お待たせしました。
Fate編、開幕です。
───王様、ギルガメッシュと名乗る人物に拾われて早数年。俺の住む街、冬木の街の人々はあの時の災厄から外面的には立ち直り、現在は穏やかな日々を過ごしている。
今年で中学に入る俺、白河修司もあの日の災厄───《冬木の大火災》から生き延びた一人で今は王様の庇護の下で不自由の無い生活を送らせて貰っている。
王様は変わった人で、俺一人を生活させる為にワザワザ会社を興して冬木の新都に大きいマンション建てて其処に住まわせてくれたり等の普通の人には中々出来ない事をやってのける人だ。
最初はそんな王様に気後れしたが、王様に「王の施しを拒むなど、今の貴様にはその資格はない」と一蹴され、俺は選択の余儀なくここに住むことになった。
初対面の時から思ったが、王様は一見気難しい人に思えるけどその懐はとても深くて大きく、俺のような孤児が相手でも関係ないとばかりに平等に接してくれている。
───まぁ、その分時折無茶振りをかましてくる時もあるのが悩みの種なんだけどね、いきなり外国に行って悪漢を駆逐してこいとか、野生のライオンを捕まえてこいとか。────それも自分の成長を促す為のモノだと考えれば……受け入れられるかな。
ともあれ、王様ことギルガメッシュさんのお陰で今日まで俺は平穏無事に生きて来れた。その日々の中で王様の知り合いの人らしき神父に護身術である中国拳法を習ったり出来た。
他にも外国に赴いた際にエルメロイさんに助けてもらったり、ル、ルル……金髪ツインドリルの娘にも色々世話になったりして人との繋がりの大切さを学ぶことが出来た。
あの日、あのまま朽ちて死ぬだけかと思われた自分を救ってくれただけでなく、厳しくも温情のある日常を送る事が出来た。そんな王様に少しでも恩返しがしたいと色々模索しているのだが、中々上手くいかない。
「そんな訳で、何か良い案ありませんかね? 言峰師父」
「相変わらず、余計な気の回しをしているな、お前は」
迫り来る鉛の様な拳を避け、懐に潜って返しの蹴りを放つ。体勢が流れた所への一打、確実に入ったと思われたソレはしかして虚しく空を切るだけに終わる。
「いやね、最近このままじゃ不味いと思うんですよ。王様に面倒見て貰って早数年、衣食住のみならず自分に成長の機会をくれた人に何らかの恩返しをしたいと思うのが人情って奴じゃないですか」
「あの荒唐無稽な無茶振りを成長の機会と捉えるか」
呆れの口調とは正反対に男の放つ拳には一切の遠慮がなかった。自分よりも二回り近い年下の少年に向けて放つには剰りにも殺意に満ちた一撃、しかし少年にはその拳の軌道が完全に見えていた為それを受けることは有り得なかった。
ワザと紙一重で避け、体を回転させて裏拳を放つ。体躯の差を技術で乗り越え、威力を上乗せさせてのその一振りは190を超える成人男性を右へ吹き飛ばさせるには充分なモノだった。
「っ、」
これまで涼しげだった男の表情が初めて歪むが、男も並大抵の者ではなく、追撃してくる少年の動きに対応する。点から線、線から円、男が修める技の術利に因んだ緩急の付いたその動きに少年もまた応戦する。
「ならば、またいつぞやみたいに手料理を振る舞うか? それならば私も協力を惜しまないが?」
「うーん、それも考えたんだけど、王様って麻婆嫌いみたいなんだよね。あの時は臣下が作ったモノだからと完食してくれたけど、何か凄い無理をしていたみたいだし」
思い返すのはまだ自分が王様の庇護下に入ったばかりの頃、当時はまだ家事全般に馴れておらず四苦八苦していた自分にあの黄金の王様はいきなりとんでもない無茶振りを振ってきたのだ。
『シュウジ、今度の休みまでにお前が至高と信ずる料理を一品用意せよ』
まだ料理の“さしすせそ”も覚えきれていない子供にいきなりの無茶振り、当時の自分はどうしたら良いか分からず、取り敢えず渡されたお金を手に街へ散策に出掛けるが、料理の深さなどまるで理解できていない自分には王様の要求は正に雲を掴むような話で、このまま捨てられるのではないかとその時は滅茶苦茶不安に思ったっけ。
それでも天は自分を見逃さなかったのか、時たま公園で項垂れていた自分を見付け相談に乗ってくれた言峰師父のお陰で自分の信ずる至高の一品に辿り着く事が出来た。冬木の商店街に今も在る老舗の中華店【紅州宴歳館泰山】の麻婆豆腐、幼くもその味に魅了された自分は師父の指導の下でその味に近付けるように必死に修練を重ねた。
その結果、王様の言う自分なりの一品を出すことが出来たのだが、どうにも王様の舌には合わなかったのか、酷く悶絶するだけで味の感想とかはなかった。その後、王様の裁定は有耶無耶に終わり、王様の最初の無茶振りはグダグダのまま終わった。
おかしいなぁ、言峰師父からは太鼓判押されたのに……何がいけなかったのだろう? 以降、王様は俺を家の中での麻婆作りを全面的に禁止にしてきた。解せぬ。
「勿体ないよなぁ、あの麻婆美味いのに」
「───まぁ、機会はこの先あるだろう。焦らず気軽に考えると良い」
そう言う師父の口元には何故か笑みが浮かんでいた。……前々から思ってたけど、この人も何て言うか色々難儀な所があるよね。
人の頑張る姿を見るのが好きみたいだけど、どこか歪なんだよなぁ、なんて内心思いながらも二人の組み手は更に速さを増していく。一介の少年と教会の神父では決して辿り着けない境地、更に言うならば神父の方は通常とは異なる術理を使ってブーストを掛けているのに対し、少年は
軈て二人の組み手は互いの拳がぶつかり合うことで終局を迎える。ひび割れた石畳、窪み、抉れたその場所で本日の少年の稽古は終わりを迎えた。
「いちちち~、相変わらず硬いなぁ師父は。ダイヤモンドかってぇの!」
「そう言うお前も速さが昨日より上がっているが? 全く、イチイチ捉えるのに此方がどれだけ苦労したと思っている」
「そりゃ成長期だからね、速くもなるさ。て言うか師父のあの硬さって何? 何か秘訣でもあるの?」
「呼吸法の一つだ。それ以上は自分で調べろ」
「チェ、相変わらずスパルタだなぁ。まぁいいや、自分で調べて学ぶのも学問の一つってね。それじゃあ言峰師父、今日もご指導ありがとうございましたー!」
「あぁ、気を付けて帰るといい」
速足で駆け抜けて教会を後にする。少年の後ろ姿を一瞥し、片付けを始めようとする言峰はあの日初めて少年と出会った日の事を思い出す。
『ギルガメッシュ、何だ、その子供は』
『何、気紛れに拾い物をしただけの事よ。それよりも綺礼、この童とのパスを繋げろ』
『正気か? こんな子供、1日と持ちはしないぞ?』
『さて、それは結果を御覧じろ。と言いたい所だが、我の見立てではこの童、中々面白い事になりそうだぞ?』
あの日、英雄王の魔力の餌になる筈だった少年は今も平然と生き長らえている。最古の英霊に魔力を注ぎ続けると言う拷問に身を置きながら、当の本人はなんて事ないように振る舞っている、それがどれだけ異常な事なのか、最早喜劇的にすら思えてしまう。
更に言えばあの白河修司という少年はそんな状態でありながら他国へ渡り、修行と称して死徒を三体屠っている。まだ10歳になったばかりの少年が、魔術とは何の繋がりも持たない筈の子供が、死徒を悪漢と断じて倒している。
『一体何なんだったんだろうアレ、いきなり襲ってきたかと思って蹴り飛ばしたらいつの間にか消えてるし、最近の悪漢と言うのは逃げ足が速いな~』
何なんだとは此方の台詞である。幾ら不完全な死徒だとは言え、通常の人間とは力の出力からして異なっている。化生に落ちた魔術師を何も知らない子供が一蹴するなど悪夢以外の何者でもない。太陽の加護でも付いているのか?
修司に関する全ての情報を揉み消した言峰は当時の忙しさを思い出してやるせなさを覚える。が、それ以上に
興味が尽きない。あれが今後どのようにして苦難に苛むのか、そしてその苦難は世界にどの様な変化を齎すのか。予想も想像も出来ない結末に言峰綺礼は高鳴る筈のない胸元を抑える。
「さて、次は妹弟子の方か。やれやれ、隠し事をしながら師匠面をするというのも、難儀なモノだ」
その口振りとは逆に言峰の口許は喜悦に歪んでいた。
◇
───冬木の新都、深山町とは反対方向に位置する新都。其処に近年新たに建てられた巨大なマンションが存在する。地下三階、地上20階建ての冬木には似合わない浮き彫りの高層マンションは其処に住むことを許されたある会社の従業員数名と自分こと白河修司で構成されていた。
その最上階に向けて修司は階段を掛け上がっていく。息を切らさずペースを落とさず、その手に途中で手にした買い物袋を持ちながら、落ちていく陽射しよりも早く最上階へ昇っていく。
「よし、大体時間通りだな」
夕焼けに照らし出される冬木の街並みを見下ろしながら、用意された部屋へと入っていく。何故自分の部屋が最上階なのか、このマンションの所有者曰く『有象無象の雑種を見下ろす悦を知れ』とのこと、よう分からん。
「ただいまー」
「帰ったか」
部屋に入るとテレビの前のソファーに座る自分の保護者兼上司がいた。
「あれ? 王様がいるなんて珍しい。会社の方はもういいの? 確か重要な会議があるってシドゥリさんが言ってた気がするけど?」
「その様な些末ごと疾く終わらせたわ、今日は他に目にするに値するものが無くてな、気晴らしに立ち寄った迄だ」
「じゃあ何か食べてく? 帰る途中運良くタイムセールに遭遇してさ、大抵のモノなら作れるよ」
「ほう? 言ったな、この我の食指が動く程の品と言うのなら、生中の品では満足出来んぞ?」
「ならやはりここは秘伝の麻婆を──」
「おいよせやめろ」
額から大粒の汗を大量に流しながら止めに入る王様に修司は苦笑いで冗談だと軽く流す。命拾いしたと深々と息を吐く王様、それを尻目に修司は夕飯の準備に取り掛かる。
手際のよい動き、そこに一切の無駄はなく一人の料理人と化した修司、王様に言われ日頃から料理をする事になった今年中学二年になる少年は、偉大なる王の舌による厳しい裁定と審査により三ツ星レストランで働いても遜色ない実力を有する迄に至った。
「───なぁシュウジ、貴様今年でいくつになる?」
「んー? 14だけど?」
「そうか」
そんな短い遣り取りに修司は一瞬疑問に思うが、それよりも重要なのは鍋の方だ。折角恩人に手料理を振る舞う以上半端な品は出せないと意気込む修司にはその時の王の意図など知る由もなかった。
「───」
黙したまま、ガラスの外にある街並みを見下ろす王、その瞳の色には退屈の文字が滲み出ており、内心でつまらんと吐き捨てる。
太陽は沈み夜の帳が街を覆いあちこちで光が点り、それに向けて人々は帰路に着く。その様が光に群がる⬛️の様でそれが非常に────。
「王様ー、出来たよー」
「うむ、佳いぞ。我の前に差し出すことを許す」
「ははー」
街に住む人々とは対照的に明るい声色で王は修司に振り返る。ワザとらしくふんぞり返る王に修司もまたワザとらしく頭を下げる。
出された品はビーフシチュー、肉は柔らかく口にしただけで蕩けてなくなっていく。味付けも上品で確かにそれは王が食するに相応しい気品を持ち合わせていた。
「どうかな王様、今回は割りと自信ありだけど」
「たわけ、味付けに今少し踏み込みが足らんわ。60点」
「くぅー、相変わらず厳しい!」
しかし、今の時点で満足させるわけにはいかないと王は敢えて厳しい裁定を下す。この臣下にはもっと上へ目指して貰わなくてはならない、料理でも勉学でも武術でも、全てに於いて上を目指してもらわなければならない。
何せ、あと数年後にはこの街に戦争が起きる。己という最上の英霊に魔力を注いでいる以上、魔術の類いに頼ることはできず、来るべき戦に挑むのなら目の前の臣下にはもっと成長して貰わなければならない。
いずれ来る愉悦の時まで。
Q.ここのボッチは魔術を使えないの?
A.英雄王に魔力を注いでいる為、使えません。
使う必要がないとも言う。
Q.ボッチは魔術とか英霊の事を知らないの?
A.知りません。英雄王の事も昔の人の名前を借りた現代人と認識しております。(イギリスにもアーサーという昔の王様の名前を着けてるし、それに似た感じかな? という程度)
もしくは魔術の一種で無意識にそう思わされているかも?
Q.このボッチは一人で外国に行ったの?
A.一応監視を込みで言峰が遠巻きで見ています。時々英雄王も参観してますが、基本的に見守るだけ。
Q.ボッチに対するAUO、優しすぎない?
A.ボッチに対してのみ、賢王成分多め(8:2の割合)
Q.ボッチの麻婆食べて英雄王平気だったの?
A.冥界の女主人「なんか今一瞬英雄王がいた気がするのだわ」
Q.このボッチと本編のボッチはどういう関係なの?
A.敢えて例えるならゲッターとゲッターエンペラーの様な関係。
それでは次回もまた見てボッチノシ