトニングとしか言わないから分からないけど、どうも噂では執務官をしているんだとか?」
「いや、仮にも公務員がそんなことする訳ないでしょう?」
「だよねー」

「へっくし!」
「フェイトちゃん、風邪?」
「うぅん、平気。でも今日は早めに眠るとするよ」

───本作のフェイトママは影響を受けやすい子。アホの子とも言う。


それでは次回もまた見てボッチノシ

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