『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

20 / 417
結構飛ばし飛ばしになってます。


その20

 

 

Σ月V日

 

 先の倉持研へ訪れてから数日。相変わらずゴシップ記事には好き勝手書かれているが、取り敢えずいつも通りに過ごしています。

 

倉持研の所へお邪魔してから大体一週間ほど経過した現在。学園祭の準備もいよいよ大詰めとなり、学園の空気も何だかいつもと違っていた。

 

各部活動の方もそれぞれ特徴的な出し物をするみたいだし、それぞれのクラスも中々見応えのある風貌となっている。お化け屋敷も素人が作ったとは思えないリアルさがあったし、本物の化け物が出てきたかと思い結構驚かされた。

 

やっぱこういうのって独特の怖さがあるよな。インベーダーやアンチスパイラルとはまた違った恐さ……まぁ、こんなの比較する方がおかしいか。

 

一夏君のクラスの方も喫茶店らしい雰囲気となっていたし、一夏君の執事服も中々似合ってた。箒ちゃん達もメイド服が様になってたし、これは当日自分もお邪魔させてもらおうかな。一応用務員も見回りを兼ねて学園祭に参加する事を許されているし、十蔵さんも構わないと言ってくれたから、当日が楽しみになってきた。

 

鈴音ちゃんのクラスもチャイナ喫茶なる店を開くみたいだが、此方は執事喫茶とはまた違った趣もある為、中々楽しそうだった。鈴音ちゃんもチャイナドレス似合ってたし、やはり可愛い子というのは何着ても似合うのだなと改めて思った。

 

女子高生のコスプレか……そういやカレンちゃんも高校生だし案外似合ったり、ヨーコちゃんも────いや、ないな。お出迎えの挨拶と共にアイアンクローや蜂の巣にされそうだし、この話はやめておこう。うん。

 

 それは兎も角、これまでの自分の行動を報告しようと思う。学園祭が終わった後、政府からISのコアを渡される予定である自分は、コレに備える為に少しばかりグランゾンと共に宇宙を放浪していた。

 

何するにしても拠点というモノは必要だ。学園の施設も使わせてもらうつもりだが、他の生徒達も使用する以上独占は許されない。学園の負担を少しでも軽くしようと時間が空いた時に火星や月などに赴いて簡単な拠点造りをしていた。

 

多元世界にある立派な基地と比べると物置小屋みたいな施設だが、空調も完備だし、人が活動出来る環境も整えた。機材も一通り揃えた事だし、ひとまず開発施設としては及第点だろう。出来映えも地球の衛星軌道上に漂う宇宙ゴミを使った物にしては中々だし、余った資材で簡単な自律ロボを作る事も出来た。

 

 宇宙ゴミというのは各国が宇宙開発前に打ち上げたロケットや人工衛星の残骸の総称で、その数は凄まじく、自分の世界でもちょっとした環境問題となっているモノだ。

 

この宇宙ゴミを使って研究施設を作ったのだが……いやー、中々骨が折れた。この宇宙ゴミを回収する為に付近の人工衛星にハッキングを施して、且つそれに気付かせないようにすり替えの映像も流したりして細かい作業が続いたけど、苦労した甲斐あって回収した宇宙ゴミは中々価値のあるものだった。

 

殆どはグランゾンの発する高重力によって新たな素材に変換させて使用したけれど、中には結構使えたりするものがあって、こういうのはチョコッと手を加えるだけに留めて管理システムに使用したりしている。

 

そうすることで作られた火星と月の開発施設。月の施設は見つからないよう月の裏側に設置し、ちょっとした光学迷彩を施して、火星の方は地中に埋めて秘密基地という仕様にしている。

 

自分がいない合間、施設整備の為に例の自律型のオートマトンも何台か造っておいたし、ISのコアが届くまでの準備は大体完了する事となった。

 

……本音を言うなら木星にも拠点を置きたかったけれど、流石に時間がなくて断念せざるを得なかった。前にも言ったがネオになれば早く木星に辿り着くが、流石にグランゾンの力を出し過ぎるだろうから、少し自重した方がいいのかもしれない。

 

 ともあれ、此方も準備は万全となった。後は明日の学園祭を無事に終わらせる事に集中する事にしよう。

 

それと、十蔵さんから学園祭後の一ヶ月の合間、休んでも良いという特別休暇をもらえた。勇気を持って十蔵さんに相談した所、学園長に掛け合ってもらい、許可を出してもらったのだ。

 

言った時は酷く驚いた十蔵さんにダメかと諦めかけたけど、受け入れてもらえて安心した。仕事を一ヶ月も放って申し訳ないと思ったけれど、それくらいの合間は何とか出来ると十蔵さんは笑って許してくれた。

 

その笑みが少し引きつっていたのが気になったけど、今は一ヶ月も休みを貰えた事を喜ぶとしよう。

 

 

 

Σ月L日

 

 今日は待ちに待った学園祭。現在自分は休憩という事で自室に戻りこの日記を書いている。

 

学園の皆で頑張って作った学園祭。一つの集大成がこうして実を結んだ事を喜ばしく思いながら、その思い出を忘れないよう日記に書き込む事にする。

 

まず最初に訪れたのは簪ちゃんのクラス。簪ちゃんは専用機を作ることに無我夢中で殆どクラスに顔を出さなかった為、最初の頃はクラスの子達と距離があったけど、先のタッグトーナメントで大活躍を果たし、それがきっかけでクラスの子達と打ち解ける事ができ、クラスの皆と一緒に出し物を作っていた最中もとても楽しそうにしていた。

 

そんな簪ちゃんが皆と一緒になって作ったのはお化け屋敷だ。前に日記に書いた出来映えの良いお化け屋敷とは簪ちゃんのクラスの事だったのだ。

 

ただ、どうも出来が良すぎた為に中に入っていった生徒達は皆失神して運び出される始末。お化けの格好をした生徒が担架を担いで気絶した生徒を運ぶ光景は……色々シュールだった。

 

自分も試しに入ってみたのだが……うん、予想以上に凄かった。雰囲気も出てたし、何よりお化けのリアルさがアリアリと出ていた事に素直に驚いた。

 

妖怪といった怪物系のお化け屋敷ではなく、日本特有の怪異、怨念や怨霊を題材にしたお化け屋敷は学生が作ったレベルとは思えなかった。

 

いやマジで。夜中にあの中に迷い込んだら間違いなく泣き喚く自信がある。例えて言うのなら……そう、リ○グと呪○が良い感じに混じり合った様な、そんな感じのお化け屋敷だった。

 

故に、担架で運び出す際もお化け衣装に驚いて腰を抜かした生徒もいたらしく、織斑先生がやりすぎだと注意していた。

 

 次に向かったのは一夏君のクラス。執事喫茶という一風変わった喫茶店をする事になった一夏君のクラスは他のクラスよりも人気が高く、結構な行列が出来ていた。

 

自分の後ろにも客が並んでいたし、一夏君と二、三話したら出て行こうかと思われたのだけれど、何故か自分も執事をやる事となり、そこで結構足を止められてしまった。

 

何でも一夏君だけでは男手が足りないという事で密かに自分も参加する様に織斑先生に掛け合っていたらしいのだ。当日まで秘密という事で今まで黙っていたのだという。

 

織斑先生は申し訳なさそうにしていたが、自分としては生徒の皆と一緒になって学園祭を体験出来たので全然オッケーである。一夏君も自分というもう一人の執事役が現れた事で動きに迷いがなくなり、率先して接客をしていた。

 

自分も織斑先生と山田先生をもてなしたのだが……流石にお嬢様扱いは不味かったのか、織斑先生は終始眉間に皺を寄せて黙り込んでいた。

 

結構自分も調子に乗っちゃったし、生徒の前で少し悪ふざけがすぎたかもしれない。今度顔を合わせた時はそれとなく謝っておくとしよう。

 

その後も二年や三年生のクラスを一通り巡り、各部活の出し物にも顔を出した。午後からは生徒会の大規模な演劇を行う予定だし、自分も見回りだからと気を抜かずしっかりやろうと思う。

 

 ……ただ、IS関連の人達も来ているとは思わなかった。見回りの際は生徒の皆が自分を彼等から引き離してくれたお陰で絡まれる事は少なかったけど、彼等があの程度で諦めるとは思えない。

 

一夏君もいきなりそういった話題に触れられて困っていたし、自分も気を付けようと思う。

 

そろそろ時間の為、ひとまず日記はここで中断する事にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────今日は、とても楽しい一日になる筈だった。皆が今日という日の為に頑張って作業し、皆で作り上げた大切な一日。

 

学園祭。厳しいISの訓練を受けて必死に頑張ってきた皆に対する、学園からの囁かな贈り物。皆で作り、皆で築き上げたその日を……目の前の理不尽がぶち壊した。

 

「お前、一体何なんだよ! 何の為にこんな事をする!?」

 

「私が何者かって? 見てわかんねぇのかよ? 企業の人間になりすました……謎の美女だよ!」

 

怒りを露わにする織斑一夏、普段は見せない憤怒に満ちた表情を浮かべる彼に対し、目の前の女はただ愉しそうに笑う。

 

女が纏うのは……蜘蛛。獲物を絡め取り、衰弱させ、ジワジワとなぶっていくその様は、まさに彼女の性を現すのに十分な姿だった。

 

蜘蛛に絡め取られながらも、一夏は必死に足掻いた。こんな奴は許さないと、許してはいけないと、怒りに震えながら抗った。

 

しかし……。

 

「無駄だぁ、お前が暴れれば暴れるほど、蜘蛛の糸は深くお前の体に食い込んでいく。そんな事も分からないのか三下がぁ!」

 

「くそ、こんのぉっ!!」

 

卑下た笑み。フルフェイスのマスク越しでも分かる挑発。一夏はそれが目の前の女の罠だと知りつつも怒らずにはいられなかった。

 

現在自分達のいる所は更衣室。目の前の女の突然の襲来に学園はまだ異変に気付けていない。

 

援軍も期待出来ないこの状況を打破するのは……いやできるのは自分しかいない。なのに、その自分が今、手も足も出せないでいる。

 

(畜生、ちくしょう!!)

 

悔しい。目の前の女をブン殴りたいのに、今の自分はそれすら出来ない。

 

「さて、お前のIS、白式を頂こうか。その後にじっくりと……殺してやるよ」

 

蜘蛛の手が一夏に迫る。せめて気迫で負けてたまるかと睨みつけるが、それすらも女は己の愉悦とし、己の快楽を貪る為に一夏を殴りつけた。

 

一発、二発、無抵抗の相手を一方的に叩きのめす快感に浸りながら、女は一夏を殴りつけた。

 

白式のシールドエネルギーをジワジワと削り、絶対防御まで作動しなくなった時に見計らってISを奪い、そして殺す。

 

アァ、なんて素晴らしいのだ。(自分)より強いと思い込んでいる男を一方的に壊す事が出来る。なにものにも勝るこの悦楽を自分だけ味わう事ができる。

 

そろそろフィナーレといこう。女は蜘蛛の手を広げ、白式に触れようとした時……。

 

「そこまでにしていただけませんか?」

 

「っ!?」

 

「ぅ、ぐぅ……」

 

自分達以外誰もいない筈の更衣室に第三者の声が響きわたる。ハイパーセンサーを作動させ、周囲に警戒を向けると……。

 

崩れたロッカーの上に佇む一人の影が、自分達を見下ろしていた。

 

「学園内ではISの無断接触、並びに無断使用はしてはならないと一般開放する際に厳重に注意させて頂いたのですが……どうやら聞き逃していたようですね」

 

「テメェ、何者だ!?」

 

壊れた蛍光灯の光りが逆光となり、目の前の人間を影にする。雄叫びと共に女は弾丸を撃ち放ち、影を撃ち抜いた。

 

しかし……。

 

「私ですか? 私は名乗る程の者ではないのですが……まぁ、聞かれたのなら答えましょう」

 

影は女の後ろに現れ、笑みと共にその姿を現して──。

 

「私の名は白河修司。ここIS学園で用務員として働いているしがないなんちゃって技術者です」

 

「っ!?」

 

「あぁ、貴方は名乗らなくても結構ですよ。聞くつもりも、覚えるつもりもありませんから。……さて、折角の学園祭をぶち壊してくれたのですから」

 

 

 

 

 

“覚悟は出来てるんだろうな?”

 

 

 

 

 

その表情を一夏以上の怒りで染め上げていた。

 

 

 

 

 

 




Qオータムが死んだ! この人でなし!
A主「蜘蛛に人権があると? ……ククク、面白い事をいいますね」


次回、魔人降臨。

また見てボッチノシ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。