『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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ロードエルメロイ二世の事件簿、面白いですね~。

生きてるオルガさんを見て感動したのは私だけ?

あっ、団長のオルガさんではないのであしからず。


その34

 

 

 

それは獣性に満ちた一刺しだった。猛る狂戦士の振り抜かれた拳をいなし、胸元から突き刺し貫くその様は正に獣の如し一撃。貫かれた槍から滴り落ちる血は地面へ落ち、貫かれた狂戦士は痛みに悶える事なく冷静にその獣を観察する。

 

「フンッ流石にこの程度で死にはしないか。いや、死んだところで意味は無いのか。───鬱陶しい」

 

槍を手にしたその男はつまらなそうに吐き捨て、バーサーカーの顔目掛けて蹴りを放つ。当然防ぐバーサーカー、防御として差し出した腕を踏み台に獣は宙を舞う。尾を翻し、槍を片手に身を低くさせる槍の獣、対して狂戦士と呼ばれた巨漢は唸って()を睨み付ける。

 

「どうした狂戦士。お互い死には慣れ親しんだモノだろう? 嗚呼それとも、コイツを気にしているのか?」

 

口許を歪ませる獣の隣に在るソレに、バーサーカーの目は見開かれる。黒く蠢くモノ、何の前触れも無しに現れたその存在にバーサーカーだけでなく、城で様子を見ていた修司達も驚愕に目を見開いていた。

 

「な、なんだよアレ。アレも魔術なのか!?」

 

「………まさか。いや、でもそうだとしたら」

 

「ジャンヌさん?」

 

驚いている修司達の中でも別の意味で驚愕しているジャンヌ、何かを知っている………いや、たった今知り得たかのような口振りの彼女に、修司は何かを知ってるのかと問い掛けようとするが。

 

「バーサーカー! それに捕まってはダメ! 戻ってこれなくなる!」

 

悲鳴の様な叫びが問い掛けようとする修司を押し止める。下を見れば悲痛な面持ちでバーサーカーを見つめる幼いイリヤがいて、その両手はギュッと握り締めて胸元を抑えている。

 

イリヤはバーサーカーを信じている。自分のサーヴァントこそが世界最強なのだと、誰にも負けない強い人なのだと、あの寒い雪の中で自分を守ってくれたように、何度も自分を守ってくれる父の様な存在であるバーサーカーをイリヤは信じている。

 

だが、魔術師としての直感がそれを否定する。バーサーカーがどれだけ強くとも、あのランサーは兎も角、新たに現れた黒いアレには敵わない。強い弱いの話ではない、サーヴァントではアレには勝てないという確信がイリヤにはあった。

 

「■■■■■■ッ!!」

 

「どうした狂戦士、動きが鈍いぞ」

 

迫り来る黒い帯を避けながら、バーサーカーはランサーの相手をしなければならない。触手の様に蠢くソレを交わしながら絶死の槍が狂戦士を貫く。防戦一方のバーサーカー、一度でも足を止めればその瞬間自分は終わる。狂戦士は本能でそれを理解し、それでも勝ち筋を見出だそうとするが。

 

「そら、二つ目だ」

 

投げ放たれた槍がバーサーカーの心臓を抉り貫く。このままでは不味い、狂戦士は未だ修司と戦った傷が癒えていないのだ。

 

狂戦士の宝具である十二の試練(ゴッド・ハンド)、その特性は命のストック。加えてマスターであるイリヤの魔力を以て失った命の分も補えるその宝具は、聖杯戦争に於いて破格の力を有している。

 

しかし、三日近く経過した今でもバーサーカーの命は回復しきれていない。原因は不明、押し込まれつつあるバーサーカーにイリヤは撤退の選択を迫られるが………。

 

「っ、バーサーカー!」

 

その選択を選ぶよりも早く、黒い触手はバーサーカーの右腕へ巻き付いていく。

 

「■■■■■ッ!!」

 

巻き付かれた触手、そこから侵食する様に広がる黒の汚染にバーサーカーは苦悶の雄叫びを上げる。

 

「───つまらん幕切れだ。だが、流石は大英雄、泥に呑まれようとも尚足掻くか」

 

腕に巻き付かれ、黒く悍しいソレを流されても、それでも足掻く大英雄にランサーは感心する。 しかしそれを嘲笑うかのように黒いそれは更に触手を増やし、バーサーカーへ迫っていく。

 

「嫌だ。嫌だよ、バーサーカー、お願い。負けないで!」

 

その両目から流れる涙、それを目の当たりにした修司は───。

 

「ごめんジャンヌさん」

 

「え?」

 

ジャンヌが制止するよりも早くテラスから跳躍、弾丸の如く飛び出した修司は瞬く間にランサーとバーサーカーの間に割って入り……。

 

「先に謝っておくぞ!」

 

侵食されたバーサーカーの右腕を手刀で斬り飛ばし。

 

「そぉらっ!」

 

体を捻って溜めた力をそのままに、バーサーカーをイリヤの所まで蹴り飛ばす。弧を描き、イリヤの前で地面に激突する狂戦士、右腕から血煙を上げ、それでも生きている己のサーヴァントに、イリヤは無意識に安堵した。

 

「なっ、修司君、貴方何を!?」

 

「ジャンヌさん、皆を連れて街へ逃げてくれ!」

 

「はぁっ!?」

 

「今のやり取りを見て分かった。コイツ等普通じゃない! 特に其処の黒いタコさんウィンナーみたいなのはサーヴァントにとって天敵! そうだろ!」

 

「で、ですが!」

 

「だったら、今この場で有効に立ち回れるのは俺しかいない! 頼むジャンヌさん! 俺も時間稼いだら直ぐ逃げるから、皆を逃がしてやってくれ!」

 

「~~~~っ!!」

 

何と言う暴論だろう。確かに修司の言う通りあの黒いのは真っ当なサーヴァントであればあるほど猛毒であり、餌でしかない。加えてあの変異したランサーも合わせて危険度は超一級、あの場で修司でなくジャンヌが出ていった処で、結果は然程変わらないだろう。

 

いや、寧ろあの黒の特性を考えれば、ジャンヌだけでなく依り代であるレティシアですら危険に晒される可能性がある。自分の身体だけでない事を鑑みなければならないジャンヌにとって、修司の提案は最も有効で合理的だった。

 

だが、これで彼を囮にするのはこれで二度目、自ら聖杯戦争に首を突っ込むと口にした以上、修司には自己責任が常に付きまとうが………善性の塊であるジャンヌにとってそれは凄まじく苦い決断だった。

 

「もう! 貴方はいつだって勝手な事ばかり! 絶対に生き延びて下さいね! でないと承知しませんから!」

 

そう叫ぶジャンヌはメイドの一人を抱えてテラスから降りる。その最中メイドは何かを叫んでいたが、事態がそれを許す事はない。もう片方のメイドは何か心得があるのか、特に問題なくジャンヌに追随し、同じようにテラスから降りていく。

 

「イリヤスフィール、バーサーカーは!?」

 

「………うん、平気。ちょっと淀んでいるけどこの分なら少ししたら元に戻ると思う」

 

「■■■■■………」

 

「ごめんねバーサーカー、ゆっくり休んで」

 

余程あの黒いのに侵食されたのが堪えたのか、バーサーカーは疲弊していた。それを労う様にイリヤはバーサーカーを霊体化させると、涙を拭って立ち上がり……。

 

「先ずはここから離れ、街へ向かいます。付いてきてください」

 

「………仕方ありませんね。従いましょう、リーゼリット」

 

「ん、分かった。イリヤ」

 

「うん、ありがとうリズ」

 

リズと呼ぶメイドにイリヤが背負われた事を確認したジャンヌは彼女達を連れて城を後にする。その時、イリヤの目はずっと修司の背中を見つめていたが、修司がそれに応えることはない。森の中へ消えていくジャンヌ達、それを見送った修司は取り敢えず安堵した。

 

「───意外だな。律儀に待っていてくれるなんて」

 

「……確かにな。だが問題はない、貴様を殺し奴等を追えば済むことだ。多少面倒ではあるがな」

 

「はっ、そうかよ。あの愉快なアロハな兄ちゃんがここまで人が変わっちまうなんてな。聖杯戦争ってのはやっぱ陰険極まりない儀式だな」

 

「──俺は、“残滓”だ」

 

「あぁ?」

 

「遠い何処かのバカが自分の欲望と願望で作り上げた贋作、その搾り滓。それが今の俺だ」

 

「アンタ、一体何を言って………」

 

「話は終いだ。ここから先、貴様を待っているのは正真正銘の死地と知れ」

 

それを皮切りに殺戮の牙と黒死の触手が修司へ襲う。迫り来る二つの脅威を前に、修司は全力で挑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────シロウ」

 

衛宮邸。風邪によって衰弱し、寝込んでいる己のマスターをセイバーは気落ちした様子で見守っていた。

 

思い返すのは此処へ召喚されてからの自身への問い掛け、聖杯へ望みを掛ける自分と聖杯戦争を許さないと断じる修司への葛藤。

 

果たして自分はこのまま聖杯戦争に参加するべきなのか、自身の聖杯へ託す望みは消えていない。なのに怒りに満ちた修司の顔を見て、セイバーの強気は瞬く間に萎縮してしまっていた。

 

自分達の起こした戦いの所為で犠牲になった人々がいる。それまで当たり前の様に過ごしていたのに、自分達の所為で多くの人々が死に絶え、疵を生み出してしまった。

 

白河修司、彼はそんな自分を責め立てる資格がある。両親を死なせ、多くの人々を巻き込んだ事への罰を課す義務と権利が彼にはある。敵討ちと称して、自分を討ち取る資格が彼にはある。

 

でも、言えなかった。聖杯戦争へ正当に異議を口にする人間など前の戦いでは有り得なかった。

 

「──いや違う。本当はいた筈なんだ。聖杯戦争を憎む者はこれまで多く存在していたんだ」

 

思い出すのは“前”の時、アインツベルンの森で見た忌々しい過去の惨劇。暇潰しと称して当時のキャスターが行った悪逆非道の数々、彼等は全て聖杯戦争の犠牲者だ。

 

彼等からすればあのキャスターも自分も大差ない。聖杯を掛けての殺し合いで巻き込まれて死んで逝くのはいつだって無関係な弱い人間だ。

 

それを自分は見ないようにした。聞こえないようにした。全てはキャスターが行ったモノだと断じ、自分は無関係だと気取っていた。

 

───そんな道理など、彼等からすれば押し通る筈もないのに、どうしてあの時の自分はそんな風に考えてしまったのか。

 

「───でも、それでも私は聖杯を諦めることは出来ない」

 

申し訳ないと思う。済まないとも思う。嘲りも罵りも全て受け入れよう。しかし、それでも尚セイバーは聖杯を諦める事は出来なかった。

 

全てはブリテンの、彼の国の末路を変えるため、破滅の未来を回避するためにセイバーは聖杯へと望みを託したのだ。こんな間違いだらけの王ではなく、もっと相応しい者へ託すために、セイバーは聖杯戦争に参加したのだ。

 

「でも、このままでは……それも叶わなくなる」

 

マスターである士郎に不満があるわけではない。人間として好ましく思えるし、共に戦えるとも思えた。

 

でも、彼と逢ってから全てが空回りな気がする。このままいけば自分と彼が戦うのは避けられない。思い詰めた堂々巡りの思考にセイバーが嫌気を覚えた時。

 

「っ! サーヴァントの気配!」

 

堂々と、玄関の辺りからサーヴァント特有の気配を感じ取ったセイバーは即座に立ち上がり、一度だけ士郎へ視線を向けると、彼女は直ぐ様渡り廊下から飛び出し、戦装束の鎧を身に纏う。

 

相手は誰だ? ランサーかアーチャー、それともバーサーカーか。どちらせよ向かってくるのなら切り払うしかない。手にした不可視の剣に力を入れ………。

 

「───バカな」

 

絶句した。

 

「遅かったではないかセイバー、夫を待たせるなどいつから貴様はそんな焦らし上手となった」

 

「バカな、何故貴方が此処にいる………」

 

それはセイバーにとって最も有り得ない存在。彼は10年前のあの戦いで、自身の聖剣に聖杯諸とも呑まれた筈だ。

 

「だが、そのいじらしさに免じて特に許そう、だが次はないぞ。次回からは我が来る五分前には待ち合わせに来るように」

 

だが、眼前に佇む男はあの日と変わらず存在していて、その王気も見間違えるはずもなく。

 

「何故、貴様がここにいる! 答えろ、アーチャー!!」

 

その黄金の王は不敵に、愉快に笑みを深めるのだった。

 

 

 

 




Q.もしも王様が女体化してたらボッチはどうなるの?
A.変わりません。何も、変わりません。
特にフラグも建ちませんし、王と臣下という間柄は変わりません。
尤も、そんなボッチにヤキモキする王様に愉悦する麻婆がいたりしますが、それはまた別のお話。





if修司のいるカルデアWithマイルーム。

クーフーリンの場合。

「へぇ、お前さん俺を知ってるのか? それは奇遇だな。まぁ、俺は全く知らないが」

「あん? アロハシャツ着てて釣りが得意だった? へぇ、そこの俺は釣りをしてたのか。いいねー釣り、俺もしてみてぇなぁ」

「おっ? 今度釣り道具一式貸してやる? 何だよお前、ずいぶん気前がいいなぁ」

「っておい、これ釣り道具じゃなくて銛道具じゃねぇか!? あぁ!? これで無人島に流れ着いても大丈夫だぁ!?」

「何そのアウトドア、そんなのあるわけないだろ!」

この二日後、無事に無人島に流される事になりました(笑)


スカサハの場合。

「ほう、貴様が最近噂になっている勇士か。むう、惜しいな、それだけの力を持っているのなら、ワシが早くに目を付けたものを……」

「そうすれば、いつかワシを殺す戦士に育っただろうに……」

「む? 死ぬことではなく、生きることに執着してみろ? 何だ貴様、急に言うようになったではないか」

「だが、確かに貴様の言う通りなのかも知れぬ。死ぬことにばかり囚われて生きると言う事に対して疎かになっていたやもしれん」

「ん? そんな寂しがらずにもっと笑えば言い? 今度また影の国に行くからとな? フフ、小僧が生意気抜かすでないわ」

「───ん?ちょっと待て、お主一体何と言った? 影の国に来たのか? いつ!?」

「何年か前の相棒の試運転した時じゃと!? お、おい待て! 待たぬか! 詳しく説明せぬか! コラーー!!」


次回、激闘。

ボッチの拳が、理不尽を穿つ。



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