『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回もあまり話は進みません。
スミマセン。


その3

 

『初めまして! 俺、白河修司って言います!』

 

それはあの大災害の時から数えて三度目の邂逅だった。自衛の手段として私が嗜む八極拳を学びたいという少年、当時の私はこの少年の底の深さをまるで見通せていなかった。

 

我ながら酷な修練をさせたと思う。師としての私の言うことを正しいと盲信し愚直な迄に従う少年、その年相応の浅はかさにつけ込んで、私はこの少年に大人でも音を上げる修練を課した。

 

しかし少年はこれを乗り越えた。手足の皮が割け、爪が捲れ、骨が折れようとも痛みで泣くことはあっても喚くことはなかった。私の課す理不尽とも呼べる課題を齢十にも満たない幼い少年は屈する事無く全て成し遂げた。

 

英雄王に言われ仕方なく面倒を見る事になり当時は辟易としたが、その年齢に似合わない必死な少年に私は問わずにはいられなかった。何故そこまで強さを求めるのかと。

 

少年は応えた。理不尽を許さないと、理不尽に、不条理に他者を踏みにじる輩を許さないと、その為の強さが欲しいと、少年は強い意思を秘めた瞳で私を見た。

 

成る程、あの大災害から生き残りあの(・・)英雄王に見初められるに相応しい解答だったと私は納得した。

 

そして同時につまらない(・・・・・)とも思った。目の前の少年はあの大災害に生き延びて置きながら、疵らしい疵を負っていない。人格を変質させ、感性を歪ませず、真っ当に真っ直ぐに成長している。

 

つまらない、あれだけの体験をしておきながらなんて面白味の無い少年だろう。口にしている言葉は立派だが、それは真に強い者だけにしか許されぬ【英雄】の在り方だ。あんな悲劇に見舞われた人間がそんな純粋である筈がない。

 

故に私は今一度少年に……修司に試練を課した。用意した巨大な岩石を砕き、破砕して見せろと。これ迄の修司ならばギリギリ乗り越えられる試練とはまるで違う。確実に、絶対に乗り越えられない試練を前に流石の彼も息を呑んだ。

 

自分の身長にも勝る岩石、生半可な力では太刀打ちなど出来はせず、下手をすれば拳の方が砕かれてしまう。戸惑い、困惑する修司に私は愉悦を覚えた。

 

我ながら業の深い悪癖である。しかし、これを乗り越えなければどのみち理不尽になど抗えはしない。何故なら理不尽や不条理とは、人の身では抗えられぬ運命そのものだからだ。これも迷える者を救う聖職者の勤め、先達者の役割なのだと尤もな理想論を掲げて必死に岩石に拳を打ち込む少年を肴に愉悦を満喫して数時間───。

 

『出来たー! 師父ー、出来ましたよー!』

 

『おっふ』

 

変な声が出た。

 

え、ちょっ、なんで出来るの? 何で出来ちゃってるの? その岩石、一応魔術で強化された代物なんですけど? ていうか、今の動きなに? 私そんなの教えてませんけど?

 

両手を血に染め上げ、涙を流しながらもやり遂げた自身の偉業に喜んで飛び上がる修司に私は言葉を失っていた。修司の前には岩石だった粉粒、そしてその傍らには事の顛末を見ていた英雄王が腹ただしい程のドヤ顔をこちらに向けていた。しばきたい。

 

『王様ー! 来てたの!? 見てたの!?』

 

『フハハハハ! おうとも、見てたぞ修司、この我自ら貴様の奮闘を全てこの目に映していたとも、そして見事であった。よくぞそこの性悪神父の目論見を打ち破った!』

 

嘘つけ、お前来たの数分前じゃん。

 

『フハハハハ! さて、試練を乗り越えた勇者にはそれに見合った褒美を授けなければならん。さぁ修司よ、我が臣下よ、お前はこの英雄王に何を求む?』

 

『え? んーと、えーと………まーぼー豆腐が食べたい! 泰山の!』

 

『おっふ』

 

今度は英雄王から変な声が出た。

 

『フフフ、良いだろう。ならばここは私が奢ろう。そもそも弟子に試練を課したのは私だ。ならば私こそがこの場を持つのが道理だろう』

 

『こ、言峰!?』

 

『え!? いいんですか師父!』

 

『勿論だ。なんだったらお代わりも三杯までなら良いぞ』

 

『大盛りでも!?』

 

『無論だ』

 

『こ、言峰、貴様ァーッ!』

 

『何を憤る英雄王? この少年は試練を乗り越えた。であるならば褒美を取らせるのは当然、よもや親愛なる臣下の頼みを無下にする訳ではあるまい?』

 

『王様、こないのー?』

 

『ぐぬぅ!?』

 

褒美を授けると言った手前自尊心の塊である英雄王が臣下の前で前言撤回など出来るはずもなく、最後はおのれおのれと呪詛を吐きながら泰山の暖簾を潜った。

 

出された品を旨いと頬張る少年、この日私は十にも満たない少年に敗北したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*月※日

 

日々の振り返りとして唐突だが手帳を二つほど購入し、今日から日記とメモを書いていく事にした。最近変な夢を見たりして気になったその内容を書いたりするから、どちらも実質日記兼手帳の様なモノだ。

 

それで今日の、というかこれ迄の出来事なのだが……生憎自分は王様の無茶振りの件もあって表向きでは保護者の都合で度々海外に出向く事になっている多忙の人間として知られており、学内では気安く会話を出来る友人はほぼいない。

 

いるとすれば違うクラスにいる赤毛が特徴的な衛宮士郎だったり、海藻類みたいな髪をした間桐慎二だったり……あれ? もしかして俺、友達少ない?

 

ま、まぁともあれ少なくとも二人ほど悪友と呼ばれる友人が二人いる為ヨシとしよう。ただこの二人、自分が言うのもなんだけど少々癖が強く、衛宮に至ってはそのお人好しさが災いしてよくトラブルに巻き込ま………いや、首を突っ込んだりしている。

 

何でも正義の味方を目指しており、困っている人を見過ごしておけないのだとか、色々突っ込みたい所はあるが、そんなお人好しな衛宮のフォローしたりするのが俺達三人の付き合い方だったりする。

 

間桐は間桐で陰湿な部分はあるけれど悪いやつではなく、非常に分かりにくいがお人好しな衛宮に気遣う所を何度か目にしたりする。最初は自分にも結構突っ掛かってきた時もあったが、勉学の成績を競いあったりする内に程々に接していくようになった。相変わらず嫌味を口にする奴だが、これはこれで味のある面白い奴なのだ。

 

そしてそんな間桐には妹さんがいる。間桐桜という名前で自分達より一つ下の後輩、髪色と雰囲気が大分変わってたから最初は気付かなかったが、彼女とは以前別の所で出会っている。

 

昔、冬木の大災害よりも前に俺は大好きだった祖母、フィーネお婆ちゃんを亡くしたばかりの俺はその事実に向き合えず、近くの公園で毎日不貞腐れていた。

 

不貞腐れていじけて、自分の殻に閉じ籠っていた自分、そんな自分を救いだしてくれたのが彼女だったのだ。献身的で麗しく、優しい少女、そんな彼女に慎二の紹介で再び出会えた事に俺は柄もなく舞い上がり恥ずかしくも噛み噛みになってしまった。恥ずかしィッ!

 

ただ、向こうは自分の事など覚えていないのか、不思議に首を傾げるだけだった。……うん、まぁ仕方ないよね。桜ちゃん───いや、間桐さんも俺もまだ小さかったし、覚えてないのも無理ないよね。

 

そんな訳で一応友人二人をゲットした自分は程々な付き合いで程々に遊んだりしていた。ただやはり衛宮は衛宮で率先して面倒ごとに首を突っ込む為、程々と言うわりには結構濃い日々を過ごしている。

 

この間なんて中学生を苛める高校生に向かって突っ込んでいったし、相手も不良みたいだったから下手すれば騒ぎになっていたぞ。幸いにも相手側が大人で自分の説得(物理)に免じて許して貰えたけど、このままじゃいつか衛宮の奴、潰れちまうぞ? 衛宮とは折角家事の事で話せる数少ない友人なのだ。つまらない事で潰されるのは困る。

 

もう少し慎二を見習って欲しいものだ。慎二は慎二でズル賢いから、ああいう修羅場を切り抜けるの得意そうだし、いずれにせよ、衛宮はもう少し考える事を覚えてもらいたいモノだ。

 

それを本人に毎回口を酸っぱくして忠告するのだが、あまり効果はない。いい加減気付かないといつか大事なものを見失いそうで見ていておっかないんだよなぁ。

 

正義の味方という目標も良いけど、それを見ていて悲しむ人がいるってこと、分かっているのかなぁ。

 

まぁ、そんな訳で自分のこれ迄と友人二人の話をした所で今回は終わりにする。

 

………あれ? 俺の話題、あまり無くね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──眠ったか」

 

日記を書き終え、就寝して夢の中へと旅立った臣下を確認し、英雄王は音を立てずに部屋へ堂々と侵入する。

 

彼の目的は修司が書いた日記───ではなく、その隣に置かれた落書き帳と書かれた一冊のノートだった。それを手にして部屋を出てリビングのソファーに腰かけ、手にしたノートを広げると、そこには複雑に記された図面と専門用語の数々が所狭しと書き殴られていた。

 

「ほう」

 

その記された図面と思われる絵と数式、そして専門用語の数々に英雄王は上機嫌になる。それは全てこの世ならざるもの、今の現代では絶対に存在しない科学技術の結晶達。

 

特殊な粒子とそこから生まれる合金、太陽光発電や軌道エレベーターの建築の工程、他にも様々な超技術の代物がこのノートには記されている。

 

端から見れば子供の乱雑な落書きと見られてしまうモノ、しかし英雄王は違った。最古の王でありながら……いや、人類の裁定者である彼だからこそ確信出来た。これに書かれたモノは一部を除いて多くが実用可能な代物なのだと。

 

もしこれ等全て実用化されれば地球の文明は数世紀ほど進む事になる。昨今停滞気味だった人類が一気に先の時代へ進む事になるのだ。

 

始めは奇妙な夢を見たという臣下の証言から始まった。何だか妙な知識が頭の中に浮かんできてそれらを書かないと落ち着かないという臣下からの相談に興味本位で助言したつもりだが、想像を遥か斜め上を行く内容に英雄王ギルガメッシュはワクワク(・・・・)していた。

 

「やはり、お前は面白い奴よの」

 

何故修司がそんな夢を見ているのか、そんな事はどうでもいい。重要なのは今後この臣下が何処まで自分を愉しませてくれるのか、成長し、向上し続ける臣下に英雄王はその行く末を楽しみにしていた。

 

 

 




Q.ボッチは桜を助けないの?
A.助けようにも彼は桜が間桐にアレコレされているのを知りません。更に言えば修司は中学の頃に外国に王の無茶振りに答えるため出張している為、兄以外接点があまりありません。

Q.桜はボッチをどう思ってるの?
A.Jc桜「……無駄に元気な人、です」

Q.AUOの会社って?
A.既に世界シェアにも割り込む超大手企業に育ちつつあります。この時点でワクワクザブーンは健在、今後更に勢力を拡大する模様。

……実はボッチの海外出張(笑)にも関係があったりしなかったり。

Q.言峰神父が愉悦ってないけど?
A.いつから自分が愉悦する側だと錯覚していた?

Q.その海外出張(笑)で他に出会ってたりしないの?
A.出会ってます。例えば中国では眼鏡を掛けて黒髪ツインテールな読書好きにあったり。
他にも赤髪の人形士にだったり、カレー好きな修道女にだったり、ユグ何とかって人達と会ったり、色々な人達と縁を築いてます(一方的に)



次回からは多分本格的に士郎達が出てくるかも。

それでは次回もまた見てボッチノシ


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