『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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ジーク「シュウジさん、全力全開でお願いします!」
ボッチ「本当に良いんだね?」




その27

 

 

 

───試合の流れが変わり始めた。これまでシュウジの独壇場だったのが、ジークが己の内に眠る力を解放させた事によって発動させる彼女の先祖から代々受け継ぐ戦闘技術、通称エレミアの神髄。

 

公式の試合では殆ど使おうとしなかった。この状態のジークはご先祖の経験してきた500年の昔から溜めていた古代ベルカの戦闘技術の全てが詰まった人を破壊する為の技を惜し気もなく使ってしまう。

 

自分である筈なのに自分では無い感覚、沸き上がる破壊衝動のままに目の前の相手を壊し尽くすジークにとって禁じ手の技。幼い頃からこの力を使いこなせずに、ジークもその周囲すらも傷付けてきたから、彼女自身この状態になることは酷く嫌がっていた。

 

友人達の励ましとジーク自身の努力により、今では当時程の拒絶はしていないが、それでも自分の力ではないこのエレミアの力を彼女は進んで使おうとはしなかった。

 

────そんな彼女が今、自分の意思で自ら発動させた。先祖代々受け継ぐ黒のエレミアの力、即ちエレミアの神髄を一人の人間相手に躊躇無く発動させた。全ては目の前の相手、元U25世界王者に本気で戦って欲しいという身勝手な願いの為に。

 

三年前、ジークは試合会場で直接彼を見た。鮮烈で、眩しくて、誰よりも圧倒的に勝利し続けてきたシュウジという一人の人間を、何度も見てきた。

 

誰よりも試合を楽しみ、誰よりも自分の技術に素直な彼。どんな相手でも真っ正面から戦い打ち勝ち、どんなに試合内容が短くてもジークはその試合を全て記憶していた。速すぎて試合記録にも残らないその様子を彼女は脳細胞の全てを駆使して自身の脳に焼き付けた。

 

今でも彼がこれまで行ってきた試合の全てを覚えている。始まりから終わりまで、デビューから引退まで、シュウジ=シラカワという選手の全てを記憶している。

 

だから、だろうか。彼の戦い方に違和感を覚えたのは、シュウジが引退して暫く後の事だった。端から見れば馴染み、完璧に使いこなしている数々の仰天技。他人が真似を試みても決して使いこなせない絶技の数々。

 

けれど………いや、だからこそジークは違和感に気付いた。シュウジのDSAAでの格闘技が長年使い続けてきたモノではなく、まるで思い付いた技をただその場で使っている様な奇妙な感覚。

 

大観衆の前で高々と拳を掲げるシュウジ、しかしジークにはその彼の姿が酷く窮屈そうに見えた。無理矢理自身を型に填めて抑え込んでいる様な戦い方、拒絶とは違う。

 

謂わば……そう、彼は遠慮しているのだ。それが一体何の為で、どういう理由で遠慮してしているのかは定かではないが、ジークはそんなシュウジが非常に気になった。

 

シュウジ=シラカワに特殊な背景はない。ごく普通の一般家庭に生まれた普通の人間、その手の専門家に調べて貰ったから、その辺りの情報は間違っていない筈。自分の様な古代ベルカ時代の記憶や知識を受け継いだ自分とは違う彼が、どうして格闘技の試合で遠慮しているのか。

 

確かめたい。それが自分の醜い我儘なのだとしても、ジークはシュウジに問い質したかった。だって、格闘技はDSAAはこれまで培ってきた人達が全力で自分の力を出し合う場所、それなのに……。

 

(自分だけそれが出来ないなんて、そんなの……寂しいやないか!)

 

だからジークはシュウジに全力を出してもらおうと彼女自身全力で彼と相対した。投げ技も打撃も効かない。関節技も仕掛けようがない。だったら後は自身の最後の切り札、エレミアの神髄を使い、死力を尽くすまで。

 

「だぁぁぁッ!!」

 

「っ!」

 

激しい攻防、ジークのイレイザー級の魔法を乗せた打撃が容赦なくシュウジに襲い掛かる。勢いも速さもこれ迄とは桁外れの彼女の強さにシュウジは回避ではなく、受け流す事に専念していた。

 

襲い来る拳を掌でいなして流す。イレイザー級の魔法で包まれた拳を触れた瞬間に受け流すその技量の高さは相変わらず底が知れない。しかし。

 

「まだまだぁぁっ!!」

 

「ぐっ」

 

拳だけの連打から蹴りを混ぜた乱打に切り替わる。更に激しさを増していく攻防、触れただけでダメージを負ってしまうイレイザーの魔法を纏わせた打撃の嵐に流石のシュウジの顔も曇る。

 

このままでは押し切られてしまう。一度距離を開けて砲撃魔法(かめはめ波)を放とうとするシュウジに……。

 

「させません!」

 

「っ!?」

 

距離を開けようと後ろに跳躍するシュウジにジークもピッタリとくっついて離れない。既にシュウジの今の戦い方を熟知しているジークは次に彼が何をしようとしているのか手に取る様に分かった。

 

エレミアの神髄、500年に渡って受け継がれてきた黒のエレミアの真骨頂、漸く伝説の世界王者と対等に勝負が出来るようになった事にジークは先祖達に感謝した。

 

遂にジークの攻撃を防御する様になったシュウジ、魔力を纏わせた腕を交差させ、息も出来ない乱打を前に完全に為す術を失っていた。

 

そこへ……。

 

「デヤァァァッ!!」

 

地面を踏み割り、その勢いで振り抜いたアッパーがシュウジの体ごと浮かばせる。崩れる体勢、外された防御、全く無防備となったシュウジに……。

 

「ガイスト・クヴァール!!」

 

全身全霊、渾身に渾身を込めた必殺の“殲撃”がシュウジの体を撃ち抜いた。衝撃が背中を貫き、勢いのまま吹き飛ぶシュウジ、背後に会った高速道路の柱をぶち抜き、幾つものビルを破壊しながら吹き飛び、やがて吹き飛ぶ勢いを失った彼は最後に崩れるビルの中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジかよ、ジークの奴」

 

「シュウジさんを、吹っ飛ばした……」

 

崩れ落ちる瓦礫と化した幾つものビル、砂塵が舞い散り、舞台となった廃墟の街は一時砂埃に包まれる。今の攻防を終始見ていた彼女達は最後に見せたジークの一撃に言葉を失っていた。

 

改めて見せられる十代女子最強の力、これが自分達の頂点だと、これが鉄腕の力なのだと、見事見せ付けたジークにヴィヴィオ達は憧憬と畏怖、そしてその凄さに圧倒されていた。

 

「シュウジさん、まさか……本当に?」

 

「フーちゃん……」

 

自身が師事している人間が致命的とも言える一撃を受け、吹き飛んだ光景にフーカはショックの色が隠せずにいた。隣にいるリンネも同じく彼に強い憧れを抱いていただけに衝撃は大きい。

 

未だ晴れてこない砂塵、そろそろ試合時間も終わりに差し迫っている。このままジークの勝ちなのかとまさかの展開に誰もが戸惑っていると……。

 

(………あれ? 何だろう、この熱気)

 

ふと、ヴィヴィオは観客席に充満している熱気に気付いた。これまでハリー達が熱狂している影響かと思われていたが、それとは少し違う熱気にヴィヴィオは首を傾げた。

 

その時だ。舞い上がる砂塵の中、うっすらと輝く光が彼女達の目に入ってきた。

 

「何だろう、あの光?」

 

「シュウジさんの魔力光か?」

 

「けれど、それにしたって魔力なんて微塵も感じないけど?」

 

やがてその光は徐々にジークの方へと近付いていく。その様子にまだ試合は終わっていない事を察した彼女達は再び黙して二人の様子を見守り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────今のは、自分に放てる最強にして最高の一撃だった。

 

舞い上がる砂塵の中から現れる彼にジークは油断なく構える。

 

音を立てて崩れる瓦礫、雨の様に降り注がれる石礫の中をそれでも平然と歩いてくる彼にジークは妙な焦りを覚えた。破壊されたバリアジャケット、山吹色の彼の胴着は上半身が吹き飛び、その肌を露にしている。

 

その姿を見て、ジークは以前自身が彼に抱いた違和感の正体を何となく理解した。肩から脇腹に掛けて付けられた大きな刀傷と幾つもの銃創、専門家に調べて貰った彼の普通という印象は、間違いだった。

 

(それにあの輝きは一体、魔力の光やなさそうやな。しかもこの熱気、これもシュウジさんが?)

 

目の前のシュウジを前に思考を巡らせても視線は外さない。ゆっくりと此方に向けて歩み寄ってくる彼にジークがいつ飛び出そうかタイミングを見計らっていると。

 

「───大したものだ」

 

「っ!?!?」

 

背後からの声にジークの息は一瞬止まった。振り返るよりも飛び退いた彼女は前転しながら距離を開け、地に膝を突けながらシュウジに向き直る。

 

息が荒くなる。呼吸が整えられない。先程とは打って変わった様子の彼にジークは必死に目の前の相手を睨み付けた。

 

「聞いたことがある。古代ベルカの時代、当時の戦闘技術の知識と経験をそのまま受け継いだ麒麟児がDSAAにいる、と。そうか………君だったのか」

 

「はぁ、はぁ、はぁ………」

 

「君の熱意と決意、確かに受け取った。ご先祖達の力を借りてまで俺と戦おうとする君の気持ち、素直に嬉しく思う。────故に」

 

“返礼しよう”

 

シュウジの全身から滲み出てくる熱さと輝き、紫炎の髪を揺らし、その瞳も光を宿らせるシュウジはゆっくりと構えをみせる。

 

天地上下の構え。フーカとリンネの戦いで見せた構え、それを目の当たりにしたジークは確信を得る。これが、この姿が、目の前の男の本当の姿、正真正銘彼の本気なのだと。

 

「君の今の一撃に対し、ここからは俺も少し………本気でやろう」

 

これまで体験した事の無い領域、そこに踏み込んだジークは必然的に彼に向けて駆けるのだった。

 

 

 

 




次回、全○様もおったまげ!

それでは次回もまた見てボッチノシ


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