『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回、あまり面白味が無いかも……。



その16

 

序盤から波乱が巻き起こるリンネとヴィヴィオの試合、2Rのゴングが鳴ると同時に吶喊を仕掛けるリンネにヴィヴィオは落ち着いて迎え撃った。

 

1Rの時と同じ展開、しかし自ら打って出たにも関わらず、リンネはガードをして防御を固くさせた。プレッシャーを掛けながらヴィヴィオの大振りを誘発させ、その隙を突く作戦なのだろう。

 

しかし、それはヴィヴィオにも分かっていた。ガードを固めたリンネに執拗に連打を重ね、大振りを見せ掛けて打ち返してきたリンネに合わせて丁寧にカウンターを当てていく。

 

「先程のラウンドより連打が速い。ギアを上げて来たか」

 

「加えてフットワークも軽い。どうやら先程のダメージはまだ致命的では無いようです」

 

1Rの終盤で幾つかリンネの攻撃をマトモに受けていたが、それも今では完全に快復している。恐らくヴィヴィオの相棒であるデバイスが余程優秀な性能を有しているのだろう。

 

連打を重ね、隙あればカウンターを放ち、危険を察知すれば後ろに下がる。広いリングを上手く活用した戦術、ヴィヴィオの眼を最大限に活かした戦い方にシュウジは素直に感心した。

 

(だが、あれだけ打たれてもリンネちゃんは平然としている。やはりヴィヴィオちゃんの力では決定力に欠けるか)

 

ヴィヴィオの拳を悉く浴びてもリンネの動きは微塵も揺るがない。ヴィヴィオのフットワークにもラウンドを重ねれば対処法も分かるだろうし、この試合の終盤には体力面で優秀なリンネが猛威を奮うだろう。

 

「今回のウィンターカップは立ち技が主体だから、寝技とか組み付きはダメなんだっけ?」

 

「はい。蹴りや投げは許されますが、基本的には打撃がメインです」

 

「成る程、リンネちゃんは確かに全方面に向けて高いレベルで完成されているが、逆を言えばその力を十全には発揮しきれていない。という事か」

 

シュウジの言葉に隣に控えるヴィクターは頷いて肯定した。DSAAの格闘技界に於いて立ち技、寝技、投げ技が主体にしており、勿論そこには魔法の使用といった次元世界ならではのオリジナルのルールが成立されている。

 

現大会のウィンターカップは立ち技と投げ技をメインにしていて寝技は今回は禁じられている、それはリンネの武器を一つ封じられている状態でもあった。

 

対してヴィヴィオは立ち技特化で打撃戦を大の得意としている。軽快なフットワーク、鋭くも正確な打撃、蹴りも出来て加えて相手との距離の計り方も絶妙と来ている。嘗てシュウジが経験した大会とは違い、様々な制限を設けられた今回の大会では寧ろヴィヴィオの様な器用な選手こそが活躍できる舞台なのだ。

 

(ホント、こうして観るとまんまボクシングだな。ルールも似通ってる所多いし、本当に地球は管理外世界なのか?)

 

自分の知るボクシングのルールと良く似ている今回の大会、そんな比較的どうでも良いことを考えていると、シュウジの視界にリンネの手がヴィヴィオの胸倉を掴んでいる瞬間が飛び込んできた。

 

このまま一気に流れを引き戻すか? ミウラとの試合同様掴んだ所からの至近距離による強烈な一撃、しかし拳を握り締めたリンネの一撃は届くことはなく、読んでいたとばかりにヴィヴィオの左右のフックが彼女の顔に直撃する。

 

(組み付きはダメなのに掴みはOKか、うーん。良くわからん)

 

「しかし、良く避けますねぇヴィヴィオさん」

 

「ヴィヴィオさんも以前リンネと試合をしたときより強くなってますね」

 

「当て勘も避け勘もやべぇからなぁ。ああなったヴィヴィオは手がつけられねぇぞ」

 

ハリー達がヴィヴィオの技術力の高さを称賛する中、シュウジはリンネの動きを注目する。確かにヴィヴィオのアウトボクサーとしての才能は凄まじい。非力とは言ったが、ヴィヴィオにはそれを補って余りあるほどの目の良さがあり、今の戦い方は彼女を最大限に活かせている。

 

カウンターの打ち込みも見事である。カウンターパンチャーは相手のリズムを見切るというのが強みというが、今のヴィヴィオはそんな彼等と遜色のないレベルにまで登り詰めている。

 

これがヴィヴィオとナカジマ会長二人による最強の戦い方なのだろう。しかし、それはリンネとジルにも同じ事が言える。練習に練習を重ね、長い時間を掛けて肉体改造を施してきたリンネ、天性の肉体を最大限に活かした鍛え方は彼女の強さを一つの段階へと引き上げさせている。

 

第2ラウンド終了のゴングが鳴る。結果から見れば最初の時と同じ終始完封された形となったが、今回限りはそれは当てにならない。幾らポイントを取っていようが、リンネのパンチはそんなモノを幾らでもひっくり返せる破壊力を持っている。

 

前回と同様に判定勝ちを狙うのか? 仮にヴィヴィオ達の作戦がそうだとしても一度それを経験したリンネが許すとは思えない。

 

「次のラウンドが勝負だな」

 

「ですね」

 

「………うー!」

 

「ど、どうしたんですハリーさん」

 

「エルスぅ、ヴィクターの奴シュウジさんを独占してるぅ~、オレもシュウジさんと色々話したい事あったのにぃ~」

 

「貴女さっきからそうやって話し掛けようとしては失敗してるじゃないですか! 今回は素直に諦めて、また次にお話しましょ? ね?」

 

「うー! うー!」

 

「涙目でお二人を指差さない! こっちまで切なくなるでしょ、そんなに嫌ならもう一度話し掛けてごらんなさいな」

 

「やだ。恥ずかしいもん」

 

「乙女か!」

 

隣でハリーとエルスが何かを話をしているが、今は試合観戦に集中したいので後回しにする。横ではまだ二人がギャーギャーと騒いでいるが、そこは仮にもプロの格闘技選手。ゴングが鳴り、3Rが始まるとその表情はプロ格闘技選手の顔になる。

 

VIPルームにいる全員が真剣な表情で試合を見守る中、ゴングが鳴ると同時にリンネが駆け出す。先程と全く同じ展開、ヴィヴィオが突っ込んでくるリンネに合わせて丁寧にフリッカージャブで牽制するが、リンネはそんなのお構い無しとばかりにダッキングしてヴィヴィオの懐に潜り込もうとする。

 

「ちょリンネ選手、強引過ぎません?」

 

「上手く自分の戦いが出来なくて自棄を起こしたか? あれじゃあヴィヴィオのカウンターの餌食だぞ」

 

今までよりも強引に攻め込むリンネ、打ち出された彼女のパンチに合わせてヴィヴィオはカウンターを取った。

 

「タイミングバッチし!」

 

「これは当たればキツいぞ!」

 

「いえ、これは……」

 

完璧なタイミング。リズムを読み、持ち前の目の良さで放たれるヴィヴィオのカウンターは完全にリンネの顔面を捉えた。今までのラウンドを振り返っても完璧なタイミング、これなら効いただろとエルスとハリーが絶賛する中、ヴィクターは不安に眉を寄せ………。

 

「───これは、不味いな」

 

シュウジの呟きが漏れた瞬間、ヴィヴィオの一撃はリンネの顔へと直撃した。誰もがリンネへのダメージを確信した。これで流れは完全にヴィヴィオへと傾くと。

 

────しかし。

 

「────ッ!」

 

ギリィッと、歯を喰い縛る音をヴィヴィオは確かに聞いた。自分のカウンターは完璧だった。タイミングも申し分なく、今の自分が打てる最高の一撃だった。

 

だが、それを耐えた。ヴィヴィオの最高の一撃を耐えたリンネは口元から流れる血を構う事なく、お返しとばかりに渾身の力を込めた───下から突き上げる様な肝臓打ち(リバーブロー)を叩き込んだ。

 

ミシミシと軋む助骨、ミチミチと悲鳴を上げる内臓、息苦しさと気持ち悪さで動きを止めたヴィヴィオ、再び振り抜かれるリンネの右拳せめて顔だけは守らなければとガードを高くするが、再び腹に伝わってくる衝撃にヴィヴィオは悶絶した。

 

 

呼吸が止まる。動きが停止する。そんなヴィヴィオに今度は脚へリンネのローキックが強襲する。振り抜かれた右のローキックは確実にヴィヴィオの左足を捉えた。骨が軋む音と其処から伝わってくる痛み、自身の強みである脚に強打が入りこの時点でヴィヴィオは悟った。この大会で自分はもう満足に動けないと。

 

そして、そんなヴィヴィオにリンネはトドメを刺しに来る。遠心力を加えた右のストレート、これをマトモに受ければ一撃で失神してしまうだろう。

 

何とか直撃を防がなければ。咄嗟に出した左手で防御するが、その程度でリンネのパワーは止まらない。防御に出したヴィヴィオの左手を破壊しながら、リンネは彼女をマットの底へ叩き落とした。

 

知恵と技、努力と根性で積み上げてきたヴィヴィオを圧倒的な力で薙ぎ倒したリンネ、小細工など不要と、リング中央で佇むリンネに会場は騒然となった。

 

先天的な強者の才能、それを存分に見せ付けてきたリンネ、改めて分かるリンネの強さにハリー達が戦慄を覚える一方、シュウジは一人リンネに同情の視線を向けていた。

 

(リンネちゃん。そんなに君は自分が許せないのかい? 自分を痛め付ける様な戦い方をして、それでお爺さんが喜ぶと……本気で思っているのかい?)

 

自分を擲って勝利を掴もうとするリンネ、周囲はそんな彼女に羨望と畏怖の眼差しを向ける。確かにリンネは格闘技の選手として類い稀な才能を持った将来有望な人間なのだろう。今の戦い方も今の彼女にとって最適なのかもしれない。

 

だが、それをシュウジは正しいとは思えなかった。戦い方の問題ではなく、それ以前にリンネはアスリートとして大事なモノが欠如しているのだから。

 

───ふと、ジルコーチと視線が合う。どうやら向こうもシュウジがこの席にいることを事前に知っているようで、シュウジを見る彼女は不敵な笑みを浮かべていた。その笑みには一体どんな意味が込められているのか、それはきっと彼女にしか分からない。

 

「ジル……」

 

そんなジルにヴィクターは悲痛な面持ちを浮かべ、ハリーもエルスも静まり返った時。

 

「君達、まだ試合は終わってないよ」

 

静まり返るVIPルームにシュウジの一言が響く。彼の言葉で我に返った彼女達はまさかと思いリングの方へ視線を向けた。

 

今、この場にいる誰もが様々な事を考えているだろう。同情、怒り、情熱、憐愍、そして歪んだ達成感、あらゆる感情が渦巻いているのだろう。しかし、敢えて言わせて貰おう。そんなものに意味を成さないのだと。

 

何故ならば……。

 

「ここからだ。ここからが本当の戦いだ。ここからこそが戦いの真に面白い所だ」

 

リングに佇む二人の選手、彼女達こそがこの舞台の主役なのだから。

 

立ち上がるヴィヴィオを見てシュウジは満足そうに呟いた。

 

 

 




Q.もしもボッチがリンネと早く出会っていたら?その2
A.
「フーちゃん、今日は私のお誘いに来てくれてありがとう。どうだった? 私の試合」

「お、おう。何かあっという間に試合が終わったから良よく分からなかったが、なんか凄かったぞ。ていうか、相手に何一つ手出しをさせてなかったみたいだけど……」

「うん、シュウジさんが言ってたの。戦いに於いては何事も速さが大事って、今日の相手選手凄い調子良いみたいだし、下手に一撃貰ったらヤバイかもって思って速攻掛けたの。作戦が上手くいって良かった♪」

「そ、そうなんか? ……それにしても容赦がなかったが」

「そうかな? お互い全力を出すためにここに来てるんだもん。下手な情けは相手にも自分にも、そしてここまで私を鍛えてくれたコーチ達に失礼だもの、これくらいは仕方ないよ。でねでね、フーちゃんって最近暇? もし何も無いのならフロンティアジムに来ない? フーちゃんならきっとすぐ強くなれるよ!」(おめめぐるぐる)

「待って、怖い。なんかリンネ怖いぞぉっ!?」

結論、ボッチ因子に精神が汚染されてナチュラル修羅(イチゴ味)になる。

それでは次回もまた見てボッチノシ


PS.
最近型月シリーズにのめり込んできた所為か、妙な造語が頭に浮かぶ。

タイプムーン
タイプマーズ
タイプアース
タイプボッチ

あれ? あんまり違和感無い?(白目)

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