『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

158 / 417
もしもボッチがサーヴァントを召喚するなら、どの英霊となら相性が良いだろう?

ロビンさんとか?


その27

 

 

 

 

────その鎧を纏った時、男を襲ったのは赤い龍による焔の洗礼だった。肉体を、血を、魂すらも灰塵に帰す劫火は身に纏う全ての人間を等しく燃やし尽くした。

 

相応しく無い者が着れば瞬く間に灰となり、資格あるものが纏ってもその焔は試練となって襲い掛かってくる。

 

抗えば抗うほど、鎧の所有者はその鎧の精神とも呼べる深奥へ呑み込まれ、更なる焔に焼かれていく。

 

所有者───オッタルはそこでこの鎧の正体を見た。巨大な龍、その顎から炎を溢し、試すように此方を見下ろす複数の巨龍。そう、鎧に宿る龍の魂は一頭だけではなかったのだ。

 

一頭だけでも迷宮都市に大打撃を与えそうな怪物が複数、しかしオッタルの意思は微塵も揺らぐ事なく佇み、四方から襲う焔の波をその身だけで受け止めた。

 

───長い時間炙られ続けてきた。肉体はとうに溶け落ち、骨も炭となり魂も蒸発仕掛けていた。

 

しかし、オッタルの心は折れなかった。肉体を失い、剥き出しの魂だけとなっても彼は決して龍の焔に屈せず、己を貫き通したのだ。

 

全ては、自分を導いた美しき女神の為に────そして、奴を越える為に。

 

『龍共よ、俺にひれ伏せ』

 

その言葉に龍達は頭を垂らし、目の前の猪人を己の主と認めた。覚醒していく意識、オッタルが目を醒ますと、外の時間が7日程過ぎていた。

 

少しばかり惰眠を貪りすぎた。本来ならば有り得ない失態、断りなく不在にしていた事を謝罪しようと、オッタルは己の女神の前に頭を垂れる。

 

あの日以来、女神には辛い目に合わせてしまっていた。自分達の力が及ばず、至らぬ所為で麗しき美の女神に小さくない疵を残してしまい、女神は外界との繋がりを断ち切ってしまった。

 

全ては自分達の不徳が致す所、故に自分達に今一度チャンスを、雪辱を果たす機会を与えてほしい。新たなる力を手に入れ、せめてもの慰めになるためにオッタルは女神に嘆願した。

 

女神は───美の女神は歓喜に震えた。自分の眷族が新しい力を手に入れただけでなく、自身の魂をより高位の次元に高めた事実に。

 

健気で、美しく磨きあげた己の眷族に女神は今一度立ち上がる決心をした。今一度前に進もうと、今度こそあの魔人を打ち倒そうと、美の女神は完全とは行かないまでも眷族達と共に立ち上がってみせた。

 

自分達の飛躍はここから始まる。オッタルのレベルアップを間近で目の当たりにしたフレイヤはそう強く確信した。

 

“Lv8” 新たな領域に到達したオッタルが迷宮都市に轟く前日の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと」

 

「っ────」

 

降り頻る雨の中、雨粒を弾きながら迫り来る細剣(レイピア)の刃を仮面の男蒼のカリスマは体を僅かに逸らす事で難なく回避する。

 

「いきなり斬りかかるとは、穏やかではありませんね、おまけに剣先も僅かに鈍っている。意外ですね、貴女ほどの冒険者が心を乱すとは」

 

いきなり斬りかかってきた事に怒りもせず、初めて見たときより僅かにその腕を鈍らせている事に疑問を抱いた蒼のカリスマは、鼻息荒く睨んでくる剣姫を疑問に思い首を傾げた。

 

「どう、して───」

 

「うん?」

 

「どうして、ソイツを庇うの? ソイツはモンスターだよ」

 

「ふむ、至極当然の疑問ですね。確かにベル君が庇っているのは一般的にはモンスターと分類される生物、貴女方冒険者からすれば彼女は狩りの対象になるのでしょう」

 

「ならどうして!」

 

「なに、大した理由ではありません。私は彼等異端児をモンスターとは見なさなかった。故に助ける、それだけの話です」

 

激昂するアイズの問いを更に煽る様な形であっさりと即答する蒼のカリスマ、目の前の仮面の男には剰りにも多い《借り》がある。しかし、今のアイズにそれを計算できるだけの思考能力はなかった。

 

「ふむ、疑問に思うことはあっても何故貴女がそこまでモンスターを………いや、ベル君達を憎むのか」

 

蒼のカリスマは背後で硬直しているベルを一瞥し、アイズが何をそんなに怒っているのか理由を推測しようとするが、流石にこの場で口にするのは憚れるだろう。今は取り敢えずこの混沌としている迷宮都市の状況を何とかする事を優先するとしよう。

 

「まっ、今はそれは置いておきましょう。取り敢えず今はこの状況を何とかしませんとね」

 

そう言って蒼のカリスマはパチンと指を鳴らすと、ベル達の背後から穿たれた様に巨大な孔が広がっていく。見たことの無い事象の具現にその場にいる冒険者達は慄き、ベル達を残して引き潮のように下がっていく。

 

孔から落ちる様に現れたのはベルの仲間であるヴェルフ達と無数のモンスター───否、異端児達だった。迷宮都市のアチコチで騒ぎになっていた彼等が蒼のカリスマが開くワームホールを通して一同にここへ呼び寄せられたのだ。

 

周囲から悲鳴が上がる。突然のモンスター達の出現、中でも第一級冒険者でないと太刀打ち出来ない強大な力を持っているモンスターがいることから、蒼のカリスマがいる場所は阿鼻叫喚に包まれた。

 

対する異端児達は突然自分達のいる場所が変わった事に呆然としていた。中には冒険者に殺されかけたものがいた為、自分が生きている事に放心状態になったものまでいたりする。

 

「バカな。俺達は今、違う広場にいた筈」

 

「やぁアステリオス君、君も無事だったか」

 

「お前は……そうか、これもお前の仕業か」

 

「えぇ、事態の終息の為に取り敢えず関係者達を一ヶ所に集める事にしました」

 

「終息………出来るのか?」

 

漆黒のミノタウロス───アステリオスが周囲を見渡せば自分達を囲んでいた冒険者達が恐怖で尻込みしていた。あのアイズですら躊躇している事からアステリオスの実力はどんなに少なく見積もってもLv6以上なのは確実だ。

 

異端児達の中でも最強の部類に入るアステリオスの登場に尻込みしていた冒険者達は今度は逃げ腰になり。一人、また一人とその場から姿を消していく。

 

「ふむ、どうやら事情を察してくれた方達が退いてくれた様ですね。説明が省けて助かります」

 

「絶対に違うと思うのだが……」

 

アステリオスと蒼のカリスマ、二大巨頭の出現により命が惜しくなった冒険者達は我先へと逃げ出すが、それを蒼のカリスマは此方の事情を察して退いてくれたと過大過ぎる解釈をして一人勝手に納得して頷いている。アステリオスの小さな呟きは残念ながら雨の音に消されてしまって届かない。

 

「さて、そんな事よりも先ずは怪我の手当てを、その為にも先ずはダンジョンに戻りましょう。リド君にはここへ来る前に里で待つよう伝えてありますし、直にフェルズも合流してくるでしょう」

 

「あ、あの、蒼のカリスマさん……」

 

「ベル君、今回も君に助けられてしまったね。巻き込んでしまったついでに良ければ君達も着いてきてはくれないでしょうか? 異端児達の傷を癒す人手が欲しいのですが……勿論、報酬は弾ませて戴きますよ」

 

「そ、それは……」

 

「俺は構わねぇぜ。ダチが命懸けで助けると決めた相手だ。最後まで見届けなくちゃ寝覚めが悪いしな」

 

「ベル様が行くのならリリも反対はしません。……まぁ、貴方に真っ向から突っ掛かる連中は限られてますし、ここはその方が最善でしょうし」

 

「某も異存はない、何よりベル殿には春姫を救ってくれた恩義がある。断る理由はない」

 

「ヴェルフ、リリ、命さん……」

 

自分の我が儘に付き合ってくれた仲間達が自分の為に背中を押し出してくれる。その事を嬉しく思ったベルが目尻から溢れる涙を拭い、蒼のカリスマに同行する旨を伝える。

 

「決断、感謝します。ならばフェルズにはベル君達の拠点の防衛を任せる事にしましょうか。彼も元は一端の使い手、異端児の皆さんの手当ての完了する間までは何とか持ちこたえてくれるでしょう」

 

では行きましょう。と、一歩踏み出そうとした蒼のカリスマの前に小さな勇者が現れる。

 

「悪いけど、そうはさせないよ」

 

「うん?」

 

フィン=ディムナ、迷宮都市における最大派閥の一つでありその団長である彼が幹部達を引き連れ蒼のカリスマの前にアイズと共に立ち塞がった。

 

「これはフィン=ディムナ氏、そしてロキ・ファミリアの皆さま方、先日はどうもお世話になりました。ベート君も立ち直れた様で何よりです」

 

「けっ」

 

「今晩は蒼のカリスマ。久し振りの再会に取り敢えず祝福しておくよ、生憎折角の雨なのは残念だけどね」

 

「ククク、その程度なんの事はありませんよ。それで? 一体本日のご用件は何用で?」

 

「単刀直入に言おう、そこのモンスター……いや、異端児達を引き渡して欲しい」

 

「お断りします」

 

にこやかな挨拶からの要求と即答の断り、迷宮都市オラリオでも最強の一角の強さを誇る彼を前に蒼のカリスマは一切遠慮なく断った。

 

空気が一気に張り詰める。その空気に触発されたベル達は身構え、ベート達も静かに得物を手にして構えを見せる。

 

「正気かい? 言葉を話せるからとは言え彼等はモンスター、これまで人類と不変の敵対構図を作り上げてきた存在達だよ? どうしてそこまで肩入れできる?」

 

「その答えは唯一つ、物事に絶対はなく永遠に変わらないものは無い。それが今回異端児という出現に繋がった。ただそれだけの話です」

 

「答えになってないよ?」

 

「失礼。生まれたばかりの可能性(異端児)を一方的に潰すのは早計だと判断した。と、付け加えておきます」

 

「だがモンスターだ」

 

「しかし理性も知性もある」

 

交わらない平行線、モンスターは滅ぼさなければならないというフィンの主張は正しい。それはこの世界における絶対の理であり、法である。これを覆すという事は自身が世界の敵になるという事に他ならない。

 

「君は、自分が何をしているのか分かっているのかい?」

 

「無論」

 

「この世界の基盤が崩れるかもしれないんだぞ」

 

「寧ろ今までが安定し過ぎていた。確かにただ日々安寧を過ごすことは大事でとても尊い事、繰り返される日常がその実尤も掛け替えのない宝だという事は私も良く理解しているつもりです」

 

「だったら!」

 

 

「しかし、私は知ってしまった。異端児と呼ばれる彼等は誰かを思いやる理性もあり、誰かを疑う知性を持ち、そして……外に出て、日に当たる場所で生きてみたいという細やかな願いを持っている。そんな彼等だからこそ、肩入れしたいと私は思ったのです」

 

フィン=ディムナの追求を蒼のカリスマは真っ向から言い放つ。それは精密な理論(ロジック)からの論破ではなく、感情的で何処までも直情的な短絡的な暴論だった。

 

モンスターだとか、異端児だとか、自分がそうしたいからそうするまで。世界の常識や常套など一切顧みず、己の心に従い行動する。大胆不敵に言い切る蒼のカリスマにフィン=ディムナは言葉を失った。

 

「───そうか、残念だよ。君はもっと理知的な人間だと思っていた」

 

「それは買い被りというモノですよ。私は元々、自分の心に正直に生きているだけの俗物ですからね。故に気に入った相手は肩入れしますし、そうでないものには容赦はしません。フィン=ディムナ、自らを【勇者】として位置付けた悲しき小人よ、それでも尚君は私の前に立つというのかな?」

 

「無論」

 

────最早問答の時間は過ぎた。ここから先は互いの主張を押し通す為の暴力の時間。ロキ・ファミリア達全員が戦闘体勢に移行し、闘気を滲ませる。

 

迷宮都市最大派閥、その主力メンバーから放たれる圧倒的威圧感。それを前にしたベルは言葉を失い、ウィーネを抱き締める手に力が込められる。

 

フィン達の実力を本能で推し量ったアステリオスは自分も参加して少しでも蒼のカリスマの手助けになろうと一歩前に踏み出すが、当の本人はそれを片手を上げて制止する。

 

「アステリオス君、気持ちは嬉しいけどこの場は私に任せて貰えないだろうか。私が彼等の相手をしている間、君はベル君達と一緒に同胞達の手当てをしておいてくれ」

 

「し、しかし」

 

「いいんですよ。それにここだけの話ですが、私はどうもそそっかしい所があるみたいで、その気になると自身の攻撃で味方を巻き込んでしまうみたいなんです」

 

大変遺憾なのですがね。そう愚痴る蒼のカリスマは踏み出した一歩を戻すアステリオスを見送ると、改めてフィン達に向き直った。

 

ロキ・ファミリアという迷宮都市オラリオに於いてフレイヤ・ファミリアに並ぶ最大級の力と規模を誇る巨大派閥、蒼のカリスマと相対するのはその中でも選りすぐりの幹部達で、その誰もが世界にその名を轟かす実力を有している。

 

アイズ、ベート、ティオネ、ティオナ、リヴェリア、ガレス、そしてフィン。迷宮攻略において幾度となく壁を乗り越えてきた猛者達、そんな彼等を一人で相手をするなど、普通なら自殺志願者にしか思えないだろう。

 

しかし、フィン達はそれを微塵も自分達を舐めているなんて思わなかった。何せ相手は【魔なる者】、アポロン・ファミリアを単独で見たこともない魔法で壊滅に追い詰めた規格外の魔人、未だ謎が多く、それこそダンジョンの如く未知に溢れた怪物を相手に気を弛める事など出来はしない。

 

特にベートは嫌と言うほどその実力差を思い知らされている。牙を剥き出しにして敵意を───否、戦意を滾らせているがその頬には大粒の汗が流れ落ちている。

 

本来なら戦う手を止めて蒼のカリスマに説得を試みるつもりだったティオネも、手にした大双刃(ウルガ)を握り締めて闘志を剥き出しにしている。

 

皆、気付いているのだ。今自分達が前にしているのはこれまで戦ってきたどの怪物よりも強大なのだと、脅威度で言えば恐らくはあの【穢れた精霊】以上……もしかしたら、あのゼウスとヘラ、二つの派閥を壊滅に追いやった黒龍に匹敵する程の。

 

「さて、それでは始め────っ」

 

いよいよ戦いが始まる。そう思われた時、反射的にワームホールを開いた蒼のカリスマはそこから一本の剣を取り出して頭上に掲げた。

 

瞬間、無数の雨に紛れて赤い焔の塊が蒼のカリスマ目掛けて降り落ちる。激突の衝撃で周囲の家屋は吹き飛び、ベル達も踏ん張りが利かずに煽られて倒れ込む。

 

「ほう?」

 

予想外の襲撃、されど難なく防いだ蒼のカリスマは折れた己の剣を見て関心の声を漏らす。

 

舞い上がる砂塵が収まると、そこには───龍がいた。赤い気炎を立ち昇らせ、手には凄まじい熱量を孕んだ大剣を手にしている。

 

その姿はアイズ達にとって忘れる事の無い姿だった。

 

「邪魔するぞ、フィン」

 

「オッタル、どういう風の吹き回しだい? この戦いに介入してくるなんて」

 

赤い龍を模した鎧から聞き慣れた声が聞こえてくる。その事を少なからず驚くフィンだが、団長としての部分が目の前の最強に問い詰めろと囁いてくる。

 

「これは、我等の女神に付けられた傷を癒し、泥を濯ぐ為の戦いだ。故にフィン=ディムナ(勇者)よ。今は互いの立場を忘れ、手を組むことにするぞ」

 

オッタルの言葉にフィンだけでなくロキ・ファミリア全員が驚愕を露にする。敵対していた派閥との唐突の協力体制、しかしオッタルの言葉を裏打ちするように遅れてフレイヤ・ファミリアの主力達が到着する。

 

女神の戦車(ヴァルナ・フレイア)】、【炎金の四戦士(ブリンガル)】、他にもダークエルフのヘグニ、エルフのヘディン、ロキ・ファミリアに比肩する迷宮都市オラリオの最強の面々がここに現れた。

 

「そう言うわけだ蒼のカリスマ、悪いが俺達全員を相手にしてもらおう。卑怯と蔑んでも構わん、だが我等の使命の為に………貴様は今日ここで果てるがいい」

 

燃え盛る大剣を突き付けて言い放つオッタル、勇猛果敢に言い切る彼の姿に知らない内に感化された冒険者達は戦意を漲らせる。

 

そうだ、自分達は戦える。相手がどんなに強大だろうと、自分達には迷宮都市最強が着いている。【勇者】と【猛者】、相容れない二人が並び立っている光景に冒険者は、迷宮都市に住まう人々は希望を見出だして───。

 

「く、ククク、クハハハハハ。いやはや、壮観ですね。迷宮都市にその名を連ねる冒険者達が私の前に立っている。何とも、胸が熱くなる展開ではないですか」

 

「良いでしょう、ならば私も貴方達の気概に応える為に精一杯頑張ると致しましょう。あぁそうそう、私の手元には沢山の回復薬がありますので、どうか気兼ねなく、遠慮せずに───」

 

 

“掛かってきて下さいね”

 

 

その言葉を皮切りに、迷宮都市最大級の戦いが始まった。

 

 

 

 




相変わらずのラスボスムーヴ


次回、魔王降臨。



最近お腹の調子が悪い。皆さんも体調には気を付けてくださいね。

それでは次回もまた見てボッチノシ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。