────迷宮都市オラリオ、北西のメインストリート周辺に建てられた白亜の
《ギルド》。長年続くオラリオの歴史の中でも最も健在し続ける迷宮都市唯一の施設、その最奥にてダンジョンを鎮める為の祈祷を捧げ続け、決して其処から動かない大神が座していた。
ウラノス。ギルドの創設者にして世界の行く末を見守る者、荘厳にして寡黙な老人はある出来事の顛末に付いて頭を悩ませていた。
「そしてフェルズ、アポロン・ファミリアの
大神のその言葉に呼応するかのように暗闇の中から影が生まれる。全身を黒で覆い、顔も見えず幽鬼の如く佇むその者は、ウラノスの質問にため息混じりで答えた。
「一先ず、生き残っていた者達は全員それぞれ他の
「そうか」
フェルズと呼ばれる影の主の言葉に大神ウラノスは天を仰いで目を瞑る。それは何処となく安堵している様で、その顔も少し嬉しそうにも見えた。
思い返すのは先日行われた女神ヘスティアと男神アポロンの
しかし、そんな結末を彼の【魔なる者】は許さなかった。彼のアポロン・ファミリアから受けた仕打ちの事を考えれば、その怒りは当然とも言えた。
だが、それでも彼はやり過ぎた。彼が放った大魔法により迷宮都市全体に決して小さくはない被害が出たし、住んでいる人々にも不安を与えてしまっている。表面上こそは平然としているが、現在のオラリオはちょっとした恐慌状態。なにせ普段は新しいものや珍しいモノにはとことん耐性が無い神々が恐れ慄いているのだ。住民達が不安に思うのも無理はない。
そこまで神々が彼の【魔なる者】に恐れる理由、それは先程も述べた件の大魔法にあり、彼が放った黒い球体に呑み込まれたアポロンとその眷族達は未だにその身柄を確認されてはいない。アポロンに至っては天界にもその存在を確認出来ていなかった。
地上にも天界にも神の姿はいない。地上で死ねば天界に強制送還される神が、戻る事なくその姿を消されてしまっている。そこに彼と眷族の契りを結んだ他に生き残った眷族達からアポロンの契約が消えていた事もあって神々の【魔なる者】に対する恐怖はより深く刻み込まれてしまった。
彼を怒らせてしまえば神ですら消滅させてしまう。アポロンの眷族から解放された人間達が存在している事実に余計にその恐怖が煽られ、中小規模の派閥は震え上がってしまっている。それでも中にはどうにか彼と接触しようとする動きを見せる派閥があり、ウラノスは連中が再び彼の逆鱗に触れないことを祈るばかりである。
「しかし、良いのかウラノス。今回の騒動の件の所為で我々と彼との繋がりを疑う者達が出てくるかもしれないぞ」
「それは当然だろうし、その時は正直に全てを話すだけだ」
自分達と蒼のカリスマの関係性、戦争遊戯への介入と蒼のカリスマの暴れっぷりにより当然疑う者達は出てくるだろうし、ヘルメスやロキといった知謀に長ける神々が直接ここへ乗り込んで話を聞きに来るだろう。そうなれば全てを話して納得して貰うだけだと、ウラノスは肩を竦めて口にする。
というより、これは蒼のカリスマからの提案でもある。自分とウラノス達の関係を疑問に思う者がいれば、正直に全てを話すといいと、彼本人から言われているのだ。
要するに、彼からすれば自分達は戦争遊戯で太陽神アポロンを直接屠る為の舞台を整える。ただそれだけの為に利用されたのだ。しかもそれで自らの素性が明らかになってもいいという、己の身の安全に無頓着なのではない、 仮に素性がバレて明らかになっても、彼にとってはそんな事己の危機たり得ないのだ。
そして神を、それも大神を利用せんとする豪胆さ、あれだけの猛者がどうして今まで表に出てこなかったのか、幾ら思考を巡らせても答えは一考に出てこない。
「それに、本当に彼を信用してもいいのか? 彼が卓越した魔法の使い手なのは分かった。その実力が確かなのも最早疑うまい、だが、それでも………」
「フェルズ、お前が不安に思うのも分かる。だが、今は彼を信じるしかない」
黒衣の魔術師、フェルズの声色が小さくなる。彼の【魔なる者】の実力は理解した。いや、知ってしまった故に、その危険性に不安を覚えてしまう。そして大神ウラノスもそんなフェルズと同じ心境だったのは言うまでもない。
────思い出す。彼が初めてここへ来たときの事を。
『………何者だ?』
『初めまして、大神ウラノス。私は蒼のカリスマと名乗る者、実は貴方に一つ聞きたい事があって伺わせて戴きました』
『────何だ?』
『20階層に潜む言葉を話すモンスターの群れ……いや、村かな? アレは迷宮攻略に於いて無視しても良いモノと見なしてもいいのか、一応確認しておきたくて』
『!?!?』
『どうやらその反応だと、私の判断は間違っていなかった様ですね。─────あっぶね、危うく他のモンスターみたいにやらかす所だった』
あー良かった。と、態とらしく安堵する彼の仮面の男、それ以降彼とは一応対等な協力者として接しているが、果たして自分達の関係は上手く行っているのか、彼等の話をするに当たって蒼のカリスマは自らの素性を自分達にだけ明かしているが、それが交渉材料になるのかは今となっては微妙な所である。
とは言え、彼が表面上でも自分達に協力してくれる以上無下に扱う事は出来ない。今は兎に角情勢を見守りつつ、適当にあしらうしかないだろう。………それが出来るかどうかは別にして。
「それでフェルズ、今彼は何処にいる?」
「確か、今はメレンの港街で観光している筈だ」
「ここ最近アレスの所の国が動きを見せているというのに、呑気な男だ」
いや、そもそも彼にはあの国の事など歯牙にも掛けないか、そう思いため息吐くウラノスだがその時黒衣の魔術師の袖に白い紙が張り付いていた事に気付く。
「フェルズ、それはどうした?」
「え?」
ウラノスの指摘に狼狽えながら張り付いていた紙を取ると、そこに書かれていたモノにフェルズは絶句する。
どうしたと訊ねるウラノス、するとフェルズは何も言わず紙を手渡し、大神は不思議に思いながらその紙を摘み、そこに
《私の事を気に掛ける気持ちは分からなくは無いですが、監視も程ほどにしてくださいね》
やはり、大神も言葉を失うのだった。
「………組んで、大丈夫だったのかなぁ」
何だか取り返しのつかない事をしている気がすると今更ながら後悔するウラノスだった。
◇
迷宮都市、オラリオの港街《メレン》。喧騒から離れた街の路地裏で複数の冒険者がたった一人のアマゾネスによって蹂躙されていた。
「あ、う……ぐ」
「レフィーヤを、放……せ」
「ほほう? 中々頑張るのう。幾ら加減をしているとは言えバーチェはLv6、こやつの攻撃に耐えるとは流石はロキ・ファミリアの眷族達じゃ」
叩きのめされ、それでも仲間を助け出そうと気概を見せるロキ・ファミリアの面々に女神カーリーはカラカラと愉快そうに笑みを浮かべる。
「しかし、そろそろお暇しないとロキに気付かれるやもしれん。早急に終わらせるとしよう───バーチェ」
己の主神の命令に従い、意識を断とうとアマゾネスは動き出す。レフィーヤという人質を抱えながらも尚ぶれない体幹、そして無駄のない動きに満身創痍の彼女達がそれに抗える筈もなく。
「っ!」
「なんじゃと?」
───故に、カーリーとバーチェは目の前の人物に目を見開いていた。先程まで影も形もなかった全く見知らぬ紫髪の青年、気配も感知させず、なのにバーチェの前に立ち、彼女の拳を受け止めていた事に、一人と一柱は一瞬呆けてしまった。
「やれやれ、賑かな街なのは此処へ来て知っていたつもりだけど、まさか冒険者同士で喧嘩とか、これもメレンの風物詩なのか?」
何処か呆れた様子の青年、加減したとはいえLv6のバーチェの攻撃を受け止めた男に、バーチェは言いし難い危機感に掻き立てられ慌てて飛び退いて主神の隣まで引き下がった。
普段は寡黙なバーチェが呼吸を荒くして大粒の冷や汗を流している。アマゾネスの本能が目の前の男の何かに触れたのか、気になったカーリーは興味本意で男性に訊ねる。
「お主、何者じゃ?」
「シュウジ=シラカワ、何処にでもいるただの観光客だ」
あっけらかんと、それでいて堂々と言ってのけるシュウジにカーリーは俄然興味が湧くのだった。
現在、閃の軌跡4をプレイ中。まださわり程度ですがボッチが介入したらどうなるか、妄想しながら進めております。
クロウ君とか、割りと絡んでそう。貧乏くじ同盟的な意味で。(笑)
それでは次回もまた見てボッチノシ