『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回も引き続き動きがあまり無い話です。

やっぱ聖杯戦争は夜でなくっちゃなぁ……。



凛「喰らえ! 十影葬!」




その22

 

 

 

───修司が学校で士郎と再会してから少しばかりの時間が経過し、現在は昼休み。廊下へ出て食堂へ向かう生徒達に習い、自身も飯を食べようと席を立つ。

 

シドゥリから渡された弁当を何処で食べようかと廊下へ出ようとした時、先に待ち構えていたらしい士郎が修司の姿を見付けるとヨッと片手を上げて歩み寄ってきた。

 

「修司、お前も弁当か?」

 

「あぁ、シドゥリさんが作ってくれてな。そう言う士郎も?」

 

「あぁ、色々話がしたいし、久し振りに二人でどっか食べにいかないか?」

 

タイミング的に聖杯戦争云々に関する話だろう。自分も士郎には色々聞きたい事があるし、丁度良いと思い彼の誘いを受ける事にした。

 

「それは別に構わないが………遠坂は良いのか? アイツも交えた方が良いんじゃないのかって、いないな」

 

どうせなら遠坂も巻き込もうと目論むが、教室へ視線を向ければ其処に遠坂の姿は無かった。どうやら先に廊下へ出て人知れず何処かへ姿を消したのだろう。

 

教室で顔を合わせても彼女の態度は普段と変わらぬお嬢様然としたもの、聖杯戦争に乱入すると言い張る自分に何も言うことは無いのか、静かな遠坂の反応に修司は嵐の前の静けさの様な不気味さを感じた。

 

「いないならいないで仕方ないさ、俺も後で遠坂に会ったらそれとなく伝えるからさ」

 

「そう、なのか?」

 

聖杯戦争とは魔術師同士の殺し合いではなかったのか、自分から言っておきながら相変わらずな友人の態度に何処か安心すら覚える修司だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「慎二がマスター!?」

 

「ばっ、声がデカイ!」

 

「あっ、わ、悪い」

 

昼下がり、誰もいない学校の屋上で昼食を食べ終えた二人は、昨夜に起きた出来事をそれぞれ交互に話し始めていた。最初は士郎次に修司となるべく時系列に沿って話し合う二人、互いに起きた出来事に呆れたり驚いたりしていたが、修司が慎二とそのサーヴァントらしきモノと戦ったと言う辺りから、士郎の驚愕の度合いは大きなモノとなっていた。

 

「そうか、だから慎二の奴学校をサボってたのか」

 

「美綴の方は安心しろ。ジャンヌさん……いや、この場合はルーラーか。彼女と言峰神父に診て貰ったし、今は病院で安静にしている。専門家によれば二、三日で快復するらしいから、心配はいらないだろ」

 

「あぁ、俺も安心したよ。ありがとな修司、美綴を助けてくれて」

 

「気にすんな、偶々出会しただけだ。それに俺がしたことと言えばサーヴァントらしい女を蹴り飛ばした程度、大した事じゃない。……それに、重要な事はそこじゃないだろ」

 

「あぁ……桜も、そうだったりするのかな」

 

先日の遭遇から流れで慎二とそのサーヴァントと戦い、撃退した修司。専門的な知識は皆無だからハッキリと言えた事ではないが、あの両面眼帯のボディコン女は果たしてあれで消滅したのだろうか?

 

サーヴァントにはどうやら一般人から姿を隠す為の霊体化なる術があるらしく、魔術など専門外な修司にはその区別の付け方すら分からない。

 

間桐臓硯は敗退したと言うが……今一つ信用出来ないのは先の夜で紅い外套の男が口にした騙し合いは魔術師の常套手段、と言うのを気にしている所為か。

 

現在修司がルーラーや言峰の説明によって分かっているのは現在冬木には七騎のサーヴァントがいて、各々が剣士(セイバー)弓兵(アーチャー)槍兵(ランサー)騎乗兵(ライダー)暗殺者(アサシン)魔術師(キャスター)狂戦士(バーサーカー)とクラスを冠しているという事。そしてサーヴァントを従えている魔術師、マスターには令呪なるものが宿っている事等と精々この程度だ。

 

魔術に関する知識が無い以上、どんな奴がサーヴァントでマスターなのか皆目検討も付かない。現在分かっているマスターは遠坂凛、衛宮士郎、間桐慎二、そしてあの白い少女くらいだ。

 

そして慎二には……間桐の家にはもう一人魔術師かもしれない人物がいる。彼の妹である間桐桜、彼女もまた魔術師である可能性がある。もし彼女が聖杯戦争に参加したら……果たして修司(自分)はこの拳を彼女に向けられるだろうか。

 

「──なぁ、士郎は何で聖杯戦争に参加するんだ?」

 

「え? 俺?」

 

修司は一端最悪の可能性から目を逸らす様に別の疑問を投げ掛ける。衛宮士郎という男は端から見ても正義感の強い男で、厄介事や困っている人がいたら率先して関わろうとする悪癖がある。

 

そんな彼が聖杯戦争なんて血腥い戦いに身を投ずるのは少し意外だった。人間味の薄い彼にも聖杯に賭ける願いがあるのか、それを込みで訊ねてみると……。

 

「───お前と、似たようなもんかな」

 

「なに?」

 

淡々と語る士郎に今度は修司が目を丸くさせる。

 

「聖杯戦争が10年前、冬木で起きた大災害の原因だと知って、いてもたってもいられなかった。またあの惨劇が起きる可能性がある。また、あの日の様な地獄が顕れる。それだけは絶対に阻止しなくちゃいけない」

 

「…………」

 

この時、修司は僅かだが確信した。隣に座る少年が自分と同じ境遇だという事を、当時の出来事を知り、体験し、そして刻まれた悍しい経験をしたと言う事を。

 

「───なぁ士郎、お前も………その、10年前の?」

 

「あぁ、生き残りだ」

 

ストンと、何かが填まるように納得した。ああそうか、この赤毛の少年は自分とは違う助けられ方をしたんだな、と。

 

衛宮士郎は自分と同じだった。あの地獄のただ中で自分の無力に打ちのめされていた惨めな思いをした自分と、自分は其処で黄金の王に救われ、育てられ、導かれた。

 

白河修司と衛宮士郎、二人の原点は共にあの地獄から始まった。異なっているのは、分岐点となったのは助けた者が違っていたと言う事。

 

修司を救った黄金の王はあの地獄の中で死に損ない、身の程知らずでありながら声高に理不尽に怒る修司に可能性を見た。正義の味方を目指していた者は生き残っていた衛宮士郎に感謝して助け出した。

 

きっと、二人が違っているのは其処からだ。理不尽を許さない修司と、正義の味方に憧れる士郎。二人の在り方は何処か近く、しかしそれでいてどうしようもなく遠かった。

 

「………あっ、チャイムだ」

 

気付けば昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴っていた。本当はもっと語る事が、話したい事があった筈なのに二人の会話はこれ以上交わる事はなく、空になった弁当箱を片してそれぞれの教室へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───そしてそれからも無事に授業は進み、HRも終わらせて放課後となった現在、先の事件もあり放課後の部活動は未だに活動停止状態にあり、殆どの生徒達は学校から出て家に帰っていた。

 

修司は残った生徒がいないか自主的に見回りをしていた。本来なら自分も早く帰るべきなのだが、慎二に続き士郎、遠坂と学友の三人が魔術師だった事もあり、もしかしたら他にもいるのでは? という直感から修司は学校の内部を詳しく調べ回る事にしたのだ。

 

結果は見事なまでの空回り。そもそも魔術師でもない修司が他の魔術師を見付ける術など持ち合わせてはいない。

 

「やっぱ、先にキャスターの所から調べるべきかなぁ」

 

外ではキャスターによる昏睡事件も未だに相次いでいるし、このままでは後手に回る一方だ。やはり今は可能性の段階でしかない間桐の方は後回しにして先にキャスター討伐の方向に向かう方が良いか。

 

それとも、もう一度士郎と話をして協力を仰ぐべきか、彼も聖杯戦争に対して否定的な所がある。自分と同じ気持ちでいるならば、自分達はもしかしたら手を取り合えるかもしれない。

 

(いや、それは多分難しいだろうな。士郎にもサーヴァントがいる。サーヴァントが聖杯に願いを叶えて貰おうとしている以上、聖杯を壊すつもりでいる俺とは致命的に合わない)

 

もし自分と士郎が手を組んだりしたら、最悪の場合あの少女騎士が士郎を斬り殺すだろう。彼女がそう言う事をするのは初対面の時の印象からあまり無さそうだが……自分とは合わないのは間違いないだろう。

 

下手に此方から接触するのも不味い気がする。と、携帯の時計を見て現在の時刻を確認した修司はそろそろジャンヌと合流すべきだなと、学校から出て行こうとする。

 

その時、向こうの曲がり角から件の少年が姿を表した。向こうも自分に気付くともどかしそうに頭を掻き、照れ臭そうにヨッと気軽に声を掛けてきた。

 

「修司、お前まだ帰ってなかったのかよ」

 

「まぁ、な。もしかしたらお前等以外にもマスターがいるんじゃないかって思ってブラついたら、自然とこんな時間になった」

 

「それで、成果はあったのか?」

 

「……まぁ、校内で被害にあった生徒がいないようで何より、かな」

 

何の成果も得られなかった、なんて口にするのが悔しくてつい濁す言い方をしてしまったが、士郎には簡単に気付かれていた様だ。苦笑いを浮かべながらもそうかと頷く彼に修司は虚勢の強がりを張ることしか出来なかった。

 

「で、そっちこそこんな時間まで何してんだよ。まさか校内に変な罠でも張ろうってんじゃないだろうな?」

 

「そんな大それた事なんて出来るわけないだろ。俺に出来るのは精々強化の魔術だけだ」

 

「強化? 何それ凄そう。どうやるの?」

 

「いや、魔術師じゃないお前に言っても多分分からないぞ」

 

「───前々から思ってたけど、魔術師とそうじゃない人の区別って何なんだ? ていうか、魔術師は何を以て魔術師って呼ばれるんだ?」

 

「……すまん、実は俺もあまりよく分からないんだ」

 

修司の問いに士郎は分からないとぼやく。と、そんな時だ。

 

「根源へ至らんとしている者達の事よ」

 

困り果てていた士郎の代弁をするように第三者の声が二人の間に割って入ってくる。声の方へ振り向けば、階段の踊り場で仁王立ちをしている遠坂凛が夕日の光を背に二人を見下ろしていた。

 

「衛宮君、私言ったわよね? サーヴァントを連れずにノコノコやってくるおバカを晒す様なら、私が真っ先に狩りに来るって」

 

やはり、昨日のあの態度は見間違いではなかった。普段の温厚なお嬢様な雰囲気は何処へやら、ツインテールの髪が揺らめくほどに怒気を顕にしている彼女に修司と士郎は困惑の表情を晒す。

 

「な、何言ってんだよ遠坂、マスターが行動するのは原則として人気の無い場所か夜にするものだろ。何もこんな校内で──」

 

「そうね、その認識は間違ってないわ。でもね衛宮君。その人気って言うのはここにあるかしら?」

 

言われて辺りを見渡せば確かに周囲に人の気配はなく、教師が見回りに来る気配もない。今此処にいるのは修司と士郎そして遠坂の三人のみ、何だか嫌な予感がする。

 

「サーヴァントも連れずにノコノコ学校に来る衛宮君もそうだけど、それ以上に許せないのはアンタよ、白河修司!」

 

「あ、俺?」

 

人知れず身構えているといきなり矛先が自分に向いてきた事に修司が戸惑うと、捲し立てながら遠坂は言葉のマシンガンをぶつけてくる。

 

「マスターでなければ魔術師ですらない。三流以前に一般人でしかないアンタが聖杯戦争に乱入? 冗談じゃないわよ! この戦争は10年も前から私が待ち望んでいたモノなの! それをただ巻き込まれただけのアンタがぶっ潰す? あのエセ神父の下で何年鍛えられたか知らないけど、魔術の魔の字も知らない奴がシャシャリ出てくるんじゃないわよ!」

 

長い台詞を一息で言い切った遠坂に奇妙な感心を抱くが、要するに遠坂は魔術師でない自分が首を突っ込んでくることを宜しく思っていないんだろう。それが一般人を巻き込みたくない遠坂なりの優しさなのかも知れないが、それでも修司には譲れないモノがある。

 

「悪いが、手を引くことはないぞ遠坂。今回の聖杯戦争が10年前の惨劇を引き起こす可能性があるなら、俺はその大元を叩く。その意思は変わらない」

 

───故に、その拒絶は当然のモノだった。

 

すると、遠坂の怒気が急に鳴りを潜めていく。止めるのを諦めた? 否、この時遠坂凛は白河修司という男を排除すべき敵であると認識し、その事に全力を注ぐことにしたのだ。

 

「───そう、アンタの気持ちは分かったわ。なら、私は遠坂家の当主としてアンタの馬鹿げた行動を止めるだけよ」

 

「昨日の赤い奴を呼ぶつもりか!」

 

「まさか、一般人の記憶を奪うのにサーヴァントの力は必要ないわ。アンタを打ちのめすのは正真正銘、魔道の力よ」

 

左手の袖を捲り其処から見えるのは光輝く紋様、何処と無く機械の回路にも思えるそれはまるでエネルギーを循環させるポンプにも見えた。

 

「遠坂、お前本気かよ!」

 

「当然よ、丸腰同然でやってくるおバカを見過ごしてやるほど私の神経は太くないわ」

 

「……良いぜ、掛かってこいよ。俺が聖杯戦争に乱入するのが許せないって言うなら───相手になってやる」

 

「お、おい修司!」

 

売り言葉に買い言葉、聖杯戦争に乱入する修司とそれを許さない遠坂、互いに敵意を募らせる二人をどうにか宥めようとする士郎だが、悲しいかな彼に二人を止める言葉は持ち合わせていなかった。

 

「そう? なら、遠慮はなしにっ……!」

 

瞬間、向けられた遠坂の指先から赤黒い弾丸の様なモノが射出される。修司は咄嗟に横へ飛び回避するが、まさかの見慣れた(・・・・)モノに修司の目は大きく見開かれた。

 

「今のは【ガンド】、こんな風に魔術刻印がある程度あれば詠唱無しに撃てたりするのよ」

 

「ガンドって、北欧のちょっとした呪いの魔術何じゃなかったのかよ。俺の知ってるのと違う」

 

廊下の床を抉った遠坂の魔術に驚きながらも士郎は戦慄した。まるで銃弾の様な威力、これではまるで常に丸腰でありながら銃器を手にしている様なモノじゃないか。

 

修司が幾ら鍛えていようとも銃器に勝てる未来はない、最悪の結末が訪れるよりも先になんとかして止めに入ろうとする士郎だが、対する修司の感想は全く違うモノだった。

 

(え? 今のが魔術? え? アレが? あんな出来損ないの霊○みたいなのが、魔術の一つなの?)

 

思い浮かぶのは数年前、とあるヒョロヒョロの貧弱男(ロードエルメロイ二世)厳つい用心棒(獅子劫界離)、そしておっかないツインドリル(ルヴィア)と一緒におかしな連中から襲われた時の事だ。

 

思い返せば彼等も指先から今の遠坂の様に赤黒いモノを飛ばしてきた。当時は手品の一種と思い一蹴にしてきたが、もしかしてアレは魔術師による魔術的攻撃だったのだろうか。

 

あの骸骨の兵隊も、ハロウィンに備えての出し物何かではなく、魔術を使った遠隔攻撃みたいなモノで、獅子劫が使っていた動物の指を使っての攻撃も魔術的な意味合いがあった……。

 

───つまり。

 

(俺が今まで手品クラブだと思っていた人達、魔術師だったー!?)

 

衝撃の真実。今日の今まで手品師による奇妙な勧誘だと思われていた行動は、実は全て魔術師による敵対的攻撃だった。しつこい勧誘と思いながらも今にして思えば可愛らしい人達だよなーなんて考えていた修司は、その衝撃的な真実に少なからずショックを覚えた。

 

そして、そんな隙だらけの修司を見て、何を思ったか観念したと勘違いした遠坂はこれで終わりだとその手を修司へ向ける。

 

「漸く現実を理解したかしら? なら、これで終わりにしてあげる。安心なさい、目が覚める頃にはアンタはいつも通りの日常を送れるわよ」

 

「や、止めろ遠坂ー!」

 

士郎の制止の叫びも届かず、放たれる魔術の弾丸。真っ直ぐ修司向かって伸びていくそれは次の瞬間間違いなく標的に向かって突き進む筈だった。

 

魔術の弾丸、【ガンド】は消えた。横薙ぎに振り抜かれた修司の拳に、パンッと割れた風船の様な音を立てて消えていた。一瞬何が起きたか理解できず目をパチクリさせる遠坂と士郎、そして次の瞬間──。

 

遠坂の隣には左手を振り上げる修司がいて───。

 

「少し、頭冷やそうか」

 

振り抜かれた左手は遠坂の臀部を捉え、甲高い音と共に遠坂は回転しながら廊下の奥へと吹き飛び、壁に激突して気絶した。

 

「………と、遠坂ーー!?」

 

友人を心配する叫びは何時しか学園のマドンナの安否を気遣うモノにチェンジした。

 

 

 

 




Q.もしも修司が魔術師として時計塔にやって来たら?

A.某エルメロイ二世が胃痛で死にます。



if修司がいるカルデアWithマイルーム。

セイバーの場合。

「シュウジ……彼は実に実直な方ですよね。己の信念を曲げず、周囲に屈せず、常に前を向いて邁進し続けるその姿。一人の騎士として尊敬します」

「もし彼の様な人間がブリテンにいてくれたらと思うと──うん、無いですね!」


クロエの場合。

「あの麻婆大好きな変人さんがまさかあそこまでになるとはねぇ……」

「意外……て程でもないかな。結構好き放題していたのは代わり無いし、凛やルヴィアの暴走を肉体言語で黙らせてたし、そう言う意味では変わってないのかも」


エルメロイ二世の場合。

“暫く引きこもります。探さないでください”




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