『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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済まない、話が進まなくて済まない。

そして日記成分が少なくて済まない。



チェイテ城ピラミッド天守閣攻略に夢中になって済まない。


その14

 

 

 

「なんや………これは?」

 

港街メレン、人の活気に溢れた街の裏路地で騒ぎを聞き付けてやって来たロキ・ファミリアの主神ロキは、同じく騒ぎを聞き付けた神ニョルズとその眷族達と共にその場所へ駆け付けたのだが、目の前の光景に一瞬呆けてしまっていた。

 

傷だらけの姿で横たわる己の眷族(子供)達、痛みに魘され呻き声を上げる彼女達にロキの内側から沸々と怒りの感情が沸き上がってくる。天界にいた頃には悪神と畏れられてきた女神、彼女の怒りを目の当たりにしたニョルズは笑みを浮かべながら殺意に満ちたロキの顔に悪寒を覚える。

 

しかし、そんな彼女の怒りも次の瞬間には鳴りを潜める。鎮めたのではなく一旦保留することにしたロキは自身の眷族達を甲斐甲斐しく介抱してくれている青年に話を聞くべく歩み寄っていく。

 

「すまん、ちょっとええか? ウチはこの子達の()をやっているロキっちゅうモンやけど……」

 

「悪いけど少し待ってて貰えるか? 今少し手が離せないんだ」

 

「お、おう。邪魔してすまんな」

 

視線を此方に向ける事もせず、せっせと怪我をしている冒険者へ的確に包帯を巻いていく。その手際は実に鮮やかでその熟れた手腕から何処かの医療系派閥(ファミリア)の子かなとロキは訝しむが、目の前の青年はロキにも見覚えがなかった。大手の医療系派閥にいたことも記憶に無かった。

 

「よし、一先ずこれで痛みは引いていく筈だ。後は暫く安静にしていれば無事に完治するだろう。それで、この場合どちらのファミリアに預ければいいんだ?」

 

「ん、それならニョルズ、一旦この子らをアンタの所の眷族(子供達)に任せてもええか? ウチはまだこの辺の土地勘が無いさかい、頼まれて欲しいんやけど」

 

「あぁ、その程度なら問題ない、彼女達はお前が仮拠点にしている宿屋まで運んでおこう。ついでだ、その時に事のあらましを俺の方からしておくよ」

 

「頼む」

 

ロキの頼みをこころよく引き受けたニョルズは眷族達に指示を飛ばし、横たわるロキの眷族達を丁寧に運び出していく。彼等の手際の良さにも感心しながら、ロキは目の前の青年に向き直る。

 

「さて、これで漸く話しやすくなったか。話を聞く前に一つ言わせてくれ、ウチの眷族達を介抱してくれてありがとな」

 

「そんな礼を言われる程の事じゃないさ、俺も偶々近くを通り掛かっただけだし、………一人、助けられなかった娘がいる」

 

「………」

 

青年の最後の言葉にロキも顔を俯かせる。ここに倒れていた者は今朝方ロキの指示に従い街の調査に出ていた者達だ。そしてその人数の中に一人欠けた者がいる。

 

「レフィーヤ……か」

 

「もしかして、それはエルフの?」

 

青年の言葉にロキは頷く。レフィーヤはロキ・ファミリアの中でもリヴェリアに次ぐ魔法の使い手だ。彼女という可愛い眷族が拐われた事実にロキの内側から再びマグマの如く怒りと殺意が溢れ出る。

 

「あんのクソチビィ、ウチに喧嘩売りよったな」

 

しかし、それも直ぐ様呑み込んでいつも通りの剽軽な態度に変わる。どんなに怒りに震えても今は目の前の恩人から少しでも話を聞く事の方が重要だ。平静を装いながらロキは青年に頭を下げる。

 

「と、済まんな。恩人の前に不躾な真似をしてしまった。この通り堪忍してや」

 

「気にしなくてもいいさ、……それに、申し訳ないのはこちらの方だ。本来なら彼女も取り返したい所だったが、下手に動けば彼女達も巻き込みかねなかったからな」

 

そう言って、青年はその時の出来事の詳細を語った。青年が騒ぎを聞き付けてやって来た頃には既にレフィーヤは気絶し他の眷族達も叩きのめされた後だと言う。レフィーヤを回収しようにも動けない者達を放っておけないし、相手側のアマゾネスも相当な使い手な以上迂闊な真似は出来ない。

 

故に、青年は無傷のレフィーヤよりも外傷の酷い他の冒険者達の安全を優先し、アマゾネス達を見逃す事になった。後で必ず助け出すつもりでいても見捨てる形となってしまった事実に青年は頭を下げてロキに詫びる。

 

「悪い、アンタの所の眷族。助けてやれなかった」

 

「いいっていいって、それこそアンタが気にする事やない。アンタはウチの子達を助けてくれた。色々聞きたい事はあるけれども、アンタのした事は間違ってない。感謝こそしても責めるなんてありえへんよ。だから頭上げてーな」

 

「……そうか」

 

レフィーヤを一撃で気絶させたというアマゾネス、恐らくは最近Lv6になったという姉妹の片割れだろう。ならばレフィーヤ達が束になっても敵わないのは仕方がない事、それは別に良いし、青年が下した選択も間違ってはいない。寧ろ、ワザワザその場に留まって眷族達の介抱もしてくれたのだから、青年にとやかく責める資格はないだろ。

 

だがそれ以上に気になるのは目の前の青年の口振りはまるでそのアマゾネスを単純な戦闘力では上回っているという事、そして何より驚くべき事なのはこの青年の言っている事が全て嘘ではない(・・・・・)という事だ。

 

目の前の青年の事などロキの記憶には存在しなかった。それだけの強さを持っている冒険者がいれば即座に迷宮都市を通して世界中に知れ渡るだろうし、実際にオラリオの外から来たアマゾネス姉妹の情報も比較的早く手に入れる事ができた。

 

なのに、目の前の青年の情報なんてロキの記憶の何処にも無かった。最近彼女の記憶に刻まれたのは先日大暴れした彼の【魔なる者】くらい………。

 

「……しかし、少し意外だな」

 

「ん? 何がや?」

 

「アンタ、天界にいた頃は悪神なんて言われてたんだろ? 暇さえあれば神々を殺し合わせるとか、そんなおっかない神がまさかそこまで眷族に入れ込むなんてな」

 

「う、自分ヒト()の黒歴史をさらっと抉りよってからに」

 

思考の海に浸っていたロキだったが、青年の溢した大昔の黒歴史により半ば強制的に意識を浮上されてしまう。

 

「まぁ、確かにあの頃のウチから見れば想像出来ないやろなぁ。でも、今はこんな生活でもウチは結構気にいってるんや。下界に住む子供達が、可能性に溢れた子供達の営みが、側で眺めるのが今のウチの楽しみや」

 

「……子供、か。確かに、永久不滅な神々からしたら人間の命なんて一瞬の輝きみたいなものだろ。けどアンタ、分かっているのか? 子供は何れ親から離れるものだ。自立し、親である神々(お前ら)もいずれは必要とされなくなる。それでも───」

 

「それでも、や。ウチはそんな子供達が可愛くて仕方ないんや」

 

「…………」

 

両手を頭の上で組んで笑うロキに青年は押し黙る。上辺だけの言葉ではない、ロキ・ファミリアの主神である目の前の神は喩えいつか自分達が必要とされなくとも、それを受け入れる覚悟があった。

 

「………やっぱ、神と人は似てるんだな」

 

「ん?」

 

「いや、何でもない。……さて、それじゃあ俺は行くよ。元々此処へは観光巡りに来ただけだしな。いい加減家の資材を調達しなくちゃいけないし」

 

「あ、その前にアンタの名前教えて貰うてもええかな? 次いつ会えるか分からんし、せめて名前だけでも知っておきたいんや」

 

「シュウジ、シュウジ=シラカワ。乗り掛かった船だ、あのレフィーヤとかいうエルフのお嬢さんは俺が責任もって助け出すよ」

 

「…………なんやて?」

 

踵を返し路地裏の奥へ歩き出す背中、その名前にロキには覚えがあった。それは以前、ヘファイストス・ファミリアが経営する本店でその主神である彼女から聞いたモノ………。

 

「自分、まさか……!」

 

「ロキ、何かあったの?」

 

「あ、アイズたん」

 

背後を見ればいつの間にか人垣が出来ており、その中からロキ・ファミリア最強の剣士であるアイズが現れる。自分の中でも指折りのお気に入りの登場に一瞬だけ意識が青年から外れてしまう。

 

すぐに視線を前に戻すも、既に青年の姿はそこにはなかった。シュウジ=シラカワ、その名前を再び耳にしたロキはその頭脳をフル稼働させ、次々とこれまで迷宮都市で起きた出来事を重ね合わせていき、そして一つの仮説へと辿り着く。

 

最近話題騒然となっている【魔なる者】蒼のカリスマ、そして自分の眷族を助けてくれたシュウジ=シラカワ。

 

仮説だけの話だ。推測で、憶測で、確証のない話。しかしロキにはこの二人が全くの無関係だとはどうしても思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国家系派閥(ファミリア)、テルスキュラ。主神を女神カーリーとした国家系の派閥が利用する仮拠点。

 

その最奥で女神は頬笑む。もうじき自身が望む闘争、二つの姉妹が起こす殺し合いが見れる事に彼女は嬉しくて堪らなかった。

 

二つの姉妹が互いの生存を賭けて殺し合う。その果てに何があるのか、神を以てしても分からぬ未知の結末に女神は手にした葡萄酒を片手に悦に浸る。

 

「しかし、あの若造も相当のモノだったな。バーチェを相手にまるでモノともしないとは。いやはや、迷宮都市とは恐ろしいな」

 

恐ろしいと言っておきながら女神の口許は笑みで弛んでいる。闘争と殺戮を愛する彼女からすれば強者は須らく尊ぶモノであり愛でるもの、かの女神にとってシュウジとは脅威ではなく次のアマゾネスの種となる存在でしかなかった。

 

「バーチェ、少しは落ち着け」

 

しかし、そんなカーリーも目の前でウロウロしているアマゾネスにいい加減うんざりしたのか、その表情を曇らせる。

 

「でも、でもカーリー、私、落ち着かない。あの男と会ってから胸がドキドキする。こんなの、初めて、だから……」

 

拙い共通語(コイネー)でどうすればいいのかと呻くアマゾネスにカーリーは悪戯に笑みを浮かべる。

 

「バーチェ、それは恐らく恋という奴じゃ」

 

「────コイ?」

 

「そう、強い雌がより強い雄に惹かれるのは自然の摂理、おめでとうバーチェ。主は漸く主が求める伴侶を見付けたのだ」

 

コイ、恋。カーリーに指摘されたバーチェは件の男性を思い出す。突然自分の目の前に現れ、自分の攻撃を難なく受け止めた紫髪の彼を。

 

騒ぎを聞き付けてロキ・ファミリアの面々が現れるまでの間に行われた彼との攻防、自分の攻撃を全て躱す彼の動きはまるで舞踊の様だった。

 

そう、自分は奪われたのだ。あの光景に、あの男性に、視線が、心が、想いが、その全てが奪われてしまったのだ。

 

「シュウジ=シラカワ、シュウジ、シュウジ……!」

 

何度も名前を呼び、はにかむ笑顔を浮かべるバーチェ。果たして彼女はこの恋を成就させる事が出来るのだろうか?

 

 

 

 

 

「なんだ!? 急に悪寒が……!?」

 

 

 

 




Q.ボッチはロキの事どう思っているの?

A.ヒントつ彼は一言もロキを女神と呼んではおりません。



それでは次回もまた見てボッチノシ

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