べ、別にクリスタの尻を追い掛けながら巨人を狩ったり、女型の巨人のしりを追い掛けながら巨人を狩ったり、ハンジに無茶ぶりされながら巨人を狩ったりしていた訳ではないです。
ええ、本当に。(目そらし
好きな食べ物? ふかした芋です!
「───う、んん」
心地よい微睡みの中から朝日の日差しによって目が覚めるフーカ、うっすらと開いた視界に映るのはいつもとは違う見知らぬ天井。
一体此処は何処なのか、未だ意識がはっきりしないフーカは寝惚けたまま周囲を見渡して、そして思い出す。
「あぁ、そっか。ワシ、勝てたんじゃな」
自分の隣で静かに寝息を立てているリンネを見て、フーカは感慨深そうに呟いた。全力で戦い、内に秘めた想いを互いにぶつけながら殴りあった。リンネの言葉に多少なりとも傷付いたフーカだが、最後の打ち合いの瞬間、確かにリンネは己を取り戻していた。
それだけで充分だった。隣に眠るリンネの姿、安らかで、心から安心した様子で眠る彼女の様子はフーカにとってどんなベルトよりも価値のある宝物だった。
「ん、んぅ? あれ? フーちゃん?」
「おはようリンネ、ちゃんと眠れたか?」
「あ、うん。………そっか、あれから私達眠っちゃったんだ」
リンネの方も自分が置かれている状況を正しく認識出来てきたのか、段々顔が赤くなっていく。彼処まで互いに本音の言葉と本気の力で殴りあったのだ。本来大人しい性格であるリンネにとって色んな意味で耐え難いモノがあるのだろう。
対するフーカもそんな反応をするリンネに自身も少しばかり羞恥心で頬を赤くさせる。気まずさと照れ臭さ、互いに何て言えば分からず無言のまま、ベッドの上で正座でお見合いをしていると。
「おいーっす。フーカ、リンネ、起きてるかー?」
「し、シャンテさん?」
「は、はい。起きてます」
「お、二人ともその様子だと体の方は大丈夫みたいだな。良かった良かった」
ノックもしないで入ってくるシャンテ、少々マナーに欠けてはいるが、それは二人が眠っていた時に対する彼女なりの配慮である為、フーカは敢えて指摘しなかった。
一方でリンネは自分の体の調子が試合前より良くなっている事に気付く。どうやらあのイクスという少女が自分達に回復の魔法を掛けてくれたらしい。どこまでも対応の良い彼女達に内心で感謝しながら、リンネはシャンテに訊ねた。
「あ、あのシャンテさん。もしかしてワザワザ起こしに来てくれたんですか?」
「んにゃ、ちょっと違う。正確にはこれから面白い試合が始まるから二人を呼びに来た。と言った方が正しい」
「し、試合ですか?」
「ワシ達以外にここで試合をする人が?」
二人の問にアハハと笑うシャンテ、その表情は何処か引きつっている様にも見えるが、全貌が見えてこない二人はただ首を傾げるだけである。
「まぁ、どうせ後で分かるから今言っちゃうけどさ。我等が十代女子最強と二十代男性最強が戦うと言ったら………分かるよね?」
十代女子最強と二十代男性最強、その言葉に当てはまる人物はそれぞれ一人しか知らない。まるで夢のような戦いに寝起きにも関わらずリンネの目は輝きが宿る。やはり彼女も格闘技が好きなのだろう、漸く年相応に表情を変えるリンネにシャンテは内心嬉しく思った。
「まだ試合には時間があるからさ、二人とも今の内に風呂に入ってきな。体の汚れとか落としたけど、気分的に流しておきたいだろ?」
「は、はい! ありがとうございます! フーちゃん、私先に行ってるね!」
「お、おう」
シャンテに促され、早足に部屋を後にするリンネ、余程あの二人の試合を観るのが楽しみになのだろう。ワクワクと言った表情で脱衣場へと向かうリンネをシャンテが満足そうに見送る中。
「………で、お前はいつまでそうしている訳?」
ベッドの上で頭を抱えて踞るフーカに苦笑いのシャンテ。
「あのシュウジさんに挑む? 悪い予感しかしない!」
これから起きるであろう出来事に早くも戦々恐々な思いのフーカ、そんな彼女を見てシャンテはただ同情しか出来なかった、
◇
ホテル・アルピーノの露天風呂で一通り体を洗い、気分的に爽やかになった二人は待っていたシャンテの案内で昨日ヴィヴィオ達が観戦していたであろう観客席へとやって来た。
既に観客席にはヴィヴィオ達が待っており、快復したであろうフーカ達に駆け寄っていく。労いの言葉をフーカに投げ掛ける一方で、リンネとジルが何回か言葉を交わしている。
「ジルコーチ、その……私」
「今は止しましょう。折角注目の試合が観れるのですもの、先ずはそれを楽しむ事から始めましょう。話をするのはきっとその後でも遅くは無いわ。そうでしょ?」
「ジルコーチ、………はい!」
リンネ達もどうやら大丈夫みたいだ。二人のやり取りを離れた所で眺めていたナカジマ会長は、自身の腕時計を見て、そろそろ試合が始まる頃だと察し、全員に席に座る様に呼び掛ける。
「はいはい。皆話したい事は色々あるだろうけど今は横に置いておけ、そろそろ試合が始まるぞ」
手を叩き、まるで学生の引率者の様に促すナカジマ会長、そんな彼女の言葉に素直に従い、ヴィヴィオ達はそれぞれ用意していた席に座る。
今回の試合にセコンドはいない。時間制限は設けられているが、ダウン制限もカウントもなく、魔法の使用も許されている何でもアリの総合戦技。互いの全てを披露し合い、技と力がぶつかり合う実戦方式の試合、
試合というより実戦に近いルール、時間制限の事を除いてはU25の試合形式に近いその内容に誰もが緊張と興奮で昂ってきた。
もうじき見れる。十代女子最強であるジークリンデ=エレミアと、生ける伝説シュウジ=シラカワの試合が。どちらが勝つのか、魔法込みで行われるこれからの戦いを前にヴィヴィオ達は速くなる鼓動を抑えずにはいられなかった。
(所で、なんでハル先輩達唇が腫れとるんじゃろ? ………あっ)
隣で観戦に集中しているアインハルトの口元を見て、何となく今回の試合の全貌を察したフーカは敢えてその事を指摘するのを止めた。
◇
リンネとフーカが戦った廃墟の街、ヴィヴィオ達が見守るなか、もうじき始まる試合に二人はそれぞれ準備を済ませる。
自身の髪色と同じく、全身を黒の衣装で統一しているU19の敵無しで敗北無しの世界王者、“鉄腕”ジークリンデ=エレミア。
対峙するのはU25無敗の帝王、元世界王者“魔人”シュウジ=シラカワ。試合の前に体を解しながらその時を待つ彼にジークが申し訳なさそうに声を掛ける。
「シュウジさん、今回はウチの我が儘に付き合って下さり、ありがとうございます」
「なに、気にする事はない。確かに最初は君の強引な誘いに少しムッとしたが、今はこれで良かったと思っている。噂のU19世界王者の実力というモノにも興味はあったし、何より君は俺の出した条件をクリアしている。君が気に病む事はないさ」
「そう言ってくれるとウチも安心です。ウチもU25の世界王者の実力が───シュウジさんの事が知りたくて今回挑ませて貰いましたから。………シュウジさん」
「うん?」
「格闘技、好きですか?」
ジークからの質問、その問いに僅かばかりの動揺を見せたシュウジ、同時に試合開始のゴングが鳴り、ジークは瞬く間にシュウジとの距離を詰めた。
シュウジの動揺を誘ってからの攻撃、端から見れば不意討ちにも取られるジークの先制、しかし今回の試合には映像は流されても音声までは拾ってはいない為、誰もその事を指摘する者はいない。
………いや、もし不意討ちだと糾弾する者がいてもシュウジはその事を追及したりしない、元より戦う事を許したのは自分だ。喩え不意討ちだろうとそれは自分を倒そうとする相手の努力によるもの、嘗ての戦いでもっと汚くてキツイ不意討ちを受けてきたシュウジにとってジークの行った不意討ちを不意討ちとは思わなかった。
しかし、一瞬の隙を突かれた事で回避する事に遅れたシュウジは、咄嗟に腕を交差させてジークの一撃を防ぐ。
「ほう?」
重い打撃だ。体格差をモノともせず、自身を後退させるジークの一撃にシュウジは感心の声を漏らす。
「はぁぁぁぁっ!!」
続いて繰り出されるラッシュ、鋭くて小さく、けれど凄まじい威力を秘めたジーク連打。並みの相手ならばそれだけで圧倒してしまいそうなジークの攻撃を、しかしシュウジは避け続けた。
たった一度、一度だけ相手の攻撃を受けただけでまるで見切られた様に避けるシュウジ、鋭くて速いジークの拳を難なく避け続ける彼に観客席からは感嘆の言葉が漏れる。
「まだまだぁっ!」
「へぇ? まだ上があるのか」
更に回転力を上げ、勢いを増していくジーク。鋭さも重さもより増していく彼女の打撃にシュウジは再び感嘆の声を上げた。
しかし、勢い付かせるのもここまでだ。一種の台風と化したジークにシュウジの拳が突き刺さる、下手なカウンターではその拳諸とも粉砕してしまいそうな勢いのジークを、シュウジは的確に貫いて見せた。
衝撃がジークの脳天を貫く。両側に縛ったツインテールの髪が巻き上がり、ジークの勢いは完全に停止した。あれだけの打撃の雨に晒されながらも尚カウンターを決めていくシュウジ、その眼の良さは最早神眼の域を超えている。淡々とこなす絶技、カウンター使いであるヴィヴィオでも決して真似できない一撃を、目の前の男性は難なくやってのけた事に観客席に座る彼女達は薄ら寒いモノを感じた。
まさか、これで終わるのか? シュウジのカウンターを受けてピクリとも動かないジークにヴィヴィオ達が言葉を失った時。
「……漸く、捕まえた」
「?」
拳を額で受け、そこから血を流すジーク。鮮血が彼女の顔を染めるが、対して彼女の笑みは獰猛な肉食獣の様だった。
シュウジのカウンターは完璧だった。しかし、ジークは最初から読んでいた。魔人と呼ばれる彼ならばこれくらいの芸当はやってのけると、予めカウンターを読んでいたジークは敢えてシュウジのカウンターを受ける事で彼との間合いを詰めたのだ。
咄嗟に距離を開けようとしても、既にそこは彼女の領域内。低いタックルでシュウジの足を掴んだジークはそのまま地面へ叩き付けるように投げ落とす。
一見地味だが、直接受けるとダメージは確実な攻撃、この試合で初めてシュウジに攻撃を通した事にヴィヴィオ達からは大きな声援が沸き起こった。
しかし。
「いやー、凄いな。まさかここまで見事に投げ技を受けるとは、エレミアちゃんて立ち技以外も出来るんだね」
立ち上り、平然としているシュウジに分かっていながらもジークはショックを受けた。受け身もできずにマトモに地面に叩き付けられたのに、まるで堪えた様子の無いシュウジ、体が大きければ大きいほどダメージが大きくなるジークの柔の技、だが、相手は首をコキコキとならすだけである。
ならば、もう一度投げ飛ばすだけである。幸いにも構えていない今のシュウジに飛び込むのは容易い。姿勢を低くして更に勢いを乗せてシュウジの足に掴み掛かるジークだが。
「っ!?」
────山。シュウジの足を掴み取った瞬間、そんなイメージがジークの脳裏に過った。動かない処の話ではない。文字通り一ミリもビクともしないシュウジにジークは額から大粒の汗を流した。
「さて、折角投げ技をしてくれたんだ。場の空気を盛り上げるために俺も投げ技で返すとしよう。───見様見真似“大雪山おろし”」
瞬間、ジークは空を舞った。激しい回転を掛けられ、自分がどの位置に在るのか、どこを向いているのか、その感覚が麻痺してしまった彼女は抵抗も受け身も出来ないまま、地面へと激突する。
痛みと衝撃で呼吸は無理矢理停止され、意識が吹き飛びそうになる。歪む視界と意識、平行感覚すら奪われた彼女は立ち上がろうとしても、再び地面に倒れ伏す。
観客席にいるヴィヴィオ達も言葉を失っている。見たこともない投げ技、人が台風に見舞われた木葉の様に吹き飛ぶ様を目の当たりにして、彼女達の誰もが絶句していた。
静まり返る試合会場、そんな中シュウジはジークの下へと歩み寄り。
「さて、先程の質問に答えようか。俺が格闘技が好きかどうかについてだね? 確かに俺はDSAAに参加して一度チャンピオンになった。その日々は長いようで短く、そしてとても充実していた」
「でも、好きかどうかと聞かれたら………正直微妙かな?」
自分なりに真剣に考え、そして答えを出したシュウジ、その何となくな態度のシュウジに彼女の闘志に火が付いたのか。
「そう、ですか。なら、ウチが全力で楽しませて上げる事にしましょう!!」
「あぁ、宜しく」
立ち上り、構えを見せるジークにシュウジはそう来なくてはと笑みを溢すのだった。
Q.もし普通の生身の人に大雪山降ろし(ボッチ仕様) をしたらどうなるの?
A.オープンゲット()します。
それでは次回もまた見てボッチノシ