『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回、オリジナル要素が大分強いです。

これは違う、これだとおかしい、矛盾点は多々あると思いますが、暖かい目で見てくださったら幸いです。

……もしかしたら大幅修正するかも。


その5

俺がその男と出会ったのは中学一年の秋、文化祭の看板作りをしていた時だった。

 

『ちょっと君、一人でなにしてるん?』

 

上級生と文化祭の役割について少し揉めて、流れで俺が看板作りをする事になり、仕方ないなと思いながら作業に入った最中、後ろで見ていた後の悪友である間桐慎二の更に後ろからソイツは現れた。

 

『あん? 何だよお前、コイツに何か用なのかよ』

 

『いやね、俺の役割早めに終わっちゃってさ~、暇だから他にやることないかなって学内をブラついてたんだよね。で、そこの赤毛の少年一人で何してるんだ?』

 

『コイツ、バカな上級生にワザワザ楯突いたのさ、その所為でコイツが代わりに文化祭の看板を作ることになったってワケ』

 

『まるで意味がわからんぞ』

 

『僕だって知るもんか』

 

後ろで慎二の呆れに満ちた溜め息が聞こえてくるが、構わず作業を続ける。どう言われようが関係なかった、“誰かの為に何かが出来る”なら外の声は気にならなかった。

 

『フム、どうやら塗料と木材が足りないようだな。よし、ならこれから調達してこよう。そこのワカメ君、ちょっと手伝ってくれるかい?』

 

『あぁ? 何で僕まで手伝わなきゃいけないんだよ、やるならやりたい奴だけやればいいだろ?』

 

『そうだぞ、これは俺が勝手に決めた事なんだから、アンタが手を貸す事なんて──』

 

『いやだって暇なんだもん。いいじゃないか、これも思い出の1ページになると思えば。俺、王様───保護者の無茶振りで海外にいることが多いし、あまり皆との思い出がないからさ~』

 

『海外に行ってるって、お前、もしかして4組の───』

 

確か聞いたことがある。確か一年の四組には校内でも指折りの秀才で勉学に於いては学年どころか全国でもトップに立つと言われ、運動能力も卓越し文武に長けた怪物、その凄まじい傑物ぶりから並び立つ者がいないという畏怖を込められて冬木では一部恐れられている者がいると。

 

『お前が【ボッチ】の白河か!』

 

『オイぃ? 誰だその不名誉極まりない渾名付けたの? 初耳なんだけど? え、本当にそんな渾名が罷り通ってるの?』

 

明らかな蔑称を一周回って名誉の称号にまで昇華させた本人は初めて耳にした渾名にショックを受けて地面に項垂れる。まぁ、普通はそう思うだろうなぁ。

 

『グフ。ま、まぁいい、それは今は置いておこう。その渾名を付けた元凶はあとで縛り上げるとして──』

 

どうやら白河は精神面も割りとタフな方らしい。いや、ダメージ自体は負っているみたいだが……。

 

『ま、まぁそんな訳でさ。俺も学生の内には出来るだけ皆と共有出来る思い出が欲しいのさ、そう言うわけで、俺も手伝うよ。勿論、そこのワカメ君もね』

 

『まぁ、そこまで言うなら良いけど…』

 

『はぁ!? 何で僕まで!? 勝手に巻き込むんじゃ──』

 

『逃がさんぞ、お前にはあとで俺の渾名について話して貰わなきゃいかんからな』

 

『ヒッ』

 

先程とは明らかに異なる異質な気が彼から放たれる。成る程、傑物と言うのはどうやら間違いでは無かったようだ。中学生が放つモノとは思えない圧力に慎二は小動物の様に縮こまっている。

 

『さて、それじゃあ始めようか。一人よりも二人、二人よりも三人、折角だからそのバカな上級生では絶対作れないようなド派手な看板を作ってやろうぜ!』

 

『お、おー』

 

『なんで僕まで……』

 

と、そんな訳で強引に決まった即席の三人でのチームは俺が考えていたよりも凄まじく効率良く動けた事もあり、日が傾いて暗くなり始める頃には全ての作業を終わらせることが出来た。それも、最初に想定していたよりもずっと出来映えの良い代物として完成したのだ。

 

資材を白河が集めて俺が組み立て、慎二が装飾を飾り付ける。三人がそれぞれ手際よく出来た品物はそのギミックの豊富さとクオリティの高さからちょっとした話題となったのだ。

 

何せ完成品は文化祭とは名ばかりのド派手さで、とても中学生が作ったとは思えない出来映えだった。確かに俺達も途中から看板作りから作品作りという意識に切り替わり、つい夢中になって打ち込んでしまったのも原因の一つだろう。

 

けれど、それでも正直やり過ぎた気がする。キラキラと輝く装飾品、自動開閉となった門、その両端には何処から持って来たのか恐竜とロボットの巨大模型、恐竜の口からは炎を吐きロボットの方には目と胸元が光るギミックがそれぞれ搭載されていた。

 

最早看板という枠組みから逸脱した代物に俺達は焦ったが、やっちまったモノは仕方ないという事でその時は逃げるように其々の家へ帰った。

 

当然、文化祭当日にはその派手さから学校は大騒ぎとなり、来場する人達の中には県外からもやってくる人もいたりした。文化祭にそぐわない看板兼門にPTAの人達の耳にはいるのは自然な流れで、当然俺達もその流れに呑まれる事になる。

 

が、当時校長だった人が良識のある大人だった為に俺達自身に罰則が課せられる事はなく、寧ろ俺達に仕事を押し付けた上級生に罰を強いられる事になった。

 

晴れて無罪となった俺達

 

『はぁー、ったく、こんな騒ぎに巻き込まれるの、僕は二度とゴメンだからな!』

 

『まぁまぁ、良いじゃないか。三人とも怒られる事なく済んだんだから』

 

『それに慎二だってあの上級生が怒られるのを見て笑ってたじゃないか』

 

『当然さ、元凶が痛い目を見たんだ。スカッとしたよ』

 

それからだ。この日を境に俺達が友人関係になれたのは、慎二や修司と知り合えて慎二の妹である桜とも知り合えた。

 

今年で三年、俺達も受験に備えて準備をしなければいけない。俺達は三人とも穂群原学園へ進学する予定だ。

 

そこで始まる学校生活、そこで待っているのが平凡な毎日か、それとも非日常の連続か、どちらにしてもきっと退屈にはならない日々が待っているのだろう。

 

───ただ一つだけ、修司から聞かされた言葉の中に今でも引っ掛かる事がある。

 

『なぁ士郎、特撮のヒーローモノって基本的に戦隊モノとライダーモノが二種類あるじゃん。あれって、一見別物に思えるけど、実は結構似てる部分があるんだぜ?』

 

昔から切嗣の跡を継ぐ為に、正義の味方になる為に行動していたから、そう言った娯楽に手を出してこなかったから、修司の言っている意味が理解できなかった。

 

修司は一体何が言いたかったのか、それとも意味など何もないのか、高校受験が間近に迫った今でも俺には理解できていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

×月△日

 

高校受験も無事終わり、後は卒業を待つばかり。海外へ出向く事が多い俺だが、中学が義務教育なのと王様が学校に口添えしてくれたからどうにかこうにか卒業まで漕ぎ着ける事が出来た。

 

で、折角卒業までの間衛宮達とどこか遊びに行こうと一人計画を立てていた俺なのだが、例の如く王様に海外出張(笑)を命じられてしまった。

 

いやまぁ、いいんだけどさ。衛宮も藤村組の人達とお祝いするみたいだし、間桐兄妹もなんか忙しそうにしてたし、どちらにせよ計画立ててたの意味なかったし、中学最後の休みも特に予定無かったし。べ、別に寂しくなんかないんだからね!

 

と、そんな俺の嘆きなど知ったことじゃないと始まった今回の海外遠征、相変わらず悪漢退治かな? と気楽に考えていた俺なのだが、今回はちょっぴり毛色が違っていた。

 

まず、前回相手した手品師の人達がどこから話を聞いてきたのか俺に同行しろと勧誘を強行してきたのだ。いや、俺手品とか出来ないし無理ですから、そんな俺のやんわりな断りとはお構いなしに話も聞かず襲い掛かってきたのだ。例の如く、良く分からない勧誘方法で。

 

いやいいから、そんな骸骨剣士を差し向けられても困るから、糸を鳥とか狼に変えられても驚きはしても怖くはないから、どちらかと言えば前回の獅子劫さんやルヴィアさんの方が怖かったから。

 

穏便に済ませようとしてもしつこく襲ってくるので、仕方なく応戦、圏境からの不意打ちアタックで無力化しておいた。

 

しかし驚いた。今俺がいるのはブラジルなのに手品師の人達って何処にでもいるもんなのな、もしかして俺が知らないだけで手品って今世界的に大流行してたりするのかな? 今度王様に聞いてみよう。

 

そもそも今回の王様からのお題はいつもよりあやふやで“その目で世界を見てこい”というものだった。いつもより真剣な眼差しで言うものだからいつもより確りと準備してきたのに、何だかちょっぴり拍子抜け────(日記は此処で途切れている)

 

 

 

×月Ω日

 

ビックリした。昨日珍しく取れた宿で日記を書いてたら、いきなり窓から女の人が乱入してきていきなり殴りかかって来やがったのだ。

 

その女性はバゼットと名乗り、何か良く分からない理由で俺を捕らえようとしているらしく、中坊である俺に容赦なく殴りかかって来たのだ。

 

バゼットさんは細い外見とは裏腹に結構重い打撃を打ってくる。師父との対人戦を学んで置かなかったら、もう少し苦戦したかもしれない。が、師父から以前教わった呼吸法と八極拳により、何とか無力化させる事が出来た。

 

壊された宿の窓の請求はこの人にして貰うことにして、俺はブラジルを出て今度はドイツに向かうことにした。

 

 

 

×月α日

 

予想してた通り、ドイツはやっぱ寒かった。季節も冬真っ只中だし、寒さが日本と段違いだ。でも寒い所は景色が綺麗と言うし、ちょっと冒険も兼ねて俺は余り人が寄り付かないとされる森の奥へ進むことにした。

 

そしたらスゲーでかい城があるからもうびっくらこいた。カメラとかあったら速攻撮りたい位見事な景観だった。これなら王様や衛宮達にもいい土産話が出来るなーなんて思いながら周辺をさ迷ってたら、何か複数のメイドに襲われた。

 

何でいきなり襲ってくるの!? と一瞬考えたけど、俺ってバリバリの不法侵入者なんだよね。良く考えたらこんな立派なお城がある所なんだもの、私有地に決まってるじゃない! 俺のバカ!

 

すぐに許してもらおうと頭を下げて謝罪しようにも、メイドの皆さんたら殺意マシマシで鈍器やら刃物とか容赦なく振り下ろしてくるんだもの、コミュニケーションの成立以前の問題だ。

 

というか、メイドの人って皆あんなに戦闘に秀でているもんなの? 先日のバゼットさん程でないにしろ、普通そう言う戦闘が得意なのって執事の人なんじゃなかったの? ソースはこの間見たアニメから。

 

襲ってくるメイドさん達を何人か無傷で無力化し、全力で街へ引き返し宿に戻った俺は外国のセキリュティの高さに感心の涙を流すのだった。

 

 

 

×月*日

 

ドイツからフランスへ赴いて二日目、今回最初の悪漢=サンに遭遇。金髪長髪のお嬢さんに襲い掛かって言いたから軽めの挨拶をしながら一蹴、相変わらず煙だけを残して逃げた悪漢を尻目に俺はお嬢さんに声を掛けた。

 

お嬢さんはレティシアさんと名乗り、歳は俺とそんなに変わらない様で、俺を悪漢から救ってくれたお礼という事でフランスの首都ことパリの案内をして貰うことになった。

 

何とも有難い話だが、レティシアさんは男性恐怖症らしく終始俺との距離を開けていた為、あまり親交を深める事はなく、あくまで助けてくれたお礼として義務感として街を案内してくれたみたいだった。………人との距離感に少しだけ泣きそうになったのはここだけの話。

 

それでレティシアさんは友人と来ているらしく、俺も同じ宿に泊まることとなった。勿論部屋は別だゾ♪

 

そして翌日、昨日では回れなかった箇所を巡る為に今日はその友人と一緒にパリを巡る事にしたのだが、ここで問題発生。

 

何と昨日追い払った筈の悪漢が今度は数を揃えてお礼参りにやって来やがったのだ。一緒に来ていたレティシアさん達は当然怖くなって悲鳴を上げていた。

 

まぁ、日記で書いているから大した事の無いように思えるけど、初見さんや馴れてない人が見ると確かに怖いよね。顔色悪いし、明らかに目がヤバイし……て言うか、コイツら絶対クスリやってるよね? それも結構ヤバめの。あ、書いていて何か分かった気がする。王様が俺を海外に行かせる理由が。

 

多分、王様は俺を使って悪漢達を暴走させている麻薬の出所を突き止めようとしているんだ。確か王様の会社って今ではもう世界的に有名な程に規模が大きくなってきているってシドゥリさんが言ってたし、それに伴って不安要素が出てきたとも言ってた。

 

王様ってあぁ見えて凄腕の経営者みたいだし、その手腕に嫉妬した一部の薬品会社が王様を貶める為に世界中にヤバイ薬をばら蒔いたとか。………いやねぇわ、バイオのやり過ぎだな、俺。

 

どちらにせよ、レティシアさん達を守るために悪漢達を迎え撃った俺なのだが、流石に数が多くて少々難儀していた時、一人の女性が突然上から舞い降りてきた。

 

何だか面白そうだから私も混ぜてよ、何て言いながら悪漢達を吹き飛ばしていくお姉さん、風のように疾走するお姉さんに負けじと俺も追随した。て言うかこのお姉さん外見は華奢に見えるのに腕力が凄いの何の、腕の一振りで悪漢達を薙ぎ倒していくんだよね。端から見れば無双ゲーである。

 

乱入してきたお姉さんのお陰で何とか窮地を切り抜けた俺は、お姉さんに助けた事への礼を口にすると、“人間の癖に中々やるじゃん”なんて言いながら俺の頭を撫でてきた。

 

いや、あんたも人間じゃん。なんて生意気混じりに言うと、お姉さんは嬉しそうに笑い“生意気だー”と頭をワシャワシャしてきた。

 

助けたお礼がしたいと名前を訊ねると、お姉さんは少し戸惑い、短くアルとだけ名乗ってくれた。

 

アルさんのお陰でレティシアさんとその友人を守れた俺は、取り敢えず宿屋に戻り何故襲われたのか事情を説明した。すると、お姉さんは一度考え込み、暫くすると俺達に事の顛末を教えてくれた。

 

何でもここ数年の悪漢の発生の多さはとある薬品会社に於ける陰謀で、その会社が世界中にばら蒔いた麻薬の所為だという。おい、まんまバイオじゃねーか。

 

今は有志者達の協力で何とか抑え込んでいるが、それもいつまで続くかは分からない。幸い連中の本拠地は特定しているから何とかなるが、時計塔の連中は様子を見ているだけだし、頼りにならないから仕方なくアルさんが本拠地のあるここパリの何処かにある地下へ乗り込んで明日元凶を倒しにいくのだとか。

 

いや、あの手品クラブに頼むのは酷じゃね?

 

何とも大きくなった話に俺自身戸惑いを隠せないが、アルさんが嘘を言っている様子は無いし、何より俺自身がここ数年の悪漢との遭遇率の高さを実感しているのでアルさんの話には充分信憑性があった。

 

話を聞いたレティシアさん達は絶句し、俺も何とも言えなくなった。アルさんは街がどうなるか分からないから俺達に明日の早朝にフランスから逃げるように言ってくれるが、俺は何故か従う気になれなかった。

 

理不尽が、不条理がこの街を襲おうとしている。冬木で起きた大災害の時と同じく、理由なき悪意が無関係の人に覆い被さろうとしている。

 

許せない、許せるわけがない。沸き上がる怒りの衝動が抑えられず、俺はアルさんにその本拠地に乗り込む為の同行を求めた。

 

最初は渋っていたアルさんだが、先の悪漢達との攻防で最低でも足手まといにはならないだろうと思ったのか、最後は俺に同行することを許してくれた。

 

今夜、俺はアルさんと一緒に麻薬をばら蒔く薬品会社の本拠地に乗り込む、まるで映画の様な出来事だが、笑い話で済まないと言うのはガキの俺でも分かっている。

 

王様の会社、秘書のシドゥリさんには電話で話を通した。シドゥリさんも王様にはすぐに連絡すると言ってくれたし、これで保険を掛ける事には成功した筈だ。

 

中学最後の長期休み、その終わりまであと僅か、白河修司、人生初めての冒険が始まる。

 

 

 

 

 

 

 




Q. 因みにこの世界の修司にボッチの渾名を付けたのは誰?
A.冬木の珍獣、二代目タイガー




海外に出張(笑)する度に悪漢(死徒)が出てくるもんだから自分なりの出現理由を考えてたらいつの間にか壮大な話になってしまった。

因みに一応原因として考えていますが、かなり無理矢理です。

ヒントつ切嗣の父親の研究。

オリジナル要素は次回で終わり、SNにも突入させる予定ですので、それなりに楽しみにしてくださると嬉しいです。


それでは次回もまた見てボッチノシ



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