『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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「ねぇねぇクロノ君、これ見た?」
「どうしたエイミィ、これは……DSAAの試合映像?」

ボッチのかめはめ波を打つシーン。

「クロノ君、昔この人と同じことしてたよね?」
「し、してないしー! 今時かめはめ波の真似やる奴なんて実際いないしー! ……クッソ、ウラヤマシイ」
「何か言ったー?」
「い、言ってないしー!」




その14

 

 

 

ジル=ストーラによって会場へと辿り着いたシュウジ、時刻もまだ幾分か余裕があり、このまま会場入りしておこうかと思ったが、その前に選手控え室に寄ろうかと考えた。

 

一時的にとは言え、今の自分はナカジマジムのちょっとした関係者という扱いになっており、ジムの控え室には一応出入り自由の身となっている。

 

先日と同様フーカに激励の一つでも掛けてやろうかと思ったが、既に彼女には先の初試合で充分な言葉を送っている。今は気持ちも昂り、試合への意気込みとやる気も充実している頃だから下手な呼び掛けは却って彼女の集中を乱す事になるだろう。

 

ならばヴィヴィオやアインハルトには声を掛けた方が良いだろうか? ………いや、それも余計なお節介だろう。格闘技選手としての経験はフーカとは比べる必要も無いほどに充実しており、試合前の気持ちの切り替え方も慣れたものの筈、今頃はフーカ共々ナカジマ会長との最後の打ち合わせみたいな話し合いをしている事だし、邪魔をする訳にはいかない。

 

シュウジがナカジマジムの関係者なのはあくまでも仮だ。フーカという身内が出場し、シュウジが曾ての格闘技選手であるから例外的に認められた立場でしかない。そんな自分が折角集中している彼女達の邪魔をするのは些か不謹慎である。

 

………やはり、ここは大人しく試合が始まる時まで待つしかないか。選手控え室に向かうのを諦めたシュウジは一般用の出入り口を潜り、会場へと入る。まだ時間は早いが、既にあちこちには他の観客達が席に座り込んでいる。このままでは立ち見になりそうだ。シュウジが買ったチケットは自由席のモノだが、このままでは良い席は埋まってしまうかもしれない。

 

自分も早く席に座ってその時が来るのを待つとしよう。シュウジが早足で適当な席に座ろうとした時、一人の男性が彼を呼び止めた。

 

「お待ちください。もしかしてあなた様はシュウジ=シラカワ様でしょうか?」

 

「うん? 確かに自分はシュウジ=シラカワだが、君は……?」

 

「突然の御呼び掛け失礼致しました。私はエドガー、ダールグリュン家に仕える執事でございます」

 

「あ、これはご丁寧にどうもです」

 

振り返った先に立っているのは自らを執事と名乗る燕尾服の青年、ダールグリュンという家名から彼がヴィクトーリアの関係者だと察したシュウジ、執事らしい丁寧な挨拶をしてくる彼にシュウジも戸惑いながら返した。

 

「さてシュウジ様。宜しければ席をご案内させて欲しいのですが如何でしょうか? 幸いまだ決まった席は見付けてはいないご様子。差し出がましいかと思いますが、VIPの席をご用意させて頂いております」

 

「い、いやぁ、先日も御世話になったのにまたご厄介になるのはちょっと、自分は所詮小市民の一人でしかありません。ご令嬢であるヴィクトーリアさんの迷惑になるのは少し憚れると言いますか……」

 

「何を仰いますか。貴方様の経歴は誰もが認めております。それにお嬢様はシュウジ様の見識眼を高く評価しており、今回お誘いしたのもその深い考察に肖りたいのが理由です。どうか、お嬢様のお力になっては下さいませんか?」

 

「で、ですがね。流石に年下の子に集るような真似はちょっと……いや、別にヴィクトーリアさんを小娘扱いとかそんな風には思ってませんよ? ただ、良い歳した大人がまだ成人を迎えてない娘の厄介になるのは人としてどうかな~と思いまして、それに自分既にチケットは買っちゃいましたので、ご厚意は嬉しいのですけど───ねぇ?」

 

「分かりました。ならばそのチケットを言い値で買いましょう。そしてシュウジ様には堂々と指定された席へご案内させて頂きます」

 

「へ? い、いや待って!? なにか、何か可笑しくない!?」

 

「申し訳ございません。お嬢様は是が非でもシュウジ様との試合観戦を望まれておりますので、最悪の場合今回の観客の席を全て買い取ってでもそれを実現なさるおつもりです」

 

───本来ならばこんな真似はしないんですけどね。と、苦笑いで付け加えるエドガーだが、対するシュウジは戦慄する。

 

ブルジョワやべぇ。年下の娘に一度ならず二度も御世話になるのは気が引けるから遠慮しようかと思ったのに、まさかの大反撃にシュウジはグゥの音もでなくなる。

 

これが雷帝の本気、格闘技としての実力は兎も角として、善良(自称)で小市民(笑)なシュウジは今回彼女に完全敗北する事となった。どんなに強くなったと言っても所詮は一市民、ガチセレブなお嬢様に金銭勝負で勝てる道理はなかった。

 

「………わ、分かりました。宜しくお願いします」

 

「ご理解頂き、ありがとうございます」

 

肩を落として敗北を認めるシュウジ、そんな彼を見てエドガーは同情の笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごきげんようシュウジ様、この度も私の我が儘に付き合ってくれてありがとうございます」

 

「あぁうん、どうも」

 

エドガーの案内で通されるVIPルーム、部屋に入るとダールグリュン家の令嬢、ヴィクトーリアが満面の笑顔を浮かべてシュウジを出迎えた。誰もが見惚れるだろう美しい笑顔、先程までセレブの恐ろしさを体験してなければシュウジも彼女の笑みに絆されていただろう。

 

辺りを見ればハリー選手とエルス選手も同席している。ただ二人とも疲れているのか笑顔を浮かべている筈なのに表情がげんなりしている、きっと今の自分も同じ顔をしているのだろう。

 

「そして謝罪を。今回の私の我が儘で気分を害されたのであれば、後日当家へご連絡下さい。ダールグリュン家総出で改めて謝罪させて頂きますので……」

 

「い、いや、もう本当大丈夫なんで、全然平気なので………その、勘弁してください」

 

もしかしたら今回、初めてシュウジは勝てる気がしない相手と言うものを体験したのかもしれない。ハリーとエルスが御愁傷様と言わんばかりに苦笑いをしているから、きっとシュウジが抱いたヴィクトーリアへの印象は間違いではないのだろう。

 

自分の誘いを受け入れた事に安心したヴィクトーリア────今後はヴィクターで統一────はニコニコと笑みを浮かべながらシュウジを招き入れる。既に観念しているシュウジも言われるがままに部屋へと入り、眼下に見えるリングを見下ろす。

 

「それで、早速ですがシュウジ様。今回の試合の事ですが………いえ、ここまで来ていただいたのです。余計な建前は省きましょう。単刀直入にお尋ねします。今回のヴィヴィオさんとリンネさんの試合、勝つのはどちらだと思います?」

 

余計な言い回しはせず、間髪入れずに本題を叩き込んでくるヴィクター。今回誰もが注目している試合、ヴィヴィオとリンネの戦いにヴィクターは勿論ハリーとエルスもシュウジの答えに耳を傾けていた。

 

「その質問に応える前に、一つ君達に問わせて貰う。君達は一体何の為に格闘技を始めたのかな?」

 

「うぇ?」

 

「そ、それは……その……何というか」

 

「少し気恥ずかしいかな? なら質問を変えよう。君達が試合で初めて勝った時、どんな気持ちだった?」

 

質問に質問で返すという礼を失する行為を敢えて行うシュウジ、彼の質問に少しばかり戸惑うハリー達だが、当時の事をゆっくりと思い出し、少しずつ語るように応えていく。

 

「お、オレって頭が悪いし、自慢出来るのは腕節位だから、それを活かせる舞台に立てて、勝ったら拍手が雨のように降り注いで来て………その、嬉しかったです」

 

「私もそうですね。強くなれたという一番実感できる瞬間ですし、これまでの努力が報われた証明ですから、その時の喜びは例えようがありません」

 

「私も二人と概ね一緒ですわね。最初は雷帝の子孫だから、貴族だから力を示さねばならないという使命感で続けていましたが、戦う時の高揚感や勝利した時の達成感は最高級の美酒に酔いしれる以上の心地ですわ。無論、まだ未成年なのでお酒は飲んでませんが………」

 

三人とも表現は異なるが概ね似たような所感を口にしている。多少恥じらいながらも質問に答えてくれたハリー達にシュウジは満足そうに頷き、改めてヴィクターの質問に応えた。

 

「そうだね。格闘技選手だけでなく多くのアスリート達はそういう努力の報われた瞬間───勝利の美酒を味わう為に日々邁進している。寧ろ、それが前提で弛まぬ努力を重ね続けている」

 

納得いかない結果に反骨心を燃やし、闘志を抱いて今度こそはと身体を鍛えたり、今度はもっと良い結果を残したいとアスリート選手は毎日己を磨き、高めていく。

 

人はそれを“夢中”という。何かに夢中になり、それを成し遂げたいと欲望が生まれ、それが原動力となり人は努力を続けるのだ。努力の先に待つ結果に報われたいから人は頑張れるのだ。

 

何かに夢中になり、目標に到達する為に邁進する事、人はそれを“糧”という。

 

「今ここで試合の行方を口には出来ませんが、少しだけ指摘出来るものがあるとすれば………ここまでの格闘技選手としての人生でどれだけ夢中になれたのか、ヴィヴィオちゃんとリンネちゃんの勝負の行方は突き詰めればそこに辿り着く事でしょう」

 

「夢中……ですか」

 

「ど、どうしようエルス。オレ、シュウジさんがなに言ってるか全然分かんねぇ」

 

「分からないなら黙ってましょうよ! 大丈夫です。私も良く分かってませんから!」

 

ハリーとエルスが疑問に首を傾げる中、ヴィクターはシュウジの言葉の意味を理解したのか、その表情を暗くさせる。夢中になる事、それは今のリンネからは一番遠く何よりも難しい言葉だった。

 

リンネとヴィヴィオ、二人の選手がアナウンスと共に入場する。高まる緊張感と沸き立つ観客達の歓声、因縁ある二人の試合に会場の盛り上がりは既に最高潮に達しつつあった。

 

「と、所でシュウジさん」

 

「ん? なんだいハリーちゃん」

 

「う、噂で聞いたのですけどもし今回の大会リンネが優勝したら、リンネの専属コーチになるって本当なんですか?」

 

「え? ………うーん、詳しくは違うけど、まぁ大体合ってるかな?」

 

本当は試合に優勝ではなく、フーカと戦い勝つことなのだが、このままリンネが勝ち続き優勝すれば結果的には同じ事だ。今回のフーカの相手も彼女が遅れを取る相手ではないし、このままリンネが勝ち進めば二人の戦いは実現する事になる。

 

故に、シュウジはハリーの質問を特に否定する事はしなかった。するとハリーはプルプルと肩を震わせ。

 

「ヴィヴィオぉぉぉっ!! 絶対勝てよぉぉぉっ!!」

 

突然大声でヴィヴィオへのエールを送るのだった。耳元で叫ばれた事に怒りを露にするエルス、二人がギャーギャーと騒ぎ立てるなか、シュウジはリングに佇む二人を見つめる。

 

(とは言っても、勝負の行方は最後までどうなるかなんて分からない。実際肉体面に関してはヴィヴィオちゃんは目が良いこと以外リンネちゃんに勝てる要素はない)

 

シュウジは断言する。ヴィヴィオという選手は格闘技には向いていないと、正面からリンネという強者と打ち合うには彼女は剰りにも非力だった。

 

彼女はどちらかと言えば魔法を主にする分野で活躍する人間だ。有り体に言えば後方支援タイプ、自分以外の仲間がいて初めてその役割を全う出来る縁の下の力持ち。それが高町ヴィヴィオの特性だ。

 

とてもではないが真っ正面からリンネと打ち合える選手ではない。しかし、そんなことはナカジマ会長もヴィヴィオ本人も理解している。それを承知の上で努力を重ね、夢中になって今日まで自分を磨き上げてきた。

 

それを無駄の努力と笑う人間もいるだろう。シュウジも自分がヴィヴィオの立場なら、早い段階で別の道を模索している。

 

けれどヴィヴィオはそうしなかった。そうしないだけの理由があった。あの日玉座で泣いていた幼子が、リンネという強者を前にしても笑顔で立ち向かえる強さを得ている。

 

「───見せてもらおうか。君が選んだ選択、その結果とやらを」

 

いつの間にか、ワクワクしている自分がいる。二人の試合の行方がどうなるのか、それはきっと神様にも分からない。

 

───今、試合開始のゴングが鳴る。

 

 

 

 




話が進まなくてすまない。

次回、ヴィヴィオVSリンネ。果たしてヴィヴィオはゴリラが如きリンネに打ち勝てるのか!?

Q.もしもボッチが古代ベルカの時代に降り立ち、聖王や覇王達の事を知ってたら?

A.ボッチ「若い子達が頑張ってるんだし、俺も気合いを入れないとなー」
聖王「誰かあの人を止めてぇぇぇっ!!」
覇王「エレミア、君の出番だ!!」
エレミアは脱兎の如く逃げ出した。

そして世界は強制的に平和になる。

つまり前のQ&Aとあまり変わらない。(笑)


それでは次回もまた見てボッチノシ

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