『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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ピンポンパンポーン。

お知らせです。

今回予定されていた重力講座ですが、作者の拙い執筆力により次回へ持ち越す形になりました。
重力講座を楽しみにしてくださっていた皆様、大変申し訳御座いません。
なるべく近い内に投稿致しますので、どうか今暫くお待ちください。

お知らせでした。

ピンポンパンポーン。



その10

 

 

 

────戦争遊戯(ウォーゲーム)

 

それは、娯楽好きな神々によって行われる派閥(ファミリア)同士に起きる代理戦争。神が他の神に自らの要望をぶつける為に行われる迷宮都市公認の決闘システム。そしてそれは退屈が嫌いで娯楽が何よりも好きな神々にとって最高の余興の一つでもあった。

 

今日はヘスティア・ファミリアとアポロン・ファミリアとの戦争の日、朝日が迷宮都市オラリオを照らす中、市街壁の上にて一人の少年と二人の少女達が対面していた。

 

「アイズさん、ティオナさん、今日まで本当に……ありがとうございました!」

 

二人の少女に向けて深々と頭を下げるのはヘスティア・ファミリアの唯一の団員であるベル・クラネル、自分の為に今日まで鍛えてくれた二人にベルは最大の感謝を示した。

 

そんなベルにロキ・ファミリアの一級冒険者、アマゾネスの少女ティオナはニッコリと笑みを浮かべる。

 

「だからぁ~、気にしなくっていいってば~、アルゴノゥト君は本当に律儀だな~」

 

「でも、二人のお陰で僕は……」

 

「私達は、私達がそうしたいたから君を鍛えた。だから気にしなくていい」

 

「アイズさん……」

 

「でも、それでも君が納得出来ないと言うのなら、今日の戦争遊戯で見せてほしい。君の頑張りを、君がこれ迄培ってきた全てを、私に見せてほしい」

 

アイズは知りたかった。急速に成長していくベルの強さに、まるでお伽噺の英雄の様に強く、逞しく、それでいて純粋なままでいられる彼の強さの秘訣を。

 

裏があるようで気が引けた。でも、それでもアイズは誰かの為に強くなれるベル・クラネルに自分でも理解できない感情に逆らうことは出来なかった。

 

だから、今日の戦争遊戯で君の全てを見せてほしい。あの日あの時、ミノタウロスを倒して見せた目の前の少年の強さを、アイズはもう一度見てみたかった。

 

そんなアイズの言葉にベルは「はい!」と力強く返事を返すと、もう一度深く頭を下げて決戦の地に向けて走っていく。瞬く間に小さくなっていく少年の背中、それを少し寂しく思いながらも二人の少女は見送った。

 

「彼、勝てるかな」

 

「一対一なら、彼の強さはもうLv2の範疇には収まらない」

 

ティオナの言葉にアイズはアッサリと応える。そう、ここ数日の中で二人に手解きを受けたベルは驚異的な速度でその強さを増していった。ティオナに叩かれれば叩かれるほど、ベルは打たれ強さと回避能力を増していき、アイズに扱かれればされるほど彼の身体能力は上がっていた。

 

戦い方次第なら、きっとベルはLv3にも勝って見せる。二度も敗北したというヒュアキントスというアポロン・ファミリアのエースにもきっと負けないだろう。………そう、一対一の戦いなら 。

 

「それにしても酷いよ、女神ヘスティアのファミリアってあの子一人だけなのに、どうして他の神々はあんなルールに納得しちゃったのさ」

 

「…………」

 

表情を暗くさせ、俯いてしまうティオナにアイズはなにも言えなかった。アポロンとヘスティア、この両名が行われる戦争遊戯のルールは唯一つ。

 

殲滅戦である。攻城戦ではなく、一騎討ちでもない、双方どちらかのファミリアが全員戦闘不能になるまで戦い合う戦争遊戯最大の種目。

 

ヘスティア・ファミリアとアポロン・ファミリア、両派閥の戦力は圧倒的。多くの眷族達を抱えるアポロンの派閥にヘスティア達が勝てる見込みはほぼゼロに等しかった。

 

故に、二人は訝しむ。娯楽好きとして知られる神々がどうしてそんな分かりきった戦争の内容にしたのか、ティオナは憤った。納得いかないと、だったら自分もヘスティア・ファミリアに協力者として参加してやると、己の主神であるロキに直談判した。

 

返ってきたのは却下の一言、色々腹黒い所はあるが、それでも善良な神として知ってきた己の主神の薄情さにティオナは益々憤りを覚えたが、次に出てきたロキの意味深な言葉にその怒りは急速に萎えていく。

 

『もしかしたらこの戦争遊戯、何か裏があるやもしれん』

 

どういう事かと訊ねても詳しくは分からないというロキ、しかし彼女が口から出てきた神の名前にティオナはおろかロキ・ファミリア全員が戸惑い、困惑した。

 

大神ウラノス。迷宮都市オラリオの中でもギルド創設の神として知られる神が、神会(デナトゥス)の時に今回の戦争遊戯の種目を殲滅戦に変えろと訴えてきたのだ。まさかの大神からの介入にヘスティアだけでなくアポロンまでもが驚愕した。

 

一切の弁明も弁解もせず、ただそうしろと命じてくるウラノスにヘスティアは怒りアポロンは嗤った。決まり切った勝敗の行方に神々は詰まらなそうにしているが、迷宮都市の元締めであるウラノスに異を唱える神々は少ない。

 

一方で他の知略に長けた神々はウラノスの様子を訝しんでいた。普段はギルドの祭壇の奥に引っ込んでいるウラノスが、声だけとはいえ介入してきたのか、それも派閥同士の抗争にまで首を突っ込んでくるのは嘗てない程だ。

 

最近では自分達に匹敵するファミリアの主神であるフレイヤが本拠地の奥で引きこもっていると聞くし、最近のオラリオの異様な動きに注視していたロキは今回の戦争遊戯で何かが起きるかもしれないと睨んでいる。

 

故にロキは事の成り行きが収まるまで静観してほしいと眷族達に言い渡した。ティオナも事が終わればベル=クラネルの奪還に協力するという主神の約束に納得し、取り敢えず今回の戦争遊戯が終わるまで大人しくする事にしてきた。

 

「……今は、信じよう。あの子を、ベル=クラネルを」

 

「アイズ、うん。そうだね」

 

いくら考えても分からないなら、今はこれから戦う彼の力を信じよう。それに、きっと大丈夫。これまで繋いできた彼等の絆はきっとベルの力になってくれる。アイズは根拠の無い自信を、しかし確信をもって信じていた。

 

ただ、一つ分からない事といえば。

 

(そう言えば彼の師匠、結局来なかったな)

 

ベル=クラネルを最初に鍛えたという人物、彼がついぞ今日まで姿を見せなかった事にアイズは不思議に思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではソーマ様、今までお世話になりました」

 

「あぁ」

 

ソーマ・ファミリアの本拠地(ホーム)、その最奥にて窶れた男神とサポーターの少女が互いに正座して向き合っている。

 

リリルカ=アーデは本日を以て団から脱退する。何故なら今日は自分が惚れた男の最大最悪の危機を迎える日、自分の為に体を張ってミノタウロスから守ってくれた少年に少しでも恩を返す為、彼女は自らの意思でソーマ・ファミリアから抜け出す事を決めた。

 

思えば、自分もあの時ミノタウロスに立ち向かえば良かったのかもしれない。あの仮面の魔人の無理矢理過ぎる強行軍(デスマーチ)によってリリルカ=アーデのレベルはギルドに報告しているモノよりも上回っている。単純なステイタスならば彼の足手まといにはならなかった筈だ。

 

それなのに出来なかったのは自分が何も出来ないサポーターと偽り、ミノタウロスを前に竦む彼を庇ってモンスターの攻撃を直撃してしまったから。大怪我をした自分に、泣きながら呼び掛けてくれた彼の顔が今でも脳裏に焼き付いて離れない。

 

彼に無用な疵を付けてしまった。その侘びと恩を返す為、リリルカはソーマ・ファミリアから離れ、ヘスティア・ファミリアに改宗(コンバート)する事を決めたのだ。

 

既にギルドには話を通し、支払うべき罰金(ペナルティ)も済んだ。戦争遊戯が始まる頃には正式な形として発表されるだろう。後顧の憂いは無い、あるとすれば今までレベルを偽ってきた事に対するリリルカ自身の負い目だけだろう。

 

しかし、これは自分の問題だ。この数日の自身への問答で答えは出たし、後は彼に本当の事を正直に話すだけだ。彼にどんな風に思われても、口にされても、その全てを受け止める覚悟は既に出来ていた。

 

真っ直ぐに見つめてくる自らの眷族にソーマは嬉しく思い、そして後悔した。もっと早く眷族の皆と向き合っていれば、酒などに拘らずに己自身の力でファミリアを支えていれば良かったと、ソーマは酷く後悔した。

 

今日、自分のファミリアから一人の冒険者が飛び立つ。その事を阻んではならないと、ソーマもまた見届ける覚悟を決めた。

 

「リリ、君には随分酷い仕打ちをした。主神として何もせず、ただ己の趣味に没頭する毎日。許せないと思う。憎む気持ちもあるだろう、私にはそれら全てを受け止める責任がある」

 

「そうですね。確かにリリにはあなた様を恨んでいました。神なのになにもしない貴方を、超越存在(デウスデア)なのに眷族に向き合わない貴方を、誰よりも憎み、恨みました」

 

「……………」

 

「ですが、今はそれだけではありません。随分と遅くはなりましたけど、主神様は改心し自分なりにもう一度ファミリアの皆さんと向き合う様になりました。正直に言えばもっと早くそうして欲しかったですけど、取り敢えずリリはそれで納得しています。アレから団の皆さんも雰囲気が変わりましたし、リリに頭を下げて謝ってくださいました。私も人様には言えない汚いことをしてきましたし、これでおあいこって事で受け止めています」

 

「そうか」

 

優しく、ニンマリと頬笑む彼女に主神であるソーマも笑みを溢す。少しの後悔を胸に抱きながら、ソーマはリリルカ=アーデの脱退を認めた。

 

「ではリリルカ=アーデ、これ迄派閥(ファミリア)に貢献してくれた礼とこれからの餞別に、少ないけどこれを渡そう」

 

「あ、いりません結構です。それではリリはこれで失礼しますね」

 

横にあった小包をソーマが出そうとした時、リリルカ=アーデは早々と別れの言葉を口にして立ちあがり、本拠地を後にしようとした。そんな彼女を逃がすまいと、主神と側に控えていた団長ザニスが彼女の足に飛び付いてきた。

 

「逃げんなよぉぉぉ、逃げんなよぉぉぉっ!!」

 

「ほら、これあげるから! このドロップアイテムあげるから! 向こうの皆の役にきっと立てるから!」

 

「えぇい! 鬱陶しいですね! そんなのは要らないとリリずっと言ってたじゃないですか! リリはもう清い体に戻ったんです! ギルドにお金を払ったお陰で!」

 

泣きながら縋り付くようにリリルカの脚に引っ付いてくる団長と主神、その悍ましくもシュールな光景に団長の秘書役である少年はアチャーと天を仰いだ。

 

先程までのしんみりとした雰囲気は何だったのか、もうなんだか色々と台無しである。

 

「自分だけ楽になって、私知ってるんだからね! 自分の負債の払拭の為に自分のドロップアイテムまで市場に売りに出したって! お陰で都市の業者の一部の人達から時折凄い目で見られてるんだからね!」

 

「何ですか、またリリルカに罰金を支払えって言うんですか!?」

 

「要らねぇぇんだよぉぉぉっ! もう金なんて要らねぇんだよぉぉぉぉ!! 何だよ幾ら使っても減らない金って!? アポロン・ファミリアから誘われてた謀りを断った代わりに多額の金を払ったのに2割も減らないってどういう事ぉぉぉ!? て言うかお前が市場にあのドロップアイテムを売った事によって更にお金が増えたんですけどぉぉぉ!?」

 

ソーマ・ファミリアは現在、嘗てない資金に恵まれている。それはもう団員全員が生涯遊び倒しても使いきれない資金がソーマ・ファミリアの地下に眠っている。以前ある仮面の男と深層50~58階層の連続タイムアタックというふざけた蛮行の所為で、団の懐事情は嘘の様に潤っている。いや、潤い過ぎて沈没しそうですらある。

 

ならば使えばいい。死ぬほど使って豪遊すればいいと誰もが思うだろう。しかしここは迷宮都市オラリオ、世界の中心とも言われる場所で、物価の流通や金の流れをどこよりも先に感知できる場所である。

 

ほんの少し前まで中小派閥でしかなかったファミリアが、団員のレベルは勿論金銭事情まで別となっていると知られたら、ギルドの追求は勿論他の派閥からの追求も逃れられないだろう。仮に罰金(ペナルティ)として蓄えの全てを支払ったとしても、噂を聞き付けたあの仮面の魔人がきっと再びやって来るのだ。

 

『大丈夫ですか? 良ければもう一度私の依頼を受けてみませんか? 今度はそうですね………一気に70階層辺りまで行ってみましょうか?』

 

「逝きたくないよぉぉぉっ! 私はまだ生きていたいよぉぉぉっ!!」

 

「良い大人が号泣しないでくださいよ! て言うかアンタそんな人間じゃなかったでしょ!? あぁもう! 脚に鼻水を着けないでください!」

 

仮に全ての金を支払っても、ソーマ・ファミリアにはまだドロップアイテムが残されている。しかも此方も金銭同様凄まじい数を誇り、鍛冶師が見たら仰天して飛び付く程の品が本拠地の地下(二階)に眠っている。

 

しかも中にはこれまでギルドの報告にすら上がっていない希少なモノがゴッソリあったりする。何だよ崩壊竜の天鱗って? 何ですか極翔竜の宝玉って? なんで強竜(カドモス)の体液が虹色に光ってんの? え? 滅多に拝めないレアアイテム? いらねぇよバカ野郎。

 

もしこれ等の品が表に知られればどうなるか……その事を恐れたソーマ・ファミリアの団長とその主神はずっとその事で頭を悩まし続けていた。

 

だからせめて、せめてその数を少なくしようと派閥から脱退するリリルカにレアなドロップアイテムを渡そうとした。後はどうにでも好きにして良いから、何なら捨ててもいいからと、懇願染みた言葉を添えて。

 

「立つ鳥跡を濁さずって言葉を知らないんですか!?」

 

「濁していけよぉぉ! 濁していけよぉぉ!!」

 

以前、その仮面の男を誑し込めようとソーマの酒を呑ませた事があった。神々すら魅了するソーマの神酒の完成品を、団員達が求めて止まない一度飲めば中毒必須のソーマを仮面の男に渡した事がある。

 

そんな人間にとっては毒でしかない神の酒を、この男は“普通”で済ませてしまったのだ。仮面の奥から垣間見た正気の保った奴の眼を見て、ザニスがはこの時心の根っこからポッキリ折れてしまった。

 

以降、ザニス及びソーマ・ファミリアは仮面の男の言葉に逆らえないでいる。ソーマの神酒を呑んでおいて普通で済ませる化け物に、どうして抗えるのだろうか。今後も増える心労を少しでも減らす為、彼等はリリルカに縋り付いてみせた。

 

そんな彼等の懇願に遂に折れてしまったリリルカは渡されたアイテムの半分を受け取る事で納得してもらい、無事ソーマ・ファミリアから脱退した。

 

外では既に自分を待っていた仲間達がいる。恐らく中で騒動が聞こえていたのか、その表情は困惑で満ちていた。

 

「お、おい。大丈夫なのかリリ助、なんか凄い騒ぎだったけど?」

 

「大丈夫です。問題ありません。さ、リリ達も急ぎましょう」

 

「お、おう」

 

達観した顔のリリルカに突っ込む事を止めたヴェルフは、先行く彼女を追ってベルの元へ急ぐのだった。

 

Lv3。リリルカ=アーデ、出陣。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

晴天、見惚れるほどの大空と目映いまでの太陽が照らす天の下で、太陽神アポロンは手にした赤ワインを片手に悦に入った笑みを浮かべている。

 

彼の眼下に広がるのは広大な草原、その向こうには自分が今いる場所と同じ古城がひっそりと建っている。これから始まる戦争遊戯、そこで行われる蹂躙劇を脳裏に浮かび、自身の決まった未来に笑いを堪えるので必死だった。

 

「戦力は圧倒的、数も質もヘスティアの所とは段違い。加えて此方にはソーマ・ファミリアから徴収した資金によって魔剣も団員全員に装備させている。最早、この戦いは始まる前から終わっているな。ウラノスには感謝しておくか」

 

月桂樹の冠を弄りながら、愉悦にそう溢すアポロン。何故あの大神が神会に介入したのかは知らないが、あの神が殲滅戦を提案したのとロキが口出しをしなかったお陰で、全ては自分の望む……いや、それ以上の展開となった、

 

ただ一つ我が儘を言うのならば、向こう側にアポロンのもう一つの狙いである彼がいないこと。まぁ神の恩恵を受けていないことを考えれば此処に来れないのは仕方の無い話ではあるが、それでも自身の眷族達を相手に何処まで戦えるか見てみたかったので、残念と言えば残念な話だ。

 

更に言えば、ベルを追い詰めるついでに彼の家を燃やしたのも悪手だった。お陰で彼の現在の所在は未だ掴めておらず、彼の下へ直接赴く事が出来なくなってしまった。

 

(けれど、それも案外悪く無いのかもしれん。家を失い途方にくれた所へ私が慈悲の手を差し伸べれば、案外コロッと落ちるかもしれんしな)

 

そんな未来を幻視して、アポロンは頬笑む。側に控えているヒュアキントスから、もうじき戦争遊戯が始まるという報告を受けて、かの神の昂りは頂点に達しようとしていた。

 

「あぁ、もうすぐだ。もうすぐあの光景が手に入る」

 

思い浮かべるのはあの日、ベルとシュウジが特訓をしていた時の事、偶々朝の散歩に出掛けていたアポロンが偶然目にした眩しい光景。

 

太陽を背に特訓する二人、その憧憬に手を伸ばし。

 

「あぁ、私もそこに混ぜておくれ」

 

もうじき手に入るその光景にアポロンは恍惚としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、僕達の為に……来てくれて、ありがとう」

 

今日の為に派閥を抜けてまで駆け付けてくれた戦友達にベルは今一度深々と頭を下げた。

 

「よせよベル、俺達はもう仲間だ。同じパーティーで同じ死線を潜り、そして生き残った戦友(ダチ)だ。ダチ相手に頭を下げるなんて、無粋な真似は止しておこうぜ」

 

「ヴェルフ殿のいう通りです。この一年限りではありますが、私もヘスティア・ファミリアの一員、それに何よりあなたには以前お世話になった恩がある。その恩を少しでも返せるのであれば、私はいつでもあなた方の側に馳せ参じます」

 

「私も、18階層であなたが見せた勇気に報いる為に此処に来ました。故に、貴方が頭を下げる必要はありません。貴方は胸を張って貴方が成すべき事を果たしなさい」

 

「ヴェルフ、命さん、リューさん……」

 

今日の為に駆け付けてくれた戦友達、立場もレベルも派閥も越えて、ベル=クラネルただ一人の為に集まってくれた彼等、これまでの繋がりは決して無駄ではないと知ったベルは、目頭が熱くなるのを覚えた。

 

「ベル様、リリはベル様に謝らなければなりません」

 

「リリ?」

 

「リリは嘘をついていました。自分の我が身可愛さにベル様にレベルを偽り続けてきました」

 

ある人物のお陰(?)でリリルカ=アーデは長い間Lv1から一気に3へと成長させている。本来ならサポーターとしてでなく、ベルと一緒にダンジョンに挑むべきだった。そうしていれば、ミノタウロスを相手に二人で協力して戦うことも出来た筈なのに……。

 

自責の念に駆られるリリの肩に手を置き、ベルはゆっくりと首を横に振る。

 

「リリ、それは違うよ。あの時、君が庇って僕を助けてくれた。ミノタウロスに怯えて動けなかった僕を君が身を呈して守ってくれた。君を死なせたくないから戦えた。君がいたから僕はあの時冒険出来た。君にも色々あったかもしれない、けれどあの日あの時、僕がミノタウロスに立ち向かえて打ち勝てたのは、間違いなく君のお陰なんだ」

 

「ベル様……」

 

「だから、改めてお願いするよ。リリの………いや、皆の力を僕と神様に貸して欲しい」

 

真っ直ぐに。今度は頭を下げず、共に戦う仲間としてベルは皆に頼んだ。力を貸してくれと。そんな彼の言葉にヴェルフ達は即答で応えた。当然だと。

 

場の空気が暖まってきた。圧倒的戦力差にも関わらず、ヘスティア・ファミリアの陣営の士気は高まりつつあった。負けない、勝って見せると、そう意気込む彼等の前に。

 

「遅くなって申し訳ありません」

 

そいつは現れた。

 

「あ、貴方は?」

 

「こんにちは、そして初めまして ベル=クラネル君。私の名前は蒼のカリスマ、我が盟友であるシュウジ=シラカワの頼みにより、本日は今回の戦争遊戯に参加すべく参上致しました」

 

「あ、貴方がシュウジさんの言っていた! は、初めまして、ベル=クラネルです。今日は宜しくお願いします!」

 

いつそこにいたのか、どこから現れたのか、その一切が認識出来ない内に現れた仮面の男にベル達は戸惑いを隠せずにいる。

 

助っ人がもう一人来ることはベルから聞いていた。戦友であるベルが信頼する人物の紹介だから然程心配はしていないが、素性を明かさない仮面の男にヴェルフは少し不安を覚えた。

 

左を見ればリューと呼ばれる女性が酷く狼狽した様子で目を見開いている。命もヴェルフと同じで、素性を明かさない仮面の男に少しばかり露骨に訝しんでいる。

 

そして右にいるリリルカ=アーデを見れば。

 

「お、おいリリ助、お前どうしたんだよ」

 

光を失った目で乾いた笑みを浮かべるリリルカがいた。

 

それぞれの反応を見せているベル=クラネルのパーティーメンバー、彼等の様子を一瞥した蒼のカリスマは、背後にいるアポロン・ファミリアの軍勢を見やると、今度は空を仰ぎ見て。

 

「空は快晴、風も心地よくまさに絶好の戦争日和───さぁ」

 

もう間もなく戦争は始まる。どちらか一方が殲滅されるまで続くオラリオ最大の見せ場が。

 

恐怖劇(Grand Guignol)を始めよう」

 

この日、一つの派閥の命運が決まった。

 

 

 

 

 




今回の戦争遊戯は作者のオリジナルとなっております。
突っ込み処満載ではありますが、どうか生暖かい目で見守ってください。

それでは次回もまた見てボッチノシ




オマケ。

戦争遊戯観戦中のソーマ・ファミリア。

「リリルカの奴、大丈夫かな」

「アポロン・ファミリアの連中、俺達の所から取った金で魔剣を揃えたみたいだぞ」

「そ、それじゃあヘスティア・ファミリアが負けたら俺達の所為?」

「な、何てこった」

「落ち着け、そん時は今度は俺らがアポロン・ファミリアに喧嘩を売れば良い!」

「そ、そうだよな!」

「あの娘には散々酷いことしちまったし、それくらいはしてやらないとな!」


蒼のカリスマ登場後。

「さーて、メシだメシ」

「お前今日どこ行く?」

「取り敢えず豊穣の所」

「俺風呂入ってくるわー」

「おーい、待ってくれよー」


以上、アットホームなソーマ・ファミリアからでした(笑)

PS

Q.どうしてウラノスは今回の戦争遊戯に介入してきたの?

A.マッチとポンプ、二つ合わせて?


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