『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回は目立った話じゃないかも……。


その21

 

 

 

「士郎、遠坂、お前等魔術師だったのか」

 

自身の前に立つ二人の戦士、その見てくれと出で立ちからサーヴァントだと理解した修司は彼等を従える魔術師(マスター)が気心知れた友人と学校のクラスメイトであった事実に少なからずショックを覚えた。

 

「───で? そう言うアンタもマスターだったわけ?」

 

しかし、遠坂凛は戸惑いと言うよりも敵意に近い眼差しで修司を睨むように視線を向けてくる。クラスでは見たことのない学園のマドンナの態度に修司の目は丸くなる。

 

「………いや、俺はマスターじゃないぞ。ついでに言えば魔術師でもない」

 

「この状況でそのような言葉が通ると思っているのか」

 

「同感だな。相手を偽り欺くのは魔術師にとって常套手段だ。何よりサーヴァントを引き連れておいてその言い訳は流石に無理がある」

 

嘘偽りなく本音で語ったと言うのに、何故か喧嘩腰で否定してくるのは見えない何かを掴んだ素振りを見せる騎士甲冑の少女、その目には遠坂凛以上の敵意を滲ませており、紅い外套の男に至っては呆れた様に皮肉を飛ばしてくる。

 

彼等の言動に僅かな怒りを覚える修司だが、そう言えばと思い冷静に自分の今の状況を客観的に見直すと、思っていた以上に自分に非がある事が分かった。

 

夜、人気のない教会付近、そこでサーヴァントを引き連れた自分が待ち構えている。……うん、どう考えても宣戦布告に来た敵対マスターだ。

 

言われて自分の現状に気付く修司、どうにかして自身の潔癖を証明しなくてはと腕を組んで考えを模索していると、横にいる聖女が修司を庇うように前に出た。

 

「彼はマスターでもなければ魔術師でもありません。それはルーラーであるこの私ジャンヌ=ダルクが真名を誓って保障します」

 

「「っ!!」」

 

「ジャンヌ=ダルク、しかもルーラーですって? ……そうか、そう言えば綺礼がそんな事言ってたっけ」

 

ルーラーという名前が余程説得力があったのか、サーヴァント二人と遠坂は驚きそして納得している。士郎の方は何が何やらと言った様子で混乱しているが、それは修司の方も同じだった。

 

「修司君、彼等に両手の甲を見せて上げてください」

 

「へ? そ、そんなんで誤解が解けるのか?」

 

「えぇ」

 

ジャンヌの言葉を不思議に思いながらも遠坂達に掲げる様に両手の甲を見せると、それが決め手になったのか士郎は安堵の溜め息を吐いて騎士の少女の方は何かを握っていた手を緩め、レインコートを羽織直した。

 

だが、対する遠坂はそうはいかなかった。敵意の様な強烈なモノではないが、それでも責めるような視線は未だに解けてはいない。

 

「………いいわ。ルーラーの言うように彼が唯の一般人だってのは認める。でも、だったら何故彼は此処にいるのよ? 神秘の秘匿は魔術師の義務、その様子だと聖杯戦争の事は色々と知ってるんでしょ? なんだって綺礼は彼をそのままにしているのよ」

 

それは魔術師である遠坂凛にとって当然の質問だった。神秘を行使する魔術師は神秘を薄めない為に魔術の存在を秘匿する義務がある。一般人にバレたりすればそれは魔術を行使する為に必要な神秘が薄れる事を意味している。

 

それを防ぐために魔術師は目撃された一般人の口を封じる必要がある。なのに、目の前の少年にはその様に施された様子は何処にもない。此処にいると言うことは彼が教会に立ち寄ったのは間違いない、何らかの形で聖杯戦争に巻き込まれ、そして事情を知った修司とそれを呑気に教えた言峰に遠坂凛は如何ともしがたい怒りを覚えた。

 

「……まぁ、ちょっと事情があってな。俺も聖杯戦争に乱入する事になった」

 

「し、修司!? 」

 

巻き込まれただけの一般人が、よりにもよって聖杯戦争に乱入(・・)と言い切った事に士郎は勿論騎士甲冑の少女も驚きに目を見開いている。

 

「此処にいるって事はお前等も教会に行って色々と話を聞いてくるんだろ? なら、詳しい話は明日にしよう」

 

「───そうね、色々と……本っっっ当に色々とツッコミたい所はあるけれど生憎此方も今日中にやらなきゃいけない事があるし、貴方に関しては明日問い詰める事にするわ」

 

(凛、いいのか?)

 

(いいわけないでしょ、彼に関してはあのエセ神父に問い詰めるとして、今は衛宮君をどうにかする方が先決よ。彼にはどうやらルーラーが付いているみたいだし、今は下手に関わらない方がいいわ)

 

ルーラーというエクストラクラスを前に慎重な姿勢を取る遠坂に相方のサーヴァントは異議を唱えることはなかった。寧ろ、彼の都合(・・・・)を考えればルーラーとのいざこざは今は極力避けるべきだ。

 

真名看破。ルーラーという特殊なクラスが保有する対象のサーヴァントの真名を知ることが可能という聖杯戦争に於いて反則レベルのスキル。他にも各クラスのサーヴァントに令呪を二画保有する神明裁決など、審判役として相応しいスキルを有している。

 

そんな彼女を前に事を荒立てる程、遠坂凛という魔術師は間抜けではない。尤も、そのルーラーが何故修司と行動を共にしているのか不思議ではあるが。

 

衛宮士郎の方はジャンヌと自身のサーヴァントの顔が何処と無く似ている事に未だ混乱しており、そのサーヴァントに至っては「顔しか似てないじゃないですか、あの魚面」等とよく分からない恨み言を溢している。

 

「んじゃ、俺等は帰るわ。士郎、遠坂も、一応気を付けろよ」

 

「あ、あぁ……」

 

修司の気軽な別れの挨拶に答えたのは士郎だけだった。騎士の少女はブツブツと何かうわ言を繰り返すだけで遠坂と紅い外套の男は沈黙を保っている。彼女達からすれば自身はこの聖杯戦争において厄介な乱入者でしかない、故に彼女達の反応も当然だと思うが………紅い外套の男の顔を見て、ふと疑問に思った修司が去り際に士郎に問い掛ける。

 

「……なぁ士郎、お前兄弟か親戚っていたりするのか?」

 

「は? な、なんだよ急に……」

 

「いや、なんかそこの紅い兄ちゃんとお前が──「ゲフンゲフン、ウォッフン!」と、なんだよいきなり」

 

「いやすまない、少し噎せただけだ。それよりも小僧、帰るならさっさと帰った方がいい。ここから先は魔術師同士の殺し合いの時間だ。巻き込まれない内にさっさと家に帰れ」

 

やけに皮肉に煽ってくる紅い男、だがこれから殺し合いをするかも知れない彼等を放っておく訳にもいかない。やはり自分も少し辺りを見回るべきか? 教会へ進む士郎達を見送る中、悩む修司が次に耳にしたのは何とも可愛らしい空腹を告げる音だった。

 

「………あー、そう言や夕飯まだだったな。シドゥリさんも待ってるだろうし、早い所帰るとするか」

 

「う、うぅぅぅぅ……」

 

隣で赤面となっているだろう聖女にはなるべく見ないようにして二人は帰路に付くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───翌日。奇妙な夢を見る事もなく、気持ちのいい朝を迎えた修司は朝食の片付けを済まし、朝練の時間が迫るまでの僅かな間、リビングのソファーに座りテレビで今朝の冬木で起きた出来事をチェックしていた。

 

あれから遅く帰ってきた事を追及してくるシドゥリを何とか捌き、深夜の冬木を見て回ったがこれと言った変化は街中では起きていなかった。

 

しかし、それは魔術の知識を持たない目視で見た修司からの感想であって聖杯戦争に巻き込まれた被害者は確実に存在している。今テレビでは建物内で昏睡状態の人々が救急車で搬送されたという情報が流されている。

 

他にも嘗て海外から移住してきた異邦人達が使用したとされる外人墓地では、ガス爆発で吹き飛んだという情報も流されている。どちらも聖杯戦争によって生み出された爪痕だ。

 

ジャンヌは魔術師、或いはサーヴァントによる人避けの結界が施されている可能性もあるから、気付けないのは仕方ないと言っていたが、修司にとってそれは唯の言い訳に過ぎない。あれだけ息巻いておきながら結局何も変えていない自身に修司は己の滑稽さに怒りを覚えた。

 

そしてそのルーラーが聖杯戦争の審判役である以上、それがルールに則った物であるならば文句を挟む道理はない。昨夜の教会付近で行われたと思われる戦いに当然彼女は知ってはいたが、それを修司に伝える事はしなかった。

 

彼女は聖杯戦争によって他人が巻き込まれる事を由としない。故に修司を監視する事はあっても協力する事はあまりない。勿論、それは修司も彼女の立場を理解しているし、弁えているからその事でどうこう言うつもりはない。

 

その代わりルーラーであるジャンヌからはある程度の情報を齎されている。彼女が言うには昏睡事件の方は陣地作成のスキルを持つキャスターの仕業ではないかと睨んでいるらしい。修司は聖杯戦争に付いて最低限の知識しか知らないので何とも言えないが、今は彼女の情報を基に今後の方針を固めていくのが妥当な所だろう。

 

そしてサーヴァントを従えるマスターの見破り方だが、此方は比較的簡単だった。両手のどちらかの甲辺りに浮かぶ紅い刺青みたいな模様、それがサーヴァントに対する絶対命令権である令呪であり、マスターの証なのだとか。

 

聖杯戦争の審判役であるジャンヌは一つの陣営に付いたりはしない。それは乱入者である修司にも同じこと、それでも聖杯戦争に於ける不正だと判断された情報は教えてくれるし、聖杯戦争のシステムについても話してくれるから、充分助かっていると修司は思う。

 

(成る程、道理で俺の手を見た遠坂が引き下がった訳だ)

 

昨夜、自分の弁明ではまるっきり信じなかった癖にジャンヌの言葉と両手の甲を見せた途端アッサリと信じた訳を知った修司は成る程な~と一人納得する。

 

そう思っていると、時刻はそろそろ差し迫ってきた。余裕をもって 登校するには今くらいが調度良い、横においた鞄を手に取ってソファーから立ち上がり、修司は玄関へと向かう。

 

その見送りをしようとシドゥリとジャンヌも修司の後へ続く、家ではシドゥリに違和感を悟られぬ様に相変わらずジャンヌをレティシアと呼ぶことにしている。

 

「それでは修司様、お気を付けて」

 

「うん、シドゥリさんもね。レティシアさんもあまり夜遅くまで出歩かない様に」

 

「えぇ、そちらも」

 

互いに目で合図をし、放課後の事を了承し合う。彼女は修司が学校にいる間は深山町で探索をする事になっている。いざとなれば合流するように示し合わせていた二人、その事を確認すると修司は今度こそ玄関の扉を開けて外に出る。

 

少し歩いて下を見下ろせば、其処には人気の無い駐車場がある。通常ならその高さに慣れない人ならば高所による恐怖で足が竦むのに、今の修司にはその恐怖は全く無かった。

 

辺りを見渡して、下に人がいないことを確認した修司は───ふと、飛び降りてみた。何て事無いように、まるで自宅の階段を下りる様に、気安く、気軽に、地上20階の高さから飛び降りてみせた。

 

端から見たらどう考えても自殺者の行動のソレ、重力に従い落下する修司だが、地面に近付いた瞬間、猫の様にクルリと体勢を変えて、何事も無かった様に着地する。

 

着地による衝撃は思った程ではなかった。アスファルトの地面がひび割れているのに、修司の脚には何一つ影響は無く、ポンポンと叩いてみても痛みや痺れと言った症状はない、普通に動かしても何の問題は無かった。

 

「───事が全部終わったら、一度医者に診て貰お」

 

取り敢えず今はこのままで、変わった自身の身体能力に戸惑いながらも学校へ向かう修司だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「士郎、無事だったか」

 

「し、修司? あぁ、お陰様でな」

 

そして登校し、朝練を終えた修司が気になっていた生徒を探していると、件の人物を目撃して声色が晴れやかになる。対する赤毛の少年も変わった様子の無い友人との再会に安堵する。

 

「テレビでやってた外人墓地の爆発、あれお前等が原因だろ?」

 

「えっと……これ、言っちゃって良いのかな?」

 

大胆に聖杯戦争に乱入すると布告した修司だが、その在り方は依然として一般人と代わり無い。事情を知っているとは言え、無関係である筈の修司に話すのは未熟とは言え魔術師の一端である士郎は事情を口にするのを躊躇う。

 

「まぁ、話せないならいいや。此方は此方で勝手にするからよ、でも危なくなったら俺に一言連絡入れろよ? 携帯、持ってるんだろ?」

 

「何でお前が俺の心配するんだよ? 魔術師じゃないのに……」

 

「阿呆、だからだろうが。そもそも友達を助けるのにイチイチ理由が必要なのかよ」

 

「いや、そう言う訳じゃ……」

 

同じ学園の級友で友人であり、本来無関係な修司を巻き込むわけにはいかない。だから士郎は修司の聖杯戦争への参戦を反対したい所だが、如何せんこの男異様に頭が回り行動力が凄まじい。勝手にすると口にする以上、本当に独自で聖杯戦争の諸事情を看破しそうで怖い。

 

「………なぁ、修司。お前何でそこまで関わろうとするんだよ。魔術師でもマスターでもないお前が、其処までして関わろうとする理由はなんだ?」

 

何気ない質問、そして当然の疑問であった。昨夜教会付近にいたと言うことは、遠坂の言う通りあの神父から色々聞かされたのだろう。聖杯戦争の事、万能の願望器、もし目の前の修司も聖杯に何か託す望みがあるのなら、それを可能な限り諭してやりたい。

 

───だって、聖杯戦争を勝ち抜くという事は10年前のあの惨劇が再び繰り返される可能性があるという事だから。

 

「───10年前の惨劇、その繰り返しを何としても阻止する為、そして………聖杯をぶっ潰す為だ」

 

「───え?」

 

憤怒に満ちた修司の横顔、それを目にした士郎は驚いた。普段は温厚で蒔寺相手以外温厚な修司が、明らかに怒りを露にしている。

 

そして彼の口にした願い、それはまさに士郎にとって予想だにしなかったモノだった。

 

聖杯を破壊する。聖杯戦争という魔術師同士による殺し合いの儀式、その根底にある聖杯を完膚無き迄に破壊すると、隣にいる少年に士郎は目が放せなかった。

 

「じゃ、またな。無事を確認できて良かったよ。もし気が変わったら俺の教室に来てくれ、俺も色々話せる情報があるからさ」

 

「あっ……」

 

先行く修司に声を掛けようと手を伸ばす士郎だが、その手は届くことは無かった。いや、掛ける言葉が見つからなかった。

 

自身の先を歩く修司、目的があり、果たすべき願いがあり、それが10年前の惨劇を繰り返させてはならないと、その原因たる聖杯を絶対に許さないと、確固たる意思を持って行動する修司に士郎は何て呼び止めたら良いか分からなかった。

 

誰かの為に怒り、無関係なのに手を伸ばす。その怒りの在り方がどうしようもなく自身の憧れるモノに近い気がして………。

 

故に衛宮士郎には、白河修司を止める事は出来なかった。

 

「ふぅん、聖杯をぶっ潰す。ねぇ」

 

「なら、残念だけど白河君。貴方はどうしようもなく───私の敵よ。喩え弟弟子であっても、容赦はしないわ」

 

 




Q.遠坂は修司が自分の弟弟子だと知ったの?

A.
麻婆神父「無論、教えたとも。武術に於ける私の弟子であり、遠坂凛の弟弟子であると。───尤も、その実力差は知らないだろうがね」
槍兵「やっぱコイツクソだわ」
麻婆「アレも一端の拳士であるなら、ある程度なら戦わずして相手の力量を図れるだろうよ。まぁ、あ奴が無自覚に実力を隠す事に長けているのは私も想定外だったがな」
槍兵「……嬢ちゃん、頑張れよ」


ifもし修司がカルデアにいたらWithマイルーム。

イシュタルの場合。

「……何でかしら、あの男と顔を合わせてから私の依り代が凄まじく怯えてるんだけど」
「え? 私の依り代がアンタの姉弟子? なーんだ、なら平気じゃない。フフン、依り代とは言えアンタは私の弟弟子、なら姉弟子の言うことは聞かなくちゃね? 覚悟なさいよー、私の我が儘は想像を絶するんだから!」
「───ちょっと、何笑ってんのよ其処の金ピカ! え?御愁傷様? な、なによ、なに同情の目を向けてんのよ! 手を合わせるなコラー!」


アストライアの場合。

「シュウジ、何故でしょう。彼を見ていると私の中の克己心がムクムクと膨れ上がってきますわ!」
「もし、其処の貴方! えぇ、失礼ですが私と一戦勝負をして頂きませんこと? 勿論、手加減はしますわ。サーヴァントと生身の人間ですもの、その辺りは心得ていますわ」
「え? その必要はない? 勝負である以上対等であるべき? ふ、フフン。成る程、確かにその通りですわね。ならばこの私の技の数々、お受けなさいな!」

尚、このあと空を飛ぶ正義の女神が目撃されたとか。


次回、放課後の校舎・遭遇。

それでは次回もまた見てボッチノシ



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