『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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カッツ「あ、姉上ー!? 姉上? 姉上! 姉上姉上姉上姉上姉上姉上ー!! スースーハーハークンカクンカ。あー姉上! 姉上姉上姉上姉上姉上姉上姉上姉上姉うぇぇぇぇ!!!………ウッ」

カッツ「───さて、フリクエ行くか」


ノッブ「」





その18

 

 

 

───夢を、見た。剰りにも突飛で、剰りにも壮大な………まるで、映画のワンシーンの様な光景。

 

───そこは、無限の宇宙を往く鋼の艦であり要塞。人の願いと思い、そして闘争とその終焉を願い、託された宇宙の方舟。これから始まる壮大な戦い、戦争の前に二人の男が向き合っている。

 

『────』

 

『────』

 

何か口論をしているようだけど……聞こえない。片方の男は何か口調を荒立てているようだけど、対するもう一人の男はそれを微笑んで静かに首を横に振るだけだった。

 

微笑んでいる男には、何か大きなモノを背負っている様に思えた。富か、名声か、はたまた命そのものか、分かっているのは相対する友人の言葉程度でこの男の覚悟は微塵も揺るがないという事。

 

そして、男は飛び出した。戦争を仕掛け、死に場所を求めて出立する友を止める為に、男は一直線に駆け出し、友人に向けて拳を放ち───その拳は届くことはなかった。

 

斬られ、地に伏し、意識を失う際に男が発した最後の言葉────。

 

『ありがとう。最期に君と出会えて………本当に良かった。去らばだ』

 

“我が友、シュウジよ”

 

それは何処までも慈愛に満ちた友愛の微笑みだった。

 

 

 

 

 

───【獣の血】

 

それは闘争による進化。生きるという行為に於いて最も原始的な欲求、生きる為に戦い、生きる為に勝利し、生きる為に進化する。

 

───【水の交わり】

 

それは融和による進化。男と女、人と■■、異なる種族が、存在が、共に繋がって融和となる事で生命は新たな境地へ至る。

 

───【風の行き先】

 

それは開拓による進化。一つに留まり逼塞(ひっそく)するのではなく、心のままに新たな場所、新たな何かを求める為に立ち止まらず、我武者羅に突き進むこと。

 

───【火の文明】

 

それは文明による進化。人が生み出したものは人に新たな力を与え、与えられた力を用いて人は更なる何かを生み出し、生み出した何かが人に力を与えていく。

 

それら全てを踏破し、高みへ至る事によって、人は命は【太陽の輝き】へと至れる。

 

他者を理解し、受け入れ、共に歩む。そう、それこそが《■■■■》の極致、即ち───。

 

《■■》なのだ。

 

 

 

 

 

 

────欠けた夢を、見た気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───う、ん」

 

微睡みの中から意識が浮上する。瞼をうっすらと開き、視界に入ってくる見慣れた天井を目にした時、漸く意識は完全に覚醒する。

 

「───ここは、俺の部屋……だよな?」

 

辺りを見渡せばそこはやはり見慣れた自室だった。年相応のそれなりに彩られた部屋、閉ざされたカーテンからは日差しが溢れ、否応無く朝の訪れを認識させられる。

 

「───夢、だったのかな」

 

昨夜で起きた出来事がまるで夢の様で、今思い返しても現実味がまるでなかった。黒い巨人と白の少女、巨人との死闘と敗北。もしあれが事実ならば自分はとっくに死んでいる事になる。

 

───でも、あの時この身体に刻まれた痛みも紛れもなく覚えていて、何より。

 

「───マジ、か」

 

まるで鋭い刃に切り裂かれた様な(・・・・・・・・・・・・)袈裟斬りに刻まれた傷跡が、あの日の夜が嘘ではない事を告げていて、髪の一部もうっすら変色していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『───それでは次のニュースです。昨夜の深夜未明、コンテナ街で起きたガス爆発に付いてです。これにより多くのコンテナが無惨に破壊されてしまいましたが、幸いこのコンテナの中には薬品や食品といった資材物資は積載されておらず、ガス爆発による弊害もないとされていますが、現在市は暫くの間コンテナ街の封鎖を表明しました。幸い怪我人は出ずに終わりましたが専門家によりますと───』

 

朝食も済ませ、後片付けをしながらテレビで報道されているニュースに耳を傾ける。どうやら世間ではアレがガス爆発によるモノである、という風にする事にしたらしい。明らかに隠蔽工作の類いだろうが、その件にガッツリ関わっている俺としては有難い話だった。

 

そして同時に、これでハッキリした事がある。昨夜のあの戦いには一定数の人間の思惑が関わっている、ということ。それがどれだけいるかは定かではないが、昨夜の戦いが知られるのを嫌がる者が確実に存在しているのは確かだ。問題はその者達が何を目的としているのかだ、下手をすれば自分の様に巻き込まれる人間が出てくるだろう。更に問題なのがその戦いを目撃したものが何の躊躇いもなく消されてしまう、という事だ。

 

あの白い少女がそうだった様に、目撃者は殺されるのが決定付けられている。───正直、ふざけるな。と、声を大にして言ってやりたい。

 

何故この国で、冬木の街で殺し合いなんかしなくちゃならない。なんで偶然目にした人間を殺さなくてはならない。殺し合いをするのなら誰もいない所で勝手にやればいいだろ。

 

殺し合いに巻き込まれた恐怖よりも、一方的な理由で殺しにかかる者たちに対する怒りの方が勝った。怖くないと言えば嘘になる。が、それ以上に連中の理不尽さに怒りを覚えた。

 

だけど、怒りで思考を停止させるわけにはいかない。この事態を早急に終わらせる為にも冷静に考えを纏める必要がある。疑問に思うのはそもそも何故連中はこの冬木で殺し合いなんかしているのだろう?

 

連中───思い返すのはコンテナ街で戦う二つの影、片方は自分を殺そうとした黒い巨人と青い閃光のように矢鱈と速い男。あの二人だけが殺し合いをしているのか、それとも他にもまだいたりするのか、それすらも分からない。

 

(分からないと言えば、レティシアさんもなんだよなぁ……結局何をしていたんだ? この人)

 

隣をチラリとフランスからの旅行客であるレティシアさんを見れば黙々と食器洗いを手伝ってくれる。昨夜は置き手紙なんか残して姿を消すから慌てて外に飛び出したが、今にして思えば不可解な点が幾つかある。

 

何故か冬木の地にいることを執着している事、タイミング的に考えれば彼女にも何か秘密があるのではないかと、変に勘繰ってしまう。フランスで受けた恩を返す為にもあまり余計な詮索はしない方がいいのだろうが、どうしても嫌な考えばかり横切ってしまう。

 

お陰で、朝の朝食ではあまり彼女とは話ができていない。レティシアさんも何だか少食だったし、シドゥリさんには余計な心配を掛けさせてしまった。このままでは不味いよな、どうにかして話を切り出さないと……。

 

「あの、修司君。今少し良いですか?」

 

「な、なに?」

 

そんな事を考えている内に向こうから切り出していた。思わず吃ってしまう俺。

 

「修司君は……その、今日も学校で部活があったりします?」

 

「え? い、いや。多分今日は部活は無い筈だよ、まだ例の犯人が捕まったって話もないし、まだ当分放課後の部活動は再開されないと思う。まぁ、帰りに夕飯の買い物をしなくちゃいけないから、少し遅くなるかもだけど……」

 

「出来れば、早く帰ってきてもらえませんか? 昨夜の事で大事なお話があるんです」

 

──ドキリ。と、心音が高鳴った気がした。綺麗なレティシアさんの顔に………ではなく、核心を突くような彼女の言動に。

 

やっぱり、この人は昨夜の出来事に付いて何か知っている。それも今回の騒動の中心部分を、だ。何故ここで自分にだけ聞こえるように言うのか、幸いシドゥリさんはパソコンに向き合っていて此方に気付いた様子はない。

 

何を、と改めて聞いてもそれ以降彼女の口が開かれる事はなかった。ただ、迷っているような、不安に思うようなその表情をする彼女をただ見守ることしか出来なかった。

 

そして少しだけ食後の小休止をした後、登校する為に玄関を出る。今日は朝練も無く、比較的ゆったりできる貴重な日だ。シドゥリさんとレティシアさんに見送られて外に出ると………ふと、違和感に気付いた。

 

「───あれ? 俺んちって、こんなに低かったっけ?」

 

下を見ればそこにはコンクリートで出来た地上が見える。昔なら怖くて下を見ることも出来なかった。中学に入り、高校へ進み、身長が伸びるに連れて住んでいる家との高低差にも馴れてきて、今は特に平気になったのだが………。

 

今は、そんな地上との距離がそんなに無いような気がするのは………一体どういう事だ? 此処から飛び降りても無傷で済む。そんな、よく分からない確信を抱いてしまう。

 

と言うか、何か身体が変に軽く感じる。昨日の自分がまるで石像に思えてしまう程に今日の俺は調子が良すぎた。

 

「っと、呆けてる場合じゃない。俺も早く学校に向かわないと」

 

自身の身体なのに別物になった気分だ。……なのに、不思議と不快感はない。あるのは本能的に肉体機能を抑えなければいけないもどかしさくらい。

 

………そう言えば、何か不思議な夢を見た気がした。今になって何故そんな事を気にしてしまうのか、しかし、思い返そうにも夢の内容は全く思い出せそうにない。

 

ハッキリとしているのはその夢が少しだけ悲しかったという事だけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから変わってしまった一部の頭髪に教師やクラスメイトからツッコミがないか危惧していたが、幸いこれに気付いたモノは殆どいなかった。変色したと言っても本当にうっすらとだし、黒い頭髪の自分には目立った変化ではない。

 

そもそもうちの学校にはもっと派手な髪色をした奴がいるし、仮に髪を染めても誰も文句は言わないだろう。士郎とか間桐兄妹とか。

 

気付いた藤村先生も「あらイメチェン? 似合ってないわねー」 と言われただけだし、葛木先生も「程々にな」なんて言われる程度だ。クラスメイトの連中に至っては全くのノータッチである。

 

……あれ? もしかして俺、皆に興味を抱かれてない? 空気みたいな扱いになってたりしてない?

 

と、ともあれ、これといってトラブルも無く学校も無事に終わりそろそろ下校しようかって時に……厄介な場面に遭遇した。

 

「なぁ頼むよ衛宮、助けると思ってさ」

 

両隣に下級生の女子を侍らせた慎二が士郎に弓道場の掃除を任せようとしていた。幾ら士郎が底抜けのお人好しだからって……いや、人間性(・・・)を引き出したいからって、その言い方は無いだろうに───。

 

「あぁ、いいよ。構わないさ」

 

そしてコイツも馬鹿正直に真に受けるんじゃないよ。

 

「慎二、いい加減にしとけよ。幾らなんでもやりすぎだ」

 

「修司?」

 

「し、修司。………なんだよ、お前には関係ないだろ!」

 

「関係ないわけ無いだろ。士郎は弓道部とは無関係と言ったのはお前だろうが、それに今日の掃除当番はお前だって聞いたぞ? ──なぁ、一体どうしたんだ慎二、ここの所のお前、少し変だぞ」

 

「うるさい! お前なんかが僕に命令してるんじゃない! くそっ、今にみてろよ………!」

 

そう息巻いて慎二は廊下をズカズカと進み曲がり角へ消えていく。他二名の女子も俺達に頭を下げて後を追う。

 

───あの様子だと帰ったんだろうなぁ。美綴からそれとなく話をしてやってくれって頼まれたのに、まるでダメだった。

 

と言うか、本当に慎二の奴どうしたんだ? あの必死の形相、あれじゃあまるで高校入学当初の頃に戻った様な───。

 

「じゃあ、俺もそろそろ行くよ。修司も気を付けて帰れよ」

 

「って、ちげーよ、そうじゃないだろお前も」

 

「?」

 

自分がどうして呼び止められたのか、士郎は本気で分かってないように首を傾げる。前々から思ったけど、人からの感情に鈍すぎないか?

 

「お前もお前だ。なに慎二の嫌味を真に受けてんだよ、あんなの普通断るだろ?」

 

「いや、けど放っておけないだろ? あのまま放置してたら慎二の奴怒られるぞ?」

 

「その方が良いんだよ、お前が気に掛ける事じゃない」

 

「そうも言ってられないだろ? 慎二が怒られてまた癇癪起こしたら、それこそ弓道部の後輩たちが被害を被る事になる。お前も聞いただろ? 遠坂にこっぴどくフラれた慎二が後輩一人をいびり倒して退部に追い込んだ話」

 

それは確かに俺も聞いた。というか美綴から聞かされた。俺と士郎、慎二は中学からの付き合いだし、慎二も何だかんだで俺の言葉には耳を傾けてくれる。それもあって美綴は昼休みに俺にも相談を持ち掛けたのだけれど………これじゃ申し訳が立たないな。

 

「そん時は俺がしばく」

 

「それで陸上のエースが暴行容疑で大会の出場停止なんかになったら、それこそ皆迷惑が掛かるだろ? 慎二が言うようにどうせ暇なんだから、お前も気にすることないだろ?」

 

「────」

 

あーもー! このブラウニー坊っちゃんがぁぁぁっ! なんでこうも頑固なんだ! どうしてここまで言って妥協するという事をしないんだ!?

 

お前には、家に帰ったら桜ちゃんという天使が待っているんだろうが!? あの微笑みを浮かべて、「お帰りなさい、先輩(はぁと)」と言って帰りを待ってくれる素敵後輩がいるんだろうが!! クッソネタマシイ……。

 

お前に何かあったら桜ちゃんが悲しむだろうが!! 桜ちゃんだけじゃない、藤村先生も、俺も、慎二も、学校の皆だって悲しむ! 最近冬木が物騒な空気に包まれ始めてるの知ってるだろうが! 何で自分の身を案じない!? アレか? コイツには何か強迫観念的な何かがあったりするのか? 昔のコイツに何があった!?ここまで意固地になる理由は一体なんだ!?

 

いっそのこと、昨日俺が体験したことを全部ぶちまけてやろうか? そうすれば流石のコイツも危機感を抱いて早めに帰ろうと思うだろ。………いや、ダメだ。どう言っても「夢でもみたんだろ?」の一言で両断されて終わりになる未来しか見えない。俺自身未だに夢なんじゃないかって思ってるんだもん、説得できる気がしない。

 

「………はぁぁぁぁ、仕方ない。俺も手伝うよ」

 

「え? な、何でそんな話になるんだよ?」

 

「士郎一人に任せたらそれこそ時間掛かるだろ。一人より二人の方が効率はいい、俺も何度か弓道部に出入りしてるし勝手は分かる。そら、早く行くぞ、俺だって今日人を待たせてるんだからな」

 

「なら、やっぱ俺一人で片付けた方が……」

 

「うっせ、口答えすんな」

 

「???」

 

このまま話をしても拉致が明かない。言葉よりも行動で示した方がまだコイツには効果があると判断した俺は、後ろで遠慮の言葉を吐き続ける士郎を無視し、弓道場へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────そして、二人で掃除をした事により弓道場の整理は問題なく終わった。士郎が弓矢の整備をしている間に俺が掃除を終わらせ、残った雑務も二人で行った事で無事に終了した。

 

二人でやりきった事で予定よりも早めに終わったが、それでも道場を出る頃には学校に人気もなく、空も大分暗くなっていた。

 

(あーあ、完全に遅れちゃったよ。レティシアさんに何て言おう)

 

何か大事な話があったらしいのに、これでは余計に心配を掛けるばかりだ。これならレティシアさんに連絡先聞いておくんだった。

 

「士郎、戸締まりは終ったか?」

 

「あぁ、ちゃんと確認した。しかし修司、何だってお前まで残るなんて言い出したんだ? 確かにお前の手際の良さは知ってるし、俺一人でやるより効率は良いんだろうけど……何だって手伝ってくれたんだ?」

 

「……お前に何かあったら、桜ちゃんが悲しむだろ」

 

「………なんでそこで桜が出てくるんだ?」

 

「はぁぁぁぁぁぁ………」

 

色々言いたい事はあるけれど……今は止めよう。いい加減帰って夕飯の準備もしなければいけないし、不思議に首を傾げる士郎を無視して帰路に着こうと一歩踏み出すと。

 

「あっ、しまった。教室に弁当箱忘れちまった! 悪い修司、先に帰っててくれ」

 

「………おい、まさかお前」

 

「違うって、本当に忘れ物を取りに戻るだけだ。ありがとうな。それじゃあ、また明日」

 

そう言って士郎は踵を返して校舎に向かう。小言の一言でも言ってやりたいが、そもそも教室に戻らず一方的に弓道場に向かったのは俺だ。

 

本来なら校門で待っているべきだろうが、生憎今日はレティシアさんに先約を取られている。これ以上の遅れはしたくない。一人学校に残す士郎を申し訳なく思いながらも、俺は一人帰路に着くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──やっぱ、なんか変だ。身体の調子が良すぎる」

 

何時もより早く大橋を抜けて新都へ辿り着いた。普段ならこのペースでここまで来たら流石に呼吸の一つも乱れるのに、今は全くその気配がない。

 

身体から力が溢れてくる様だ。もしやこれが噂に聞くランナーズハイという奴なのか? ……いや違うな、あれは長時間の運動によって引き起こされる陶酔感だ。そもそもそこまで疲弊してない俺にランナーズハイなんて現象が起きる筈がない。

 

やっぱり、昨日のアレで箍が外れたのだろうか。人間は普段脳のリミッターが掛けられてるって言うし……アレ? 確かそれはここ近年で間違いだって立証されなかったっけ?

 

「まぁ、先ずは家に帰ることが重要だよな。今頃レティシアさん心配してるだろうし」

 

そう思い速度を上げようと脚に力を込めて……その光景を目にしてしまった。

 

「……アレって、慎二と……美綴か? アイツら何して──」

 

人が行き交う歩道で二人の男女、慎二と美綴の姿を目撃した俺は、ふと気になり脚を止める。遠巻きから見てるだけだったが、何やや雲行きがおかしい。何やら言い合いをしている二人、と言っても捲し立てるのは美綴の方で慎二は涼しい顔している。

 

軈て鬱陶しくなったのか、慎二は美綴を振り切って路地裏へと消えていく。美綴も言い足りていないのか、自分を無視する慎二を追って路地裏へと向かっていく。

 

……いやな予感がする。消える二人に一抹の不安を感じた俺は内心レティシアさんに謝り、俺も二人の後を追うことにした。

 

路地裏の奥へ進むにつれて人気は少なくなっていく。もしここで慎二の悪い友達に絡まれたりしたら、流石に美綴でも危険が伴う。確かに美綴は様々な武術を習っていると本人から耳にしているが、それでも多勢に無勢では不利がある。

 

俺ならば美綴一人くらい抱えて逃げるのもわけないので最悪そうするかと気持ちを固めていた時。

 

「きゃぁぁぁぁっ!!」

 

「っ!」

 

向こうの角先から美綴と思われる女性の悲鳴が聞こえてきた。瞬間、俺は脚に込め力を強めて一呼吸の合間に悲鳴があった場所へ到達する。

 

見れば、其処には横になって倒れ伏す美綴の姿があった。何かあったのかと不安に煽られて駆け寄ろうとするが、不自然に浮いている美綴の首回りを見て違和感を感じた。

 

「あれー? 何で修司もいるんだ? もしかして、僕達の後を追って来ちゃったのかなぁ?」

 

通路の奥、ビルに備え付けられた階段からゆっくりと降りてくる一人の男、如何にも事情を知っていそうなその男は不敵な笑みを浮かべて俺を見下ろしてくる。

 

「全く、神秘の隠匿は魔術師の義務とはいえ、流石に顔見知り二人も相手にしなくちゃいけないなんて、僕はなんてついてないんだー」

 

白々しく語る慎二、その手にした本が妖しい光を放つと、美綴の身体が浮き上がり彼女を咥えていたモノの正体が顕になる。

 

「───やれ、ライダー。記憶があやふやになるまで搾り取れ」

 

それは手足が長く、身長の高い女だった。華奢な体躯、しかし俺は直感で理解する。目の前の女は昨夜の黒い巨人と同質な存在なのだと。

 

女が手にしている得物は………鎖、相手を逃がさず決して離さない鎖の鞭。しなる身体を翻し、突っ込んでくる女に対し、俺は意識を戦闘体勢に移して迎え撃つのだった。

 

 

 

 

「───クククク、そうか、アレが昨夜の魔神を飼っている小坊主か」

 

「此度の聖杯戦争、中々面白くなりそうじゃわい」

 

蠢く蟲の中で腐った悪意が動き出す。

 

 

 




Q.何で夢に起きた傷が付いてるの?
A.詳細は省きますが、因子が増えた影響によるもの、と思って頂ければ幸いです。

次回、戦闘開始。

それでは次回もまた見てボッチノシ

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