『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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話が進まなくてすまない。




その14

 

 

 

───私が彼と出会ったのは今からおよそ三年ほど前のブラジル、魔術協会からある少年の身柄を拘束するという依頼を受けた事から始まった。

 

何でもその少年はある魔術師によって生み出された死徒を悉く殲滅しているのだとか、聖堂教会にスカウトされる前に何としてもその少年を自分達の所に連れてきて欲しいと言うのが連中の総意だった。

 

正直な話、最初はそんなに乗り気ではなかった。幾ら魔術の人間とはいえ子供を連中に売り渡すような真似は気が引けた。しかし、その少年がいつ己の魔道にのめり込み、周囲に災厄を撒き散らすのかは定かではない。

 

魔術の世界に年齢は関係ない、そして道徳や倫理観の類いの感情も必要とされていない。もしその少年が自分の力に溺れ神秘の隠匿をしなくなったら、それこそ魔術協会だけでなく世界にとって災いとなってしまう。

 

故に、私はその少年を捕まえる事に決めた。魔術協会の封印指定執行者として、伝承保菌者(ゴッズホルダー)として、その少年を魔術協会に引き渡す事にした。

 

協会は可能な限り穏便にと言っていたが、それは正直難しい話だろう。何せ相手は不完全ながらも死徒を殲滅する少年だ。多少なり手傷を負わせる事になるのは確実だろう、それこそ最悪その命を断つ程度には……。

 

そして、私は彼の居場所を見付けて即座に強襲、一撃の下で戦闘不能にしようとして───気が付けば、私は穴の空いた天井を見上げて大の字となって寝ていた。その後 宿屋の主人に聞いた所、突然大きな音と共に二階の部屋から落ちてきたのだと言う。

 

同時に思い出す。私は、バゼット=フラガ=マクレミッツは自分よりも年若い少年に完膚なきまでに敗北したのだと。

 

私の拳はその悉くが捌かれ、蹴りは受け流され、あらゆる攻撃が届かなかった。意識を失う直前に眼にしたのは、避けることも防ぐことも敵わない完成された一撃だった。

 

そして私に宿屋の修繕を押し付け、少年はその場を後にした。少年───後に名前を知った私は彼を、シュウジ=シラカワへのリベンジをこの日に誓ったのだ。

 

その後、自分を磨き依頼を受け続けた私に再び協会からある依頼が舞い込んできた。協会側の参加者として日本で開催される冬木の聖杯戦争に参戦せよ、と。

 

同時にその冬木の地にシュウジがいると教会側の監督役である言峰神父に教えられ、私の意欲は大きく刺激された。日本に、冬木に、シュウジがいる。この時既に聖杯に対する興味は失せていた。私の中にある願望はただ一つ、私を打ち負かしたシュウジに雪辱を果す。

 

冬木に到着し、エーデルフェルトが残した屋敷に拠点を構え、サーヴァントであるランサーを召喚して数日、遂に私は彼と再会した。

 

嗚呼、漸く会えた。漸く出会えた。隣に金髪の女性がいるのが多少気になるが、そんな事は関係ない。邪魔をするならばもろとも叩きのめすだけだと、私は地を蹴り駆け出した。

 

背後からサーヴァントの制止の声が掛けられるが、知ったことではない。私は今日、この日の為に己を鍛え続けてきたのだ。それに彼が魔術側の人間であるならば、彼だってマスターになっている可能性がある。いや、寧ろそう考えた方が自然だ。

 

全てはこの一撃を放ってから考える。この一撃を届かせて、そこで漸く私の歩みは前へ進める。私の目標で宿敵である男、シュウジ=シラカワよ、今こそ覚悟───

 

「いきなり人に殴り掛かるなんて、危ないでしょーが!」

 

へぶぅ!?

 

私の横頬を衝撃が打ち抜いた。ば、バカな、全く見えなかった。

 

さ、流石私が認めた日本男児、シュウジ=シラカワ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、あービックリした。いきなり殴り掛かってくるモノだから反射的に手ェ出しちゃった。レティシアさん、大丈夫?」

 

「あ? え、えぇ、私は大丈夫です。ちょっと転んだだけですから」

 

踞る女性を尻目に修司はジャンヌに手を伸ばし助け起こす。

 

「で? お宅一体何処の誰よ? 見ず知らずの女性にいきなり殴られる謂れはないんだけど?」

 

振り返り、ジャンヌに危害が加えられぬ様、修司は前に出る。その眼には疑心と敵意を滲ませ、次にまた女性が殴り掛かってきても対応出来るように僅かに身構えて女性に問い詰める。

 

すると女性は自分を知らないと言う言葉に反応して目を見開かせる。

 

「私を、私を覚えていないのですか? 私はバゼット、三年前に協会からの依頼で貴方を拘束しようとしたバゼット=フラガ=マクレミッツです!」

 

眼を剥かせ、訴えるように叫ぶバゼット。彼女の必死な形相を前に流石に不思議に思った修司は記憶の底を漁り始める。

 

「バゼット……バゼット……あ、もしかしてアンタ、ブラジルで俺に殴りかかってきた人?」

 

そして漸く思い出したのか、当時の事を語る修司にバゼットはブンブンと首を縦に振る。心なしかジャンヌにはその眼がキラキラと輝いているように見えた。

 

対して修司は眉を寄せて疑心をより深くさせる。自分に良く分からない理由で殴り掛かってきた人物が再び自分の前に現れ、攻撃してきたのだ。修司のバゼットに対する気持ちは正当な感情である。

 

「……おい、じゃあ何か? アンタはその時俺に負けた腹いせをしにワザワザ此処まで追ってきたと言うのか?」

 

「厳密には違います。が、概ねその通りです。三年前に私は貴方に敗北し、そして誓いました。自分を鍛え、強くなり再び貴方に挑み今度こそ打ち勝とうと、故に───」

 

そう言ってバゼットは手を拳の形に握り締め。

 

「シュウジ=シラカワ、貴方に再戦を申し込みます。よもや、断ったりはしませんね?」

 

不敵に口角を吊り上げるバゼット、当然ジャンヌはそれを許さないと前に出るが、それよりも修司の反応は早かった。

 

ズボンのポケットから取り出すのは一個の携帯端末、機械に疎い魔術師であるバゼットにはそれが何なのか理解するのに一歩遅れ、その間に修司は1.1.0.と番号を押し。

 

「もしもし、警察ですか? 不審者です」

 

流れるような仕草で国家権力に問い合わせた。

 

「なっ!?」

 

「し、修司君?」

 

突然公的組織に問い合わせる修司にジャンヌもバゼットを眼を丸くさせる。バゼットには通報されるとは本気で思ってなかったのか、修司の行動に本気で驚いていた。

 

「な、何故警察に問い合わせるのですか!? 私が一体何をしたと言うのです!? 私との勝負は!?」

 

「何でアンタの思惑にワザワザ乗って上げなきゃなんねーんだ。バカか? いきなり人に殴り掛かる人間なんか即行通報するに決まってるだろうが」

 

そう言って修司は眼を鋭くさせる。その眼には明らかに怒りの色が滲んでおり、学生らしからぬ迫力にバゼットは押し黙る。

 

「大体、アンタは少々勝手が過ぎる。仕事の依頼だか何だかしらねーが、当時中学生だった俺にいきなり殴り掛かるのは人としてどうなんだよ? アンタ、見た限り二十代だろ? 社会の常識を弁えてねーのか? 一体どんな育て方されりゃあそんな思考になっちまうんだよ」

 

まさか年下の男の子に説教されるとは思ってもみなかった。続け様に告げられるダメ出しの数々にバゼットは目を丸くし、ジャンヌは居たたまれなく目を泳がせている。

 

バゼットからすれば同じ魔術師である修司から全うな倫理を説かれているようなモノ、魔術師とは人としての倫理観等の価値観を捨て去り、自分の探求に何処までも貪欲な生き物、当たり前に社会常識を説く修司にバゼットは漸く自身がこれまで抱いてきた勘違いに気付く。

 

チラリと隣のジャンヌの方に目を向けば何とも言えない表情を浮かべて頷いてくる。稀有な才能を持った魔術師だと思われていた少年が、まさかの一般人であった事実にバゼットは本日二度目の衝撃を受けた。

 

「大人しく法の裁きを受けろ。なに、被害届は出さないさ、精々警察の取り調べを受けて少しは社会人としての常識を学びな」

 

「ま、待って下さい!」

 

「あまり抵抗しない方がいいぞ、すればするほどアンタの余罪は増えてくるかもしれないからな」

 

「う、うぅ……」

 

バゼット=フラガ=マクレミッツ、まさかの戦線離脱の危機である。魔術師だと思っていた少年は神秘のしの字も知らない一般人で尚且つ自分はそんな一般人の少年に二度も敗北した。封印指定執行者や伝承保菌者という肩書きも全て打ち砕かれた様に感じたバゼットは地面に大人しく蹲る。

 

それを見ていたルーラーことジャンヌは修司に思い直す様に言い含めようとしたが、それは無理だと半ば諦めかけていた。だってこの上なく正論なんだもの、仕掛けてきたのは向こうで修司が行ったのは正当防衛の範疇、彼からすればいきなり殴り掛かる暴行犯でそれも二度目ときている。

 

彼が今しているのは人間社会に生きる者として当然の責務を果たしているに過ぎない、聖杯戦争の審判役であるジャンヌだが、修司に納得して引き下がって貰うほどの言葉を持ち合わせていなかった。

 

このまま警察の厄介になってしまうのか、打ち拉がれているバゼットの処遇を警察に伝えようとする修司に第三者が待ったを掛けた。

 

「あー、悪いが坊主。それはちっと待ってもらえるか?」

 

「っ!?」

 

不意に横から掛けられる声に修司は驚愕して飛び退く。気付かなかった。バゼットに殴り掛かられ、意識を集中していたにも関わらず、意識の隙間から這い出る様に突然現れたアロハシャツの男に修司は目を見開かせて身構えた。

 

その反応を見て「おっ、いい反応だ。悪くねぇ」と呑気に語る男、飄々としながらもまるで隙が見当たらない。

 

「ら、ランサー? なぜあなたが、あなたには待機を命じていた筈ですよ」

 

「いやだってマスターの危機なんだもの、流石に見過ごせねぇよ。まだマトモに参戦してねぇってのに警察の世話になるのはゴメンだぜ?」

 

呆れたように横目で見てくる男にバゼットは「ゥグゥ」と蚊の鳴く様な声で再び地に蹲る。

 

「………アンタ、この人の保護者か?」

 

「あ? あー、まぁ似たようなもんだ。ソイツは仕事柄俺の相方でな、ここへ来たのもその関係の一つな訳よ。ソイツを連れてかれるとこっちとしても困るからよ、出来れば穏便に済ませてはくれねぇか?」

 

「いや無理だろ。この人、いきなり人に拳を向けてくるような人間だぞ、また顔を合わせたら同じ事やらかしそうだし、何より信用できない」

 

「そう言われるのも仕方ねぇが、どうかそこを曲げて一つ聞いちゃくれねぇか? 俺もソイツにはキツく言っておくし、俺がいる間は二度と坊主には手を出させねぇと誓う」

 

だから頼むと、自分よりも年上と思われる男性に頭を下げられ、修司はどうするべきか悩む。本当は今すぐにでもこのような危険人物は警察に預けるべきだと思うし、今後他の人に同じ事をしないと限らないし───。

 

「あの、修司君。私からも良いですか?」

 

「レティシアさん?」

 

「本当に、本っっっ当に私が言えた事ではないのですが、彼女達に猶予をあげては貰えませんか? どうやら彼女も本当に反省されてる様子ですし」

 

まさかの人物からの擁護に修司の目は丸くなる。何故彼女がこの二人を擁護するのか、けれど確かに項垂れて打ち拉がれている様子から彼女が心の底から反省しているのは何となく分かる。殴り掛かって来たのは事実だが、此方に被害があった訳ではない以上………まぁ、少しは妥協するべきなのかもしれない。

 

「………はぁ、分かりましたよ。レティシアさんが其処まで言うのなら」

 

そう言って修司は携帯の通話口に自身の勘違いである事を告げ、軽い謝罪の後に通話を切った。それを見た青いアロハの男は笑みを浮かべ、バゼットは間の抜けた顔を晒している。

 

「んじゃ、そう言う訳だから、くれぐれも同じ事はやらかさないでくれよ? また同じ事をしようものなら──」

 

「あぁ、分かってる。坊主には二度と手を出させねぇと誓うぜ。ほらバゼット、いい加減シャンとしろって」

 

「シュウジ=シラカワ、この度は誠に失礼を……」

 

「アンタにも事情はあるんだろうけどさ、いきなり殴り掛かるのはもう勘弁してくれよ。そんなに組手相手が欲しいなら───まぁ、前もって言ってくれれば付き合ってやるからさ」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「俺も師父との組手はここ暫くしてなかったからさ、別の流派の人と拳を交わすのは……まぁ楽しかったし? ちゃんとアンタも筋を通すなら俺もこれ以上煩く言うつもりはねぇよ」

 

「あ、ありがとうございます。その時は是非お願いします!」

 

「良かったなぁバゼット、んじゃ坊主、そっちの嬢ちゃんも気を付けて帰れよー」

 

修司の最後の提案に意気消沈していたバゼットの顔が晴れやかなモノになる。現金ではあるが敢えてその事を口にせず、坂道を上がっていく二人を見送り……ふと修司は思う。

 

「あの二人、教会に何の用だったんだ? もしかして師父の客人だったのかな?」

 

何となく思った疑問、今度機会があればそれとなく聞いてみようと思った。そして、気付けば辺りは暗く更けていて、時刻の方も間もなく夕食の時間を差していた。

 

「やべ、もうこんな時間じゃん! シドゥリさんの用意が終わっちまう。レティシアさんそう言う訳だから今日はここまで………て、どうしたのレティシアさん、死にそうな顔をしてるけど?」

 

「だ、大丈夫です。問題ありません」

 

胸を抑え、蹲る彼女を見れば表情を青ざめて死にそうになっているジャンヌに修司はギョッと目を見開かせる。

 

彼は知らない。彼女が擁護したのは反省しているバゼットに猶予を上げて欲しいと言ったのが聖杯戦争を正しく実行しようとしているルーラーという立場から来るものなのだと、修司の人としての当たり前な行動を自分の都合でなかった事にしてしまった事実。

 

ルーラーとしての責務と聖女と呼ばれたモノとしての良心、それら二つの心情に挟まれた彼女の良心は罪悪感により死にかけて断末魔を上げていた。

 

「問題ないって、全然そんな風には見えないけど……本当に大丈夫? なんなら家まで背負ってやるけど?」

 

「お願いですから、これ以上私に優しくしないでください! 本当に……勘弁してください」

 

「え、えぇー…」

 

今にもギャン泣きしそうなジャンヌ、彼女のその必死な様子に終始気になる修司だが、シドゥリが作った夕食を満足そうに頬張る彼女を見て安堵に胸を撫で下ろすのだった。

 

 

 

 

───その翌日、冬木の街はある事件により震撼する。

 

深山町で起こった悲惨な殺人事件、その事件を切欠に冬木の街に不穏な気配が漂い始めるのだった。

 

 

 

 




今更ですが、時系列が滅茶苦茶な所があります。

どうかご容赦下さい。




Q.もしもボッチが何かの拍子でApocryphaに参戦したら?

A.黒のアサシンの魔力源になってお父さんお母さん勢揃いのジャックちゃん大勝利。

Q.大戦が始まったら大人しくしてるの?

A.何かの弾みで因子覚醒、バビロンの空中庭
園と重力の魔神の夢の共演が見られます。
尚、その様を見たとあるキャスターとその生徒は大歓喜な模様(笑)


遂に始まる聖杯戦争、ボッチの活躍は果たして!?

次回、蔓延る闇。

それでは次回もまた見てボッチノシ
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