『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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シリアス「待たせたな」


その15

 

 

「レティシアさん、本当に一人で大丈夫か?」

 

翌日、朝食は終わり学校への登校の準備を終わらせ、修司は玄関口に立って見送りに来たジャンヌに問い掛ける。

 

本来ならもう一日時間を掛けて今度は深山町方面へ案内したい所だが、生憎今日からは普通に授業がある日だ。皆勤賞を狙っている修司としても逃すつもりはないし、部活の朝練の時間も迫っている。

 

どうするかと頭を悩ませていると、彼女本人がここからは自分の足で冬木の町を探索すると言ってきた。元々彼女は一人で回るつもりだったし、学業がある人間にこれ以上世話になるのは申し訳ないと語り、本人がそう望むのなら仕方がないと思い、修司は納得する事にした。

 

だったらせめて途中でお腹が空いても大丈夫な様にとお弁当を作り、更には小遣いを渡そうとするが、ジャンヌはこれを固辞した。

 

「もう、心配しすぎですよ修司君。私なら平気です。これでも多少の心得があるんですから、そこら辺の悪漢に後れを取ることはありません。お弁当も頂いた事ですし子供じゃないんですから、これ以上のお世話は不要ですよ」

 

「レティシアさん何処か抜けてる所があるからな~、そう言われても心配しちまうよ」

 

初日に財布を盗まれて凹んでいる姿を目撃してしまっている以上、イマイチそう思えないのが修司の本音である。遠回しにポンコツ呼ばわりされていることを不服に思うジャンヌだが、今は敢えて堪え忍ぼう。

 

いや、寧ろ財布を見つけ出してこの居候状態から早く抜け出すべきなのだ。自分は聖杯戦争の審判役、いつまでも彼等の好意に甘える訳にはいかない。そう、譬えこの家の料理が食べられなくなったとしても。

 

「だ、大丈夫ですよ。私は修司君より年上なんですから! 年上としてちゃんとしてるって所、見せてあげます!」

 

「ヨダレ、せめてヨダレを拭き取ってから言って、色々台無しだから」

 

今日まで体験した修司の所で食した料理の数々、昨夜のシドゥリが作った品も大変美味でそれを思い出してしまったジャンヌは無意識に口端からジュルリとヨダレを溢す。慌てて拭き取り無かった事のように胸を張って振る舞うが、肝心の修司は彼女のポンコツ疑惑を確信のモノにしていた。

 

「大丈夫ですよ修司様、何かあれば私の方から使いを出しますので、レティシア様の安全は保障します」

 

「え?」

 

「具体的にどうやって?」

 

「昨晩、夕食後に備えという事でレティシア様にお渡しした携帯にはGPS機能が付いております」

 

「え?」

 

言われて確かに昨日の夕食後に何かあった時の備えとして携帯電話を一台貸して貰っている。が、まさか其処まで気遣いが行き届いているとは知る由もなかったジャンヌはサラリと口にするシドゥリに言葉を失う。

 

「流石シドゥリさん、仕事が早い。じゃ、俺はもう行くよ」

 

「はい。お気を付けて」

 

「い、いってらっしゃい」

 

呆然としながらもそれでも修司を見送るジャンヌ、扉が閉まり残った家事を片付けてしまおうとシドゥリはリビングへ向かうが。

 

「あ、あの、シドゥリさん」

 

「はい?」

 

「その、私にも何か手伝わせて下さい。何もせずにこのまま街に向かうのは……流石に」

 

重々しくそう口にするジャンヌ、このままなにもしなければそれこそ居候以下の穀潰しに他ならない。ルーラーである以前に世話になった身である以上、食器洗いだけでなく最低限の家事を手伝わなければ申し訳ない。

 

そんなジャンヌにシドゥリは笑みを浮かべて──。

 

「では、部屋の掃除をお願いしても?」

 

「は、はい!」

 

リビングへ向かうシドゥリを追ってジャンヌもまた家事の手伝いをするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───まさか、朝から修羅場を目撃してしまうとは」

 

一方、いつも通り軽いランニング気分で学校に到着した俺は陸上部の朝練を終え、現在は午後の授業に備えて昼食───を食べる為の居場所を探していた。

 

と言うのも、教室では昨日自分とジャンヌが揃って出掛けていたのをよりにもよって蒔寺達に目撃されてしまい、休み時間は殆どそれに関する質問攻めにあっていた。せめて昼飯位は静かに過ごしたいと思い屋上に向かう途中だった。

 

思い返すのは朝練を終わり教室に戻ろうとした時だ。玄関前で言い合いをしている二人がいるので何かと思って近付けば、慎二と遠坂がいた。言い争いというよりは言い寄ってくる慎二を遠坂が軽くあしらっている風に見えるが、自分の姿を見た途端遠坂は自分に軽く挨拶をするとそそくさと去っていく。慎二の方へどうしたと訊ねれば、「うるさい!」と声を上げて何処かへ行ってしまう。

 

慎二の奴、なんだって彼処まで遠坂に固執するのだろう? 確かに遠坂は綺麗だし、今後数年で美人と称される大人になるだろうけど……別にそこまで拘る程かなぁ?

 

まぁ、人の趣向は人それぞれだ。第三者が口を出すべき話でもないだろう。精々事案にならないよう静かに見守っておこう。

 

そう思い次の曲がり角を進むと───。

 

「きゃっ」

 

両手にプリントを抱えた間桐さんがいた。ぶつかりそうになるのを反射的に避けようとしたが、驚いてバランスを崩した彼女の両手からプリントが落ちていく。これでは不味いと判断した瞬間、俺は弁当を放り投げて持ち前の動体視力と反射能力で舞い落ちるプリントをキャッチしていく。

 

桜ちゃ──間桐さんが気付く頃には俺の両手にはプリントと弁当、それぞれを手にしていた。ポカンと目を丸くさせる彼女に申し訳なく思いつつ、手にしたプリントを差し出し。

 

「いきなりゴメンな。ハイこれ」

 

「え? は、はい。ありがとうございます。白河先輩」

 

未だ呆然している間桐さんにプリントを渡し、逃げるように屋上へ続く階段を昇る。だ、大丈夫だよね? 間桐さん怪我とかしてないよね? 嫌われてないよね?

 

……女々しいな。そんな可能性あるわけないのに何故未だに彼女の気を引こうとしているのか、若干の自己嫌悪を抱きながら屋上の扉を開くとその空は何処までも蒼く澄んでいた。

 

そして昼飯を食べ終え教室に戻ると、其処には案の定待ち構えていた珍獣こと蒔寺が自分の方へ押し掛けてきた。

 

「やっと戻ってきたか修司ー! さぁ吐け、直ぐ吐け、お前と一緒にいた美人さん、一体何処の誰なのかさっさと白状しろぉー!」

 

「うるっせぇな。何度も同じ事言わせんなよ、あの人は中学の時に海外で世話になった人で、こっち来て困ってる所を偶々再会しただけだっての」

 

「ふっ、それは嘘を吐いている味だな」

 

「……それ以上近付いたらテメーの顔にこの拳を叩き込むからな?」

 

舌をレロレロしながら近付いてくる蒔寺に分かりやすく拳をちらつかせる。コイツ、どれだけ肉体言語で語っても次の瞬間には復活して懲りなく同じ事をしてくるから質が悪い。幾ら此方が手加減しているとはいえ、流石はあのタイガーの二代目と目される奴だ、その生命力は計り知れん。いや、全然褒めてないけどね?

 

「いい加減にしてやれ蒔の字、白河も困ってるだろ。命が惜しければそれ以上からかうのは止めてやれ」

 

「私は一向に、構わんッ!!」

 

「本当に懲りねぇなコイツ」

 

この一瞬の刹那を生きようとするコイツの性根はもしかしたら凄いのかもしれない。尤も、見習おうとは欠片も思わんが。

 

「ご、ごめんね白河君。蒔ちゃんがいつも迷惑を掛けて……」

 

「あぁもう馴れたよ。で、 一体何の用なんだ? 午後の授業もあと少しで始まる。出来れば手短にして欲しいんだけど?」

 

「あぁ、済まない。実はな──」

 

「今朝、深山町で殺人事件があったのさ」

 

「美綴?」

 

背後からの声に振り向けば暗く、それでいてやりきれない顔をした美綴綾子が俺の後ろに立ち、小声でそう語りかけてきた。

 

「……今の話、本当なのか?」

 

「あぁ、このあと帰りのHRで言われるけどさ、何でも住宅街の一角で殺人事件があったらしいんだ。両親と姉弟の四人家族、その内両親と姉が殺されたって……もう、その近所では有名な話になってるよ」

 

「それで急遽学校の方も対策を取ってな、暫くは午後の部活動は中止にするらしい。学生はなるべく早く下校するように、あとで沙汰が届くはずだ」

 

美綴も氷室も三枝も、三人共表情を暗くさせている。蒔寺ですらも何処か覇気がない。

 

無理もない。冬木の街は10年前の大火災以降、特に目立った事件は無かったのに此処へ来て突然の凄惨な殺人事件、それは否が応にもあの出来事を連想させる。

 

冬木の大火災の前に起きていた少年少女連続誘拐殺人事件、最悪にして今も冬木の人々に恐怖を植え付けた日本史上希に見る大事件。犯人は既に死亡しているが、当時を知る者にとって今回の事件はその時の再来にも思えてしまうだろう。

 

「まぁ、そう言う訳だからさ。氷室達も帰る時は気を付けて帰れよ? 修司も、その脚力を活かして早めに帰るようにね」

 

「………あぁ、そうだな」

 

そうして、午後の授業も終わり帰りのHRでは、美綴達が言っていた様に下校時間が短縮され、生徒達は早足に帰る事になった。

 

そんな中、夕暮れに染まる深山町を歩きある場所に訪れる。そこは立ち入り禁止のテープで覆われた………事件があったとされる民家だった。

 

このテープの先には未だに血痕の跡が残された凄惨な事件現場がそのままにされている。残された少年の気持ちを考えると……やるせない気持ちと怒りで頭の中が沸騰しそうになる。

 

どうして、この家の人達が殺されなくてはならない? この家族が何をした? 普通に生きているだけなのに、どうして無惨に命を奪われなければならない。

 

母が殺され、父を殺され、姉を殺され、残された少年は今後何を思って生きていくのか、誰を頼りに生きていくのか、想像するだけで怒りが込み上げてくる。

 

「───ふざけやがって」

 

犯人は未だ捕まっていない。その事実が更に俺の中の怒りを燃やしていく。もし犯人がこの街にまだ潜伏して、もしまだ同じ事件を繰り返そうと言うのなら……。

 

「殺してやる」

 

理不尽を振り撒く輩が許せない。不条理を押し付ける輩が許せない。だから、その犯人も許さない。叶うのなら、この手で───。

 

「修司君」

 

 

 

「っ、」

 

ふと、横から声が掛けられて振り向くと、制服の様な格好をしたレティシアさんが不安に満ちた表情で自分を見ていた。

 

「あ……れ? レティシアさん、どうしてここに?」

 

「私はちょっと探索の続きを───それより貴方こそどうしたんですか。このような所で立ち尽くして」

 

「あぁ、うん。ゴメン」

 

「……この家の、残された男の子を考えてたんですか?」

 

心配そうに此方を見てくるレティシアさん。すると彼女は事件のあった民家に視線を向け、その顔を悲しみに歪ませていた。

 

「………噂で、聞きました。まさか、この様な凄惨な事件が起きるなんて」

 

「あぁ、酷い話もあったもんだよ。しかも犯人は未だ捕まっていないって話だし、もしかしたらうちの学校も近い内に一時休校──なんて事になるかもしれないな」

 

笑えない話である。そもそも、これだけ派手に事を起こしておいて、どうして犯人に繋がる手掛かりが無いのか、まずその時点でおかしい。日本の警察はこと調べる事に関しては世界でもトップクラスだと聞く、幾らそれがどんな難事件でも一欠片の情報も得られないというのは少しおかしな気もする。

 

何か、普通とは違う何かが関与している気がする。それこそオカルト染みた何かが。

 

「───修司君、帰りましょう。もうすぐ夜になります。早く帰ってシドゥリさんを安心させてあげましょう?」

 

「うん、そうだな。そうしよう」

 

後ろ髪を引かれる思いでその場を後にする。レティシアさんの微笑みに幾分か気持ちは晴れたが、それでも心の何処かで怒りの炎は燻り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、夕食も終えて後片付けも終わり、後は風呂に入って寝るだけとなった時、俺とレティシアさんとシドゥリさんでちょっとした家族会議が行われた。議題は当然、例の殺人事件に関してだ。

 

シドゥリさんは当分の間このマンション……というか、俺と同じ部屋で同居する事になった。外出は明るい午前だけにして午後は比較的家の中で会社からの仕事は簡単な雑務をするだけにしておくという。

 

出掛ける際も同じマンションに住む住人達と一緒という事にしたとシドゥリさんは語る。シドゥリさんは会社の中でも王様の秘書という重要なポジションにいる人だ。その事を考えれば彼女の対策は当然とも言えた。

 

ただ、それでは王様に負担が大きくなるからそれはどうなるのか? 聞けばここ数ヶ月先は大きな仕事はなく、王様も出張と称してあちこちに遊び歩いているらしい、端から聞けば職権乱用だが、出張の合間にも雑務と称して仕事を淡々と熟す人だから文句を言う人はいないだろう。

 

最近は仕事面もIT化し、大きな仕事がない限り専らPCでの作業が多いらしく、離れていてもシドゥリさんの仕事はあまり影響ないらしい。

 

以上シドゥリさんの方は何とかなったが、問題はレティシアさんの方だ。彼女はフランスからの旅行客、殺人事件なんて起こる地にいつまでも長居させる訳にはいかない。折角遠い異国の地からやって来てもらって申し訳ないが、彼女には明日辺りにでも帰国してもらった方がいいだろう。

 

そう思って提案したのだが………彼女はこれを断固として拒否してきた。自分はまだやるべきことがあると、頑なに拒んで受け入れようとはせず、それ処か今までお世話になりましたと出ていこうとする。

 

流石に無一文の人を放り出すわけにもいかず、何とか思い止まって欲しいが、『どうか』と彼女にしては強い口調で言ってきて、それを聞いたシドゥリさんは仕方ないと諦めてしまった。

 

シドゥリさんは王様が認める出来た人だ。そんな人がアッサリと引き下がるなんておかしいと思ったが、今は彼女を引き留めるのが優先だ。せめて事件が集束するまで目の届く所にいてもらわないと、此方としても困る。

 

そう思い交渉を続けようとするこの時の俺を見るレティシアさんの表情は不思議なモノだった。まるで信じられないものを目の当たりにしたような、自分の常識が通用しなかった様な、そんな顔をしていた。

 

その後、お互い冷静さを取り戻し、改めて妥協案に乗って貰う事にした。レティシアさんはこのまま冬木市に残り、やるべき事をやり遂げる事、そのやるべき事には極力詮索しない事、その事を条件にレティシアさんには我が家を拠点にする事にした。

 

もし、今後レティシアさんの“やるべき事”とやらが長引く様なら、マンションの空いている部屋に移って貰う事も視野に入れるべきなのかもしれない。シドゥリさんがいるとはいえ、余所の女の子と同じ屋根の下で生活するのも流石にアレだし……。

 

問題はそうなった時の王様への説得なんだけど……上手くいくかなぁ、王様は報酬といって俺に色々良くしてくれているけど、それは俺が前もって結果を出しているからで、なんの成果も出していないのに、果たして俺の我儘は聞き届けてくれるのか。難しいが……何とかしよう。

 

そして時刻は深夜を回り、明日に備えて俺も床につく。明日も朝練だ。早いところ寝てしまおうとベッドの上で瞼を閉じると……。

 

「───ん?」

 

ふと、違和感を覚えた。家の中にある気配が一つ消えた様な、居なくなった様な感覚。不思議に思い自室から出ると、その違和感はより強く感じられる様になった。

 

「シドゥリさん……は、いるな」

 

紳士としての振る舞いではないが、今は仕方がないと自分に言い聞かせ、来客用の一つである部屋にはシドゥリさんが規則正しい寝息を立てて眠っている。

 

ではまさかレティシアさんが? 嫌な予感がしてもう一つの客間に足を踏み入れると……的中、そこにレティシアさんの姿が無かった。

 

作業用の机の上にはごめんなさいの書き置きがあり、備えられた窓は開いている。大きい窓で人一人なら余裕で通れる位の窓だが、それは高い位置に取り付けられている。普通の人間ならまず届かないその窓からは外気の空気が入ってきている。

 

「嘘だろ? ここ20階だぞ!?」

 

俺は即座に自室に戻り、上着を羽織り外へ出た。最悪の事態を想像したが其処にレティシアさんの遺体は無く、一先ず安堵するが……問題と疑問はより多く残ってしまった。

 

「レティシアさん、何処に行ったんだ?」

 

今、この時間帯で出歩くのは非常に危険だ。まだ例の犯人が捕まっていない以上、深夜の冬木を徘徊するにはリスクが大きすぎる。

 

遠くからサイレンの音が聞こえてくる。未だ嫌な予感が収まらない俺は、レティシアさんの安否を確認するべく夜の冬木の街中を駆け出した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそ、レティシアさん。マジで何処行ったんだ!?」

 

冬木の街を走って数分、新都方面を隈無く探し今は大橋の所、未遠川沿いの土手まで来ているが、ここに来るまでレティシアさんの姿は影も形も見当たらなかった。

 

何処か別の場所を見落としているのか? いや、それにしたって動きが速すぎる。俺がいるマンションは新都の中でも山沿いに建てられている。女性が夜道を一人で歩くには早々遠くまで来ない筈だ。

 

でも、だとしたら一体何処に……。

 

「まさか、深山町に行ったのか?」

 

それこそ有り得ないだろう。レティシアさんがどんなに強い足腰していてもマンションから大橋までどんなに急いでも俺でも五分は掛かる。高速やら建物といった障害物を無視すればもう少し時間は縮められるだろうが……。

 

「……考えても、仕方がないか」

 

こうなったら冬木市全体を走り回るしかない。明日の朝練に起きるのがキツくなるが、レティシアさんを放っておく方が危険だ。俺は携帯を取り出して警察に助けを請おうと110番を押す。

 

しかし、通話は繋がらなかった。聞こえてくるのはツーツーという途切れた音だけ、不思議に思い画面を見ると、其処には圏外と文字が記されていた。

 

「嘘だろ、此処って電波通らないのかよ」

 

まるで何かに遮られているような、そんな不可思議さが感じられる。仕方がないと気を取り直し、取り合えず大橋まで向かおうと脚に力を込めた時。

 

───ガコォンッ!!

 

地を揺さぶる程の衝撃と轟音が土手を揺るがした。

 

「な、なんだぁっ!?」

 

突然の衝撃に鑪を踏む。バランスが崩される程の衝撃に目を剥けば、海沿いの方から土煙が上がっている。確か、あっちにはコンテナ置き場があった所だ。

 

先に起きた殺人事件といい、レティシアさんの失踪といい、一体この冬木に何が起きているんだ?

 

「まさか、レティシアさんは彼処にいるのか?」

 

だとしたら、彼女の身が危ない。冷静に物事を判断するのは後で良い、今は彼女の安否を確認するのが最優先だ。

 

地を駆け、立ち入り禁止の柵を飛び越えて現場に辿り着くと……そこで繰り広げられる光景に、目を疑った。

 

「……何だよ、これ」

 

其処では───闘争が起きていた。蒼い閃光が地を奔り、黒い巨人が周囲のコンテナ諸ともその剛腕で吹き飛ばしていく。

 

CG加工や映画の特殊演出ではない。耳にする鋼の音、抉られる地面の悲鳴、吹き飛ぶコンテナが音を立てて落ちていくその様子が嫌でも現実なモノだと思い知らされる。

 

「アイツは、アイツ等は、一体何なんだ?」

 

「サーヴァントだよ」

 

「っ!?」

 

背後からの突然の声、反射的に距離を開けて振り返れば、そこには先日鯛焼きを奢った白い少女が年相応の笑みを浮かべて此方を見ていた。

 

「こんばんは。お兄ちゃん、今日は良い夜ね」

 

「───君は、あの時の」

 

「あの時はありがとうね。お陰でセラもリズも喜んでくれたわ。タイヤキ……だったかしら? お陰で私達の間でちょっとしたブームになっちゃった」

 

彼女の口から紡がれるのは何て事はない世間話、後ろで繰り広げられる戦いとは余りにも不釣り合い。しかし、俺の本能が叫んでいる。今、この場で最も危険なのは目の前にいる少女なのだと。

 

「お兄ちゃんには感謝しているわ。それは本当に本当よ? ──でもね」

 

「っ!?」

 

「言った筈よ。夜になったら無闇に出歩かない方がいいって」

 

瞬間、背筋に悪寒を感じた。振り返る事無く横へ跳べば、次の瞬間俺のいた場所は爆発した。

 

「ぐぅぅぅぅっ!?」

 

視界が瓦礫と石礫に染められる。腕を交差させて防いではいるが、衝撃が凄まじく呼吸をする事すら出来ない。

 

何メートル転がっただろうか、何度も地面を跳ね、それでも体勢を整えようと体に力を込める。今の衝撃で携帯は粉砕され、上着は消し飛ばされた。今着ているのは寝巻き様にもう一着拵えた山吹色の胴着(寝間着)である。

 

「ふぅん、今のを避けちゃうんだ。お兄ちゃん、もしかして結構すごい人?」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

前を見据えれば白い少女の隣には先程の黒い巨人がその手に巨大な剣とも斧とも分からない得物を手にしている。アレをマトモに受ければ死は免れない、即座に逃げようと試みるが、あの黒い巨人から発せられる迫力に膝が震えて上手く動けない……。

 

「ランサーは……逃げられちゃったか。何もせずに逃げたって事は、私に任せたって事なのね」

 

やれやれと溜め息を吐く少女、その目には苛立ちと倦怠、そして僅かな忌避感の様なモノが混じっている気がした。

 

「神秘の隠匿は魔術師にとって当然の義務、こんな事になって本当に残念に思うけど……」

 

「ごめんねお兄ちゃん。死んでくれる?」

 

瞬間、黒い巨人は地を蹴って俺に向かって掛けてくる。その速さは俺の全力よりも速く、音速の壁を越えて俺との距離を零にする。

 

全ての光景が緩やかになっていく。振り下ろされる凶器、見下ろす相貌、殺意と敵意に満ちたその顔に俺は混乱しながらも一つ消えただけ確かな真実に気付く。

 

戦う。戦わなければ生き残れない。今この瞬間、この刹那、俺はそれだけを理解した。

 

 

 

 

 




???「さぁて皆さま、お待たせしました! 遂に始まった聖杯戦争、五度目に渡る英霊同士の戦いは序盤から激しさを露にしていきます!」
???「果たして、この戦いに巻き込まれたシュウジはこの先生き残れる事が出来るのでしょうか!?」

???「次回、起動する“G” 」

???「それでは次回も聖杯戦争、レディー……ゴー!!」

天草シロウ「いきなりどうしたんです? キャスター」

キャスター「いやいや、少々並行世界から電波を受信しまして。我輩としては乗らずにはいられないというか」

アサシン「大丈夫かこやつ」


それでは次回もまた見てボッチノシ


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