『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回も地味回です。




その23

 

 

────静まり返る校舎、呆然とする士郎の視界に映るのは気炎を上げ、仁王立ちする友人と、その先にある廊下の奥で目を回して気絶している穂群原学園のマドンナ。

 

自身がよく知る者達同士による争いは想像していたモノより呆気なく終わり、結果として二人の間で血が流れるような事は一切無かった。

 

フンッと鼻息荒く倒れるマドンナを一瞥した修司は後で未だ呆けている士郎に言葉を掛ける。

 

「なぁ士郎、聖杯戦争って魔術師が令呪を持っていて初めてマスター足り得るんだよな? なら、逆を言えばその令呪って奴が失くなればそいつは聖杯戦争の脱落者って事になるのか?」

 

「あ、あぁ、確かそうだった気がする」

 

「マジかー、令呪ってどうやったら消せるんだ? 流石に手を切り落とす訳にもいかないし……消ゴムとかで消えたりしないかな?」

 

「いや、流石にそれは……」

 

魔術に関する知識が皆無な修司と魔術に対して毛の生えた程度の知識しか知らない士郎、あーだこーだと悩んでいると……。

 

「茶番は済んだか?」

 

「お前、アーチャー!」

 

赤い外套を纏い白髪頭の弓兵が気絶する凛を庇うように現れた。あの赤いアーチャーとは何か因縁があるのか、珍しく苛立ちを顕にする士郎に修司は少し驚いた。

 

「マスターが其処の小僧を黙らせると息巻いていたから静観していたのだが………やれやれ、まさか返り討ちに逢うとはな。相手の実力を図れなかったとは言え、もう少し考えて行動すれば良かったものを……いや、推し量れなかったのは私も同じか」

 

肩を竦ませ呆れる仕草を見せるアーチャーだが、その言葉には思っていたより棘は少なかった。その口振りから先程の様子は何処かで見ていたらしく、修司は「成る程、アーチャーという位だから目は良いのか」等と一人納得していた。

 

「おい、ちょっと待てよ」

 

気絶する凛を抱え、離脱しようとするアーチャーだが、それをさせまいと修司が呼び止める。

 

「───何かね」

 

「そこに延びている学園のマドンナ様もそうだがお前には幾つか聞きたい事がある。俺は聖杯戦争に付いてまだ何も知らない事が多い、その情報を得る為にもソイツをまだ連れていかせる訳にはいかない」

 

修司からすれば遠坂は魔術の、ひいては聖杯戦争に関する知識を持つ貴重な情報源だ。何も知らないままでは今後行き詰まる場面もあるかもしれない、知っていると知らないとではいざという時の対応がまるで違うのは海外への出張で思い知っている。

 

だから、少なくとも一つは何かしらの情報を欲しい。そう暗に語る修司の眼にアーチャーはやれやれと溜め息を吐いて………。

 

「……私に、それに応える義理は無いと思うが?」

 

「アンタが来るまでの間、遠坂には手を出さなかっただろ」

 

と、それらしい事を口にして交渉しようと目論む修司だが………勿論口から出任せである。アーチャーが遠くで見ているとは欠片も知らなかったし、出てくる迄の合間令呪をどうするか無い知識を振り絞って頭を悩ませていただけだし、そもそも修司には遠坂をどうこうする意思は無かった。

 

そしてその事は当然アーチャーに見破られている。呆れ果てたアーチャーは首を横に振り、キザったらしい仕草を振り撒きながら口を開く。

 

「仕方ない。そうまで必死に詰め寄られては応える他あるまい。但し、あまり多くは語れんぞ。何せ其方には出来損ないとは言え魔術師見習いがいる。下手な知識を得られて得意気に恥を晒されては敵わん」

 

「んだと!?」

 

何故かその皮肉の矛先は修司にではなく、その後ろにいる士郎へ向けられる。何故こうもアーチャーは士郎に対して攻撃的で、士郎も敵意を剥き出しにしているのだろうか? やっぱり何処かで似ているからか?

 

とは言え今はその事に追及する場合ではない。数少ない情報を得られるチャンス、時間は無駄にできないと修司は思考を巡らせて──一つ、新たに気になる疑問が浮かんできた。

 

「………なぁアーチャー、この聖杯戦争は七騎のサーヴァントが聖杯を巡って各々七組の陣営が争っているんだよな?」

 

「そうだ。七人のマスターが七騎の英霊を使って覇を競い合う殺し合い。それが聖杯戦争の基本原型だ」

 

「その聖杯に願いを叶えるって、具体的にはどんな感じなんだ? 聖杯って言うとあの杯として知られる聖杯らしいけど、器がどうやって勝ち抜いた奴の願いを叶えるんだ? それがサーヴァントの殺し合いとどうやって結び付くのか、今一つ理解できないんだけど?」

 

「修司?」

 

「───ほう?」

 

修司の質問に士郎は良く分からないと首を傾け、アーチャーは感心するように目を丸くさせる。

 

(この短期間で其処へ視点を向けられるとはな。いや、何も知らない一般人だからこそ至れる着眼点、という訳か。………さて、どう応えたら良いのやら)

 

それはアーチャーからすれば非常に答え辛い質問だった。何せ修司の問いは聖杯戦争の基本骨格、核心部分を突いた質問だからだ。それを此処で口にするのは容易いが、そうすれば何故自分がその事を知っているのか問い詰められる事になる。

 

何せ修司が訊ねてくる質問はサーヴァントは勿論、現在聖杯戦争に参加している殆どの陣営が知らない事実だ。今ここで知られてはアーチャー(自分)の正体と目的が最悪暴かれてしまう可能性がある。

 

「───済まないが、質問の意図が良く理解できなかった。結局お前は何が言いたいんだ?」

 

故にアーチャーは修司の質問に応えず、敢えて誤魔化す事にした。

 

「いやさ、聖杯という器を用意するのは分かるよ? でも、その聖杯にいれる中身(・・)って結局何なんだって事」

 

「中身……だって?」

 

中身。その単語を聞いた士郎は総毛立った。修司の質問の意味は未だに分からない。けれど、過去に体験したあの地獄の記憶が突然想起するように脳裏に浮かんでくる。

 

燃え上がる命、建物は崩れ、沢山の命が死に絶え、空に浮かぶのは黒い孔の様なソレ。聖杯は勝ち抜いたモノの願いを叶える願望器、善き者悪しき者、その人間の性質問わず願いを叶える天の杯。

 

なら、10年前のあの地獄は悪しき者が手にした事によって引き起こされたモノなのだろうと、そう勝手に解釈していたが修司の質問にその考えは大きく揺さぶられる事になる。

 

聖杯に注がれる中身、善悪問わずにあの様な惨劇が生み出されたと言うのなら、それはもう聖杯戦争のシステム自体が狂っている事に他ならない。

 

そしてその見解は間違いではない(・・・・・・・)。修司の無自覚な核心への追及にアーチャーは舌を巻くが、先に述べた通り彼には彼で果たすべき望みがある。故に修司への評価を改める事はあってもその問に愚直に応える事はしなかった。

 

「───済まないな。その質問には応えられない。いや、どう応えたら良いのか分からないと言った方が正しい。我々英霊は聖杯の力によって喚ばれてはいるが、与えられるのは喚ばれる時代の情報程度、聖杯そのものの知識は与えられていないのだ」

 

「…………そうか、そう言う事なら仕方ないな。やっぱ自分で直接見聞きする他ないか」

 

「期待に応えられず申し訳ない。ならば今回の件は一つ貸しにしておいてくれ、マスターには私から伝えておこう」

 

「え? いや、それは有難いけど……良いのか?」

 

「今回に限ってだが、致仕方ないだろう。最初に仕掛けたのは此方だ。それを手加減され、その上気絶程度で許して貰えたのだ。これくらいの譲歩は必要だ」

 

「それにこの遠坂凛という魔術師は借りを受け取ったままにするのを嫌う人間だ。きっと近い内に借りを返しに行くだろう」

 

「……またいきなり仕掛けて来たりしそうで怖いんだが?」

 

何だか普通にありそうで怖い。先程のやり取りを見るにこの遠坂凛はかなりの負けず嫌いらしいし、言いようにあしらった自分を目の敵にしそうだ。そんな未来に不安を覚える修司に対し、アーチャーはニヒルに笑みを浮かべ………。

 

「なに、そうなった時はそうなったでその時は君がもう一度彼女をあしらえばいい。しつこいだろうが、折れてくれたら案外従順に応えてくれるやもしれんぞ」

 

「いや、普通に嫌だからな。そんな未来」

 

目を細め、げんなりと拒絶してくる修司を一瞥し、アーチャーは凛を担いで廊下の窓から跳躍していく。そんな派手な退場に下校途中の生徒に見付かったら事だろうに、お構いなしにアーチャーは町並みへと消えていく。

 

「……結局、得られた情報は無かったか。こりゃ、アーチャーの言う借りとやらに期待するしかないか」

 

「……なぁ、アイツお前に対して途中から態度変わって無かったか?」

 

「え? ……あー、言われてみればそうかもな」

 

アーチャーとの交渉、またはいつ戦闘になっても応えられる様に気を張っていたから其処まで気を付けていなかったが、言われてみれば確かにそんな気がする。小僧とか呼ばれてたのに最後は君なんて呼ばれ方してたし、高圧的な態度も幾らか柔らかくなっていた気がする。

 

「まぁ、今回は遠坂の独断専行らしいし、その事で色々思う所があったんじゃないか? ほら、アイツも一応英霊らしいし?」

 

「そんなもんか?」

 

「なんでお前が不服そうにしてんだよ」

 

襲われたのは此方なのに何故か不機嫌の様子の士郎に困惑する。それでも二人はこれ以上学校に留まる事はなく、二人は肩を並べて下校することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、二人で色々話し合いながら商店街を回ると、公園の方に人集りが出来ている。何かと思い顔を覗かせてみると……。

 

「だからー、私はただシロウに会いに来ただけだっているじゃない。セイバーったら頭固すぎー」

 

「敵である貴方にそんな事を言われる筋合いはありませんよ、イリヤスフィール」

 

「や、止めなさいセイバー。この往来のど真ん中で、子供相手にムキになるなんてそれが騎士のやることですか!」

 

「止めないで下さいルーラー、確かに貴方はこの聖杯戦争の審判者、しかしこの娘はよりにもよって私のたい焼きを盗み食いしたんです。許せません、食べ物の恨みは恐ろしいとその骨身に刻まなければ私の気が済みません!」

 

「そもそもそのたい焼きだって私が買ってあげたものでしょーが! あぁもう! シドゥリさんから折角お小遣いを戴いたのにこんなに使ってしまって……後で何て言えばいいのか」

 

何故か見知った人達がちょっとしたキャットファイトをしていた。周囲の人々は美人さんが言い合っている物珍しさで来ているが、あの白い少女が何かしているのか、あまり大きな騒ぎには至れていない。

 

「………何やってんだアイツら」

 

「セイバー、家で大人しくしてろって言ったのに……」

 

呆れる修司と頭を抱える士郎、しかしいつまでも彼女達を放っておくわけにもいかず、仕方ないと溜め息を吐いて三人の所へ向かう。

 

本当は抵抗があった。特に修司は白の少女が従えている黒い巨人に殺されかけたのだ。まだ日は沈んでおらず、未だ人が多く出歩いているとは言え、一人で彼女と相対するのは少しだが怖かった。

 

「あっ、シロウ! それにお兄ちゃん。こんにちはー」

 

「あれま、これはご丁寧に──じゃねぇよ、何で白昼堂々出没してるんだこのロリッ子は」

 

「えー? 別にいいじゃない。聖杯戦争は夜に行うモノだって貴方も知ったんでしょ? なら、そんなに怯える必要ないと思うけど?」

 

「お、おおお怯えてなんかいないもんね。ちょっと驚いただけだし、別にビビってなんかいないんだからね!」

 

「アハハ、面白ーい! やっぱりお兄ちゃんは面白いわ」

 

「シロウ、無事のご帰宅、誠に喜ばしい限りです。しかし、何故彼と一緒に行動してるのです?」

 

「し、修司君、その、これはですね……」

 

微笑むイリヤと士郎に問い詰める騎士の少女、更にジャンヌに至っては懺悔をするように涙目で縋ってくる。混沌としてきた場の空気、外人と言う物珍しさからドンドン人の目が集まってくる。

 

流石にこれ以上此処にいるのは不味い。そう判断した士郎は修司に一つの提案を出してみた。

 

「修司、取り敢えず俺の家に避難しないか?」

 

「合点」

 

士郎の住まいである武家屋敷は此処から然程遠くはない、故に緊急の避難所として提案してきた士郎に修司もまた乗っかる事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───その夜。

 

「そろそろ決めておけよ娘」

 

「……………」

 

「お前は我が臣下のお気に入りらしいからな。我自ら手を下すことは無いが……それも時間の問題だぞ? このまま人として死ぬか、それとも死ぬことも許されぬ化生に成り果てるか、選択までの猶予はもうあまり残されてはいないぞ?」

 

それは少女の胸を抉り、貫く真実の言葉。無情とも呼べる宣告に少女は一人取り残される。

 

「………どうして、私の回りは」

 

グジュリ。自身の中で何かが爛れて落ちる音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 




Q.学園のマドンナのお尻の感触はどんな感じでした?
A.
ボッチ「思ったより固かったです。鍛練を摘んでいるのでしょう。程よく引き締まった良い尻です」
遠坂「放して士郎! アイツ殺せない!」
士郎「無理だから止めとけって!」




if修司のいるカルデアWithマイルーム。

ジャガーの場合。

「止めて! 正論の暴力で殴るのは止めて! ジャガーは猫科の動物なの! 可愛らしいキャットなのよ! 動物愛護団体に言いつけてやるわよ!」
「……えっ? 動物だから人間じゃない、即ち人権の範囲外? 故に今度からもっとキツく折檻する?」
「す、すんませんでしたー!」


アーチャー(エミヤ)の場合。

「ほう、あの頃より腕が上がったか(料理の)」
「なら、精々付いてくるといい、言っておくが私は手は抜かんぞ、英霊の力存分に見せるとしよう(調理の話です)」

「あっ、それと本当の事だからといって正論をそのままぶつけるのは少しは控えてくれな」
「私の心は硝子だぞ?」


カーマの場合。

「ちょっと、さっきから何なんですか人をチラチラ見て、何か言いたいことがあるなら言えば良いじゃないですか」
「え? 露出が多くて寒そう? 肩とかお腹が冷えると大変だからかこのコートを貸す?」
「な、何ですかこの人、何で私に優しくするんですか? わ、私の愛が怖くないんですか?」

「───たまには自分の役目を忘れてのんびり過ごすといい? 此処はそう言う場所? や、止めて下さい。私にそんな甘いこと言って……気色悪い!」

「貴方なんか──大嫌いです!!」





「おーい! 何か修司さんが床で大の字になって倒れてるんだけどー!? て言うか、何か泣いてないこの人!?」

「ギル、あれ君の臣下なんじゃ……」

「そっとしておけ」



次回、剣豪。

「我が秘剣、とくと見るがいい」(見れるとは言っていない)

それでは次回もまた見てボッチノシ

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