『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回でViVid strike編は一応終わり。


その29

 

 

 

 

────シュウジさんとジークさんの試合、苛烈に苛烈を極めたお二人の勝負はシュウジさんの勝利で幕を卸した。結果だけみれば今回の試合はシュウジさんの圧勝、まだまだ未熟な格闘技選手であるワシでも分かる程に試合は終始シュウジさんが圧倒して終わった。結局、DSAAの……格闘技の世界に於いてシュウジさんが最強だという事は揺るぎようの無い事実だった。

 

しかし、二人の試合を無意味だったとはあの場にいる全員が思わなかった。確かに試合はジークさんの敗北で終わり、ボロボロの彼女に対してシュウジさんは平然としていた。

 

そんなジークさんがシュウジさんの本気を引き出した。現役時代では一度も見せたことがなかったシュウジさんの本気を、ジークさんは死に物狂いで挑み、そしてシュウジさんを本気にさせた。

 

過去、誰も見たことがないシュウジさんの本気。それを目の当たりに出来たワシ等はきっと幸運じゃった。嘗て世界の頂にいた男の正真正銘の本気、伝説とまで謳われた人の本気を間近で目撃出来た。だからジークさんは目を醒ました後もずっと興奮していたのだろう。

 

圧倒的力の差を見せ付けられても、まだ挑む事を止めない。それは彼女が黒のエレミアの後継者だからではなく、ジークさんが格闘技が大好きなジークリンデ=エレミアだからだ。

 

ジークさんだけじゃない。ヴィヴィオ先輩もハル先輩も、ハリー選手もヴィクター選手も、皆二人の試合を観て興奮していた。当然、リンネとワシもじゃ。

 

ナカジマ会長とジルコーチはそんなハル先輩に呆れていたけど、きっと内心では喜んでいたと思う。伝説の選手の本気を目の当たりにしたのと、二人の試合を目の当たりにした事で皆がやる気に満ちていたことが、きっとお二人も嬉しかったのだとワシは思う。

 

そんな中、唯一シュウジさんは困った様に笑っていた。どれだけ実力の差があろうと挑む事を諦めない彼女達に、最初こそは戸惑っていたシュウジさんだが。

 

『───あぁ、懐かしいな。昔を思い出す』

 

そう言って優しそうに頬笑むシュウジさん、その言葉がどんな意味を持つのかはワシには推し量れないが、きっとシュウジさんにとって駆け換えの無い大切な事なのじゃろう。

 

そしてその後、ワシとリンネは改めて二人で話し合った。孤児院での事、里親に引き取られる際に二人で話した事、辛かった事、悔しかった事、悲しかった出来事を全て話し、ワシとリンネは漸く嘗ての頃に戻れた。

 

過去は変えられない。大事なのはその過去と向き合い、未来に繋いでいくこと、今回の事で皆からそう教わったとリンネは言った。ワシもそうじゃと思う。親に捨てられて理不尽な目にあった事は腐るほどあったが、それでも未来に向けて進んでこれたのは、周囲の皆のお陰だからじゃ。

 

ワシは、きっとこれからも何かを間違って生きていく。その度に叱られて諭されて、自分の道を生きていく。

 

帰りの車内でシュウジさんにその事を伝えて改めてお礼を言った。ワシの始まりは全部この人に出会えてから――前に進める指針を示してくれたシュウジさんにワシは何度も感謝した。

 

きっと、いつになるか分からないけど、この人にこれまで受けた恩を返していこう。恩を返しながら自分のこれからの人生を見つめていく。それがきっと、今後のワシの生き方なのじゃから………。

 

 

 

 

 

 

…………と、そう思っていたんじゃがなぁ。

 

「それでは、皆さんに新しいお友達をご紹介します。それではフーカさん、自己紹介をお願いね」

 

「ふ、フーカ=L=シラカワです」

 

シュウジさんとジークさんの試合から数ヶ月、今ワシはリンネと同じ学校、同じ教室で自己紹介をしている。

 

………本当に、どうしてこうなった?

 

やっぱあれかな? まだガキの癖に人生悟った様な言い回しをしたのが行かんかったのかなぁ? いい雰囲気で「ワシも、これからの自分の人生に真剣に向き合っていきます」なんて言ったら。

 

『だったら、今後の人生の選択肢を増やせるように学べることは学んでおこうか』

 

と、良い笑顔で返され、あれよあれよと言う間に学校へ通う事になっていた。反対しようにも口下手なワシではシュウジさんの正論を打ち負かす事も出来ないし、先輩方に助けを求めても微笑ましく見守られるだけ、恩返しをしていくつもりがドンドン取り返しの付かない事になっていく。

 

学費の事や店の手伝いも気にするなとシュウジさんは言う。それはワシの事を思ってなのか、それとも本当に大丈夫なのかはワシにはわからない。けれど、一つ確かなのは………、

 

シュウジさんの、お義父さんの娘になれて良かったという事、家族に出会えて心から嬉しいと思えた事、色々問題はあるかもしれない。けれど、今くらいはこの幸せを噛み締めても………良いよね。

 

レヴェントンの姓は捨てない。いつか自分の姓に気付いた私の本当の親にワシは幸せだと胸を張って言える様に。

 

「特技は格闘技です! 宜しくお願いします!」

 

フーカ=L=シラカワは新しい気持ちを胸に今日も1日頑張ります!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フーカさん、無事に学校へ転入出来たって!」

 

「本当? 良かったぁ」

 

「フーカさん、勉強頑張ってたもんねぇ」

 

授業の休み時間、転入試験を終えて無事に学校へ通えるようになったというフーカからの報せにヴィヴィオ達はホッと胸を撫で下ろす。幼馴染みと無事に仲直りも出来たし、フーカもシュウジという家族を得られた。

 

これまで辛い事ばかりだったフーカ、きっとこれからはそんな過去が霞んでしまうくらい幸せに溢れた日々が待っているのだろう。格闘技でも互いに切磋琢磨し合えるし、此からの生活に益々楽しみが増えた事にヴィヴィオ達は素直に喜んでいた。

 

しかし、ヴィヴィオには一つ気になる事があった。シュウジとジークの試合、後半で見せたシュウジの動きをヴィヴィオはどこかで見た気がするのだ。

 

一体、何処だったのだろう。どんなに思い返しても出てこない記憶にヤキモキしていると、親友二人から声がかかる。我に返ると、次の授業を報せるチャイムが鳴っていた。

 

少し後ろ髪を引かれる思いだが、思い出せないものは仕方がないと割り切り、教室へと戻る。そして今後、思い出そうとする度にヴィヴィオはやりきれない気持ちを抱えることになる。けれど、今はそれで良い。

 

───誰だって、ワザワザトラウマを呼び起こしたくはないだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、本当に宜しかったのですか?」

 

「ん? 何がだい?」

 

「フーカの事です。確かに彼女は親無しですが、今では立派にこのお店の従業員として働いています。住み込みで働いているのなら、ワザワザ学校へ行かせる必要など無いのではありませんか?」

 

店内のカウンター席で食器を洗うシュウジの背にヴィクターは素直な疑問をぶつける。その尤もな彼女の指摘にシュウジは小さく笑みを浮かべながら彼女の質問に答えた。

 

「俺の故郷ではね、一定年齢までは義務教育が課せられているんだ。フーカはまだその時期を抜けきっていないんだ」

 

「…………」

 

「それに、彼女はまだ自分が何が出来るのか、本当は何がしたいのかまだ分かっていない。格闘技の才能はピカイチかもしれないけど、それ以外の才能があるかもしれない。DSAAという一つの枠に囚われず、彼女には色んな可能性を見出だして欲しいんだ」

 

「可能性……ですか?」

 

ヴィクターの言葉にシュウジは静かに頷いた。様々な可能性に触れて、自分の未来を広げていく。格闘技という一つの光に従うまま進むのではなく、寄り道や回り道をしながら、ゆっくりと自分の道を進んで欲しい。それもまた命の輝きの在り方の一つなのだから。

 

「フフ、随分親バカなんですね」

 

「当然さ、かわいい娘の為なんだ。バカにもなるよ」

 

「では、そんな親バカなシュウジ様に一つ提案をしたいと思います」

 

彼女の手から差し出されるのは一通の手紙、それを受け取ったシュウジは中身を見ると訝しむ様にヴィクターを見る。

 

「ヴィクターちゃん、これは?」

 

「管理局の広報部から渡されたモノです。出てくだされば今後のこの店の宣伝に協力してくれると先方は仰っていますが……」

 

どうしますか? と訊ねてくるヴィクターにシュウジは溜め息を吐く。ふと、視界の端に一枚の写真が入ってきた。それは先のウィンターカップでの集合写真だ。

 

互いにボロボロの姿となっているアインハルトとフーカ。二人の間には優勝トロフィーが置かれており、その周囲をヴィヴィオ達が囲んでいる。とても楽しそうにしているフーカにシュウジも笑みを溢し。

 

「………そうだね。前向きに検討しておこうか」

 

そう言葉で濁してもシュウジは受ける気満々だった。

 

そして、時間は流れ深夜。明日の店の仕込みも終わり、フーカが眠った事を確認したシュウジは山吹色の胴着を身に付けて店の地下へと足を進める。特殊な加工で封鎖されていた地下室への階段、ヴィクターの執事であるエドガーでも気付かない精巧な仕掛けの先にある広大な地下室にてその魔神はいた。

 

「や、相棒。久し振り、待たせて悪かったな」

 

シュウジの呼び掛けに魔神は言葉では返さない。ただ静かに駆動する相棒にシュウジは微笑みながら訊ねた。

 

「早速で悪いけど、アレ、またやってくれないかな? ちょっと近々に試合が決まってね。鈍った体を鍛え直したいんだ」

 

シュウジがそんな言葉を口にした瞬間、地下室は唐突に広大な荒野へと早変わる。映像投射によるシミュレーションではない。シュウジは今喫茶シラカワから無人の荒野へと転移したのだ。

 

背後からジャリッと大地を踏み締める音が聞こえる。振り返ったシュウジの視界に映るのは何れも人の形をした怪物達。

 

十傑の衝撃、常勝不敗の先代キングオブハート、若き修羅の王、破界の王、他にも様々な怪物達がシュウジを見定める様に不敵な笑みを浮かべている。過去に戦った強者達、それらを前にシュウジは軽く体をならし……。

 

「んじゃ……いっちょやるか!」

 

大地を踏み締めて、彼等へと突き進む。

 

 

 

 

 

 

 

ヴィクターから受け取った手紙、そこに記されているのは………。

 

 

 

戦技披露会への参加申し込み申請書。

 

対戦相手、高町なのは。

 

 

 

まだ見ぬ強敵を前に己を鍛える。そんなシュウジもまた、強くなることに貪欲だった。

 

 

 

 

 

 




次回からまたGの日記本編に戻ります。

寄り道の多い作者ですけど、宜しくお願いします。


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