『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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フーカとシュウジの修行風景。

「あの、お陰さまで海割りも無事に出来るようになりましたけど、シュウジさんてどの程度出来るんですか? いや、別に疑っているわけではなくて」

「ん? あぁ、確かに師と仰ぐ人間の実力位は知っておきたいよね。んじゃ……てや!」

ザパーッと十戒の如く水平線の向こうまで海が割れる。

「(゜ロ゜)」

「と、まぁこんな感じ。信用できたかな?」

「あ、あの……魔力とか全然感じなかったんですけど」

「そりゃあ使わないよ。使う必要無いもの」

「」

「じゃ、今日も1日頑張ろっか!」

「………はい」

こうしてフーカは徐々にシュウジに対して常識を当て嵌めて行くのを辞めたという。



その22

 

 

 

 

 

 

────それはウィンターカップ開催より一月前、日課であるランニングと正拳突きによる海割りを終え、これから組み手に入ろうとしていたフーカにシュウジから待ったを掛けられる。

 

『型、ですか?』

 

『うん、俺の師匠から教わった型………要するに構えの事なんだけど、最近フーカちゃんメキメキ上達してきたからさ、そろそろ型の一つでも教えても良いかなーって』

 

『シュウジさんの流派にも構えとかあったんですか?』

 

『じ、地味に失礼な事を言うね。そりゃ護身術程度だけど俺も一端の格闘家なんだから構えの一つくらいあるよ』

 

『いや、でもシュウジさん、DSAAの試合ではどれも構えなんてしてませんでしたよね? ハル先輩達にもシュウジさんの当時の試合の映像を見させて戴きましたけど、構えを取っていた映像なんて一つもありませんでしたよ?』

 

『えぇ? 嘘ぉ?』

 

フーカからの指摘にシュウジは当時の事を思い返す。シュウジにとって魔法を使った格闘技の試合は鮮明で印象深く、どれだけ一瞬で終えていようとシュウジはその試合の内容の全てを記憶している。

 

うんうんと首を傾げる事数十秒、デビュー戦からタイトル戦、その全てを思い返し、パチリと目を開いたシュウジが口にしたのは。

 

『ホントだ。俺全然構えとかしてねぇや』

 

まさかの全肯定にフーカは何もない所でコケそうになる。これまで全ての試合を覚えているシュウジ、魔法を使い、これまでの格闘技とは一線を画すDSAAの魔法戦技。故にシュウジは思い出したDSAAの試合の時はガモンから教わった空手の業ではなく、お世話になった会長の教えと自分なりのアレンジを加えた我流でやってみようという試みで挑んできた事を。

 

『あぁ~、そうだった。俺ってば魔法を使えることにばっかり浮かれて、肝心な空手を何一つ出して来なかったんだ。魔法が使えればこれまで夢見るだけだったあーんな技やこーんな技を覚えられるようになるかもって、なんで俺この事を今まで忘れてたんだろう……』

 

頭を抱えて恥ずかしそうに俯くシュウジ、やがて羞恥心も収まり、放っておいていたフーカに軽く謝罪し、改めて彼女に訊ねた。

 

『ま、まぁ俺の事はさておいて、これから教える型は攻めに特化した構えだ。覚えればウィンターカップでの隠し玉になるかもしれないし、フーカちゃんの戦い方もグンと変わっていくだろう。どうかな?』

 

『え、えっと……?』

 

正直、この時のフーカは迷っていた。ウィンターカップまでもう1ヶ月しかなく、フーカも試合に向けての最後の仕上げに入りつつある。何より彼女は既にアインハルト達からそれぞれ型というモノを教わってしまっている。

 

彼女達から教わった技術もまだ完全に自分のモノにしていない。そこへ更にシュウジの空手の構えまで教わったら、覚えきれずに折角教えてくれた皆の技術を台無しにしてしまうかもしれない。

 

フーカの抱く不安。俯き、下を向く彼女にその心境を察してしまったシュウジは余計な事をしたなと頭を掻く。───その時だ。フーカの脳裏にある閃きが思い浮かんだのは。

 

『あー、ごめんフーカちゃん。やっぱこの話は無しで───』

 

『いえ、教えて下さい』

 

『ふぇ?』

 

『シュウジさんの教え、ジムの会長や先輩達の教え、ワシはこれらを絶対に無駄にしたくないんです。だからシュウジさん、お願いします』

 

頭を下げて是非にと懇願してくるフーカ、そんな彼女を見てフーカが何を考えているのか何となく察したシュウジは……。

 

『分かった。なら今日から少しばかり夜練も増やしていこう。必然的にキツくなってくるけど────付いてこれるな?』

 

『オスッ!!』

 

真っ直ぐに自分を見詰めてくるフーカの瞳、迷いのない彼女の瞳にシュウジはフーカの頼もしさを感じた。

 

『じゃあどうせだから、もう一つフーカちゃんに技を伝授しておこうかな』

 

『ぇ、えぇ!? シュウジさんの技ですか!?』

 

『あぁ、と言っても然程難しい技じゃない。反復して練習すればフーカちゃんにも扱える代物さ』

 

頼もしついでに構えだけでなく技も一つ教えようと首肯くシュウジに、フーカは何となく嫌な予感がした。

 

そして彼女の予感はこの後的中する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

両手を上下に大きく開かせるフーカ、これまで戦ってきたどの相手とも全く違う構えを見せる彼女にリンネは油断なく身構え、警戒する。

 

リンネのセコンド側のジル=ストーラも見たことのない構えに戸惑うが、しかし相手は格闘技を初めて半年も満たないルーキーだ。如何に才能が豊かであろうと急拵えのファイトスタイルを上手く扱える訳がない。

 

だが、前回はその驕りでリンネはヴィヴィオに敗北した。同じ轍を踏むわけには行かない。慎重に相手の出方を見て、先ずはその動きを見定めなければ。

 

『──来ないなら、此方から行くぞ!』

 

『っ!?』

 

ジルからの通信による指示で慎重にと身構えたリンネの下へフーカが突っ込んでくる。ガードを固くさせ、防御を厚くさせるリンネ、しかしフーカの打撃は堅牢なリンネの防御すら破壊し、その拳はリンネの顔面を撃ち抜いた。

 

このままでは不味い。妙な構えに及び腰になってしまったが、打ち合いに挑むというのなら望む所、ガードを下げて殴り合いに挑むリンネだが、ここで再びフーカの構えが変わる。

 

左のワンツー、ストレートとフックを小さくさせたその攻撃はリンネの動きを一瞬だが止めさせた。そこへ繋がる右のアッパーがリンネの顎を跳ね上げる。

 

ストライクアーツの動き、それはヴィヴィオやコロナが得意とするDSAAの格闘技に於いて最もメジャーな立ち技だ。フーカが所属しているのもそんなストライクアーツを主軸にしているジムである。

 

(でも、今のタイミングも覚えた。覚えてしまったら対策は幾らでも出来る!)

 

先程の構えもそんなフーカの技の少なさを誤魔化す苦し紛れのモノなのだろう。そうなれば話は早い、今度はその小細工が出来ない程に間合いを詰めればいい。

 

踏み留まったリンネが再びフーカへ殴り掛かる。

 

『なっ!?』

 

瞬間、リンネの腹部に衝撃が貫いた。見れば両手の掌をフーカが押し出すように突きだしている。先の構えと同じ見たことのない技と違うパターンで繰り出すフーカにリンネはまたもやタイミングを狂わされる。

 

その隙を逃がさないと連打を打ち込むフーカ、幾つもの衝撃がリンネの体を貫き、持ち直そうとしていた彼女の勢いは完全に殺されてしまった。

 

そこへだめ押しの回し蹴り、鋭くて重いその蹴りの一撃はウィンターカップの一回戦で戦ったミウラ=リナルディを彷彿させる。しかし、予めまだ何かあると予見していたリンネはこれを歯を食い芝って耐えてみせた。

 

お返しとばかりに着地際を狙って間合いを詰めて拳を放つリンネ、タイミング完璧、完全にフーカの顔面を捉えていた彼女の一撃は──。

 

『………えっ?』

 

当たることなく、逸らされてしまった。抵抗なんて無かった。自分の拳は確かにフーカの顔を捉えていた筈、手応えの無さと今起きた現象に混乱するリンネ、そんな彼女の隙をフーカは見逃さない。

 

腰だめに構えて魔力を拳に集める。魔力の流れに気付いたリンネが急いで距離を取ろうとするが───遅い。

 

『ダラァッ!!』

 

『っ!?!?』

 

それはフーカがシュウジに教わった最初の一撃である正拳突き、出会って、格闘技を習い、シュウジに師事してからずっと行っていた海割りの一撃。

 

衝撃がリンネを貫いた。背中まで突き抜ける様に放たれたフーカの一撃はリンネを貫き、その後ろのビルの壁にはクッキリと拳の痕が刻まれていた。

 

痛みと衝撃でリンネの視界に火花が散る。足下がふらつき、膝を地に突けるリンネ、腹部を押さえて痛みに耐える彼女の反応に専属コーチのジルは戦慄する。有り得ないと。

 

古流武術と近代格闘技を平行で覚えさせるなんて、通常の選手では絶対に無し得ないフーカの戦い方は長年DSAAに携わってきたジルからみても異常だった。

 

『どうじゃリンネ、これがお前が一人で戦ってきたつもりでいた合間にワシが培ってきた皆の力じゃ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す、凄い凄い! 凄いよフーカさん!」

 

「まさか覇王流だけでなくストライクアーツ、それに更にリオさんの流派まで会得していようとは」

 

「一人多国籍軍かよ、アイツ」

 

リンネの強靭な耐久力を、その力と技で捩じ伏せたフーカにヴィヴィオ達から歓声の声が湧き上がる。

 

「特に最後のリンネさんの拳を逸らしたアレ、一体何なんですかね? 見たことない動きをしてましたけど……」

 

「それもですけど最初の構えも不思議でしたよね? なんなんでしょう?」

 

「構えの方は空手の型の一つでね、名称は天地上下の構えというんだ。受け流した時の技は回し受け、どちらも俺のいた故郷では割りと知られているモノさ」

 

見たことない構えと技を繰り出すフーカにあれやこれやと意見を出し合う彼女達にシュウジが答えを投げ掛ける。伝説の世界王者が伝授したとされる構えと技、それを聞かされたヴィヴィオ達は信じられないといった表情でシュウジを凝視する。

 

「し、シュウジさんの故郷の技!? は、初めて見た!」

 

「あ、あれ?でもあんな構えや技、試合で使った事ありませんでしたよね?」

 

「も、もしかして非公式の試合で一度だけ使った幻の技だとか?」

 

「幻の技って程じゃないけど……そうだね。公式の試合では使った事はないかな」

 

敢えて詳しくは説明しないシュウジに、ヴィヴィオ達は目を輝かせてシュウジを見る。純粋な憧れの視線を向けてくる彼女達にシュウジは罪悪感で胃の辺りが痛くなってきた。

 

だって実際に試合で使ったこと無いもの、シュウジがこれまで空手を使ってきた現場は命を掛けた鉄火場ばかりなんだもの、そんな話純粋素直なヴィヴィオ達に言える訳無いじゃない。

 

何とか誤魔化せた事に安堵したシュウジは再び二人の試合へ目を向ける。未だ立ち上がれないでいるリンネ、そのダメージの深さから助骨の数本が折れたと見える。普通ならここで試合は終わるだろう。カウント制限が無い今回の試合、判断はセコンドであるジル達に委ねるしかない。

 

(それにしても、まさか彼処まで完成させてくるとは、幾ら天地上下の構えが呼吸法の一種だとしても、これは素直に驚いたな)

 

型とは格闘技に於ける法であり、構えとはその人のタイミングをリズムを整える格闘技に於ける呼吸だ。構えを切り替えたり、打撃を繰り出したり、或いは捌いたりと構えた呼吸により臨機応変に対応していく。

 

その空手の構えの特性をフーカは自分なりにアレンジをして見せた。天地上下の構えという土台から古流武術と近代格闘技を見事融合させたのである。無論、それを為し遂げたのは彼女一人の力ではないのだろう。

 

ジムの会長であるナカジマ会長、彼女は確かにジルと比べてコーチとしての技量は低いのかもしれない。しかし彼女にはジルには無い選手と向き合って一緒に悩み、一緒に答えを出して行くという選手一人一人と向き合っていくやり方なのだろう。

 

選手の才能ではなく、選手の気持ちと想いを尊重しての導きの教え。ナカジマ会長の教え方にシュウジは頭が下がる思いだった。何せここまでフーカを鍛えてきたのだ。その苦労と心労の方は計り知れない。

 

(ナカジマ会長、無理言わせてスミマセン。そしてありがとうございます!)

 

恐らくは今日この日まで苦労の連続だったのだろう。彼女に掛かった負担を想像したシュウジは心の中で合掌し、礼を言った。

 

その最中、フーカのセコンド側ではナカジマ会長の大きなくしゃみが響き渡ったという。

 

そんな中、試合の方も動きを見せ始めた。蹲って痛みに耐えていたリンネが、遂に立ち上がって見せたのだ。

 

しかし、その動きはやはり鈍い。痛みもそうだがフーカの与えた正拳突きの一撃がリンネに重いダメージを負わせている。

 

それでも構わず打ち合う二人、殴り殴られ、それでも負けたくないと必死に打ち合うリンネに再び空気は重くなっていた。

 

────雨が、降り始める。ポツリポツリと緩やかだった雨足が、徐々に激しく、打ち付ける様に降り注いでくる。それはまるで誰かの涙の様に………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────分かっていた。自分のやっている事が逃げ道を作る言い分けでしか無いことに、フーちゃんに言われる迄もなく、気付いていた。

 

────気付いていた。私の強さが弱さを覆うだけのちっぽけなモノだって事、とっくの昔に気付いていた。

 

どうしようもないのは、私の方だった。強くなりたいと言葉だけ口にして、その為に手段は選ばないと変に意地を張って。

 

だって、そうでもしないとどうにかなりそうだった。私の所為でお父さんとお母さんを悲しませて、苦しませて、お爺ちゃんが喜んでくれる訳無いのに、罪悪感に押し潰されてしまいそうだった私、その逃げ道に選んだのが格闘技だった。

 

コーチにも酷いことをした。散々と迷惑を掛けて、困らせて、そしてまた………迷惑を掛けた。

 

私は、世界で誰よりも私が嫌い。悲しませるばかりで、泣かせてばかりで、そんな自分が大嫌いだ。

 

そして今も、目の前にいる幼馴染を泣かせている。お説教なんてらしくない真似までさせて、私の為に一生懸命頑張っている。

 

ゴメンね。ゴメンねフーちゃん。ダメな私でゴメンね。

 

嗚呼、いっそこのまま消えてしまいたい。フーちゃんに殴られて、それで消えるのなら、それもまた悪くない………かなって。

 

あぁでも、それじゃあジルコーチの期待を裏切っちゃう事になるのかな? それともコーチも今回で私が負けたら、私の事を見限っちゃうのかな。

 

………分からない。もう、なにも考えられないや。

 

 

 

 

 

 

“………ね、ンね!”

 

“?”

 

“ここよ、打って来なさい、リンネ!”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激しい雨が降り注がれる中、打ち合う二人。その中でフーカの一撃は確かにリンネの意識を断った。

 

崩れ落ちるリンネ、その光景に一人を除いてリンネの敗北を悟った。これで終わりだと、やりきれない思いと共にこの試合は幕を下ろすのだと、シュウジ以外の誰もが確信した。

 

しかし、聞こえてきたのは大地を踏み締める音、倒れそうになっていたリンネが拳を構えて打ち出してきた。

 

咄嗟に防ぐフーカだが、これまでとは速さと重さが桁外れのリンネの拳にフーカのガードした腕が弾き飛ばされる。

 

不味い、と思っても既に其処はリンネの距離、地面に力を込めて打ち出されたその一撃は……。

 

“今よリンネ、地を蹴って!”

 

「あぁぁぁぁぁっ!!!」

 

フーカの顎を打ち抜き、彼女を空高く打ち上げた。リンネが踏み込んだアスファルトは砕かれ、陥没し、破壊されていく。

 

フーカにはこの痛みには覚えがあった。この衝撃には覚えがあった。この一撃は、この拳はまるで……。

 

(シュウジさんと、同じ……っ!!)

 

脳天を撃ち抜く衝撃はフーカの意識を根刮ぎ刈り取った。空高く舞い、備え付けの廃車に落下、その後打ち付けられる様に地に落ちたフーカ。

 

その光景に会場にいる誰もが言葉を失う。しかし誰よりも驚いているのは打ち抜いたリンネ本人だった。全身から突き抜ける衝撃に目をパチクリさせている彼女にシュウジは弟子が吹き飛んだにも拘わらず、その顔に笑みを浮かべた。

 

(リンネちゃん。確かに君のこれ迄の思いは間違っていたのかもしれない。悪意を許さないと言っておきながら、その悪意と向き合ってこなかった君は確かに間違っていた………けどね)

 

過去は消えない。それがどんなに認めたくない事でも、目を逸らしたくても、過去は変わらないし変えられない。けれど同時にこれ迄培ってきた経験もまた消えないのだ。

 

何故なら、強くなりたいと願ったリンネとジルとの間に培ってきた時間もまた────間違ってはいないのだから。

 

 

 

 




Q.もしもボッチが無印時代に転移していたら?

A.
なのはと一緒の正規ルート
フェイトと一緒の裏ルート
ジュエルシードを使って全人類を麻婆好きにしようとする野望ルート。

以上の三つに話が分かれます。

それでは次回もまた見てボッチノシ

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