『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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ダンジョンで友達を求めるのは間違っているだろうか?



その2

 

 

 

リリルカ=アーデにとって世界とは地獄であった。幼い頃に両親を亡くし、二人の娘である自身もファミリアにとって金を集める消耗品でしかなかった。

 

才能がないからと冒険者としての資格を剥奪され、サポーター(負け犬)として扱われてきた。気に入らないからと殴られ、目についたから蹴られ、面白いからと嬲られ、意味もなく暴力を振るわれる。

 

手を差し伸べる者はいなかった。冒険者を絶対とするこのオラリオで、一般市民が彼等に意見する事は出来ない。嘗て正義を謳うファミリアが存在したが、そんな彼等でさえ荒くれ者が多い冒険者の本質を変えることは出来なかった。

 

冒険者の本質、彼等は皆奪う者だ。弱者から全てを奪い、踏み躙り、破壊する。冒険者が多く存在するこのオラリオは彼女にとって正しく地獄だった。

 

故に、彼女もまた奪う事にした。自分を虐げる冒険者を、自分を蔑む冒険者を、敵としてリリルカ=アーデは決意した。己の欲望に忠実な冒険者(モンスター)から生き延びる為、彼女は奪われる者から奪う者へなって見せると決意した。

 

そして今日も、呑気で間抜けな冒険者を鴨にしようとした時────ソイツが現れた。

 

『失礼、サポーターの方ですか? もし宜しければ私のお手伝いを頼みたいのですが………如何でしょう? 報酬は弾みますよ』

 

今思えば、彼との出会いは結果を見れば良かったのかもしれない。彼との出会いを果たせた事で自身に置かれた環境は激変し、リリルカ自身も強さを得られたから。

 

未だに素性を明かしたことはないが、それでも彼との出会いは間違ってはいなかった。…………しかし、それでもリリルカ=アーデは今でも思う。

 

おいバカやめろ早まるな! もし今の自分が過去に戻れるのならば、どんな手を尽くしてでも差し伸べてきた彼の手を阻もうとしただろう。

 

そして、出された彼の手を取ったリリルカは獲物を手に入れたハイエナの如く、歪んだ笑みを人知れず浮かべる。

 

尚、その笑顔が恐怖で更に歪ませる事になるのはこの後ほんの数分の事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「溶解液で皮膚を火傷した方は此方の塗り薬をどうぞ。少々匂いは強いですが、その分効果は期待出来ますよ。 副次効果によりモンスターも近付き難くなりますので、ポーションの節約を図りたいのであれば是非お使い下さい」

 

「あ、あぁ。ありがとう。助かるよ」

 

「では私は向こうの人達の治療の手伝いに向かいますので、何か他にご用があれば声を掛けてください」

 

地下階層────50階。大量の芋虫型のモンスターによる強襲という異常事態から何とか乗り越えたロキ・ファミリアは撤退の準備を進めながら負傷者の治療に当たっていた。

 

そんな中で団長であるフィン=ディムナは他の団員達と混ざって治療を行っていく仮面の男の背中を見て、困り顔を浮かべながら渡された薬品の瓶をクルクルと掌で回していた。

 

「それで、どうするんじゃフィン? あやつの素性を問い詰めるのか?」

 

後で控えていたガレス=ランドロック、ロキ・ファミリアの最古参の一人であり重傑(エルガルム)の二つ名を神々により与えられたオラリオの中でも一、ニを争う怪力の持ち主。

 

そんな彼が呆れた表情で見るのはやはりフィンと同じ仮面を被った謎の男だった。普通なら素性を明かさない男からの薬品なんてどう考えても罠と思う方が正しいし、そもそも向こうこそが自分達との接触を拒む筈だ。でなければワザワザ仮面という手段を用いて素性を隠す意味が薄れていく。

 

色々聞きたい事があった。問い詰めたい事があった。自分達より先にいたファミリアの存在なんてそんな情報など耳に入ってこなかった。そもそもここは深層、オラリオの数多くあるファミリアに於いてもここへ来れる集団は限られている。

 

それが見たことも聞いたこともない人間が当然の様に深層を闊歩している。しかも彼のサポーターである数人の獣人を引き連れて。

 

限られた人数、限られた手段の中で来れるほどダンジョンは甘くない。しかもサポーターという重荷があるのならば尚更だ。尽きぬ疑問、疑惑、それら全てを解消しようとフィンは可能な限り友好的な態度で彼等に接触しようとしたが………。

 

『むむ、何やら大変な事態であったご様子。どうやら向こうの皆さんも被害を受けているようですし、もし宜しければ何か手伝わせてくれませんか?』

 

友好的に接触しようとした所、寧ろ向こうから近付いてきた事に流石のフィンも戸惑った。その経験豊富な観察眼と話術からあらゆる交渉の場で相手より有利に立てる自信を持つ彼でもコレには対応出来なかった。

 

仮面を被り素性を隠す者、そんな人間なら普通は他者との接触は避ける筈、それなのに向こうから紳士的に近付かれてしまっては、流石のフィンも戸惑うしかなかった。

 

そんな彼の口から出てきたのは遠慮の言葉、一度距離を置いて相手の出方を見ようとしたが。

 

『なに、遠慮は無用ですよ。幸いな事に我々の荷物は然程消費もしておりませんので。幾つか治療用の薬品とポーションも余ってますし、どうか皆さんに分けてあげてください』

 

『い、いやしかしそれではあなた方に迷惑が……』

 

『困った時はお互い様ですよ。コレも何かの縁ですし、後からの請求なんて無粋な真似も致しません。皆さんの撤退準備が整う迄で良いので、どうか手伝わせて貰えませんか?』

 

更に詰め寄ってきた為、フィンはただ頷く事しか出来なかった。以降の会話で入手出来た情報は仮面の彼が相当なお人好しである事と、彼の名称の二つだけだった。

 

「蒼のカリスマ、か。どう考えても偽名じゃろ? 良いのか? このままアイツに手伝わせて」

 

「だったら君が聞いてきてよ。あそこでせっせと団員達を手当てしてくれている彼に、お前は何者なんだってさ」

 

「バカ言うでない。我等にとっての恩人にそんな無粋な真似が出来るか」

 

そう言って肩を竦める戦友にフィンはこの野郎と内心で呟く。幾ら相手が仮面で素性を隠そうと長年冒険者として経験を積み重ねてきたフィンは、会話だけでもある程度のその人物像を推測する事が出来る。それはあの蒼のカリスマという得体の知れない相手でも例外ではない。

 

信じられない事に、あの仮面の男は正真正銘善意として行動している。勿論、それがブラフで本当の目的は別にあると考えられるが、しかしその為のリスクがまるで釣り合っていないのだ。

 

先の芋虫のモンスター達を殲滅した力と見知らぬアイテムを譲ってくれた事、そして今尚団員達の手当てに尽力してくれる行動力、いっそロキ・ファミリア(自分達)に取り入ろうとするのが目的だと言われた方が納得する程に蒼のカリスマという男の行動は親切的だった。それこそ冒険者には不釣り合いな程に。

 

疑って然るべき。しかし、幾ら疑っても向こうから話してこなければ会話の糸口すら見付けられない。仮に声を掛けてもまた彼の慈善的な行動に会話の流れは掴むことは許されないだろう。

 

これが狙ってやっているのであれば相当のやり手だ。しかし、フィンにはそれだけの人物に心当たりがない。幾つもの可能性を模索するフィン、何て声を掛けるべきかと悩んでいる内に一人の少女が彼に近付いてきた。

 

「蒼スマさん蒼スマさん、助けてくれてありがとうね! 貴方がくれた薬のお陰で皆の火傷も治まって来たよ!」

 

「それは何よりです。貴女は確か………ティオナ=ヒリュテさんで宜しかったでしょうか?」

 

「うん、そうだよ! ねぇねぇそれよりもさ、どうして仮面をしてるの? 貴方ほどの冒険者なら別に堂々としていればいいのに、なんで?」

 

ロキ・ファミリアの第一級冒険者(Lv5)大切断(アマゾン)の二つ名で知られる双子の妹がおくびも出さずに訊ねた。誰もが思っていた事を平然と口にする彼女に団員の多くが彼女に憧れ、痺れた。

 

「それは勿論、素性を知られたくないからですよ。後は少し人見知りなのも理由の一つですかね」

 

しかし、そんな彼女の追求を蒼のカリスマは難なく避けてみせる。当たり前と言えば当たり前な事、しかしそんな堂々と答える仮面の男にティオナはそっかーと納得してしまう。

 

(もっと、もっと突っ込むんだティオナ! 君の図々しさはそんなものじゃない筈だ!)

 

身内に対して割りと本気で失礼な事を考えるフィンは、心の底からティオナにエールを送る。彼女の天真爛漫な性格ならきっとあの仮面の男と相性が良い筈だ。一縷の望みを懸けて二人を見守るフィン、すると其処へ一人の狼人(ウェアウルフ)が歩み寄っていく。

 

「どけ絶壁女、談笑したいなら余所でやれ」

 

「んなっ!? ベート!?」

 

暴言をティオナに叩き付けて割って入ってきたのは彼女と同じくLv5の冒険者、その過剰なまでの実力史上主義で凶狼(ヴァナルガンド)と団内からも恐れられている彼は憤慨するティオナを押し退けて蒼のカリスマの前に出る。

 

「てめぇ、一体何をした?」

 

「はい?」

 

「惚けんなよ。あの芋虫野郎とデカブツ、お前が殺ったのは知れてんだ。あれほどの規模の魔法、それも重力のだ。一体どこからどのタイミングで詠唱してた? 随分用意周到じゃねぇか、あんな滓を潰した程度で英雄気取りかあぁ!?」

 

ティオナとはうって変わって乱暴な口調で捲し立てるベート、確かに彼の言っている事は誰もが気になる所だが、それにしたって些か乱暴に過ぎる。止めに入ろうか逡巡するフィンだが………。

 

「は? 詠唱?」

 

演技でも無ければわざとでもない、心底間の抜けた声が仮面の男の口から零れ落ちた。そのまるで詠唱という言葉そのものを知らないという風な口振りにベートは勿論周辺の団員全員が固まっている。

 

あ、遠くでリヴェリアが絶句している。長年冒険を共にしてきた仲間の珍しい表情がフィンの視界に入り込んできた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいね」

 

固まり、絶句しているベートに異変を感じた蒼のカリスマはいつの間にか手にしていた手帳のページをペラペラと捲り、詠唱詠唱と口ずさんでいる。

 

「あっ」

 

おい、今コイツあって言ったぞ。

 

手帳に書かれている何かを確認したその仮面の男はゴソゴソと懐にそれをしまい、コホンと咳き込んでベートに向き直り……。

 

「え、えぇ。勿論存じていますよ。詠唱、魔法を行使するにあたって事象を具現化させる呪文。当然私も唱えていましたとも」

 

「ただ、私の魔法は少々特殊でして、えーっと、短文詠唱? という部類に入るようなので、えぇ、そんな大した代物ではありませんよ」

 

「─────」

 

「そう言う事なのでその………すみません。詳しくは言えません」

 

てへ♪

 

 

仮面を被っていても分かる男のその仕草にベートの中の何かがキレた。

 

「ナメてんのかテメェェェェェ!?」

 

「ヒェ」

 

怒髪天を衝く勢いで憤慨するベート、その勢いに圧されて変な声を漏らす蒼のカリスマ、ベートの態度は明らかに恩人に対するモノではないが、何故だろう? あの仮面の男に対してはそれで良い気がしてきた。

 

あ、リヴェリアが頭を抑えて蹲っている。

 

頭を抑えて呻き声を上げているリヴェリアに彼女の弟子であるレフィーヤが駆け寄っていく、そんな光景を視界の隅に収めながらベートを宥めに行こうとするフィン、その後もなんやかんやありながらロキ・ファミリアの追及をのらりくらりとかわし、遂に撤退の準備が完了した。

 

「それでは我々はここで失礼させて頂くが……その、本当に大丈夫なのかい? 幾ら君が只者ではないとは言え彼等の面倒を見ながらここに留まるのは些か大変じゃないのかな?」

 

「ご心配ありがとうございます。が、それには及びません。彼等もサポーターではありますが一介の冒険者、レベルの差違はあれどダンジョンにおいてそれなりの気持ちは心得ていますよ。それに、私はこう見えて尽くすタイプの人間でして、契約の間柄とは言え彼等をみすみす死なせるような真似はしませんよ」

 

「アハハ、そうか。うん、なら僕から口を出すことはもう無いかな。じゃあ、僕達はもう行くよ。地上で会ったら酒でも奢るよ。その時は洗いざらい話して貰おうかな」

 

「では、私もその時を心待ちにしておきましょう。さようなら、ロキ・ファミリア、道中お気をつけて」

 

そう言って最後に言葉を交わしてロキ・ファミリアは50階層を後にする。途中でベートが此方を睨んだり、金髪の少女がチラチラと視線を送ったりしてきたが、概ね予定通りに彼等は安全階層から去っていった。

 

彼等の姿が見えなくなるまで見送った蒼のカリスマはさてとと呟き背後にいるサポーター達に向き直る。

 

「さて、本当ならここで夜営に入りたい所ですが………正直、そんな気持ちではありませんよね。今回は少々早いですが、私達も引き上げる事にしますか」

 

「やっ、やったぁぁぁ~~」

 

「か、帰れる。俺達のホーム()に帰れるぞ!」

 

「ステイタスの更新とかどうでも良い! 早く皆に会いてぇよぉぉ~~」

 

「早く帰ってシャワー浴びたい」

 

それぞれ泥だらけとなっているサポーターの面々、地上に戻れるという喜びに打ち震えている彼等に蒼のカリスマは仮面の奥で苦笑いを浮かべながら何もない虚空へ手を伸ばす。

 

翳した手から現れるのは……孔だった。孔は徐々に大きく広がり、軈ては数十M(メドル)の巨大な空間が出来上がっていた。

 

「では、ソーマ=ファミリアの皆さん。この後は予定通りの行動を心掛けましょう。今日は色々あって疲れているでしょうけど、どうかそれが終わるまで頑張ってください」

 

「「「お、おぉ~~」」」

 

力なく答える面々、そんな彼等を見て頷いて仮面の男は孔へと足を進める。彼に続き孔へと入っていくサポーター達、慣れた様子で孔を潜る彼等が次に目にしたのは………空と太陽がある地上だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天を衝く白亜の巨塔、摩天楼施設(バベル)。ダンジョンの蓋として機能しているバベルの近辺、比較的人通りの少ないその場所で、蒼のカリスマはサポーター達の帰りを待っていた。

 

「だ、旦那。お待たせしました」

 

「換金、終わってきましたぁぁぁ~~」

 

「ご苦労様です。申し訳ありませんね、毎度毎度使い走りにさせてしまって」

 

「い、いいえいいえ全然! この程度何てことありませんぜ旦那!」

 

明らかに肩で息をしてフラフラな様子なのに、それでもサポーターとしての務めを果たそうとする彼等に蒼のカリスマは関心を抱く。親切な人達だ。彼にとってソーマ=ファミリアの彼等は初めて会った時からその印象は変わっていなかった。

 

「では、早速今回の分配をしましょうか。リリルカさん、今回の稼ぎは幾らになりましたかね?」

 

「は、はい。ちょうど7500万ヴァリスになります」

 

「なら、私を含めた五人で1500万で分けれますね。本当ならキリよく8000万までは頑張りたかったのですが……」

 

「し、仕方ねぇですぜ旦那、今回はドロップアイテムをメインでしたし、俺達は今回の報酬にも何の不満はありませんよ!」

 

「寧ろ今回でもう終わりにしても良いくらい」

 

「シィーッ!」

 

「そうですね。今回は異常事態(イレギュラー)にも遭遇しましたし、こんなものだと割り切りましょう。さて、それでは次にドロップアイテムの分配に移りましょう」

 

「へ?」

 

各々に均等に報酬を分け、受け取った彼等はコレで終わりにするつもりだった。しかし、仮面の男の何処からともなく取り出した巨大なバックパックにサポーターの彼等の表情は固まった。

 

「だ、旦那。今なんて?」

 

「ん? 言ってませんでしたっけ? 今回の依頼は従来の報酬の他にドロップアイテムも報酬として割り振るつもりだと」

 

(((聞いてねぇよ!?)))

 

ドロップアイテムというのはダンジョンに棲むモンスターから時折ドロップするアイテムの事、階層が深ければモンスター達の性質も強さも段違いに跳ね上がり、それに比例してドロップアイテムもその価値を大きく変動させていく。

 

バックパックの中から取り出した幾つものドロップアイテム、爪や鱗、牙や角、他にも透き通った液体の入った小瓶等様々な豪華絢爛なアイテムが彼等の前に並べられていく。

 

そんな眩しいほどの宝の山を前にサポーターの一同は対照的に暗くさせていた。

 

ソーマ=ファミリアは謂わば弱小ファミリアだ。ファミリアの団員達はあるモノの為に必死になって毎日金を稼ごうとしていた。時には他者を蹴落とし、自分が利益を得る為に同じ団の仲間にまで騙し討ちをする始末。

 

そんな色んな意味で汚れきったファミリアはある日を境に突然変貌を遂げる。他人を追い詰め、騙し、金を奪い合う欲望に塗れたソーマ=ファミリアはまるでアットホームな家庭の様にキレイになった。

 

彼等の身に何があったのか、それを知る人間はいない。何せソーマ=ファミリア自体がその事を隠そうと必死になっていた。

 

団員全員のレベルアップ、更に一部の団員はもう一段階階位(レベル)が上がったなんて知られれば、ソーマ=ファミリアは他のファミリアから色んな意味で袋叩きに合ってしまう。主神であるソーマと団長は今もこの事にどうすれば良いのか必死に頭を巡らせている最中である。

 

つまり、ソーマ=ファミリアにとって目の前の仮面の男は希望であり絶望の化身だった。嘗て利用して使い捨てるつもりだった得体の知れないバカは自分達では手に負えない怪物(モンスター)だったのだ。

 

唯でさえ最近の金回りの良さに周囲から疑惑の念が向けられているのだ。今回も換金に来たときはギルド職員から尋問紛いな質問もされた。そろそろいい加減何とかしなくてはいけないと思った矢先にドロップアイテムの贈呈という目の前の状況にソーマ=ファミリアの団員達の胃は悲鳴を上げ始めていた。

 

「い、いやー旦那ぁ。流石にそれは貰えませんよ。俺達は旦那には日頃から世話になりっぱなしだからよ、これ以上受けとるのはその……野暮ってもんでさぁ」

 

リーダー格の男の言葉に他の面々はよく言ったと称賛する。これ以上余計な負債を抱え込むのは避けたい。何としてもこの状況を打破しなくては。

 

「コイツのいう通りですぜ旦那、確かに俺達冒険者は荒くれ者が多いが、それだけ“筋”と言うものは通しているつもりだ!」

 

「数日前の俺らからすればどの口がって話だけどね」

 

「お前さっきから何なの!? 一人だけ楽になるつもりなの!? そんなの絶対に許さないからね!?」

 

「ともあれ、そのアイテムは受け取れねぇよ。それは依頼主であるあんたのモノだ」

 

「ふむ、成る程確かにあなた方の言うことも尤もだ」

 

(((よし!)))

 

「しかしですね。私があなた達の雇い主である以上、今回に限って言ってしまえばそれは通用しないんですよ」

 

「「「へ?」」」

 

「今回、我々は異常事態であるあの極彩色の芋虫のモンスターと遭遇、コレにより本来行われるべき依頼の労働時間は多少なりとも削られてしまった。故に雇用主である私はその損害に見合った保障を用意しなればならないのです」

 

「ほ、ほしょう?」

 

「えぇ、あなた方はサポーター。つまりは冒険者のダンジョン攻略を円滑に行う為の支援者、更に言えばソーマ=ファミリアという外部の人間、そんなあなた達の時間と命を預からせてもらっている以上、私にはそう言った有事の際の為の保障の支払いを行う義務と権利があるのです」

 

理解できましたか? と最後に訊ねてくる蒼のカリスマにソーマ=ファミリアの面々は押し黙る。………というより、反応出来なかった。良く分からない理屈による良く分からない結論、しかしそんな仮面の男の理屈倫理に対抗する術を持たない彼等は………。

 

「そう言う訳で、受け取ってくださいね♪」

 

「ア、ハイ」

 

ほぼ思考停止の状態で蒼のカリスマからドロップアイテムを受け取るのだった。

 

「おいリリ、コレやるよ」

 

「いりません」

 

「遠慮すんなって、お前には散々酷いことしちまったからよ。その詫びとして受け取ってくれや」

 

「明らかにリリに押し付ける気でしょーが!!」

 

ワーワーギャーギャーと騒ぎ立てながら大通りを横切っていく彼等を見送り仮面の男もバベルから離れていく、幾人もの人とすれ違って………。

 

瞬間、男の装いは一変する。仮面を被り、素性を明かさない謎の男は紫炎の髪を揺らし、この世界の人間とは少し変わったジャージという衣装を身に纏う。

 

彼の向かう先にあるのは一つの屋台、そこから見えるツインテールの少女を視界に収めながら、男は口を開いた。

 

「ごめんヘスティアちゃん。少し遅れた」

 

「君が遅れるなんて珍しいねシュウジ君、て言うかいい加減神をちゃん付けで呼ぶのは止めないか」

 

「アハハ、すみません。神を敬称で呼ぶとか蕁麻疹が出ちゃうので生理的に無理です」

 

「生理的に!?」

 

シュウジの冗談(?)に愕然となるのはギリシャ神話の中で神の一柱として知られるヘスティア神。

 

「うぅ、相変わらず君は涼しい顔してトンでもない事を口にするね。僕じゃなかったら君大変な事になってたよ?」

 

「そうかな? まぁ、一応気には止めておくよ」

 

「ホントにもう。とっ、それよりもそろそろお客さんが来る頃だ。今日も頼むよシュウジ君!」

 

「おっけい任せな!」

 

ここは、迷宮都市オラリオ。モンスターと冒険者、そして………神々が住まうお伽噺の世界である。

 

 

 

 

 

「さて、今度こそこのじゃが丸くん麻婆味を───」

 

「止めないか!」

 

 

 

 




Q.ボッチはこの世界で何をするつもりなの?

A.主に観光旅行

Q.この世界で観光や旅行なんて出来るの?

A.“アソコ”に比べれば大抵の世界では旅行を満喫出来る。

Q.ボッチは神に対してどう思ってるの? ファミリアに入らないの?

A.ボッチ「生理的に無理」



それでは次回もまた見てボッチノシ

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