『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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さぁ、SANチェックの時間だよー。(白目


その17

 

 

───捕捉した二隻の船に向かってロキ・ファミリアの団長であるフィンと幹部であるベートが駆ける。道中カーリー・ファミリアのアマゾネスがロキ達を行かせんと立ち塞がり、特殊な術によって強化された者によって手こずらされたがそこは迷宮都市オラリオを代表するダンジョン(迷宮)攻略最大派閥。

 

卓越した技と力でカーリーが差し向けてきた眷族達を悉く退けてきた彼等は、遂にヒリュテ姉妹がいるであろう二隻の船を捉える事に成功した。

 

「全く、あの姉妹にも困ったモノだ」

 

「これで例のアマゾネス共に殺られていたら指差して笑ってやる」

 

ベートの乱暴な物言いは聞き流し、フィンは遂に二隻の船を自分の手が届く範囲まで補足する事に成功する。ここまで近付けば一度の跳躍で船へと辿り着く筈、脚に力を込めてフィンが船へと跳躍しようとした時───。

 

「何だ………あれは?」

 

二つある船の内、片割れの方から巨大な腕が天に向かって突き出ている。唐突に現れたその腕にメレンの港街は騒然となり、ソレを目にした者は呆然と見上げている。

 

あまりにも突飛、あまりにも唐突過ぎる事態に流石のフィンの思考も一瞬だけ停止する。しかしそれも次の瞬間には我に返り、呆けている場合ではないと隣で同じく茫然自失となっていたベートを叱咤する。

 

一体彼処で何が起きているのか、ティオネとティオナ、そしてレフィーヤは無事なのか、冷静を装いながらも戸惑いを隠せないフィンは三人の無事を祈りながら再び駆け出そうとする。

 

「あ、フィン!」

 

「ティオナ!? ティオネ、レフィーヤも無事だったのか!?」

 

フィン達が駆け出そうとする直前で聞き慣れた声がストップを掛ける。振り向けばズタボロのティオネ達に治癒を施しているレフィーヤとティオナの姿があった。言いたい事も聞きたい事も多々あったが、取り敢えずは大事ない仲間達を前にフィンはホッと安堵する。

 

ティオナ達の下へ駆け寄る二人、其処にはティオナ達だけでなくヒリュテ姉妹と死闘を演じたバーチェとアルガナの姿もあった。

 

「で? なんでカーリーの所のアマゾネスもいやがるんだ? お前ら殺り合ってたんだろ?」

 

敵対派閥のエースが揃って地に伏している。状況から見るに二人とも倒した後だと察するが、それでもベートは違和感が拭えなかった。ヒリュテ姉妹が死闘を演じていたのは分かる、レフィーヤを連れて脱出したというなら彼女達が此処にいるのも理解できる。

 

なら、何故敵対派閥の二人までもが一緒にいるのだろうか? 片方が血塗れで倒れているのに対し、もう片方の妹が傷一つ無いのもおかしく見える。よく分からない状況、ティオナ達も困惑しているのかベートの質問に何て答えればいいのか図りかねている。

 

そんな時だ。船の方角から周囲を圧倒する超越存在の気配が爆発的に膨れ上がった。

 

「ぐっ、これは……!?」

 

「これってまさか、カーリーの“神威”(アルカナム)!?」

 

それはあらゆる事象の具現化とされる超越存在、神が放つ“畏れ”だった。この世界において絶対的な力、天界における神の力が発動したことにフィン達を含めたメレンの人々は畏怖を抱く。

 

一体、あの船で何が起きているのか。フィンはそんな興味を抱き事すれ、そこへ近付こうとは思わなかった。彼処へ、あの船の所へ行けば取り返しの付かない事態に巻き込まれる気がしたから、何より。

 

フィンの虫の報せを告げる親指が、この事態を前に何の反応も示さないでいる(・・・・・・・・・・・・)のが何よりも恐ろしく思えるのだ。

 

ベートも動けない。目の前の絶対的不変な力が脈動している事に本能的に理解した彼は、目を見開かせて犬歯を剥き出しにして唸る事しか出来ない。何者も侵せぬ領域、今メレンの港街では誰も介入できない空間が出来上がっていた。

 

そして次の瞬間、腕だけだったソレは全貌を明らかにする。巨大、ゴライアスやダンジョンに跋扈するかの魔物達とは明らかに違うその存在にオラリオは再び戦慄を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様は、貴様は一体何者なんじゃ!?」

 

穿たれた空間、其所から現れる巨大な手に捕まり身動きを完全に封じられたカーリーは船の甲板の上で佇むシュウジに声を荒げて問う。

 

自分を掴んで離さない巨大な手、強固にして強大なその力を前に力を封じられたカーリー、神の一柱である彼女から見てもシュウジという男は異質だった。

 

何故ただの人の子でしかない奴がこれ程の力を従えている。神という超越存在(デウスデア)を前にしても全く媚びず揺るがないシュウジに当初カーリーは度胸のある若者程度にしか認識していなかった。

 

それが今ではカーリーの目には正体不明の怪物にしか見えないでいる。何故これ程の怪物を今まで神々は気付けなかったのか、分からない事だらけで混乱するカーリー。そんな女神を嘲笑うかの様にシュウジという男は口角を吊り上げて不敵に笑う。

 

「お前達神々は娯楽、ひいては未知を楽しむんだろう? 教えるのも吝かではないが、それでは少々物足りないのではないかな?」

 

それはこれ迄庇護の対象だった筈の子供からの明確な挑発だった。神という存在を理解し、熟知した上での挑発。教えてやってもいいがそれでいいのかという圧倒的上から目線、神という超越存在に対して余りにも大それた態度。

 

それは追い詰められたカーリーの琴線に触れるには充分過ぎるモノだった。

 

「な・め・る・な・よ!! 人間がぁぁぁぁっ!!」

 

追い詰められ、煽られ、その怒りを怒髪天の勢いで昂らせたカーリーは遂に禁じられた力を解放する。神の力(アルカナム)、神々が下界に降りる際に前提条件として定められる神を縛る鎖。如何なる理由を以てしても破ることを重く禁じられている絶対不可侵の掟。他の神々の許しもなくその力を解放すれば天界へ強制送還される事もあるその掟を、カーリーは怒りという感情のみで破って見せた。

 

圧倒的存在感がメレンの街に解放される。如何なる者も反発する事は許されない超越存在、それが正しく顕現された事実に港街の人々は畏怖に呑み込まれようとしていた。

 

神の力を正しく取り戻したカーリーは後の事などお構い無しにその権能を奮おうとする。最早彼女を縛るものはない。抵抗し、巨大な手から逃れようとするカーリー。

 

「無駄だ」

 

「っ!?」

 

「大人しく運命を受け入れるがいい」

 

しかし、巨人の手がより強大になりカーリーの動きを封じてみせる。顕現した神の力を上から押し潰すように強大になる。その事実にカーリーの目は驚愕に大きく見開いた。

 

穿たれた空間から巨人の全貌が明らかになる。蒼く巨大で強大な機械仕掛けの巨人、これ迄永い時の中でも未知の存在を前に、カーリーは己の奥底から………歓喜よりもさらに深い恐怖が涌き出てくるのを感じた。

 

恐怖、それは命持つものならば避けられぬ根源的感情。しかしそれは超越存在として永い時を生きる神々にとって最も遠い感情のモノ、退屈を何よりも嫌い、未知を追及してきた神々がよりによってその未知に恐怖するのは何という皮肉だろうか。

 

しかし、ソレだけではない。自身を掴んで離さない巨人の手を通して伝わってくる力の波動、それは天界にいた頃に感じた彼の大神と似ている事にカーリーは気付いた。

 

嘘だ。有り得ない。カーリーが思い浮かぶのはありったけの否定の言葉、しかし目の前の巨神から感じられる力は間違いなくあの方と比類する。

 

「貴様は、まさか……シヴァ神様に連なる者だと言うのか」

 

巨神から感じられる気はあの方───彼の破壊神に良く似ている。シヴァが地上に降りたという話は聞いていない、ならば一体この巨神は何だと言うのか。

 

そして、その巨神を使役しているこの男は何なのか。未知が恐怖となり、軈て絶望へと変異していく中でカーリーは縋る様に問い掛ける。

 

「いいや、俺の相棒は神から与えられたものじゃない。正真正銘、人の手によって生み出された存在だ」

 

「っ!?」

 

目の前の巨神が人の手によって生み出された存在だと知り、カーリーは顔を青褪めて絶句する。これが人の為せる業なのかと、もしこの男の言うことが全て真実ならば、人という種は何と業が深い生命体なのか。

 

「お前は命を、可能性を余りにも軽んじている。これまでお前が弄んできた命の分まで………報いを受けろ」

 

「あ、あぁぁ………」

 

引き摺り込まれていく。暗闇の中へ、奈落よりも尚深い深淵へ、為す術なく沈んでいく。嗚呼、どうして自分がこんな目に合わなければならないのか、こんな事になるならもっと、もっと………。

 

(戦い以外の可能性、そんなもの考えもしなかっ───)

 

懺悔の言葉もなく、カーリーは巨神と共に深淵へと消えていく。音もなく、悲鳴もなく、最初から何もなかったかのような静寂だけが包み込んで行く。

 

その後、巨神が姿を消した事を確認したフィン達が船へと突入するが、其処には誰も何もおらず、無人の空間だけがあるだけ。

 

女神カーリーの消失。その事実が後日オラリオを駆け巡り再び神々を震撼させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────其処は、流転の世界。

 

────其処は、停止の世界。

 

如何なる事象も混在し、錯綜し、伝播し、そして消滅していく世界。其処は、紛れもなく混沌の世界。根源が渦を巻く果ての世界だった。

 

全てが加速し、消滅し、そしてまた生まれていく。生と死が織り混ぜ、闘争によって彩られていく。

 

そう、其処は闘争の世界だった。カーリーが望んで止まない殺戮と闘争に満ちた闘いの世界、女神カーリーにとってこの世界こそが己の望む世界─────。

 

「なんだ………ここは?」

 

その、筈だった。

 

それは例えるなら蠱毒の壺の中、闘い、喰らい、貪り合いながらより上位の存在へと至る進化の世界。進化に見初められ、認められ、この世界へと招かれた怪物達が、来るべき戦いに備えて喰らい合う。

 

其処に果てはない。この闘争に果てはない。この殺戮に終わりはない。永遠の闘争と殺戮、それを正しく具現化した世界に女神カーリーは絶望する。

 

こんなものは闘いではない。星を薙ぎ、星雲を消し、銀河すら補食する怪物達。神も人も、そこで培ってきた文明の全てがその怪物達によって一瞬で蹂躙されていく様を目の当たりにしてカーリーの正気は徐々に失われていく。

 

中でもひときわ巨大な存在感を放つ二体の巨神がカーリーの前に現れた。黒く、禍々しい様相の鉄の魔神と進化の力を取り込んだ皇帝、二体の巨神が瞬くと星々を食い物にしてきた怪物達を一瞬にして消し飛ばしてしまう。

 

「は、ははは」

 

カーリーは理解した。否、理解してしまった(・・・・)。この世界に終わりは無い。あるのは無限の闘争のみなのだと、総てがこの二体の巨神を育てる為のモノなのだと。何故?何のために?二体の巨神が待っている運命の最果て、それをカーリーが目の当たりにした瞬間。

 

「あは、あははは、あひひひ、あへあはあはあはははははは!!」

 

彼女は自ら自我の崩壊を選択した。永遠の時を生きる女神、死ぬことも叶わずもとの世界へ戻る手立てもない彼女はこの闘争の世界を怪物に喰われ、消滅するまで特等席で眺め続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『?』

 

『ドウシタ? ゲッターノ』

 

『今、何か彼処にいなかったか?』

 

『我ハ特ニ何モ感ジナカッタガ?』

 

『そうか、まぁいい。どちらにせよ些細な事だ』

 

『フン、貴様トイイ奴トイイ、人ヲ捨テキレナイ者ハ悉く甘イナ。奴モ己ノ愛機ト一体トナレバヨリ強大ナ力ヲ得ラレルトイウノニ』

 

『まぁそう言うな。人としての器を持つというのも色々と便利なモノだぞ。それに、お前も“V”と“X”の世界を体験して改めて知った筈だろ? 人が持つ可能性というモノを』

 

『───アレハ、我ノホンノ一部。末端ノ端末デシカナイ』

 

『それでも、彼等は乗り越えて見せた。喩えお前にとっては小さな力だとしても。その価値と意味が分からない程、無知ではあるまい?』

 

『───フン、話ハ終イダ』

 

一方的に話を終わり、先行する鉄の魔神を進化の皇帝の乗り手は嘆息する。彼等の前に現れるのは無限とも呼べる怪物の軍団、星々を喰らいながらも成長を続ける怪物の成れの果て達。

 

そんな奴等を前にして乗り手の顔には獰猛な笑みが浮かんでいる。そう、自分達の闘いに終わりはない。永遠に闘争し、喰らい合い、殺し合う。進化の果ての果てへと至り、そこで待つ■■■に挑む為に。

 

彼等の闘争は今も尚、続いている。

 

 

 

 




今更ですが、本作は外伝部分に当たる為、本編のGの日記とはかけ離れた部分が多々あります。
作者である自分の妄想故のやりたい放題な実験場見たいなモノなので読者の皆様は軽い気持ちで見てくださると嬉しいです。

それでは次回もまた見てボッチノシ


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