『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

125 / 417
おっぱいの付いたイケメンは格好いい女性を示す。

ならばおっぱいの無いイケメンはただのイケメン?

つまり、フーカは男である。Q.E.D.証明終了。

フーカ「そんなバカな!?」


その23

 

 

 

────それは幼い頃、リンネとワシがまだ院の先生方の世話になっていた頃じゃ。

 

親に捨てられ、行き場も無く、誰からも必要とされてこなかった時代、孤独感と空腹で毎日が苦しかった。苛ついて、ムカついて………寂しかった。

 

そんな時じゃ、ワシがアイツと、リンネと出会ったのは。

 

『イライラするのは、お腹が空いているからだよ。はいこれ、私の半分上げる』

 

歳が近い事と院に入ったのが同じ時期だったから、良くワシとリンネは一緒に扱われてきた。最初はいつもニコニコ笑う奴だと、何が面白くて笑っているのかと、苛ついて仕方がなかった。

 

だから、ワシはリンネの事は最初は気に入らなかった。自分と同じ親に捨てられたのに、孤児であるワシ達にマトモな未来なんて無いのに、どうして其処まで明るく振る舞えるのか。

 

『だって、一人で食べるより皆で食べた方が美味しいでしょ?』

 

そう言って差し出してくる院から支給される数少ないおやつの菓子をリンネは笑顔で渡してくれた。バカな奴だと思った。お人好しで、明るくて、ワシの様な捻くれたガキにも正面から向き合ってくる。

 

甘くて、鈍くて、お人好しで、そして優しいリンネ。アイツの分け与える優しさにワシは救われた。初めてワシは自分がマトモな人間に成れる気がした。

 

だから決めた。涙で目を腐らせるアイツを、リンネをあの日の様に笑えるリンネに必ず戻して見せるって!

 

『ならば立ちなさい。立って、自分の気持ちを、想いを伝えなさい。君の彼女に抱く気持ちが本気ならば───』

 

あぁ分かっとる。分かっとるよシュウジさん。シュウジさんから、ジムの会長や先輩達から教わった事、全部出し切るまで終われんからな。

 

だから────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

降り頻る雨、ゲリラ豪雨となった雨粒は試合の舞台となっている廃墟の街に容赦なく打ち付ける中、一つの特大の轟音が雨音をかき消した。

 

リンネの無意識に放った一撃。雑念も無くなり、余計な力も無く、幾千幾万の回数を熟してきたリンネの一撃はこの日、最高の形で現れた。

 

圧倒的な一撃だった。フーカの打撃が当たる所が急所となる神撃の領域に踏み入れているなら、リンネの一撃は神をも粉砕する超打の一撃。たった数ヵ月でリンネと打ち合えるフーカの才能と実力も凄まじいが、そんな彼女をたった一発の打撃で吹き飛ばすリンネもまた凄まじい。

 

観客席に座るヴィヴィオ達もその光景に言葉を失った。フーカが引き出したリンネの力、それを目の当たりにした彼女達は戦慄し、吹き飛んで地に落ちたフーカの安否が気掛かりとなっていた。

 

「………フーカの奴、死んだか?」

 

「縁起でもない!」

 

割りと洒落にならないハリーの呟き、エルスはそんな彼女を諌めるが彼女自身その事を否定仕切れてはいなかった。

 

「意識がトンで、体に染み付いた動きが自然と出てきたみたいだね。流石はジルコーチ、教え子に彼処まで仕込むなんて、やっぱ名門ジムのコーチは凄いなぁ」

 

「し、シュウジさんそんな呑気な!」

 

「ここで更にパワーアップなんて洒落になりませんよぉ!?」

 

人一人を吹き飛ばす大打撃を見せながら、尚且つ平然と感想を述べるシュウジにコロナ達がツッコンだ。確かに今の一撃は不味かった。当たり処が悪かったし、地面に落ちる時もコロナ達から見てやばいと思えるモノだった。最悪、このまま意識を失っていてはフーカの敗北は免れない。

 

しかし。

 

「心配いらないよ、フーカちゃんはああ見えて頑丈で打たれ強い。何よりあの位の打撃なら日常的に喰らってるしね」

 

「………ふぇ?」

 

心配そうにしていたコロナの目がシュウジの何気なく口にした一言に点になる。今、この人はなんて言ったのだろうか? なんだか酷く聞捨てならない事を口にしていた気がする。

 

ハリーもエルスもヴィヴィオ達も、そしてU19の世界王者であるジークも目を丸くさせていた時、意識を失って倒れていたフーカに変化が起きる。

 

『心配掛けたなウーラ、ワシは平気じゃ』

 

立ち上り、リンネの方へと振り返る。その見た目から決して小さくはないダメージだが、それでもフーカの瞳には強い光が宿っていた。

 

『今のは流石に効いた。ワシの知る限り今の拳を繰り出す怪物はシュウジさんに続いてリンネ、お前で二人目じゃ』

 

『っ!?』

 

『リンネ、お前凄い奴じゃの。ワシと同い年なのに、お前はもうそこまで強くなったんか』

 

『私は、私は……』

 

『なぁリンネ、お前が今の一撃を出せてまだ自分は弱いと思うんか? 強くはないと言い切れるんか? いや、そんな事よりも………お前はまだ、自分を許せんのか? 色んな大会で優勝したりしたのに、多くの人がお前の姿に拍手を送ったりしてたのに、お前は本当に───嬉しくも何とも感じないのか?』

 

『っ!?』

 

『ワシは嬉しかった。楽しかったと思ってる。先輩達や会長、そしてシュウジさんの扱きも辛くて苦しい事が多かったけど、それ以上に強くなっていると分かって凄く嬉しかった。───なぁリンネ、お前が大会で優勝した事を喜んでくれるコーチの人達を見て、お前は本当に何も感じないのか?』

 

これ迄の挑発や煽りとは違う。リンネの放ってきた格闘技の技の数々にフーカは心からの称賛を送った。そして、だからこそ訊ねた。今の自分を、ここまで鍛えて来た自分を、君はまだ許せないのかと。

 

『お前がワシを他人だと思うのならそれでもいい。自分が許せないと言うのならそれでもいい。だったらワシは無理矢理にでもお前の側にいる。嫌われても、邪険にされても、ワシは絶対にお前の味方であり続ける』

 

『なんで、どうしてフーちゃんはそこまで……』

 

『友達だからじゃ、ワシの大好きな親友が涙で目を腐らせるのが我慢ならん。ワシがお前の前に立つのはそれだけじゃ』

 

『─────』

 

全てはあの日、自分に分け与える優しさで救ってくれた親友に少しでも報いる為、あの無垢な笑顔に戻って欲しいというフーカの身勝手な願望(エゴ)である。

 

(そっか、フーちゃんの拳が、痛くて強いのは……きっと)

 

『行くぞリンネ。お前を負かして、こっちの話を聞いてもらう!』

 

『させないよ。フーちゃんに勝って、シュウジさんをフロンティアジムに引き込むんだから!』

 

自分の想いは、まだ伝えきれていない。けれど、今の一撃を放てた事で、リンネの気持ちに幾分か変化が起きたのか、その表情はどこか晴れやかだった。

 

互いに限界も近い。体は満足に動けないし、意識も途切れ途切れだ。けれど、二人は止まらない。まだだと、もっとだと、自分の想いと言葉を乗せて───ただひたすらに殴りあった。

 

「ちょ、マジですかあの二人!?」

 

「回避も防御もない。真っ向からの殴り合い」

 

「い、いいんでしょうかね? アレ」

 

「ええんとちゃう? 二人とも楽しそうだし」

 

「よっしゃ良いぞ二人とも、もっとやれぇ! もっと熱くなれぇ!」

 

いつの間にか、観客席に座る彼女達も二人の戦いに当てられて盛り上がっていた。もう先程の重苦しい空気はなく、彼女達の頭の中にはこの激しい打ち合いを制するのがどちらかという疑問だけ。

 

そんな格闘技選手らしい彼女達を微笑ましく思いながら、シュウジはリンネとフーカの二人に目を向ける。

 

(楽しそうに殴り合う。か、端から見たら俺達もそうみえたのかな? なぁ、トレーズさん)

 

殴られたら殴り返す、必死に、ただ相手を打ちのめす打撃の応酬、傷だらけの二人を見てシュウジは嘗ての親友と殴りあったあの日の事を思い出す。

 

結局、自分はトレーズには勝てなかった。友人の為にと奮起しておきながら、最後まで彼の真意を汲み取る事が出来なかった。最初はフーカに自身の過去の影と重ねて見ていた時期があったが。

 

(そうだよな。俺とフーカちゃんは違う。君ならばきっとリンネちゃんを、親友を───)

 

そこから先の言葉はいらなかった。殴り合う二人を見て、シュウジは昔を懐かしみ、そして待った。訪れる二人の決着の瞬間を。

 

「───雨、止んだな」

 

どちらが勝っても後悔は無い。きっと、そう思えるだけの結果が、この先にあると信じて、シュウジはただ二人の行く末を見守り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────格闘技なんて、痛くて辛くて苦しいだけ、そう思っていた。嫌な事ばかりで、良いこと何て何もない。ただ自分が強くなる為の作業でしかない。ずっと、そう思っていた。

 

でも、技を覚えるのが楽しかった。練習は辛かったけど、今まで出来なかったことが出来るようになった事が、嬉しくて楽しかった。コーチ達が褒めてくれた事でやる気になれた。

 

大会で勝って、優勝した時、コーチが喜んでくれたことが………嬉しかった。今までずっと振り回してきたジルコーチ、私の我が儘に付き合ってくれて、いつも私の無茶に応えてくれていた。そんなジルコーチが、今も私の勝利を願ってくれている。

 

お父さんもお母さんも、いつも私の事を心配してくれている。私が悩んでいることを知っているから、血の繋がりが無くても、本当の親子じゃなくても、二人にとって私がベルリネッタの娘だから。

 

そうだ。嬉しかったんだ。楽しかったんだ。これ迄の私は変えられない過去を言い訳にして、死んだお爺ちゃんを言い訳にして、周りから逃げていたんだ。

 

………でも、良いのかな? 今更私が格闘技を楽しんで、笑っても、良いのかな?

 

過去は変えられない。それがどんなに悲しくて辛い事でも。────でも、これからなら、現在()からなら。

 

(変わって、いけるのかな? 笑っても、良いのかな?)

 

 

 

 

 

 

 

“────当たり前じゃろ? リンネは笑っている時が一番可愛いのじゃからな”

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

それは幻聴だったのかもしれない。単なる空耳だったのかもしれない。けれど、確かにリンネの耳に届いた。死んだ筈の祖父の声が、もう聞こえないと思っていた祖父の言葉が。

 

(あぁ、やっと、やっと……)

 

リンネの瞳から涙が溢れた。今まで涙で腐らせていた瞳を新しい涙で洗い流す様に。そこから見えるリンネの瞳は何処までも澄んでいた。

 

それは、あの日フーカがリンネによって救われた彼女の見せた笑顔と同じ瞳だった。

 

リンネから渾身の一撃が放たれる。先程と同じ、フーカを一撃で吹き飛ばしたあの一撃、威力だけならシュウジの放つ一撃(手加減)と同等のモノが再びフーカの顔に目掛けて飛んでくる。

 

紙一重、頬を掠らせ、風圧が突き抜けていく。その瞬間、返し刀の如くフーカは己の右拳に全ての魔力を注ぎ込み……。

 

(やっと、戻ってくれたの……)

 

「覇王、断空拳!!」

 

その拳をリンネの腹部に叩き込んだ。突き抜ける衝撃、魔力の残滓が花弁の様に舞い散る。フーカの一撃は確かにリンネの意識を断ち切った。

 

崩れ落ちるリンネ、抱き抱え、堪えきれなかったフーカは二人と一緒に地面に横たわる。

 

隣を見れば眠るように気絶しているリンネの顔があった。憑き物が落ちた様な、安らかな寝顔。そんな彼女を見てフーカは満足そうに笑みを浮かべて……。

 

「あー、疲れた」

 

雨は止み、晴れ渡った青空を仰ぎ見た。

 

───勝者、フーカ=レヴェントン。

 

 

 

 




次回、新たな挑戦者。(未定)

「シュウジさん、ウチとも戦ってくれません?」

それでは次回もまた見てボッチノシ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。