『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回もほのぼの回です。


その15

*月γ日

 

 箒ちゃんの特訓に付き合う事になって数日、日に日に打鉄での操作技術が向上していく箒ちゃんに感心する反面、一夏君との特訓の時は落ち着きがなく、隙が多くなっている事態に日々頭を悩ませる自分がいる。

 

一夏君は悪くない。無論箒ちゃんも悪い所はない。一夏君に大怪我を追わせて、その原因となったのは自分……箒ちゃんは責任感の強い子だから、そう自分に言い聞かせて無意識に自分を追い詰めてしまっているのだろう。

 

自分も似たような経験があるのである程度共感出来るが、前にいった通り、これは本人が乗り越えなければならない事だ。

 

ともあれ、焦らず行こうと思う。簪ちゃん達専用機持ちの子達も協力的だし、織斑先生や山田先生も気に掛けてくれている。特に山田先生は自分自身の仕事で忙しいだろうに、自分が仕事をしている合間は変わって彼女達の指導をしてくれている。

 

皆も頑張っているし、箒ちゃんも必死にもがいている。今が踏ん張り所なのでどうか耐え抜いて欲しいと切実に願う。

 

 

 

*月Ω日

 

 一皮剥けた。今日の箒ちゃんの活躍を見るに当たって、まさにその言葉が適切といえた。

 

今日の訓練、相変わらず一夏君以外の相手とは良い線行っている箒ちゃんだが、やはり一夏君相手では上手く動けず、太刀筋も鈍っていた。

 

やはり刷り込まれたトラウマというモノはそう簡単に払拭出来る筈がなく、一夏君との試合も克服の意味を成さないならば別の方法を模索するしかない。夏休み中に克服するという課題は叶わなくなったが、それでも箒ちゃんの事を考えれば安全な方法を取るしかないと思われた時……彼女が現れた。

 

織斑千冬。第一回モンド・グロッソの覇者にして戦乙女(ブリュンヒルデ)の名を冠し、現在IS学園の教師を務めているその人が、訓練機である打鉄を纏いながらピットから出てきた際は……その場にいた全員が度肝を抜かれた事だと思う。

 

織斑先生が言うには箒ちゃんのトラウマを払拭させるには生半可なやり方では無理そうなので、当時の状況を作り出し、自ら殻を破るしかないとの事。

 

所謂ショック療法なのだが……正直自分は反対した。確かに織斑先生の言う事も一理あるが、それは最後の最後、もうこれ以上トラウマを克服する手段がないという段階で使われるべき手段だ。ショック療法というのは効果は高いが、同時にリスクも高い。下手をすれば新たにトラウマを植え付け兼ねない事態を引き起こしてしまう危険な賭けなのだが……このままでは箒ちゃんのトラウマがより深い部分に定着してしまう可能性があるのもまた事実。

 

そうなればIS適性値にも影響が及び、最悪の場合ISに乗る事が出来なくなってしまう。そうなれば先日日記に記した通り、各国の政府機関や裏組織の連中に狙われ、箒ちゃんの今後の人生に大きな危険をもたらしてしまう。

 

 本人達の希望もあり、自分と山田先生、それに他の教員の方達や専用機持ちの子達の協力を得て徹底的な監視の下、一夏君と箒ちゃん、そして織斑先生が相手の練習試合は開始された。

 

状況の再現という事なので箒ちゃんは紅椿に搭乗し、状況は二対一の圧倒的優位なモノだったのだが……流石というべきか、試合の流れは終始織斑先生の圧倒的優勢となっていた。

 

専用機持ち二人を相手に赤子の手を捻る様にあしらう技量。訓練機だというにも関わらず、第四世代型の紅椿の攻撃を簡単にいなしてしまう事から織斑先生のブリュンヒルデとしての実力が伺える。

 

 というか、ただの訓練機が専用機を相手に真っ正面から打ち勝つってどういう事だよ。そりゃパーソナルデータは織斑先生に合わせて変更しているそうだけど、それだけでISっていうのはああも劇的に変わってしまうものなのか。織斑先生に後から聞くと“ISでの戦闘はどれだけISの事を理解してやれるかで決まる”という。

 

うぅむ、ISに乗った事のない自分には何とも耳の痛い話である。コアネットワークにアクセスしたり、ISの組み立て作業に関わったりとそれなりに理解していたつもりだが、どうやらまだまだだったようだ。

 

 それは兎も角として、試合は最初から最後まで織斑先生の優勢となり、当時は誰もがこのまま二人は敗北するものだと思われた。幾ら銀の福音に近しい状況に追い込む為とはいえ、流石にブリュンヒルデ相手では無理だと……誰もがそう思っていたが。

 

 

この時、二人に変化が起きた。後一歩で織斑先生の手に掛かり二人とも撃墜かと思われた時、箒ちゃんの紅椿から光が溢れ出し、二人を包んだのだ。

 

“絢爛舞踏”紅椿が覚醒した箒ちゃんの単一能力(ワンオフアビリティ)。ISのシールドエネルギーを回復させる特性を持ったこの能力が二人を窮地から救い、反撃のチャンスを作り出した。

 

エネルギーを得て、零落百夜を発動させる一夏君。織斑先生とせめぎ合い、その後も何度も打ち合い、箒ちゃんと一緒に織斑先生と戦う様はまるで白と紅の流星の様だった。

 

その後、何度も打ち合った所為で織斑先生の持つ近接ブレードは悲鳴を上げながらへし折れ、武装が無くなったという事で試合はそこまでとなった。結果だけを見れば結局二人は織斑先生に一太刀も当てる事はなかったが、箒ちゃんが苦手意識を克服した事、一夏君も今回の事で更に腕を上げたし、何より自分もこの結果には満足したし、取り敢えずはこれで良しという事にしておこう。

 

 あと、これも後で箒ちゃんから聞いた話だが、何でも織斑先生にトドメを刺される際、二人はISを通じて意識を通じ合わせ、このまま負けるのは嫌という想いが強くなり、気が付いたらあのような単一能力を発動させていたらしい。

 

箒ちゃんから話を聞いた話で推測するに、一夏君と箒ちゃんの意識、或いは緊張感が最高潮に高まった時、ISの中枢であるコアネットワークと同調し、付近にいるISとネットワークによるパイプラインが構築され、これにより繋がった二人の意識が共有し、共通したのではないかと思われる。ISは搭乗者の成長に合わせて独自に進化すると聞くし、強ち間違ってないないかもしれないし、織斑先生の言うISを理解するという話もここから来ているのかもしれない。

 

ともあれ、織斑先生の扱きを受けて箒ちゃんはトラウマを見事克服。更なる成長を果たす事になった。箒ちゃんも今回の一件で紅椿を受け入れたみたいだし、無事この件は解決したと言ってもいいだろう。

 

努力が報われ、また一歩前進した箒ちゃんに皆も喜び、アリーナは一時ちょっとしたお祭り騒ぎとなった。織斑先生も注意はするが、諸手をあげて喜ぶ生徒達にどこか思う所があるのか、それ以降は早めに寮に帰ることだけを伝えてそそくさとアリーナから出て行ってしまった。

 

不器用な人だなぁ。直接口にすると怒られそうだから言わないけど、アリーナから立ち去る際、嬉しそうに微笑む織斑先生を見ると、どうしてもそう思わずにはいられない自分でした。

 

 

 

*月@日

 

 夏休みも残り僅か、十蔵さんから言われた事もあって一日休みを貰えた自分は今日、最近新しく出来たレジャーランドに行ってきた。

 

新しく出来たとあって夏休み終盤の今でも大勢お客さんが来ていたが、それ以上に施設が広々としていたので狭苦しい事はなく、悠々と満喫する事が出来た。

 

ただ、パーカーの着用が禁止されている区域があるとは思わなかった。何でも脱いでそのまま忘れてしまう人がいる人に対しての仕様だと聞いたが、まさか上半身をさらけ出してしまうとは思わなかった。……まぁ、プールなんだし別にどうって事はないんだけどね。

 

けど、その所為で他のお客さんが萎縮してしまい少しちょっと悪い事をしてしまった。なんかグラサン掛けた厳つい人からも避けられてたし、ちょっと悪い事をしてしまったかもしれない。

 

その後も、ウォータースライダーに並ぶ際に足を滑らせて落ちた子を助けたり、流れるプールで足を吊って溺れかけた老人を助けたり(水も飲んでなかったし、意識もはっきりしていた為救命処置はなし)、水中で喧嘩する子達を仲裁した事以外大した出来事もなく、朝早くから来ていただけあって施設の殆どを回ることが出来た。

 

どれも大した事じゃなかったから良かったんだけど、水中で喧嘩していた二人、あれは宜しくなかった。幾ら広いとはいえ暴れられたら他のお客さんの迷惑になる。喧嘩するなら陸……もとい外でやって欲しいものだ。

 

まぁ結局、その二人も自分の話で分かってくれたらしく、その後は仲良く施設を巡ってたから別にいいんだけどね。

 

 その後、同じく休みだった織斑先生と山田先生を案内したり、一夏君達と出会ったり、夜は祭りの屋台を巡ったり、花火を見たりして夏の最後の思い出も無事に作る事が出来た。……殆ど一人だったけどね。

 

色々楽しむ事が出来たけど、少し残念な事……というか、悔しい事があった。何でもあのレジャーランドには大きなアトラクションが幾つもあったらしく、今日の来客の人達はそれで盛り上がっていたのだとか。

 

おっかしいなぁ、あの施設は粗方回ったけど、そんなアトラクションなんて目にしなかったぞ? う~む、どこでやってたんだろ? 見たかったなぁ。

 

 

ともあれ、あと二日で新学期。これからも忙しくなりそうだし、しっかりと気を引き締めていこうと思う。

 

 

 




次回から新学期。そしてみんなが楽しみにしている文化祭。

楽しみですね~(日常的な意味で)


次回も、また見てボッチ。

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