『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回で一先ずダンまち編は終了となります。


その30

 

 

────それから、数日の時が流れた。

 

人の言葉を話し、人のように振る舞うモンスター………異端児(ゼノス)と呼ばれる者達が地上に現れた事で引き起こされた“異端児事件”。

 

この事件の際に起こった戦いはオラリオ史上類を見ない激戦と成り、迷宮都市は甚大な被害を被ることになった。

 

幾つもの露店、大手派閥の店、そしてオラリオを囲む巨大外壁。これ等を巻き込んで且つ甚大な被害を出してしまった迷宮都市は現在復興作業の真っ只中にあった。

 

冒険者やそうでない者、都市に住む人々が総動員での復興作業は順調だが、それでも人手が足りていないのか、街のあちこちでは戦いによって刻まれた爪痕が今も深く残ってしまっている。

 

ある事実(・・・・)によって多くの冒険者達が失意の中にいる時、一つのファミリアが復興の指揮を進んで取ることになった。ソーマ・ファミリア、今まで下位の派閥として神々の間でも然程注目されなかった彼等が、自ら資金提供をする事を確約し、迷宮都市復興の足掛かりとなったのだ。

 

「ザニスさん、この資材は何処でしたっけ?」

 

「あぁ、それは“豊穣の女主人”の所だ。女将さんには既に話を通してあるから、そのまま運んでくれ」

 

「ザニスさん、ヘファイストス・ファミリアから応援を呼ばれてるんだけど……」

 

「了解した。そちらに三人ほど送ろう。少々時間をくれと伝えてくれ」

 

困惑し、どうしたらいいか迷っている人々をテキパキと指示を飛ばして動かして復興の頭となっているのはソーマ・ファミリアの団長、ザニスである。復興に関しての全ての指揮とその際に起きる資金提供を請け負う事になった彼等に疑う者はいても反発するものはいない。

 

一体どこから其処までの資金が出てくるのか、多くの神々はソーマに対し疑念を抱くが、実際復興の全てを任せてしまっている以上、彼に文句を口にすることは出来ない。

 

普段は謀略や画策には喜んで乱入するロキも酷く落ち込んでしまった多くの眷族達のフォローに回って其れ処ではなく、フレイヤ・ファミリアも未だ怪我を治しきれず、身動き出来ないオッタル達の看病の為に干渉出来ないでいる。

 

現在迷宮都市は事実上ソーマ・ファミリアの支配下となっているが、彼等自身は微塵もそんな事は考えてはいない。復興の陣頭指揮を担っているのはソーマ・ファミリアの団長ではあるが、何も全て彼等に任せている訳ではない。

 

他にも被害のあった地区との情報の共有をするためにギルドや協力的な派閥と一緒に情報交換をしたり、足りない資材を運搬する為に人手を貸したり借りたりしている。ザニスが自ら復興の陣頭指揮を任したのは資金を提供したいという一心から来るもので、別に今後のオラリオでの活動を見越してとか、そんな下手な野望は微塵もない。

 

もし他の派閥が陣頭指揮の座を明け渡せと要求してきたのなら、資金提供を続けさせてくれるのならば喜んで明け渡すつもりでいる。最も、自ら名乗り出て下衆な企てもせず、真摯に復興に打ち込み、派閥の財産全てを復興に擲つ彼等の姿勢に、絶大な信頼を向けているオラリオの人々がそれを認めるのは有り得ないだろう。

 

もしザニスをその座から奪う者が現れれば、それは迷宮都市の全てを敵に回すに等しくなるだろう。

 

(団長、いい感じですぜ! この調子で行けば地下金庫の財産の四割は固いですぜ!)

 

(バッカお前バッカ! 顔に出すな顔に! にやけているぞ! )

 

(団長だって!)

 

そんな信頼を受けているとは露知らず、自分達の金庫からあの悪夢のような金貨が消えていく事にザニス達は大いに満足していた。大量に有り余る金貨の山、ギルドにも怪しまれ多くの派閥からの視線を掻い潜りながら隠してきた無数の財宝。

 

これ等の多くが消えていく。それはザニス達にとってあの地獄の様な日々との訣別にも思えて、その顔はとても晴れ晴れとしていた。この分なら四割、いや五割の金が消えてなくなるのではないか。肩の荷が降り、体が軽くなるような感覚。

 

これまでの人生で使った事のない額に金が煙の様に消し飛んでいく。しかしそれで構わない、真っ当な金の使い方に満足し、一種の高揚感を満喫していたザニスは心の中で喝采を上げていた。

 

(ふはははは! 見たか蒼のカリスマめ! これで我々は自由の身だ! これからは一つのファミリアとして真っ当に冒険者として生きていくのだ! ふはははは!)

 

いい感じに出来上がっているザニスだが、彼は気付かない。今回の復興におけるソーマ・ファミリアが迷宮都市に齎した無償の施しはこの街に生きる人々から多大な信頼を勝ち取っているという事実に。

 

何せソーマ・ファミリアにとって金を使うこと、それ自体を目的としている為、どんなに怪しんでも裏が取れる訳がなく、その金の出所を探った所で彼等にとって痛くも痒くもない。寧ろ、彼等の背後に蒼のカリスマの存在が僅かでもちらつけば、大抵の者は即座に手を引いていくだろう。

 

崩壊しかけた迷宮都市を率先して復興し、その為の資金を提供してくれたソーマ・ファミリア。彼等の行いにより多くの人間が救われ、これによりソーマ・ファミリアは他の派閥とは異なった立場を築いていく事になる。

 

異端児事件の終結後、迷宮都市の為に尽力したソーマ・ファミリア。彼等の崇高な行いは軈て都市外にも広がり、かの派閥に加わろうと多くの人種がソーマ・ファミリアに雪崩れ込んでいく。

 

また、復興に非常に協力的だった事からギルドにも認められ、眷族も大幅に増えた事でソーマ・ファミリアはロキ・ファミリアやフレイヤ・ファミリアをも凌ぐ一大派閥へと成長していく事になる。

 

また、派閥の主神であるソーマが研究し開発した酒を元にした美肌化粧水がバカ売れし、ファミリアの金庫は更に潤う事になる。更にその金を消費する意味で借金持ちの派閥に無期限で金を貸したりするのだが、そのお金も何故か倍返しとなって返金させられてしまう。

 

自分達は要らぬ金を押し付けただけなのだが、借金持ちの派閥からすれば義に厚い者からの施しに他ならない。特に人の良さで借金を背負う事になった彼等は恩義のあるソーマ・ファミリアに報いようと必死になってお金を返金してくるのだ。焦らなくても良いのに、寧ろ返さず、踏み倒しても良いのに、そんな彼等の祈りは届かずにファミリアの金は留まるところを知らない。

 

だったら別の使い方をするまでだと、ザニスは新しく入ってきた眷族達が使う装備を賄う為、金と同じくらいの量を持つレアドロップアイテムを消費するために、それらの素材を使って武具の作成に当たる。

 

ヘファイストス・ファミリアやゴブニュ・ファミリアへ特注の装備を作って貰う事で消費させていく。

 

しかし、それも自分の為に専用の装備を用意してくれた団長と主神の好意に報いる為に迷宮攻略に勤しむ眷族達によってザニス達の目論見は大きく外れる事になる。瞬く間に成長していく眷族達、中には少数パーティーで深層に挑める冒険者も増え、彼等が持ち帰ってくる多くのドロップアイテムによりファミリアの倉庫はパンパンになって溢れそうになる。

 

どんなに使っても減る事のない金、どんなに消費しても戻ってくるドロップ・アイテム。資金と素材、人材と規模、信頼と実績、これら全てを兼ね備えたソーマ・ファミリアはロキやフレイヤだけでなく嘗てのゼウス、ヘラの二大派閥すらも越える史上初の超巨大派閥へと至る事になる。

 

晩年のソーマ・ファミリアの団長、ザニスは後にこんな言葉を残す。“どうしてこうなった” と。

 

蒼のカリスマが齎した善意の螺旋(スパイラル・ネメシス)、喩え齎した本人の手から逃れられてもその因果からは決して逃げられない。

 

そんな未来が待っているなど欠片も知らないザニスはファミリアの仲間達と共に今日も汗水流して働き出す。

 

「労働って、いいよね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、これで拠点の方の修理は終わったかな」

 

「神様ー、ただいま戻りましたー!」

 

「おぉ! お帰りベル君! 皆もお疲れ様ー!」

 

我が家へと戻ってきたベル達、彼等の主神であるヘスティアは笑顔で彼等を迎え入れた。

 

「今日は“豊穣の女主人”の所だったんだろ? どうだったんだい?」

 

「はい、どうにか今日一日で形にはなったそうです」

 

「明日からは炊き出しもやるみたいだしな」

 

「ヘスティア様、女主人の女将から賄いを頂いてきましたよー」

 

眷族達からの報告と、賄いの食料を頂いた事によりヘスティアの機嫌は更に上昇していく。

 

「しかし、我々も運が良い。あれほどの騒ぎが起こったと言うのに敵意の視線が全く向けられて来ないとは」

 

命の呟きにベル達は押し黙る。異端児事件、人の言葉を口にして人のように振る舞うモンスター達。千年の歳月を越え、幾度の転生を重ねる事によって漸く現れたモンスターの新たな可能性。

 

人にとって絶対の敵として見なされてきたモンスター、そんな彼等の味方をするという事は人類の敵になることを意味している。

 

そして、異端児達を助けるという決断を下したベル達も当然駆逐される対象になる筈だった。人間でありながらモンスターの味方をするという禁忌、当然オラリオにベル達の居場所はなくなる。主神は強制送還され、その眷族達も迷宮都市から追放される事になっただろう。

 

しかし、そうはならなかった。自分達以外に異端児達の味方をしていたかの仮面の男により、迷宮都市の全ての敵意は彼に向けられ、その敵意もまた彼の手によって粉々に砕け散ってしまった。

 

何より彼が齎した衝撃的過ぎる事実により迷宮都市の意識は異端児達から離れつつある。その中で中小規模に過ぎないヘスティア・ファミリアが注目される事はなく、精々蒼のカリスマに巻き込まれた可哀想な派閥としか認識されていないだろう。

 

自分達に関心の目が向けられない。それ自体はベル達にとって有難い話だ。今は下手に目立ちたくはないし、仲間や敬愛する主神にこれ以上迷惑を掛けたくないのだから。

 

でも………ベルは後ろ髪が引かれる思いで足を止め、バベルの方へ振り返る。

 

「………シュウジさん」

 

異端児事件の際に唯一傷付かなかった白亜の塔、ベルが見上げるかの塔では現在、歴史的瞬間が起ころうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────神々は知る。世界には自分達では知り得ない未知なるモノが存在している事を。

 

────神々は思い知る。退屈を嫌い、未知を求め続けてきた彼等が、その未知により恐怖を覚える事に。

 

────神々は思い出す。神と対になる魔物達の王の存在を。

 

「それでは皆さん、改めてご挨拶としましょう」

 

神会にて集った数多の神々、敵意を剥き出しにする者、恐怖を顕にするもの、怯え、震えるだけのもの、頬を引き攣らせ苦笑いを浮かべる者、そんな神々を一切モノともせず。

 

「私は異端児達を束ね、統率するゼノス=ファミリアの首魁となる者」

 

「【魔王】シュウジ=シラカワ、若輩者ではありますが、何卒宜しくお願いします」

 

不敵に笑みを作り、その様子はまるで………宣戦布告をする様だった。

 

 

 

 

 




Q.今後、ダンまち世界はどうなるの?

A.ボッチは神ではなく魔王として君臨するので、それはもう大変な事になりますね。魔王だから神と違ってダンジョンに対する制約はないし、変に隠したりはしない。

時にはレヴィスを始めとしたダンジョンの謎に迫ったり、
時には外で暴れてる黒龍をテイムしたり、ダンジョンで明らかになった秘密の情報をモノによっては容赦なく開示していきます。
また、異端児達の地上での居場所作りの為にガネーシャと協力関係になったり、ウラノスやフェルズを振り回したり、無自覚でやらかしたりしますが、基本的行動は善意寄りです。
また、復興には異端児達も陰ながら手伝ったりしてますので、一部の人間には好印象を抱かれたりしているので、人とモンスターの共存は割りと速く来ることになるかもしれません。

何れにせよ、相変わらずボッチがやらかしていくのは変わりません。


Q.イケロス=ファミリアはどうしたの?

A.ボッチ「面倒だから主神纏めて縮退しといた」

以上、ダンまち編でした。

それでは次回もまた見てボッチノシ

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