『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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スパロボ最新作来ましたね。

……何故グランゾートは出ないィ(ギリリ。

いつか、グランゾートとグランゾンが揃って出てくる日を待ってます。





その20

 

 

 

ベート=ローガにとって、弱さとは罪である。己の弱さに涙し、命乞いをするだけの弱者をベートは嫌悪し、憎悪する。

 

戦う意思も無く、立ち上がる気力もなく、誰かに縋り、求め、依存するだけの弱者をベート=ローガは許さない。

 

吠える事も立ち上がる事も出来ないなら、冒険者なんて止めてしまえ。ただ脆弱である事を由とする雑魚にこの世界で居場所はない。

 

この世界は残酷で、冷酷で、どうしようもなく理不尽だ。そんな不条理なこの世界で生き抜くには強くなるしかない。故に、ベート=ローガは弱者を軽蔑する。

 

弱者とは即ち、生きることを放棄した者。生き抜くことを放棄し、諦めた者達。そんな奴等を嫌悪して何が悪い、軽蔑して何がいけない。

 

だから、ベート=ローガには目の前の仮面の男が頗る気に入らなかった。弱者を助け強者を挫く、まるでお伽噺の英雄譚を見せ付けられている様で、誰もかも、何もかも救えるのだと宣っているみたいで。ベートにはそれが何故だか気に入らなくて仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぉ? 中々良い広さを持った場所ですね。流石は音に聞くロキ・ファミリア、練武場一つ取っても大したモノですね」

 

案内された練武場、ロキ・ファミリアが日夜鍛練する場所として設けられた施設に蒼のカリスマは感心の言葉を漏らす。その佇まいに緊張感は一切無く、他所の派閥に喧嘩を売られたとは思えない程の自然体な姿をフィン達の前で晒していた。

 

頑丈な造りとなっている練武を惜し気もなく称賛する仮面の男、そんな彼に対しロキ・ファミリア幹部の面々はまるで通夜の如く静まり返っていた。

 

先程までの宴で賑わっていたロキ・ファミリア、しかしベート=ローガという一人の狼人(ウェアウルフ)が齎した空気によって賑わっていた宴会は沈下し、他のロキ・ファミリアの面々は早々に自室へと戻っていった。

 

本来ならベートをリヴェリア辺りが説教をする流れだったが、彼の決闘を蒼のカリスマ本人が快く承諾してくれた為にそれも叶わない。当事者同士による合意の決闘、ロキ・ファミリア団長であるフィン=ディムナは親指の疼きとは関係なく嫌な予感をヒシヒシと感じていた。

 

「ベートの奴、大丈夫かなぁ?」

 

「別にどうだっていいわよあんな奴、いっそのこと蒼のカリスマにズタボロにされればいいわ。そんなことよりもアンタ、看病の方は良いの?」

 

蒼のカリスマと対峙するベートを吐き捨てるように口にするティオネだが、すぐにその凶暴さは鳴りを潜めて隣に座る妹のティオナに話を傾ける。看病というのは先の人造迷宮で強襲を受けた際に重傷者として担ぎ込まれた者達の事。

 

現在は蒼のカリスマの回復薬により一命を取り留めた為に死傷者はおらず、治療系の派閥で面倒を見て貰っている。交代制で看病する流れであり今の時間帯はティオナ達の番の筈、不思議に思ったティオネが訊ねると。

 

「うん、レフィーヤ達が代わってくれたんだー。多分こっちの方を優先してくれって意味だと思う」

 

妹の返事にティオネは成る程と納得する。確かにティオナは大雑把でとてもではないが看病には向かない。誰かを思いやる優しさはあるが、その想いと行動が伴っていない辺りアマゾネスは何とも可哀想な生き物か。

 

「………バーチェは普通に看病しているんだけどねー」

 

「言わないでよ、悲しくなるから」

 

今は此処にはおらずレフィーヤ達と同じく看病側へと回っているバーチェにヒリュテ姉妹は何だか負けた気持ちになる。同じアマゾネスなのにどうしてこうも差があるのか、因みにそのバーチェは昔から怪我をした同胞を手当てしていた等の実績があり結構な多才である為、戦力以外な面でもロキ・ファミリアでは重宝されている。

 

「なぁリヴェリア、お主はあの者の事はどう思う?」

 

「………人柄的な意味でなら、お前とそう変わらんさ。お人好しで人格者、凡そ冒険者とは思えん人物だ」

 

ガレスの問いにリヴェリアは淡々と言葉を返す。彼女の言葉はロキ・ファミリアの大部分の総意であり、ガレスやフィンという大幹部から見てもほぼ同意見の内容だった。

 

「だが、あの一件以来そのイメージは大きく覆りつつある」

 

あの一件。そう言葉を口にした途端、当時の光景を思い出したリヴェリアはその整った顔を青色に染め上げる。アポロン・ファミリアとヘスティア・ファミリアの戦争遊戯、その戦いで目撃した蒼のカリスマが放つ黒い太陽。それは長い間エルフの王族として生きてきたリヴェリアを以てしても全く覚えのない未知の魔術だった。

 

全てを消失せしめる災厄の星、たった一度世に顕れただけでアポロン・ファミリアは壊滅し、主神であるアポロンは消滅した。それだけに留まらずかの災厄の星はただ顕現しただけで迷宮都市に多大なる被害を齎した。

 

神を滅する【魔なる者】、確かに蒼のカリスマの人格は善性なのかもしれない。恩義もある、叶うのならばよき隣人としてこれからも適度な関係でいたいもの。

 

しかし、あの一件以来リヴェリアの蒼のカリスマに対する印象は随分と変わってしまっている。気を許せばいいのか、敵対者として警戒すれば良いのか、蒼のカリスマという圧倒的力を持つ存在を前に【九魔姫(ナインヘル)】と呼ばれるリヴェリアでさえも計りきれずにいた。

 

いや、もしかしたら迷宮都市随一の魔道の実力者であるリヴェリアだからこそ、迷い戸惑っているのかも知れない。頭を抱える彼女に悪いことをしたなとため息混じりに謝罪するガレスは練武場の中央で相対する二人と、審判役であるフィンに視線を戻す。

 

本来なら自分達の主神であるロキにも話を聞きたい所だが、当の主神は彼女のお気に入りであるアイズの側から離れようとしない。付きまといながらアイズに拒絶される。いつも通りのありふれた光景にガレスは少し安堵した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、本当にいいんだね」

 

「えぇ、此方はいつでも構いませんよ」

 

「何度も同じこと言わせんなフィン、とっとと始めろ」

 

二人の激突……いや、ベートによる衝突はもう避けられない。溜まりに貯まった彼の憂さを晴らすのは当人同士のぶつかり合いでしか解消されない。

 

フィンは二人に最後の確認をしようとする。本当に始めるのか、制止を込めた彼の呼び掛けを片や完全に受け流し、片や乱雑に突っぱねる。そんな真逆の対応の二人にフィンは諦めの溜め息で切り上げる。

 

蒼のカリスマには悪いことをした。その目的や素性は未だ分からない事だらけだが、それでも今はロキ・ファミリアにとって頭の上がらない恩人であることには変わらない。二度も窮地に現れ、無償で他人を助けるその姿はまるでフィン自身が欲する英雄の姿の様で、フィンにはとても眩しく見えた。

 

故に現状況はフィン自身にとっても不本意なモノ、本来ならベートには厳重に罰を言い渡し自粛して貰いたい所だが、蒼のカリスマ本人が受けてしまったとなればもうフィンではどうする事も出来ない。

 

恩人だからこそ、その人物相手に強く出れないでいるフィン、責めて謝罪だけでもと決闘前に蒼のカリスマに頭を下げようとするが、それすらもやんわりと断られてしまった。

 

本人が気にしていないと語る以上、フィンからは何も言えない。責めてこの決闘が致命的な結果に終わらないことを祈るのみである。

 

いざとなったら無理矢理にでも二人の戦いを止める。その意味合いを兼ねてフィンは練武場の端に座るリヴェリア達に視線を向ける。団長の視線の意図を汲み取った彼等が頷くのを見て、フィンは二人から離れていく。

 

ベート=ローガ、蹴り技を主体とする彼の脚部にはヘファイストス・ファミリアの団長、椿が作った最上級の特殊武装(スペリオルズ)が装着されており、彼の本気さが伺える。

 

油断も慢心もなく構えるベート、対する蒼のカリスマは刃の潰れた片手剣を手にボーッと突っ立っているだけである。

 

彼の手にしているのは練武場に用意された練習用のモノ、それもかなり使い古された代物で完全武装のベートに対し明らかに不釣り合いな武装を前に、ベートは一瞬呆けて、次に激昂する。

 

「………テメェ、一体何の真似だ?」

 

「ん? あぁ、これですか? 自分が無手なのもどうかと思いまして、折角だからあそこから少しお借りしました。団長さんから既に許可は頂いているので、問題はない筈ですよ」

 

蒼のカリスマが指差す方へ視線を向けると、そこには廃棄する予定の品が入ってあるゴミ箱がおかれてある。何か得物になるようなモノはないかとフィンに相談した際に案内された場所、武器庫で見付けたものである。

 

勿論、フィンは蒼のカリスマにゴミを押し付ける気は毛頭なく、ちゃんとした武具を勧めるつもりだったし、何よりそんな使い古された練習用の得物を武器として用意するなんてフィンの頭脳を以てしても読める訳がなかった。

 

ベートの額に幾本モノ筋が浮かび上がる。完全に舐めている、処の話ではない。完全に相手を叩き潰すつもりでいたベートにとって蒼のカリスマの言動、その一つ一つが彼の神経をこれでもかと逆撫でしてくる。

 

「それに、これならお互い怪我をせずに済むでしょうし、ちょうどいいかなって思いまして」

 

「…………」

 

その言葉を最後にベートは蒼のカリスマに何かを言うのを辞めた。見下している。虚仮にしている。そんな上等な話ではない、蒼のカリスマはベート=ローガを文字通り脅威として見ていない。

 

蒼のカリスマの不遜過ぎる態度にティオナ達は若干引いている。悪意がないのは分かる。彼は、蒼のカリスマは正真正銘本気でそう思っている。だからこそ質が悪い言動に、最早誰も突っ込もうと思わなかった。

 

血の雨が降るのは避けられない。どこか諦めた様子で開始の合図をフィンが出した時────ベート=ローガは風になった。

 

初手の全力、余計な知略も策略もない正面からの一点突破。ロキ・ファミリア随一の脚力を誇る狼人のベートによる高速移動、その速度は音速を越えるに至り、ベートのいた場所が衝撃で爆ぜる。

 

避けることは不可能、その仮面にキツイのを見舞ってやる。勢いに乗せた跳び蹴りを放ったベートが己の一撃が入ることを確信し………。

 

「…………………は?」

 

気が付けば、ベートは練武場の天井を見上げていた。一瞬の意識の空白、何が起きたか理解できていないベートはこの瞬間呆けた顔を晒す。なぜ自分が倒れているのか、頭で理解するよりも本能で察した彼はガバリと勢いよく飛び上がり、蒼のカリスマと距離を開けた。

 

自分は今、何をしていた。冷静を装おうとするにも何をされたのか理解できていないベートは、ただ息を荒くして呼吸することしか出来ない。大粒の汗が流れる。

 

目の前の仮面の男は動いた様子はない。いや、動いた気配が読み取れない。

 

「テメェ、今何をした」

 

「何を……と、言われましても。私はただ貴方の蹴りを受け流しただけですよ? 転ばせるつもりはありませんでしたけど」

 

こう言う風に、と手にした剣をクルリと弄びながら答える蒼のカリスマにベートは戦慄する。意識は集中していた。途切れた覚えも意識を途絶えさせたつもりもない。なのに受け流したと語る蒼のカリスマの動きは読めなかった。知覚する事も認識する事も出来なかった。

 

「しかしまさか転倒するとは、少し加減を誤ったかな? それにしてもベート君、倒れるにしてももう少し早く次の行動に移さないと。 起き上がるまで一秒弱、これがダンジョン……実戦だったなら、今ので君は五回は死んでますよ?」

 

それは蒼のカリスマからすれば単なる注意事項、警告ではなく、あくまでベートより年上である自分からのほんの些細な助言。しかし言われた本人からすれば挑発以外の何物でもない。獣の如く姿勢を低くさせ、その脚力を活かした瞬発力で以て仮面の男に肉薄する。

 

今度は同じ手は通用しない。蹴りを放つ………と、見せかけての拳の攻撃、フェイントを混ぜての更なる強襲。剣で受け流そうとするなら、その剣を掴み取って薙ぎ倒す。

 

「ふむ、先程よりかは速くなりましたね。ですが」

 

「っ!!」

 

「少し、正直過ぎますね」

 

そんなベートの策を嘲笑うかのように彼の体はクルリと一回転し、地に這うように落とされる。痛みは無かった。優しく、まるで割れ物を扱うように丁寧に倒されるベート、またもや蒼のカリスマの動きが見えなかった。いや、それよりも何故自分はこうまで丁寧に扱われているのか。

 

再び仰ぎ見る天井、今度は即座に立ち上り背後にいる蒼のカリスマに回し蹴りを放つも、当然の如くいなされて、ベートは三度仰向けになる。

 

三度倒され、それでも尚痛みはなく、懇切丁寧に倒してくる仮面の男にベートは怒りでどうにかなりそうだった。

 

ふざけるな、何様のつもりだ。何故痛め付けない、叩き潰そうとしない。情けを掛けているつもりか、人を見下すのも大概にしろ。怒りは頂点を超え、塞き止めていた感情が溢れ出る。激情のまま言葉を発するベートに………。

 

「うーむ、そう言われても君の事は彼の主神と既に約束してしまいましたからねぇ、怪我はさせないで終わらせると。………あぁ、でもそうすると決闘の終わり方が定まらないか」

 

困ったなぁと首を傾げる蒼のカリスマに主神であるロキを含めたフィン達は言葉を失いベートはワナワナと全身を震わせる。

 

この男はベートを脅威として見ていない。そもそも敵として見ておらず、彼の中でのベート=ローガという男はあくまで余所のファミリアの眷族の一人でしかない。親しげに、慎ましく接し、彼の横暴を快く快諾する。

 

格下として見ている? 違う、敵として見ていない? 違う。蒼のカリスマにとってベート=ローガは“仲良くしておきたい人物の一人”、ただそれだけに他ならない。

 

(ベート君は悪い所、矯正すべき所を改善すれば今よりもっと強くなれる。今回は向こうから仕掛けてきた事だし、これくらいのお節介は別にいいよね)

 

と、戦慄するロキ・ファミリアの面々とは対照的に蒼のカリスマは一人呑気に考える。ベート=ローガは強さに餓えていて、今も尚自分の強さを求めて止まない。それはきっと全ての冒険者にとって誰もが求める一種の必須的要素なのだろう。

 

ならば僭越ながら自分が標を定めよう。彼がもっと強くなれるように、いざという時に大事な人達を守れる様にと、踏み潰す気でいたベートに対し蒼のカリスマは寧ろ踏み台になる気でいた。

 

それからもまたベートは蒼のカリスマに噛み付いた。折れてなるものか、挫けてなるものか、屈してなるものか、必ずそのすかした仮面ごと顔面を叩きのめしてやる。脚に力を込めて、何度もベートは蒼のカリスマに迫っていく。その姿はまさに狼人に相応しい獰猛さを雄弁に物語っていた。

 

そして、そんな狼に対し。

 

(おっ、まだ来るか。よーし、俺も頑張っちゃうぞー! あ、怪我だけはしないようにしないとね!)

 

蒼のカリスマはその仮面の奥でにこやかに笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………なによ、これ」

 

目の前で起きている光景を前に遂に耐えきれなくなったティオネが言葉を漏らす。一体二人の決闘が始まってからどれだけの時間が経過したのだろうか、どれだけ同じやり取りが繰り返されてきたのだろうか。

 

ベートは本気だった。Lv5としての力を十二分に発揮し、その脚力を以て蒼のカリスマに食らい付いた。何度も何度も、惜しみ無くその力を奮わせ、時には魔剣さえ取り出し身に纏う武具を最大限に活用して勝ちに行った。

 

我武者羅に、形振り構わず勝利をもぎ取ろうとしたベートの姿に内心ヒリュテ姉妹は応援していた。普段はソリが合わず、喧嘩ばかりをしている彼女達だが、必死に挑んでいるベートを二人は応援していたのだ。

 

二人だけではない。同じ派閥の仲間として、アイズもまたベートを応援していた。普段なら見せないベートの顔が、あの兎の様な少年と何処か重なって見えたから。

 

しかし、そんな彼女達の応援は時が経つにつれて萎えていく。その間にベートは幾度となく己の限界を超えた。その光景にアイズ達は勿論フィンですら驚嘆し、感動を覚えた。

 

ベート=ローガは強くなった。この一度の決闘で誰もが認める程に強く、成長し、そして────絶望を知った。

 

「よし、また少し速くなったね。良い調子ですよベート君」

 

攻撃がいなされて転ばされる。蹴りが届かず転倒させられる。拳がいなされ転倒されてしまう。何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 

ベート=ローガは蒼のカリスマに噛みつく度に、丁寧に優しく、怪我が無いようにコロンと転倒された。

 

ベートは疲弊していた。肉体ではなく、その精神()が。強くなる体に心が追い付かず、ただ精神だけが磨耗していく。

 

あと、何回自分は立ち上がれば良い。どうすれば終われるのか、終点が見えない道をただ延々と走り続ける感覚、それは正しく無限の地獄の如くの苦痛だった。

 

大粒の汗がベートの全身を覆っていく。最早決闘ですらないその光景に、アイズ達は愕然となって見続けていた。

 

「………もうええやろ」

 

「ロキ?」

 

「ベートは、もう充分に頑張った。それは此処にいる全員が分かってる。せやからフィン、もう終わらせてやってぇな。でないとベートが……」

 

可哀想過ぎる。

 

その言葉だけは呑み込んでロキはフィンに二人の決闘の中断を要請する。意見なんてある筈がない、頃合いを見てフィンは二人の間へと割って入り、決闘の中断を宣言した。

 

「そこまでだ。この決闘、蒼のカリスマの勝利とする」

 

半ば強引に終わらせると、ベートは切れた糸のように崩れ落ちてフィンがそれを抱き止める。普段なら余計なお世話だと突っぱねる所なのに、何も言わずされるがままなベートの様子がどれ程疲弊したのかを物語っている。

 

「おや? 宜しいのですか? 中途半端な結果はベート君にとっても良くないのでは……」

 

「いや、ベートはもう充分頑張った。少し休ませてやらないと」

 

言われてみれば、と今更ながらベートの様子に気付いた蒼のカリスマはアチャーと頭を掻くような仕草を見せ、申し訳ないとフィンに謝罪する。

 

Lv5が相手と思って少々やり過ぎたらしい。これがベル=クラネルだったらもっと加減が出来たのに、これは失敗したなと蒼のカリスマは人知れず反省する。

 

体力回復のポーションはどうですか? とせめてもの詫びとして差し出そうとするも、これもまたやんわりと断られてしまう。どうやら思っていた以上にやらかしてしまった様で、漸く蒼のカリスマは練武場を包む空気に気が付いた。

 

これはもう黄昏の館に厄介になる空気ではないな。やり過ぎてしまった事への謝罪を最後に、館を後にしようとする蒼のカリスマ、練武場の外に続くドアへ向かう途中もアイズ達に道を譲るように避けられてしまう。

 

このままでは不味い。と、最後に何か言葉を、せめて感謝の気持ちだけは残して行こうと思った蒼のカリスマは扉の前に一度だけ立ち止まって振り返り。

 

「今回は宴に御呼びいただき、誠にありがとうございます。とても楽しい一時でした」

 

それでは、と今度こそ立ち去る蒼のカリスマ。彼にとっては感謝のつもりだった。事実、蒼のカリスマにとって黄昏の館での時間はとても有意義だった。

 

宴会での催しもの出される食べ物も、そしてベートとの決闘の時間も蒼のカリスマにとっては全て得難く、充実し、そして楽しかった(・・・・・)一時だった。

 

そしてその言葉はベートの最後の自尊心(プライド)を砕くには充分過ぎる一言だった。

 

「あ、あぁぁぁ、あぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

蒼のカリスマが黄昏の館から出て暫くした後、練武場では一匹の狼の慟哭が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 





Q.これ、ベート大丈夫なの?

A.ほ、ほら、肉体的には平気だから(目そらし

今回は恐ろしい善意と言うものを自分なりに表現したつもりです。時には優しさというのは悪意や暴力よりも人を傷つけるんやなって、そういう話。
ベート君は頑張りやさんだから、きっと大丈夫……な、筈!

それでは次回もまた見てボッチノシ




ベート=ローガァァァ、だぁぁいすきぃぃぃ!!(作者の気持ち。


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