『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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HF第二章、皆さん買いましたか?

自分は……買えませんでした(泣)

やはり予約するべきだったか。


その35

 

────僕はね、正義の味方になりたかったんだ。

 

そう言って死んで逝った爺さん。炎の中で死にかけた俺を助けて、その時見たあの人の姿に憧れて、そんな風に自分もなりたいと思って……。

 

だから、俺も正義の味方になりたいと思った。悲しむ人を見たくない、困っている人を、泣いている人を助けてやりたいと、誰も彼も救える。そんな人間になりたいと思った。

 

───いいかい士郎、誰かを助けるという事は、誰かを助けないという事なんだ。

 

悲しそうにそう語る切嗣にそんな事はないと叫びたかった。切嗣は自分を助けてくれた。そんな切嗣が正義の味方ではないなんて、それこそ自分には信じられなかった。

 

誰かの助けになりたくて、正義の味方になりたくて、でも、どうやったら正義の味方になれるのか、それすらもわからなくて………。

 

そんな時、アイツが颯爽と現れた。まだ俺が中学生の頃の話だ。学校の先輩に頼まれ、校門の飾り付けに手間取っていた時だ。

 

白河修司。当時から何かと話題になっていた有名人、そんなアイツが暇だからと言って飾り付けの手伝いをする事になったのが、俺と修司の始まりで、巻き込まれた慎二との出会いでもあった。

 

修司は、色々と器用な奴だった。人並み以上に物事をこなし、海外に頻繁に出掛けているから知らなかったが、相当鍛えている様で街のチンピラ程度なら軽くあしらえる程度には強く、逞しかった。

 

…………いや、違う。強かったんじゃない、強くなったんだ。10年前に起きた冬木の災厄の様な悲劇を二度と繰り返さない為に、あの神父の下で必死に自分を鍛えたんだ。

 

その結果、アイツは魔術師である遠坂をもあしらい、更にはサーヴァントであるアサシンすら倒して見せた。理不尽や不条理を許さないと豪語する俺の友人はそれすら凌駕してみせた。

 

アイツは、今も頑張っている。冬木の人々が聖杯戦争に巻き込まれないように、聖杯戦争を早く終わらせる為に、今も行動している。

 

なら、俺は何だ。正義の味方になる為に努力を重ねたつもりでいても、結局は何も出来ていない。誰かを助ける処か、自分ばかり助けられてしまっている。

 

サーヴァントを喚んだのも、聖杯戦争に巻き込まれたのも、全ては偶然の産物。切嗣に教わった魔術も何一つ活かせず、戦いにすら参加出来なかった。

 

理不尽を許さないと語るアイツは、修司は正義の味方を目指す俺にとってどうしようもなく眩しくて───。

 

それでいて、自分の心のままに行動出来るアイツを少し羨ましく思えてしまう。

 

(分からないよ、切嗣。一体、どうしたら正義の味方になれるんだ)

 

 

────なぁ、士郎。知ってるか? ヒーローってのは一人じゃ成り立たないんだぜ?

 

 

懐かしい夢を見た気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、んう?」

 

ふと目を開ければ、そこには見慣れた天井。外は暗く、既に時刻は深夜を指そうとしていた。何故自分は此処にいるのか、思考を巡らせて考えを纏めようとした士郎は以前垣間見た卑猥な夢を思い出す。

 

何故あんな夢を見てしまったのか、よりにもよって学校のマドンナと交わる夢だなんて、幾らなんでも失礼すぎる。その上その夢を見た所為で風邪を引くとか、無様を通り過ぎて滑稽ですらある。墓に持っていく秘密が出来てしまった事に悶えようとする士郎だが、それよりも気にする事がある。

 

「そうだ! 修司は、アイツ等はどうしたんだ!?」

 

思い出すのは自分達と同盟を組む事になった聖杯戦争にとってイレギュラーな存在達。友人とその協力者達が聖杯戦争の異変に対処するために動いている。もし彼等が今も行動しているのなら、今頃何処かで戦っているのかも知れない。

 

友人が戦っている。いてもたっても居られなくなった士郎は即座に着替えを済ませ、自身のサーヴァントであるセイバーに同行してもらおうと居間へ向かった時……セイバー、それにアイツは一体。

 

衛宮邸に続く門の前で対峙するセイバーを縁側で見付けた士郎だが、彼女の鎧姿と険しい表情を見て対峙する金髪の男が普通でない事を悟ると、縁側の戸を開き、裸足のままセイバーの下へ駆け寄る。

 

「セイバー、無事か!」

 

「っ! シロウ、ダメです! 来ては行けない!」

 

此方に来るなと叫ぶセイバーの声を振り切って、士郎は二人の間を割って入る。両手を広げて庇うように前に立つ士郎にセイバーは目を見開いて驚愕し、金髪の男───ギルガメッシュはその深紅の双眸を値踏みするように目を細める。

 

「ほう? 我が后との逢瀬に水を差すか。セイバーへの忠義故の行動とは言えその不敬、刎頚程度では済まされぬぞ」

 

「いきなり出てきて、何言ってるんだ! 誰だお前は!」

 

「ダメですシロウ、下がって!」

 

不敵に笑う英雄王に士郎はより敵意を滲ませて吼える。セイバーはそんな士郎を落ち着かせようとするが、その言葉は士郎には届かない。

 

士郎も分かっていた。目の前に立つこの男は普通ではないと、他のサーヴァントと同等、或いはそれ以上の存在感。マトモに戦えば此方に勝機はない。しかし正義の味方を目指す士郎にとってここで身を引くこと、それこそが有り得ない選択だった。

 

「───ふっ、衛宮士郎。成る程、聞きしに勝る偽善ぶりよな」

 

「………何だと?」

 

偽善。そう呼ばれて頭に来たのではなく、まるで自分の事を知っている様な英雄王の口振りに士郎は動揺する。目の前の男とは確かに初対面の筈、なのにどうして自分の事を知っているのか、戸惑う士郎にギルガメッシュは喜悦の笑みを浮かばせ───。

 

「何、そう驚く事ではない。貴様という人間の成り立ちは大凡(おおよそ)だが我が臣下から聞いているだけだ。最初はそんな偽善者などいるものかと軽く一蹴していたが………フハハハ、まさか実在していたとはな。今度からあやつの相談事には多少耳に入れてやるとするか」

 

「お前、一体何者なんだ」

 

「気を付けてくださいシロウ、その男は嘗て私と同じく聖杯を巡って争った相手です」

 

「なっ……!?」

 

何故、ただ士郎の脳裏には疑問しか浮かばなかった。セイバーの言葉の意味をそのまま捉えるならば、目の前の男は前の聖杯戦争で召喚されたサーヴァントの一騎と言う事になる。何故その前のサーヴァントが目の前にいるのか、何故セイバーはそれを知っているのか。疑問と動揺、そして風邪による眩暈から足下が覚束無い士郎は膝を屈するが、セイバーはそれを気遣うよりも士郎の前に立つことを選んだ。

 

「事情は全て後でお話します。ですからどうかシロウは中へ戻ってください! この男と戦うには今の貴方では無謀過ぎる!」

 

「………!」

 

無謀。そう、今の衛宮士郎では目の前の男に勝つ事など出来はしない。友人である彼とは違って今の士郎では正しく無謀だ。

 

でも、それでも立ち向かう事をやめる訳には行かない。喩え無惨に殺されようと諦めるわけには行かない。そう思い立ち上がろうとする士郎だが………。

 

「フム、ではセイバーよ。ここで我と勝敗を決したいと言うのか? 我は一向に構わんがそれではこの辺り一帯が焦土と化すわけだが?」

 

「っ!」

 

呆れた様に肩を竦める英雄王にセイバーは冷水を掛けられた様に思考の熱が急激に冷めていく。衛宮邸の近くにはマスターである士郎が気にかける藤村大河とその家族である藤村組があり、さらに言えばここ深山町には多くの住宅が存在している。

 

超常の英霊であるサーヴァント、セイバーと目の前の男が戦えば巻き込まれるのは無辜の民、何も知らない一般人だ。

 

それだけではない、どういう訳か目の前の男からは敵意や悪意と言った此方を害する意思が全く見受けられない。出会い頭にセイバーを后と口にしていたが、まさか本当にそんな事を言うために此処へ来たと言うのか。

 

「───仕方あるまい。此度は出直すとしようか。騎士王を娶るには相応の準備が必要というもの、そこの偽善の雑種に免じて今日の所は引き下がるとしよう」

 

「ま、待てアーチャー! 貴様、一体何の為に……」

 

「此度はお前の顔を見に来ただけだ。10年前と同じ清廉な顔付きで安心したぞ、それでこそ我色に染め上げ甲斐があるというものだ」

 

そう言って踵を返し、英雄王は衛宮邸から去ろうとする。用件が済んだから帰る。そう言いたげな彼の背中を士郎は呼び止める。

 

「ま、待て! お前にはまだ聞きたい事がある!」

 

「───先に続いて我を呼び止める愚行を侵すか。何用だ雑種、我の歩みを止めたのだ。相応の理由でなければ次の瞬間貴様の頚は失くなると知れ」

 

目線だけ此方に向けてくる英雄王の殺気に士郎は身を竦ませた。この男は本気だ。本気で自分を殺そうとしている。ただ呼び止めただけで不敬と断じ、更には殺意を向けてくる英雄王に士郎は身震いせずにはいられなかった。

 

それでも、彼は問わねばならない。何故ならそれは士郎にとってどうしても拭えない違和感を払拭するのに必要な疑問だからだ。

 

「お前の言う臣下って、一体誰なんだ!? 俺の、俺達の知っている奴なのか!」

 

「し、シロウ?」

 

嫌な予感がする。そんな事はないと必死に否定しながら心の何処かでそうではないかと疑問視する自分がいる。そんな衛宮士郎の質問はまるですがり付く迷い人にも聞こえてしまい。

 

故に、英雄王の口許が愉悦に歪むのは必然だった。

 

「───白河修司」

 

「っ!!??」

 

「我が拾い、我が鍛え、我が育てた現代の英雄。喜べ雑種、貴様は今真なる英雄の誕生に立ち合っているのだぞ」

 

驚愕し、両膝を地に突いて愕然とする士郎。隣で佇むセイバーも信じられないと言った様子で目を見開いている。

 

あの男が、白河修司が英雄王の臣下。疑問と驚愕に打ちのめされている二人を見て英雄王は満足そうに笑みを浮かべ。

 

「さて、これであの雑種は修司を敵と見るか、それとも友と見るか、見物だな」

 

嘗て起こった冬木での聖杯戦争、10年前から続くセイバーとの因縁。英雄王という存在を多少なりとも知るセイバーは果たしてこの事実をどう受け止めるのか。そしてセイバーから告げられる英雄王との因縁を耳にして衛宮士郎は何を思うだろうか。

 

少なくとも、疑心は残るだろう。心に残った痼は何れは大きくなり、疑心は疑惑となって肥大化していく。

 

もし、士郎が修司を敵として認識したら、果たしてどうなるのか。不確定な未来を予想して英雄王は満足そうに夜の冬木へ姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャアッ!」

 

「オラァッ!」

 

迫り来る朱色の死槍を振り抜かれた拳で受け止める。ぶつかり合う力と力は拮抗し、暴風となって周囲の空気を蹂躙していく。

 

アインツベルンの城、その周辺にて激闘を繰り広げるのは朱色の槍を携えた槍兵、ランサー。対するのは山吹色の胴着を身に纏う自称ごく普通の人間、冬木の一般人代表白河修司。

 

ぶつかり合う槍と拳、既に幾合か戦端を交えた両者はそれぞれ致命傷を受けぬまま、戦いを続けていた。

 

地を掛け、宙を舞い、一度の交差で武を交える。勝つ事を目的としたランサーと生き残ることを目的とした修司、この戦いに於いて戦いの状況は生き延びる事を優先とした自分にあると修司は思い込んでいた。

 

今の修司は目の前のランサーを倒す事を目的としていない。あくまでも自分は殿、ジャンヌ達が逃げ延びるまでの時間稼ぎに過ぎない。ランサーだけが相手ならこの役割は然程難しくはなかった。

 

そう、ランサーだけなら。

 

「クソ、何なんだよさっきから! あの黒いタコさんウインナーは!」

 

修司がタコさんウインナーと呼ぶモノ、影は何かを語るのではなく、何かを察する事はなく、ただ修司を狙ってその触手を伸ばしてくる。不規則に、無制限に迫る無数の触手はランサーの攻撃と相まって修司をより窮地へと追い詰めていく。

 

「狡いぞお前ら! 一般人相手に二対一とか!」

 

「殺し合いに作法があると思ったか、戯けが」

 

「グゥの音も出ない正論、どうも!」

 

触手に行き場を阻まれ、足の止まった修司へランサーの槍が迫る。眼前まで迫る槍を、精一杯上半身を反らした事で紙一重に避け、お返しの蹴りをランサーへ放つ。

 

死角を狙った一撃、しかし相手は歴戦の英霊。修司の蹴りは当然の如く防がれ逆に足場として利用され、ランサーとの距離は開けてしまう。

 

追撃を繰り出そうとするが、影はそれを許さない。足下へ迫る触手を跳躍して回避する修司だが……。

 

「バカが、隙を晒したな」

 

「っ!」

 

ランサーの手にする槍がより紅く輝いている。嫌な予感がすると、修司の直感が囁いた時。

 

抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)

 

渾身を込めたと思われるランサーの投擲――瞬間、槍は無数の投擲槍となって修司へ向かって放たれる。頭上を覆う凄まじい数の槍、その数に圧倒されながらも修司は当たるまいと範囲から逃げ延びようとする。

 

しかし、逃げる修司を追うように全ての槍はその軌道を変えて追随する。「ハァッ!?」凄まじい理不尽を目にした修司はふざけるなと声を大にして叫びたいが、生憎今はそんな暇は無い。

 

迫る槍は全て修司に向けて追随してくる。何処まで逃げても無駄だと、そう言ってくるかのようなしつこさ。修司は仕方ないと割り切りイリヤが所有する城へと逃げ込むが、そんな事はお構いなしに槍は群れを成して修司へと迫っていく。

 

「クソがっ! インチキも大概にしろー!」

 

壁を突き破り、天井を抉り、廊下の足下からも襲ってくる槍の軍勢、遂にこの逃走劇に嫌気が差した修司は迫り来る槍の波を前に振り返り。

 

「──スー……ハー………」

 

その拳に力を込める。

 

(イメージしろ。俺が殴るのは槍じゃない)

 

イメージするのは槍という個体ではなく、己の内にある気の巡りを拳に乗せて放つ事。

 

槍の群れが修司へ押し寄せる。その尖端が前髪へ触れた時。

 

「ハッ!」

 

力を籠めた震脚がアインツベルンの城を粉砕していく。廊下は捲り、柱は砕かれ、落ちていく足場が崩れるその刹那───。

 

「セイ、ハァッ!!」

 

放たれた拳圧、全身のバネをフルに活用とした修司のたった今生み出された必殺。无二打(二のうち要らず)が至近距離の奥義だとするならば、今の遠当ては遠距離による必殺技である。

 

その一撃は群れを成して迫る槍の全てを撃ち抜き、見事全て粉砕する。しかしどうやらその槍は当たれば爆発する性質でもあったのか、その悉くが爆散していく。幾つもの槍が誘爆した為、その規模は凄まじい。無数の槍の爆発によってアインツベルンの城は吹き飛び、巻き込まれた修司もまた吹き飛んでいく。

 

爆風によりアインツベルンの城から吹き飛んだ修司、しかし窮地はまだ抜け出していなかった。遠くから見える朱色の光、それが何なのか理解した瞬間。

 

「誰が一度だけと言った。間抜け」

 

「………嘘、だろ?」

 

再び迫る無数の槍、逃げ場を完全に失った修司に出来るのは亀の様に身を固めるのみ。

 

視界を埋め尽くす朱色の光、それらを全て受け止めてしまった修司は次の瞬間───目映い閃光に包まれた。

 

 

 

 

 




Q.もしも主人公がタイガーコロシアムに参戦したら?
A.「王様の臣下として参加しないわけには行かないよねー」と、軽い気持ちで参戦。

尚、この時のボッチの相手は衛宮&アーチャーとかカレン&バゼットとか、凛&黒桜とか、バーサーカー&セイバーオルタ、ラストは言峰&ギルガメッシュだったりします。

ボッチのパートナー? 勿論慎二くんです。友達ですからね(笑)
もしくはネコアルク。

Q.ホロウに参加したら?
A.子ギルに戸惑ったりカレンとの絡みが見られたりするかも?
尚、最終決戦では王様と肩を並べて戦えることにテンションが爆上がり、色々やらかす模様(笑)



それでは次回もまた見てボッチノシ





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