『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回、久々のシラカワモード(笑)。


その18

γ月M日

 

 先の記者会見でどうにかメディアの連中を満足させる事が出来たようで、世間は落ち着いた様子でいる。相変わらずメディアの方は大袈裟に自分の事をアレコレ尾ひれを付けて社会に垂れ流してくれるが、人々はそんな事さほど気にも留めない様子で、変わりなく生活している。

 

大体、一人の人間が資格を一つ取った程度で世間が騒ぎ立つ筈もないのだ。そりゃアイドルとか有名人の人が資格を取ったら話題の一つにもなるだろうが、生憎自分の様な一般人が資格を取った位で普通は見向きもしないモノである。

 

精々「ふ~ん……で、誰そいつ?」な感じである。そもそも、“篠ノ之束の後継者現る!?”という見出しを書いた雑誌も見かけるが、コレばっかりはホラ吹きも大概にしろという感じである。

 

お陰で箒ちゃんから同情の眼差しを受けたし、ホントメディアって勝手な事ばかり言うよな。これでは会見を開いた意味が無いではないか。

 

……まぁ、この大仰な宣伝のお陰で世間は半信半疑の状態となり、逆にあまり気に掛けられる事も無くなったから別に良いんだけどね。そもそも、こう言った事を書かれる事を承知の上で会見を開いたのだから、これ以上の愚痴は止めておく事にしよう。ある程度騒いだらメディアも落ち着くと思うしね。

 

 さて、そんな事よりも今話題にしたい話は学園祭の事だ。ちょうど今日から準備期間に入るようなので、各クラスから熱気の様なモノを感じ始めている。

 

こう言った準備期間も学園祭の醍醐味の一つ、自分も用務員の仕事と並行して手の足りないクラスに向かい、出し物製作の手伝いを施した。

 

芸術品の展示会や舞台、お化け屋敷など、鉄板の催し物の類があれば、屋台や喫茶店、レストランなど食べ物を出すクラスもチラホラ見受けられる。

 

一夏君のクラスの出し物は執事喫茶らしく、学園唯一の男子生徒という強みを活かした出し物をするらしく、皆衣装やメニュー作りにあれこれ考えを出し合っていた。

 

本当なら自分ももっと全面的に協力したかったのだが、学園祭はあくまで学生達が主役。大人達はちょっとした手助け程度にしなさいと十蔵さんに釘を刺されてしまった。

 

そう言われてしまえば自分に反論出来る筈もなく、少しばかり寂しいが……ここは生徒達の自主性を重んじて見守る事にする。

 

ただ、体育館を使用するクラスは幾分か遅れがあるようで、先の記者会見で使わせて貰った以上、そこだけは自分もある程度手伝うことにした。十蔵さんも納得してくれたし、邪魔にならない程度に自分も学園祭に参加しようと思う。

 

けど、ちょっと不思議に思った事がある。生徒会が催すとされる舞台の白雪姫、何で童話の中の白雪姫の話に青竜刀とかスナイパーライフルが出て来るのだろう? アレって中世のドイツ辺りが時代背景じゃなかったっけ? 何故に現代兵器や中国の武器が出て来るの?

 

まぁ、アレンジされた白雪姫という事なのだろう。そのこと自体は自分も文句はないが……流石に実物は拙いだろ。ライフルをモデルガンに置き換え、青竜刀やサバイバルナイフといった凶器は刃を潰した安全仕様のモノにすり替えておいた。

 

学園祭に死人を出すのは洒落にならないからね。生徒達も間違って発注したのだろう。ここIS学園は警備という名目で結構武器が補充されているし、今回の実物もそこから紛れ込んできたのだろう。

 

事情を説明したら織斑先生も進んで武器を預かって安全な所に置いてきてくれたし、これなら安心してもいいだろう。

 

明日も文化祭の準備だ。邪魔にならない範囲で自分も手伝って行こうと思う。

 

 

 

γ月A日

 

 今朝、日本政府から通信があった。何でもIS委員会が自分の事を認めたらしく、近い内に自分宛にコアを届けようと約束してくれたのだ。

 

うーん、こうも早くにコアが届けられるとは流石に予想外だった。数に限りのあるISコア、500にも満たない希少なものだから届くにしてももっと先の事だと思っていたから、少しばかり戸惑う自分がいる。

 

いや、別に良いんだけどね。自分がどんなISを作るのかは頭の中で大体出来上がっているし、必要なモノも多少めんどいが生成可能だし、時間さえあればいつでも作業に移れるんだけどね。

 

自分が作ろうとしているISは少々手間が掛かる代物で、製作期間は予想だと大体一ヶ月程掛かってしまう。流石にいち用務員が一ヶ月も仕事を放り出す訳にもいかないし、けれど折角ISを作れる立場を得たのだから妥協もしたくはない。

 

色々構成を練って作業に取り掛かりたいのだが、やはりどう考えても無理があるんだよなぁ。流石にIS製作と用務員の二足の鞋は厳しいモノがある。

 

どちらも片手間で済ませたくないし、かといって一月も仕事を放っておく訳にもいかない。もし万が一ここでの仕事がクビになったら、今度こそ自分は路頭に迷う事になるのだ。

 

IS学園ほど環境が整った所はそうそうない。簪ちゃんの専用機を作る際もここの施設にはお世話になったし、使い方も分かっている。そういった意味でもこの仕事は手放せない。

 

……そう言えば、最近倉持研って所から良くウチに来ないかって誘いのメールが来てるんだよね。別に行くつもりはないけど。

 

だって倉持研って簪ちゃんの専用機の製作を打ち切った所でしょ? 幾ら一夏君のデータ取りに人員が割かれたからって、打ち切りはないでしょう。結構有名な所らしいし、何人か専門の人が応援に駆けつけたりすれば少しはイメージが違ったのにそれすらしないんだもの。正直、自分の中での倉持研に対するイメージはそんなに良くない。

 

そんな訳で倉持研には近い内直接伺わせてもらいキッパリ断ろうと思う。こういうのって早い内に済ませた方がいいから……次の休みには伺おうと考えている。

 

またコートを出さなくちゃなぁ。トレーズさんから渡された大事なモノだし、あまり汚す機会は増やしたくないんだけどなぁ……。

 

いっそ代わりに白衣でも着てくか? そうすれば少しは俺も技術者っぽく見えるかも。……いや、キワモノみたくなるか。

 

まぁでも、考えておくのもいいかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “倉持研究所” 通称倉持研。ISの出現以降、日本でのIS開発を一手に引き受け、今や日本の大手IS開発機関となったこの倉持研に一台のリムジンが研究所の前に停車する。

 

そのリムジンを前に倉持研のスタッフ達が集結する。何れもISに関しては一級の知識を持った人材達、そんな彼等が挙って集まるのは……リムジンに乗っている一人の青年を待っていたからだ。

 

扉が開く。開かれたドアから足が伸び、地面へと踏み締める。

 

そして、リムジンから出てきたその青年に誰もが息を呑んだ。純白の白衣を身に纏い、紫炎の様な髪を揺らしながら現れる一人の青年。

 

これが、若き天才。あの篠ノ之束の後継者とも言われ、自分達が漸く手に入れた総合IS管理資格を個人で得た鬼才の男。

 

「ほ、本日は遠い所からお出で頂き、まことにありがとうございます。白河修司殿」

 

“白河修司” そう呼ばれた青年は差し出された研究員の手を謹んで握り返し。

 

「敬語は結構ですよ、篝火ヒカルノさん。あなたも今日はこんな若輩の為にはるばる倉持技研第二研究所からお越し頂き、ありがとうございます」

 

「っ!?」

 

「おや? 自分の名前が知られている事が意外でしたか? あなた方は私にとってIS開発に関する先輩です。後輩としての礼儀として、皆さんの名前は一通り覚えさせて頂きましたよ」

 

汗が、こぼれ落ちる。目の前の青年は自分よりも年下の筈なのに、言い表す事の出来ないナニカを感じる。

 

そんな事を見透かしたのか、目の前の青年は口元を弛め……。

 

「では、改めまして───白河修司です。本日は私の為にこのような場を設けて頂き、誠に感謝致します」

 

そう、不敵に笑うのだった。

 

 

 

 

 




主「失礼のないよう、しっかり名前覚えておかなきゃ!」

研究者一同「なんだ、コイツ!?」



敬語って、難しいよね(白目)

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