『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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信じてる。きっと今年の夏に水着沖田さんの勇姿が見れることを!

俺は、絶対に諦めない!!

それはそれとして、水着武蔵ちゃんが素敵過ぎて辛い。


その32

 

 

 

カツン、地下へと続く階段を一人の男が降りていく。カソックを身に纏い、首から掛けられ、胸元では十字架が揺れる。歪んだ微笑みを携えた男が向かった先に待っていたのは、台座の上に寝かされた女性───魔術協会からの参戦者、バゼット=フラガ=マクレミッツだった。

 

「───起きろ執行者、事態に動きがあった」

 

「言峰綺礼、今更私に何用ですか」

 

台座の上で寝かされているバゼットは魔術的処置を施されているのか、今の彼女は瞼と口しか動かすことを許されてはいない。冷ややかな視線を向けてくる彼女に言峰はやれやれと肩を竦め───。

 

「ランサーが敗れた」

 

その一言にバゼットの眼は大きく見開かれる事になる。

 

「………相手は?」

 

「不明だ。状況も、どの陣営にどのように斃されたのか、その一切が不明のままだ」

 

「───どうやら、事態は私が思っている以上に混迷としている様ですね」

 

言峰の言葉を咀嚼し、その上で彼の言うことを真実だと知ったバゼットは同時に現在の聖杯戦争の状況がかなり混沌としている事を察した。

 

魔術協会が派遣した封印指定の執行者、その肩書きに偽りなしな洞察眼に言峰も流石だと納得するが、話はこれで終わりな訳ではない。現在バゼットは言峰の罠によって身動き一つ出来ない状態だ。話の流れからこのあとどのような展開なのかは大凡(おおよそ)察してはいるが、それでもバゼットは目の前の神父に文句を言わなければ気が済まなかった。

 

「それで? 私に一体どうしろと言うのです。相方のサーヴァントは消え、令呪も貴方に奪われた。マスターとしての権限は全て失われ、聖杯戦争に参加する資格も失った。そんな私に一体何をさせたいと言うのです」

 

「不意討ち気味に罠を仕掛けたのは謝罪しよう。しかし、意味深に私が用意した茶を何の疑問もなく飲み干す其方も少々不用意なのではないかな?」

 

「………むっ」

 

「それに、此処へ来る前に一般人とトラブルを起こしたとも聞いている。身柄の自由を奪い聖杯戦争への参加を遅らせた事がそのペナルティだとすれば、納得は出来なくとも理解は出来るのではないかな?」

 

「むむむっ」

 

言峰の正論(?)の様でこじつけの様な理屈にバゼットは唸ることしか出来ない。確かに無関係な一般人を一方的に襲ったのは自分であり、非があるのもまたバゼットだ。

 

ここ数日の身柄の拘束がそれに対するペナルティだと言うのなら、仕方ないのかもしれない。とは言え、令呪の没収は流石にやりすぎる。それに先程もバゼットが言ったように、今の彼女には相棒であるサーヴァントが存在しない。

 

サーヴァントなしで勝ち残れる程、この聖杯戦争は甘くはない。切り札は一応残されているが、それだけで挑むのには少々心もとない。負ける気はないが、戦いの過酷さもまた身に染みている。

 

「今回の聖杯戦争は例年よりも輪を掛けて厄介ごとがありそうだ。故に魔術協会の執行者である君に依頼する。此度の聖杯戦争の異常を検知し、事態の収拾に勤めて欲しい」

 

「────了解した」

 

しかし、自分は魔術協会から派遣された執行者。依頼があるのなら断るわけにもいかない。術を解除し、身動き出来るようになったバゼットは身体の調子を整え、固まった関節をボキボキと鳴らしながら体を解していく。

 

「さて、このまま君を死地に送り出すのも気が引ける。故に教会から出る前に一つアドバイスを送ろう」

 

「───なんです?」

 

「白河修司、困ったことがあれば彼を頼ると良い、アレは中々機転が利く男だ。私の紹介だと言えば無下にはすまいよ」

 

「………彼、ですか」

 

何故言峰が彼を知っているのか、気になりはするが………きっと、この男は正直に答えはしないのだろう。言峰綺礼という人間がどれだけ性根が歪んでいるか、ここ数日の監禁生活でバゼットはイヤというほど熟知してしまっている。

 

正直、あんなことがあったあとで彼に顔を合わせるのは気が引けるが、現状ではそれ以外に選択肢はない。それに何より疑問を解消するには今は行動するしかない。

 

現在の聖杯戦争の進み具合を調べる意味合いも兼ねて、バゼットは冬木の街へ再び足を進める。

 

その背中を喜悦に笑みを浮かべた神父が見つめていることを知らずに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───突然だが、俺は女性経験が無い。性的体験は当然、キスは愚か異性とは手を繋いだ事すらなく、会話も特定の女子生徒や教師としかしたことが無く、今日まで童貞の中の童貞────伝説のスーパー童貞を自負してきた。

 

心は童貞で出来ている。血潮は(無駄に)気高く心は(硝子よりも)脆い。

 

ただ一度の女性経験もなく、童貞の丘でリア充を妬む。そんなキングオブ童貞の俺は現在。

 

「───意外です。先輩ってこんなお洒落なお店も知っていたんですね」

 

俺の初恋の人、間桐桜ちゃんがとある喫茶店にて俺の前で優雅にカフェオレを呑んでいます。あっ、頬に掛かった髪をたくし上げる仕草、可愛い。

 

(いや違う。そうじゃないだろ俺ェッ!)

 

何故、桜ちゃんが俺に構うのか。何故、俺に接触してきたのか、そして何より何故彼女が聖杯戦争なんて血腥い争いに参加してしまったのか。聞きたい事は山ほどある。

 

この出会いをその疑問を解消させる数少ない機会であると捉えよう。もし彼女が聖杯戦争に乗り気で無いのなら、説得してこの戦いから降りて貰うことも出来るかもしれない。

 

慎ましやかにカフェオレを呑む桜ちゃん、その口元へつい視線が動いてしまうが、首を振って煩悩を退散させる。

 

「と、所で間桐さんはどうして俺の所に? こう言っては何だけどてっきり君はもうあの家から出てこないとばかり思ってたから……」

 

「───そう、ですね。確かにその方が良かったんだと思います。兄さんからライダーを取り戻したと言っても、今の私には遠坂先輩や衛宮先輩にも敵対されていて、その上白河先輩にまで敵視されちゃってます。状況的に言えば私は間桐の家に引きこもるべきでしたね」

 

遠坂は兎も角、士郎や俺が桜ちゃんを敵視する事は有り得ない。聖杯戦争というふざけたモノの所為で色々おかしくなっているが、本来であれば士郎も桜ちゃんもこんな血腥い戦いに身を投じる必要なんかないんだ。

 

だから、俺は口にした。そんな事はないと、士郎が桜ちゃんを敵として認識するなんて有り得ないと。

 

だって、衛宮士郎は正義の味方を目指す男だ。今は色々実力不足感が否めないけど、いずれは多くの人々を助けるイケメンヒーローになってる筈だ。そんなアイツが、年単位で付き合いのある桜ちゃんを敵視するなんて有り得ない。

 

無論俺も。と、割りと熱弁してしまいその様子に桜ちゃんは少しだけ目を見開いて驚いていた。店内に人がいないことが幸いだった。もし此処にあの猫なのかマスコットなのか良く分からない知的生命体達がいたら、きっと揶揄されたに違いないから。

 

「───白河先輩は、優しいんですね」

 

「や、優しいかなぁ? 俺、単に士郎の事を語っているだけだぞ?」

 

「友達を正当に評価できる人って、意外と少ないんですよ」

 

「へ、へぇ……そうなんだ」

 

い、イカン。なんか話がドンドン脱線していきそうな気がする。話を戻そうにも目の前の後輩はイチイチ人を誘惑するような素振りを見せてくるし。て言うか、何で制服の胸元若干開けてるんだよ!? ここそう言う場所じゃないから!ここは、公共の、一般的な、憩いの場所だから! そう言う如何わしい事をするような所じゃないから!

 

いないよな! あの珍妙な猫擬きの知的生命体、ホントにいないよな!? あ、バイトの子と目が合った。や、止めて、そんな汚物を見るような目で見ないで! 違うから、そう言うんじゃないから!

 

「──ふふ、先輩ってば照れ屋なんですね。可愛いです。何だったら、場所を変えて改めて話をしますか?」

 

「へ? で、でも今の時間、そんな空いてる店は無いと思うけど………」

 

「やだなぁ、惚けちゃって。それとも本気で言っているのかな? まぁ、どっちでも良いですけど」

 

そう言って、桜ちゃんは俺の耳元で一言囁く。対面する形で座っている為、身を乗り出してくる彼女の胸元はより近くに迫り、彼女から発せられる香りは思考を麻痺させるほど誘惑的だった。

 

今の彼女には並々ならぬ色気を感じる。並の男なら当然の如く付いていくだろう。その上更に誘ってくる言葉を耳元で囁かれれば、彼女の言葉に抗える術はない。

 

───なのに、俺の心は嘘みたいに冷えきり、静かになっていた。相手は初恋の相手、そんな彼女が蠱惑的に誘ってくるのに、先程までとは打って変わって俺の乱れていた心音は静かな水面の如く平静を保っていた。

 

彼女のこれ見よがしな誘惑に頭が冷えた? そんな卑猥な彼女に呆れ果ててしまった? 童貞故に、経験豊富そうな彼女に失望した?

 

どれも違う。耳元で囁く際に見せた彼女の目がどうしようもなく悲しそうに見えたからだ。笑っているのに、彼女の目は今にも泣き出しそうに歪んでいる。………見ていられなかった。

 

「───なぁ、桜ちゃん」

 

「え? な、何です?」

 

「どうして、君は聖杯戦争に参加したんだい?」

 

「っ!」

 

「俺、魔術師の理屈なんて分からないし、桜ちゃんにどういう事情があったかなんて、想像も出来ない。でもさ、自分の心と正反対な事をし続けると、いつか本当に刷りきれちゃうぞ」

 

「………まるで、私の事を知っている様な口振りですね」

 

彼女の本心が聞きたいが為に、敢えて抉る様な言い方をしてしまったが、どうやらビンゴだったらしい。先程の男に媚を売るような態度から一転、まるで無機質な伽藍堂な眼差しで此方を見てくる彼女に、俺は少なからず怖気を感じた。

 

そして、その感覚は何処かで覚えがあった筈なのだが………思い出せない。ただ確かなのはやはり桜ちゃんを放っておく事は出来ないという事だ。

 

「俺さ、昔君に助けてもらった事があるんだけど………覚えてる?」

 

「───何の話です?」

 

「………覚えてないならいいや。実際大した話じゃないからね。でも、覚えてて欲しいのは一個だけ。今後、どんな事があっても俺は君を見捨てたりしない。それは絶対に絶対だ」

 

「───」

 

下を向き、黙りしてしまった桜ちゃん。色々言い過ぎたかな。自分なりの言葉を伝えたつもりだけど、桜ちゃんは手元にあるカフェオレの残りを見つめるだけで何も口にしない。

 

ただ、その瞳には僅かばかり感情の光が灯っている気がした。自分の言葉に何かを思い出したのか、ブツブツと何かを呟いている。一瞬雁夜おじさんなんて人物名らしき単語が聞こえてきたが、果たして彼女の脳内にはどんなやり取りが行われているのだろう。

 

………そろそろ、店を出るべきか。外は段々暗くなっていくし、このまま彼女と一緒にいれば遠坂が要らぬ誤解を考えるかもしれない。テーブルにおかれた伝票をもって立ち上がろうとすると……。

 

「────ねぇ、先輩。もし私がこの先、沢山の人達を不幸にさせる悪い人になったら、どうします?」

 

「ん? 普通に止めて叱るけど?」

 

彼女の口から溢れた台詞、それに条件反射で答えると、それ以上彼女の口から何か紡がれる事はなかった。

 

悪い事をしたのなら、回りが止めてキチンとごめんなさいをさせる。それは人としてごくごく当たり前な常識だ。そんな事は死んだ両親やシドゥリさんが口酸っぱく教えてくれた良識人としての当然の在り方だ。

 

その後、俺はレジで桜ちゃんの分の支払いも済ませて、喫茶店を後にする。その際、彼女が俺を見ていた気がするけど、気にせずそのまま冬木の街へ戻った。

 

───相変わらず、それらしい情報は殆ど得られなかったが、自分がするべき事は再確認できたから、それだけでも良かっただろう。

 

聖杯戦争をぶち壊す。早い所、この戦いに決着を着けたい所だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────本当、つくづく癪に障る人です」

 

修司がいなくなった店内で桜は苛立ちしながら呟く。敵対しない? 見捨てない? 白々しい、嘘臭い。魔術師という家系に生まれ、今日まで身体中弄くられてきた桜にとって修司の台詞、その全てが偽善に聞こえていた。

 

そんな事、出来ないくせに。少し強いくらいで、何を調子に乗っているのか。

 

幸せに暮らしていた癖に、自分が地獄を味わっていた間、自分は何不自由なく暮らしていた癖に。何故そうも私に固執する。何故私に其処まで拘る。

 

間桐桜にとって白河修司は天敵だ。何も知らない癖にノコノコと踏み込んでくる。許せない、煩わしい。許せるなら、徹底的に虐め抜いてやりたい。一般人に毛が生えた程度の力で、自惚れるなと踏みにじってやりたい。

 

でも、そう不愉快に感じる一方で……。

 

「なんで、私ってば嬉しいなんて感じてるの」

 

修司の言葉、その全てに嘘が無いのもまた事実で。何故かそれが無性に心の隅で残っていた。

 

 

 

 

 

 

───そして夜。静まり返る冬木の郊外にてそれは顕れる。

 

 

 

 

 

 




もし次の漂流日記を書くんだったら、多分グラブルになるかも。

ヒントつ現在やってるイベント。

後はうたわれるもの、もしくは閃の軌跡。

うたわれるものの場合は今回の様なうたわれ時空の主人公で、軌跡の方は本編主人公の様な扱いになるかもです。

尚、うたわれるもの話の流れはアイスマンの大災厄から逃れられた数少ない生き残り~見たいな話になるので終盤には高確率でアベンジャーになる予定。

──憎しみを原動力にする主人公、素敵やない?

まぁ、あくまでも予定なので期待しないでくださると嬉しいです。

ホント、やるかどうかは不明なので(笑)


それでは次回もまた見てボッチノシ



───次回、殺戮の牙。


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