『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回から高校生へ。
いよいよ物語の本題へ移───れるといいなぁ。

前半はギャグ強め。






その9

 

───王様の無茶振りで世界を巡り、様々な出会いとトラブルと遭遇して世界中に麻薬を撒き散らしていた悪の元凶をぶちのめして早数ヶ月、中学を卒業し、穂群原学園の高校に入学して暫く経過した今日、腕の方も完治し、身体も成長した俺はある学校行事(イベント)に内心でワクワクしていた。

 

体力測定、通称スポーツテスト。現代に生きる学生達が現在の自分の限界を知る為に日本スポーツ協会が齎した協定である。

 

これ迄自分を鍛えて来た猛者は高校デビューに華を添えようと必死になり、運動を苦手とする者はこの日が来る事を恨めしく思ってたり、思い思いの時間を過ごす事となる。

 

だが、この俺白河修司の目的は違う。確かに日々鍛練に励んできた俺からすれば体力測定なる学校行事は児戯にも等しい、その気になれば一学年の中でトップクラスの実力を示すことも夢じゃない。無論、王様に期待していると言われている為、その目的は確実に達成する。

 

けれど、俺にとって体力測定……いや、全ての学校行事はそれだけに終わらない。何故なら、学校行事とは俺にとって他の学年と友好関係を築く数少ない社交場だからだ!

 

中学の頃は酷かった。王様に言われて世界中のあちこちを飛び回り知識や経験を積む事はできたが、地元である冬木では友人と呼べる人が殆どいない、というか避けられてる。未だに士郞と慎二だけだぞ? 俺の家に誘うこと出来たの。

 

その慎二と士郎も高校に入ってから付き合いが悪い、士郎はお人好しさに磨きが掛かり、慎二に至っては憎み口を三割増しに増やして周囲の男子と壁を作ってしまっている。それでも女子にはモテるルックスがあるから、羨ましく思えてしまうのだが。

 

高校に入ってからそれぞれの成長を遂げている俺達、きっとこれからもこうやって古い友人と呼ばれる者達と別れを経験するのだろう。………まぁ俺にはその友人すらいないんだけどねHAHAHA! ──自虐ネタは止そう、思っていたよりキツイ。

 

そんな訳で、いつまでも士郎や慎二に頼ってばかりもいられない、広く浅い友人関係を築く為に、俺はボッチではないことを証明する為に! 見てろよ王様、俺にも社会性があるって所を見せてやる。

 

「次の者、早く来い」

 

教師に急かれて準備運動もそこそこに前に出る。すると目の前にあった人垣が道を譲る様に割れていく。

 

あ、すみません。ワザワザどうも、社会性のある者は礼儀を忘れない。軽く会釈する程度に同学年の皆に頭を下げ、教師に言われた位置に出る。おい、何でちょっと距離取るんだよ先生、アンタが呼んだんでしょーが。

 

最初に行われるのは50M走、正確に距離を測定されて敷かれた白線、向こうにはタイマーを持った生徒とその横には計測された記録を書き写す生徒、計二名の女子生徒がいる。片方は地味目だが、もう片方は長い銀髪が特徴の氷室がいる。

 

入学当初からその容姿から多くの男子生徒から遠坂凛に続いて羨望の眼差しを受けている女子、その彼女は今日運動しやすい様にその髪型はポニーテールとなっている。

 

「そ、それでは位置について」

 

教師の指示に従い走る準備を行う。構えはスタンダードなクラウチングスタート。ふふふ、この日に備えてイメトレはバッチリ、そもそも中学でも体育はあったのだ。これくらいの最低限の知識は知っている。

 

───溜める。一瞬の静寂の内に備えて力を溜める。まだか、まだかまだかまだかまだかマダカ。僅か数秒にも満たない刹那の合間、心音の音が高鳴った瞬間。

 

音が鳴る。パァンと、空気が爆ぜる音に合わせて両脇の同級生が走り出そうとしている。俺も負けられない、年相応の闘志を燃やして脚に力を込めて加速の為の腕を振り抜き───。

 

(───地面?)

 

おかしい、今俺は前を向いていた筈、地上と空で構成された視界からいつの間にか茶色の地面一色に塗り潰されている。困惑するも受け身も取れなかった俺はそのまま顔からグラウンドへダイブする。

 

「ぶべべべべ!?」

 

顔で地面を走行する事数メートル、漸く止まった所を見計らって何が起きたと後ろを振り返ると、俺がいたと思われる地点に人集りが出来ていた。

 

「ちょ、おい何だよこれ」

 

「穴だよ穴!」

 

「地盤緩んでたのかなぁ~?」

 

「ローラー掛けてンのか陸上部~」

 

俺がいたとされる場所には直径5M程の窪みが出来上がっている。周囲の目が完全に俺から離れていたから計測はやり直しと思われたが……ふとその時、氷室と目があった。無表情で無感情、まるで能面の様な彼女の顔に少し不気味に思うが、それ以上に気になる事がある。

 

まさか………計測しているのか? 嫌な予感を感じた俺は小走りで彼女の下まで歩みよって訊ねた。え? いや、イヤイヤイヤ、オイオイオイオイ、やり直しだろ? やり直しだよね? まさかあのまま続行とか、どう考えても───。

 

「1分27秒51。凄いな白河、その身体で50M走1分超えとは、ある意味才能だぞ」

 

「バカな!?」

 

バカな!?

 

穂群原のグラウンドに悲鳴に似た絶叫が轟いた。

 

そして、その後再三に渡る俺の抗議は虚しく終わり、この時の記録が高校一年の俺の公式記録となった。バカな!?

 

 

 

 

「ふ、フフフ、挫けるな俺、白河修司は挫けない。大丈夫だ。大丈夫だ。冷静に冷静になれ、そう、COOLになるんだ」

 

「お、おい修司、大丈夫か?」

 

「加減下手くそ過ぎるだろ、アイツ」

 

後ろで友人二人の慰めもあり、どうにか立ち直れた俺は次の種目に向けて気合いを入れる。今度の種目は走り幅跳び。これは走る勢いを付けて跳ぶだけの競技、先程の失敗を経て加減は覚えた。地面が抉れる様な事はない、これならば先程の様な無様は晒さないだろう。ククク、やったぞ王様、この戦い俺の勝利だ。

 

「次、白河」

 

「ハイ」

 

教師に従い移動する。見れば見るほど小さい砂場だ。まるで子供の遊具、ククク、この白河にとってこの程度の砂場を越えるなど容易い事、今度こそ良い記録を出して「修司、お前凄くね?」「俺にもコツを教えろよ」「えぇ~? 困るでござるよぉ~」という素敵コミュニケーションから友人関係を広げていくんだ!

 

脚に力を込めて走る。加減した力で踏切位置まで走り、その瞬間だけ力を込める。適当な力加減で跳んでの移動は瞬く間に俺の身体を砂場から遠ざけていく。

 

着地して振り返ると、其処には唖然とした同級生達があんぐりと口を開いている。その横には計測用の紙を挟んだバインダーを手にした教師が此方に歩み寄ってくる。

 

フフン、どうやら漸く教師も俺の実力を認めて──。

 

「痛っ」

 

突然頭頂部に襲う痛み、何だと思い目を開ければ、其処には呆れた顔の教師の顔があった。え? な、何ぞ?

 

「越えてどーすンだよ、砂場に入らなきゃ計測出来ないだろうが! やり直しだやり直し!」

 

───ば、

 

「バカな!?」

 

その後、加減に加減を加えた俺の走り幅跳びは他の同級生にも抜かれてしまう味気ない位置になってしまった。解せぬ。

 

 

 

「だ、大丈夫だ修司、まだ慌てるような段階じゃない。そう、COOLになるんだ。白河修司は狼狽えない」

 

「し、修司? 本当に大丈夫か?」

 

「コイツ、自己暗示を掛けて平静を装ってやがる!?」

 

後ろからの友人達の慰めもあって、俺の心は再び持ち直す、そう、まだ終わりじゃあない。俺の活躍の場は、まだ終了しちゃいない!

 

諦めたら試合終了? ならば諦めない限り、俺のターンはずっと続くという事だ!(超理論)

 

次は懸垂! 定められた回数をこなすだけの簡単な作業! 説明終わり!

 

「次、白河」

 

「ウッス!」

 

既に二度も失敗を重ねてしまっている。だがまって欲しい、失敗というのは成功という結果を生み出す為の土台、つまり俺は他の人よりも確かな土台を手にしている事に他ならない。そう、全てはこの時の為の布石。行くぞ鉄棒よ、強度の具合は充分か?

 

「でさ~、お前彼女出来た?」

「そう見えるか?」

 

ブンッ

 

「?」

「あれ、今?」

 

フッ、完璧だ。誰が見ても文句の付けようが無いほどにやり遂げたぞ。何か周囲の同級生がポカンとしているが、別に何か不正をした訳じゃない、俺は堂々とした足取りでその場を後にする。

 

「おいおい白河、何勝手に離れてンだ。懸垂は?

 

「え? 終わりましたけど?」

 

「ハァ? ………オイ、本当か?」

 

「え? イヤ、その……」

 

「ぶら下がってたのは……見てましたけど」

 

オイオイオイオイ、マジかよ。まさかの見逃し? 別に見逃せるような速さじゃなかったでしょ? ちょっと勘弁してよぉ。まぁ、一回くらいのやり直しなら良いけどさぁ……。

 

言われて渋々鉄棒にぶら下がる。何故か周囲には人の目が俺に注目していた。な、何故だろう、望んでいた展開なのに身体に余計な力が入ってしまう。

 

早くしろと目で訴えてくる教師に急かされ、鉄棒を握る手に力を込める。先程と同じ要領で懸垂に励もうとした───瞬間。

 

鉄棒が、外れた。バキャンと音を立てて支えの柱からスッポ抜けた鉄棒と共に宙を舞った俺はそのまま地面に着地、悲痛な沈黙が辺りに漂い始めてきた。

 

「白河ァッ! 誰が鉄棒を壊せと言ったァッ!? 悪巫山戯をするのもいい加減にしろ!」

 

「ヒィッ!?」

 

教師の怒りの迫力に後退る。え、え? これ、やっぱり俺が悪いの!?

 

「……なぁ」

 

「鉄棒って、悪巫山戯をしたら壊れるモノなのか?」

 

瞬間の生徒がざわつくなか、教師による俺への説教は続いた。こ、こんな筈ではなかったのに……!

 

 

 

 

「もうダメだ、おしまいだぁ……」

 

「し、修司!? しっかりしろ!」

 

「止めてやれよ衛宮、そっとしといてやれって」

 

その後の体力測定は散々だった。ハンドボール投げは飛ばす処か余計な力を加えてしまった事で地面に深々と突き刺してしまった事で飛距離は10Mにも届かず、最後の1500M走ではメンタルが弱った所為で何れくらい走ったか数えておらず、教師が止めるまで走り続けてしまう始末。

 

散々な結果で終わった体力測定、今度改めて測り直しかな、また教諭の人達に怒られるんだろうなぁなんて意気消沈していた俺だが、最後の1500Mで良い記録を出せたのか、あまりお小言を言われずにすんだ。

 

ただ、その代わり壊れた鉄棒やめり込んだハンドボール、抉れたグラウンドの穴埋めを命じられた為放課後は居残る事になった。うぅ、どうしてこうなった。

 

あれかな、変に目立とうとしたからバチが当たったのかな? 俺なりに頑張ったんだけどなぁ、何がいけなかったのだろう?

 

その後、一人トボトボとグラウンドの整備をしている中、士郎が手伝いに来てくれた。慎二は先にとっとと帰ったらしい、あのワカメ今度〆る。

 

ワザワザ手伝いに来てくれた士郎、相変わらずのお人好しで普段なら断っている所だが、今日の俺のメンタルはちょっとボロボロだったので、大人しく彼の好意に甘える事にした。

 

尤も、士郎に任せたのは鉄棒の修理だけでその間に俺が全部片付けて置いたけどね、流石に士郎に負担を掛ける訳にはいかないしね、片付け自体もそんな大変じゃなかったし。

 

ただ、士郎は俺が片付けを終わらせるのが早いとは思わなかったのか、少々不満そうにしてたっけ。

 

そんな訳で片付け終えて帰宅する最中、士郎に部活の事で話をしてたら慎二の妹、買い物帰りの桜ちゃ───間桐さんと遭遇した。会話自体もそんなしたわけではないけど、久し振りの彼女との会話はそれだけで俺の心を満たしてくれた。

 

間桐さんも進学は穂群原学園みたいだし、勉強で分からないところがあったら教えるとそれとなく誘ってみたけど……にべもなく断られた。そうだよね、間桐さん所士郎と同じく深山町だし、俺の家新都だし、会うの面倒だよね。うん、仕方ないよね。

 

べ、別に誘おうとか不純な動機とか無かったし、単に後輩になる娘にアドバイスしようとしただけだし、うん。

 

そんな会話を最後に俺達は其々の家路に着くのであった。

 

───これはあとで聞いた話だが、どうやら王様、入院したらしい。原因は腹筋の吊り、どうやら笑いすぎて病院のお世話になったらしい。

 

笑い上戸なあの人らしいけど、なにやってんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───煩い人、煩わしい人、私にとって白河修司という男はただそれだけの人間だった。興味も無く、他の人と同じ、バカみたいな人。

 

一体、何が面白いのだろう。一体、どうして私なんかに構うのだろう。

 

知らない、興味もない。精精何処かで何かで失敗してそのニヤケ面を崩せばいい、そう思う程度の感情しか湧かない。

 

兄の紹介で表面だけは普通に接しているけど、正直この人とは……あまり関わりたくない。

 

私は、白河修司という人間が嫌いだ。いつもヘラヘラ笑って、私に話を掛けてくる。

 

私は、白河修司という男が嫌いだ。あんな風に話し掛けて、笑い掛けてくるなんて、そんなの───。

 

「さて、桜よ。今宵も修練を始めるぞ。次の戦争まで残り少ない、気張るのだぞ」

 

「はい、お爺様」

 

そんなの、それじゃあまるで、私の事を────。

 

 

 

 

 




Q.AUO、どうして入院したの?
A.遠巻き(ヴィマーナにて)から主人公の体力測定の様子を見ていた様子。
臣下の成長を評価しようとしたら腹筋崩壊で病院に搬送された模様。

次回からいよいよ聖杯戦争へ!
……何回も同じこといってすみません。

それでは次回もまた見てボッチノシ

───追記。

最後の桜が剰りに黒過ぎたので修正しました。


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