『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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夏ガチャ盛大に爆死した為、八つ当たり気味に書いたものです。

こんな作者ですみません。


ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか
その1


 

 

地下迷宮(ダンジョン)。それはこの世界の人々にとってあらゆる希望であり羨望でありそして絶望だった。

 

ある者は永劫続く名声の為に。

 

ある者は決して絶えない富の為に。

 

またあるものは唯一無二の力の為に。

 

野心を、野望を、欲望を以てこのダンジョンへと挑んでいく。全ては己が望む物を勝ち取る為、ダンジョンの攻略を往く者達────冒険者は今日も己の全てを懸けてダンジョンへ挑んでいく。

 

────地下50階層。様々な怪物が蠢くダンジョン内に於いて、安全階層(セーフティーポイント)として知られるこの階層、辺りは灰色の木々で埋め尽くされている場所だったが、この時異常な光景で埋め尽くされていた。

 

「戦えるものは前に出ろ! 防ぐものであれば鍋蓋でも構わん! 兎に角押し留めるんだ!! 後方支援の者は矢を惜しむな!」

 

押し寄せてくるのは向かってくる芋虫の様なモンスター、嘗てない事態とモンスターの群れにロキ・ファミリアの幹部リヴェリア=リヨス=アールヴは戸惑いと焦燥に駆られながらも、懸命に前線の維持を繋げていた。

 

レベル6。数多いる冒険者の中でも指折りの実力者であり九魔姫と呼ばれ世界にその名を轟かせている彼女はロキ・ファミリアの副団長、突如押し寄せる異常事態を前にそれでも彼女は前線の指揮を執り、戦線の維持を勤めているが………如何せん相手が悪かった。

 

力があるだけのモンスターならまだ良かった。喩えどんなに強力なモンスターが襲い掛かってきてもロキ・ファミリアにはそんな脅威を真っ向から迎撃出来る用意があった。これまで幾度となく修羅場を潜り抜けてきた迷宮都市(オラリオ)の中でも屈指の戦闘能力を有しているロキ・ファミリアにはそれだけの自信と自負があった。

 

しかし、今回の相手は毛色が違いすぎた。吐き出す溶解液はファミリアのあらゆる装備を溶かし、矢で仕留めた所で死体となったモンスターの体は膨張して爆発する。止めてもダメ、仕留めてもダメという悪循環の中、主戦力のいないロキ・ファミリアは徐々に追い詰められつつあった。

 

───いや、打つ手ならある。九魔姫と恐れられ世界最強レベルの魔法の使い手とされるリヴェリアにはその名の通り九つの魔法を操る力がある。その中の一つである氷の魔法を用いれば活路を見出だせる。

 

しかし、その魔法は威力こそ絶大だが発動させるのに些かの詠唱(溜め)が必要になる。地表に近い階層であるならば兎も角、50階層という深層で、それもこの戦況下で、悠長に詠唱を唱えられる時間は果たしてあるだろうか。

 

もうじき芋虫の群れが戦線を崩す頃合いだろう。果たしてその合間に詠唱は終われるのか、仮に可能だとしても味方を巻き込まずに済めるのか? いや無理だ。しかしもう時間は残されていない。止めどなく押し寄せる蟲の軍勢、全滅よりも僅かばかりの可能性に懸ける事にしたリヴェリアは手にした杖を掲げて賭けに出る。

 

と、その時だ。51階層に続く道が突然爆発した。何かと思いそこへ注視する彼女の視界に映った人物達を見て、リヴェリアは安堵の表情を浮かべる。他の団員達も同様で、こちらに向かって駆けてくる複数の人影にその目を希望と涙で溢れさせた。

 

「団長だ。団長達が戻ってきたぞぉぉぉっ!!」

 

「よし、あと少しだ! 今こそロキ・ファミリアの気概を見せる時だぞ!」

 

「「「うぉぉぉぉぉぉっ!!」」」

 

リヴェリアの声に合わせて団員達が吼える。武器や防具は無くとも、神の恩恵を授かり数多の修羅場を潜ってきた戦士達。勢いを取り戻した彼等は残った力を振り絞る様に芋虫達を押し戻そうとする。

 

これならいける。もうじき此方に合流してくる仲間達を見てリヴェリアがほんの少し息を吐き出したのも束の間、事態は再び急変する。

 

巨大。天を仰ぎ見る程に巨大な図体をしたソレが自分達の眼前に現れた。何だアレは? その色合いから芋虫達の同類と思われるソレは全身から鱗粉に似た分泌物を放出し、少しずつ此方に向かってきている。

 

瞬間、爆発が巻き起こる。その爆発は仲間達のいた付近で起こり、大きな砂塵となって立ち上っていく。何て規模の爆発だ。あれもあのモンスターの仕業なのか。信じたくない事実を前にリヴェリアの頬から大粒の汗が流れ落ちる。

 

───仲間達は無事だった。幸い間一髪で爆発から逃れられた彼等を見てリヴェリアは胸を撫で下ろす。そして彼女は決意する。魔法の詠唱を。氷の力を解放する。

 

「皆、これより私は詠唱に入る。キツいと思うが………何とか耐えてくれ」

 

それは絞り出すような声だった。指示というには剰りにも拙いソレを、しかし団員達は微塵も揺らぐ事はなく頷いた。何故なら彼等は知っているからだ。我等が副団長の魔法は世界最強だと。彼女が腹を括ったのであれば自分達もそれに付き合うだけだ。

 

無謀とも言える賭け、しかしそれを即答えてくれる仲間達に感謝しながら彼女は詠唱を開始する。それは全てを凍て尽かせる氷の極限、対象の時間そのものを奪うロキ・ファミリアに於ける最強の攻撃魔法。

 

しかし、彼女の詠唱は最後まで紡がれる事はなかった。詠唱に間に合わなかったのか? 否、その必要がなくなったのだ。

 

消えたのだ。あれほど存在感を示していた巨大なモノが、天高く聳え、階層を食い破らんとする怪物が忽然と姿を消したのだ。しかし、異常なのはソレだけじゃない。

 

今さっきまで団員達が押し留めていた芋虫達も、その全てが掻き消されていた。まるで最初から其処にいなかった様に……。

 

(いや、違う! 奴等は消えたのではない。消されたのだ!!)

 

何が起きたか、リヴェリアがそれを察した瞬間。階層全体を揺るがす程の衝撃と轟音がロキ・ファミリアを襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは………どういう事だ?」

 

ロキ・ファミリアの団長、フィン=ディムナもまた目の前の光景に戸惑った。先程まで自分達を追い詰めていた芋虫、その強化種と思われる存在がいきなり現れたかと思えば、突然その姿を消した。

 

アレは厄介な存在だった。強竜(カドモス)すら殺しきり、口から吐く溶解液はアダマンタイトで出来た強靭な武具さえも溶かし尽くし、得物を抱えて闘う多くの冒険者にとってあのモンスターは天敵とも言えた。

 

しかし、厄介なのはソレだけではない。倒し、絶命した芋虫のモンスターは少し時間を置くだけでその体を膨張させて破裂し、内に溜め込んだ溶解液を撒き散らす爆弾となる。それの強化種となればその爆発規模も相当なものだと予想できた。

 

故に、フィンはファミリアの撤退を決断した。団員達と今回の遠征、それらを天秤に乗せてロキ・ファミリアの団長は50階層からの即時撤退を他の団員達に伝え、そして一人の少女に殿を命じた。

 

反論もあった。もう一度一考の猶予と懇願する者もいた。しかしそれら全てを却下して、フィンは少女に謝罪と共に命じた。

 

少女───アイズ=ヴァレンシュタインはそれを快く承諾した。彼女の扱う魔法ならあの強化種と渡り合う事が出来る。長年培ってきた経験に基づきそう判断したフィンはアイズに芋虫の強化種の討伐を命じたのだ。

 

結局、その命令は果たされぬまま終わった。倒すべき強化種は掻き消され、残されたフィン達は舞い上がる砂塵をただ見つめ続けるしかなかった。

 

軈て砂塵は晴れ、景色が顕になっていく。警戒しながら奥へと進むアイズが次に目にしたのは……。

 

「なに………これ?」

 

それは────()だった。直径数百メドルにも及ぶ巨大な孔が強化種のいた場所にできていた。

 

否、それは孔ではなくクレーターと呼ばれるモノだった。巨大な孔と呼べる程に広く深く抉られた大地、その超常たる現象を前にアイズだけでなく他の団員達も言葉を失っていた。

 

見れば、副団長達のいる拠点付近にも似たような現象が起きている。一体何が起きたのか、混乱する彼等が戦慄を覚える中で………。

 

ソイツは現れた。

 

「やれやれ、いきなり芋虫が出てくるモノだからついやってしまった。一応虫だけを狙って撃ち込んだけど………誰か巻き込まれたりしてないよな?」

 

背後から聞こえてくる声に全員が振り返る。バカな、あり得ない。この深層に於いて自分達以外の人間がいるはずがない。混乱から更なる驚愕へと突き落とされたアイズ達は自分達が出てきた所、51階層へ続く洞窟へと視線を向けると………。

 

「サポーターの皆さん、大丈夫ですか?」

 

「り、リリは大丈夫ですぅ~~」

 

「お、俺達も大丈夫ですぜ旦那ぁ」

 

「も、もうダメ……」

 

「バッカ! お前ちゃんと返事しろ! また旦那の善意に巻き込まれたいのか!?」

 

蒼が現れた。白い外套に蒼色の仮面を被って現れたその男の背後にはサポーターと思われる複数の獣人を引き連れて。

 

「安全階層に着きましたので今日は其処で夜営にしましょう。皆さんも疲れた事でしょうし、今夜は私が料理を振る舞わせて貰いますよ」

 

「い、いいいいですぜ旦那! そんな気を使わなくたって!」

 

「遠慮することはありません。君達のお陰でドロップアイテム集めが捗ったのですから、これは報酬の上乗せも検討に入れなければなりませんね。それと次の依頼の事も………」

 

「そ、そそそれなら尚の事あなた様には手を休めて貰いませんと! 料理の事なら他の方に任せるとして、蒼スマ様には打ち合わせに参加してください!」

 

「よっしゃ良く言った! じゃなくて、ソイツの言う通りですぜ旦那! 旦那は一先ず休んでくだせぇ! 一番働いたのは旦那なんですから!」

 

「いやしかし………」

 

「いいからいいから!」

 

「本当に、勘弁してください」

 

ワイワイと賑やかに会話しながら此方に近付いてくる。すると向こうも此方に気付いたのか、視線を此方に向けて。

 

「どうも、こんにちは」

 

ペコリと、呑気に場違いなほどに穏やかな声色で会釈してくる蒼の仮面の男に。

 

「あ、どうもこんにちは」

 

「こんにちは?」

 

フィンやアイズ達(一人の狼人を除いて)もまた釣られて会釈をするのだった。

 

 

 

 

 




本作のリリちゃんは諸事情によりソーマファミリアの皆さんとは仲良しです(ニッコリ

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