『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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感想欄にもありましたが、本作には矛盾する点が幾つもあるので、近い内に直して行きたいと思います。

尚、時系列に付いての変更点ですが、主人公がDSAAへのデビュー&引退した年を二年前から三年前に変更。
ミウラ家へのバイトはその後半年間で、その直後に店を開き、開店直後の常連としてロイ=ベルリネッタが通い、その一月後に病に伏せてそのまま亡くなるという流れになります。
拙い文章の作者で大変申し訳ありません。

修正後も矛盾点がありましたらご指摘の程宜しくお願いします。


その18

 

 

 

 

G月X日

 

ヴィヴィオちゃんとリンネちゃん。互いに全力を出し切っての壮絶な戦いを繰り広げて翌日。今日の自分はいつもと変わらず店で営業を続けていた。

 

ヴィヴィオちゃんはリンネちゃんの打撃をマトモに受けてしまった腕と脚に無視できないダメージを抱えてしまった為次の試合を棄権。フーカちゃんも自身の試合を勝ち残り同じブロックだった事もあって、結果的にはフーカちゃんが一足早く決勝へ進むことになった。

 

アインハルトちゃんも何の問題もなく次の試合へ駒を進めたし、彼女の事だから次の準決勝戦も無事に勝ち進む事だろう。そうなれば決勝戦はナカジマジムの同門対決という事になる。

 

相手がU15の世界王者と言うから家に帰る時から既に緊張していたフーカちゃんだが、既に自分という人間と毎朝組手をしている事もあり、一晩が経った今日には案外すんなりと気持ちに余裕を持つことが出来るようになっていた。

 

まぁ、引退して格闘技の世界から身を引いたと言ってもこっちも元は世界王者だからかな、フーカちゃんからしたら慣れたモノなのだろう。大きな大会で初めて世界王者と戦うから変に意識をしたから緊張してしまっていたのだろう。

 

気持ちを落ち着かせたお陰で今日の特訓にも身が入る様になり、自分との組手でも集中出来ている。この調子で行けばきっとアインハルトちゃんが相手でも良い試合が出来るだろう。

 

けれど、そんなフーカちゃんも仕事中時折ボーっとしている事が多かった。流石にお客が来ている時はそんな様子は無かったが、客足が減り、比較的暇な時があるとひっそりと上の空でいる時が多かった。

 

理由は分かっている。リンネ=ベルリネッタ、彼女との試合が無くなり、済し崩し的に決勝に進む事になったから、自身の複雑な気持ちに戸惑っているのだろう。

 

別にヴィヴィオちゃんに負けて欲しかった訳ではないだろうけど、本来なら次で戦う筈だったヴィヴィオちゃんもリンネちゃんとの試合の怪我で出場を断念、お陰で次の決勝まで時間が出来てしまったから、変に気持ちが抜けてしまったのだろう。

 

所謂燃え尽き症候群。本人は気付いていないだろうが、ちょっと今のフーカちゃんはメンタル的に不味い状態だ。まぁ本人はリンネちゃんやヴィヴィオちゃんを相手に特訓を頑張っていたから気持ちは分からなくもないが、このままの状態が続けばきっと次の決勝ではマトモにアインハルトちゃんと打ち合えなくなる。

 

何とかしなければ、強くなりたいと願うフーカちゃんの気持ちに応える為にも、自分も出来る限りの事をしようと思う。だから明日にでもナカジマ会長に相談しようと思い今日の所はこれで終わりにする。

 

 

 

G月XX日

 

昨日の記述通り、客足の少ないお昼過ぎにナカジマ会長に通信を入れる事にした。向こうも昼食を済ませている事だから失礼だとは思ったが、こう言う相談は早めに済ませて対策を練った方がいい。

 

運良くナカジマ会長とは話が出来たが、どうやら向こうも何か問題があったらしく、気丈な彼女にして珍しい困惑顔だった。通信にはアインハルトちゃんやヴィヴィオちゃん達も映っており、皆ナカジマ会長と同じ表情をしていたから不躾に思いながらも訊ねてみた。

 

少し戸惑いながらも話してくれたナカジマ会長からすると、どうやらリンネちゃんてば格闘技を辞めるつもりでいるらしい。………まぁ、そうなるわなと自分は思った。

 

同じ相手に二度も敗北、それも一度目は判定負けという形だったが、先日の試合ではリンネちゃんのKO負け、どんなに言い訳しても覆らない完全なるリンネちゃんの敗北だった。

 

そのショックからリンネちゃんは格闘技を続ける意味を無くし、今は家で塞ぎ込んでいるらしいのだ。一度は専属コーチであるストーラさんと話をしたみたいだけどリンネちゃんの気持ちは変わらず、このままだと彼女は過去に縛られたまま終わる事になってしまう。

 

現在、フーカちゃんはナカジマジムに向かっており、会長達から詳しい話を聞くつもりだ。店を閉めるにはまだ時間が早いけど………まぁ、今回ばかりは仕方がない。

 

それに自分の方にもヴィクターちゃんが迎えに来ている。何でもリンネの説得に自分にも協力して欲しいのだとか。既にリンネちゃんの親御さんにも話は通しており、ベルリネッタ夫妻も自分がやって来るのを待ち望んでいるらしいのだ。

 

いやね、自分も最初は戸惑ったよ? 幾ら手を回したと言っても自分はリンネちゃんのご両親とは初対面な訳で、幾らそのご両親が承諾してもいきなり女の子の部屋に乗り込むのはどうかと思ったよ?

 

だから店番を理由にそれとなーく断ろうとしたのだけれど、ヴィクターちゃんてば信じられない行動に出やがったのだ。懐から取り出そうとするブ厚い札束、本日の店の貸し切りという名目でトンでもない強行策に乗り出した彼女に自分は半ば強制的に従うしかなかった。

 

幾ら同じジムの後輩だからってやり過ぎじゃありません? て訊ねれば、「後輩の為に家の財を投げ出す事に躊躇はありません」と言って退けてきた。言ってることは格好いいかもしれないけど、一市民からしたら恐怖でしかねーよ。

 

そして妥協案として今日1日店の方は彼女の執事であるエドガー氏に預けることにした。彼ならば家事スキルも高そうだし、料理全般も任せられそうだ。そんな訳で自分の車にヴィクターちゃんを乗せる事にした自分は、これからベルリネッタ家へお邪魔する事になる。

 

────お金持ちって、怖いんダナー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ベルリネッタ家。

 

リンネが養子として迎え入れたベルリネッタの邸、広々とした敷地内に場違いな程に小市民感溢れた一台の車が用意された来賓用の駐車場に降り立つと、車内から二人の男女が降り立った。

 

「でっか、分かってたけどデッカ! やべぇよ、絶対間違ってるよ、一市民の俺が来るところじゃないって、ねぇヴィクターちゃん。俺スーツに着替えてくるから出直してきて良い?」

 

「いい加減落ち着いて下さいシュウジ様。大丈夫ですから、ベルリネッタ夫妻は勿論メイドの皆さんも懐の深い優しい方達ばかりですから」

 

「本当に? 俺昼間に思い切り麻婆食べちゃったんだけど、麻婆臭いって思われたりしない? 麻婆ディスられたりしない?」

 

「何故麻婆の心配!? 大丈夫ですから、その程度で麻婆ディスったりしませんから! 皆麻婆大好きですから! ………多分」

 

「よっしゃ任せろ。同じ食を嗜む紳士だ。絶対にリンネちゃんを思い留まらせてみせるから」

 

最後のヴィクターの呟きを耳にしなかったシュウジは臆する事無くベルリネッタ家の玄関へと向かった。開かれる扉、礼儀正しく畏まるメイド達、玄関からでも伺える素朴だが価値のあるベルリネッタ家の内装の凄さを前に………。

 

「ごめんヴィクターちゃん。やっぱ先に行ってくれません?」

 

「シュウジ様、もしかしてわざとやってません?」

 

すっかり小市民として怯えるシュウジに流石のヴィクターもイラッとした。

 

そんなやり取りの後、メイドに案内されながら二階へと昇る二人、ベルリネッタ夫妻とは結局顔を合わせなかったが良いのかなとシュウジが疑問に思う中、遂に二人はリンネの私室の前へと通される。

 

「お嬢様、ヴィクター様とシュウジ様がお見えになられました」

 

扉越しのリンネにそう伝えると、メイドはシュウジとヴィクターに頭を下げて一階へと戻っていく。後は自分達に任せるという意味なのだろう。

 

「リンネ、私です。ヴィクターです。………入っても良いでしょうか?」

 

リンネちゃんからの反応はない。典型的な引きこもりかなと思ったが、意外にも部屋に鍵は掛けられていなかった。中へ入っても良いという事なのだろうか?

 

ドアノブを回して部屋へと入るヴィクター、続いてシュウジもリンネの私室へと入るが、嘗ての幼馴染以来初となる女の子の部屋に入った事で、その表情は少し緊張気味だった。

 

部屋の中ではベッドの中で膝を抱えるリンネが朧気な表情でモニターに映るDSAAの試合映像を眺めていた。映像は先日のウィンターカップのモノ、そこには豪快なKOで勝利を飾るフーカちゃんが映し出されていた。

 

「ヴィクター……さん? それに、シュウジさんまで、どうして?」

 

ヴィクターが映像を消したことで漸く自分達の存在に気付いた様子のリンネ、生気がなく、朧気な表情の彼女にヴィクターは一瞬息を呑んだ。

 

まさかここまで拗らせていたとは、自身の後輩が自らを追い込んでいた事にヴィクターがやるせなさを感じていた一方、シュウジは「あーあ」と思っていた通りの彼女の様子に少しばかり呆れていた。

 

その後、リンネは少しずつだが口を開いて話してくれた。分からなくなったと、一所懸命に練習して、吐いて気絶して、それでも立ち上がって、辛くて苦しい練習を重ねて試合に勝っても何も感じなかった。それなのにヴィヴィオとの試合で惨めに負けたらこんなにも虚しい気持ちになるのかと。

 

勝っても何も感じないのに、負ければ虚しくなる。あんなに辛く苦しい練習をしても、強くなろうとしても、結局自分は何も変わらなかった。故に自分がこれ以上格闘技を続ける意味はあるのか、分からなくなったとリンネは語る。

 

それは、紛れもなくリンネの叫びだった。歪み、捻れ、拗れた彼女の心の奥底に眠る彼女の歪なSOS信号だった。甘えるなと叱咤するのは簡単だ。諦めるなと言葉にするのは簡単だ。

 

でも、どんなに言葉を尽くした所で実行するのはリンネ本人だ。ただ言葉だけで彼女を動かすと言うには少しばかり無責任な話では無いだろうか。

 

言葉は時に簡単に人を傷付ける刃になる。それこそ酷い虐めを経験し、それと同じくらい打ちのめされている今のリンネには下手に言葉を選んでしまえばそれだけで彼女を更に追い詰める事になる。

 

一体どうすれば、悩むヴィクターが言葉に詰まらせていた時、これまで黙っていたシュウジがリンネの下へ歩み寄る。

 

一体何と言うつもりなのか、ヴィクターが一人緊張する中………。

 

「リンネちゃん」

 

「……………」

 

「ちょっとお兄さんと一緒に遊びに行こうぜ♪」

 

「「……………は?」」

 

テヘペロ顔で遊びに誘ってきたシュウジにリンネもヴィクターも言葉を失った。

 

 

 

 




リンネ父「ほう? 娘を誑かすとは世界王者さんも中々プレイボーイだねぇ。娘を連れて行きたくばこの私を倒してからにしろ!!」(気功で上半身の服が弾け飛ぶ)
ボッチ「お義父さん、娘さんは貰っていきますよ」(気功で(ry

リンネ「な、何て事になったり………えへへ」

ボッチ「それでは娘さんをお借りしますね」
リンネ夫妻「娘の事、宜しくお願いします」
ヴィクター「えぇ……」

本作のリンネちゃんは少しスイーツ(笑) 気味。


それでは次回もまた見てボッチノシ

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