『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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ありふれた職業で世界最強。

あぶれたボッチが世界最強。

ちょっと似てるかも(笑)

この場合、ボッチは無職になる模様(笑)




その46

 

 

 

「───修司の奴、大丈夫かな」

 

「んー? 大丈夫なんじゃない? ルーラーも一緒みたいだし」

 

イリヤの従者二人と自慢の一張羅を取りに修司とジャンヌが一度新都の方へ引き返して五分、静かになった居間の空間で時計の針の音が響く中、士郎は心配の声を漏らす。

 

だが、その心配の声も遠坂の否定の言葉が即座にソレを掻き消していく。遠坂にしては冷たい態度に士郎は眉を寄せて問い詰める。

 

「何だよ遠坂、修司の奴が心配じゃないのかよ。一応、アイツはお前の弟弟子なんだろ?」

 

「現時点でバーサーカーに匹敵する戦闘能力保有者なんて心配するだけ時間の無駄よ。衛宮君も今はこの聖杯戦争を乗り越える事だけに集中して」

 

「バーサーカーに匹敵って、修司の奴そんなに強いのか?」

 

「認めたくないけどね。けど、そこの執行者から話を聞く限り、有り得ない話ではないわよ。何せ、何年も前から既に単独で死徒を滅殺できる程の実力者なんだもの」

 

普段の修司を知る衛宮にとって魔術師である凛やイリヤの評価は聖杯戦争開始の当初は到底信じられるモノではなかった。確かに普段から勉強は出来るし、身体能力も陸上のエースを張っているからそれなりに高いことは知っている。

 

だが、それがまさか魔術側に深く認知され裏社会にその名を轟かせている人物だとは欠片も知らなかった。中学の頃から保護者の教育方針で海外に出張っている事は知っていたが、それがまさか死徒という人外を斃して回っていたのだというから更に驚きだ。

 

更に話を深掘りすれば、その強さは魔術協会や聖堂教会も一目置く程で、同じ居間に居る執行者を凌駕するほど。また、彼のお陰で死徒による被害者は格段に減ったと聞く。聖杯戦争に参加するまで録に魔術の鍛練を行えなかった士郎にとって修司の今日までの物語は御伽噺の英雄譚にも聞こえた。

 

「………修司の奴、今までそんな事全然言わなかったのにな」

 

天井を仰ぎ見て呟くのは修司に対するある感情の発露。自分一人で戦い、誰かを助け、人知れず救い続けてきた親友の本当の姿に士郎は心の底から羨ましく思えた。

 

『聖杯戦争から降りろ衛宮士郎、無力なお前では何も成し得る事は出来ん』

 

アーチャーの冷めきった眼差しから告げられる言葉、悔しいが衛宮士郎にそれを否定するだけの材料は無かった。彼が言う様に士郎が魔術の基礎すら四苦八苦していた頃、彼は一人で死徒なる人外を相手に戦い、生き残り、旅を続けてきた。

 

その旅の道中で一体どれだけの人々が救われたのだろう。彼が戦い続けてきた事でどれだけの多くの人間が犠牲にならずに済んだのか。正義の味方を目指す衛宮士郎にとって修司こそが正に正義の味方の様に思えた。

 

無関係な人間を巻き込む聖杯戦争を許さないと断じ、ルーラーの助力を得ながらも度重なるサーヴァントとの激戦を制してきた。

 

運もある。実力もある。そして何より強い意志がある。理不尽を許さないと語る修司の瞳は怒りの色に満ちていたが、その義憤が誰よりも正義の味方の在り方に相応しいと士郎は思った。

 

当たり前の事を当たり前の様に大事にする。超常に浸りながらも日常を愛し、日常を謳歌する彼こそ、きっと誰よりも………少なくとも自分よりも遥かに正義の味方足り得るのだと。

 

衛宮士郎が白河修司に抱くのは無自覚な憧憬と嫉妬。誰よりもそう在りたいと願ったのに、隣にいた筈の修司こそが正義の味方に相応しいと思い知った。

 

「………切嗣」

 

嘗て、自分を救ってくれた魔法使いは言った。正義の味方は期間限定だと、自分では成りきれなかったと。正義の味方を目指し、足掻いても現実の不条理がそれを阻む。

 

現実はいつだって不条理で理不尽だ。残酷な選択続きの果てに後悔は募り、たった一人護りたかった人までこの手から溢れ落としてしまった。正義の味方を目指すには衛宮切嗣は諸々が足りなかった。

 

そんな義父の想いを継いで衛宮士郎は正義の味方を目指すと誓った。………でも、何故だろう。誓ったのに、あの日の憧れは今もこの胸に焼き付いているのに、何故かそれを強く口に出すことが出来ない。言葉として吐こうとすれば、修司の背中が脳裏に過って離れない。

 

(もしかして俺、諦めようとしている? 正義の味方を、切嗣から受け取った願いを、放棄しようとしているのか?)

 

それは違う。断じて違う。衛宮士郎は正義の味方に成る。成りたいのではなく、絶対に成るのだ。

 

でも、聖杯戦争で何の役にも立てていない自分に、果たして誰かを助ける事なんて………救うことなんて出来るのだろうか。

 

「───ねぇ、シロウはどうして切嗣に憧れたの?」

 

「………え?」

 

ふと、声が掛けられる。顔を前に戻せば長い銀色の髪が特徴的な少女が衛宮の眼を覗き込むように見詰めていた。

 

「少し貴方を観察していたけど、何となく分かったわ。貴方は切嗣に憧れている。彼の生き方に、彼の在り方に。ねぇ、どうしてシロウはあの男に其処まで拘るの? 正義の味方って、そんなに大事なの?」

 

「イリヤ、お前何言って………」

 

「答えて」

 

ジッと、瞬きすらしないで問い掛けてくる少女に士郎は呑まれた。誤魔化す事は許さない、そう暗に伝えてくる彼女に戸惑いながら、士郎はポツリポツリと少しずつ自分の境遇を語り始めた。

 

10年前の聖杯戦争で家族全てを失ったこと。その時に切嗣と出会い、拾われ、家族として接してきたこと。何度も何度も外国に出掛けてナニかを探していたこと。そして………。

 

『あぁ………安心した』

 

最期に、自分の理想()を託せたことに安堵して眠るように逝ったこと。自分に許される全ての事を話し終えると今度はイリヤが口を開いた。

 

「そっか。切嗣は私の事、迎えに来ようとしてたんだ」

 

「イリヤ?」

 

「ねぇシロウ、シロウは一体どんな正義の味方になりたいの?」

 

「え?」

 

イリヤのその言葉は先のモノよりもずっと優しく、そして刺のない口調だった。何も知らない子供を諭すように優しく語りかけてくる少女、そんな彼女の言葉に衛宮士郎は不意を突かれ唖然とした。

 

「正義の味方って一つしかないの? シロウが目指す場所はそんな寂しい所なの?」

 

「俺は………」

 

正義の味方、ただそれだけを目指して生きてきた。それだけを考えて生きてきた。自分の行いが、細やかでも誰かの幸福であると信じて、苦痛を苦痛と感じないまま、今日まで生きてきた。

 

正義の味方を目指しておきながら、その実、正義の味方の在り方に悩むだけ悩んで、答えは見付からなかった。あの日、衛宮切嗣に救われて、その時の彼の表情が忘れられず、それが綺麗だったから憧れた。

 

借り物の理想。それだけならまだしも、衛宮士郎の理想は形だけを模した空っぽの器のままだった。正義の味方を目指しておきながら正義の味方の在り方を、形を、何一つ見いだしてこなかった。

 

「正義の味方って、一人じゃなきゃ駄目なの? シロウの言う正義って、そんな回りの人間を悲しませてまで叶えるモノなの?」

 

「俺は………俺は」

 

『誰かの為に頑張れるのは偉いことだと思うよ? でも士郎はいつも怪我して、お姉ちゃん心配だよ』

 

脳裏に甦るのは不安そうに眉を寄せる姉貴分、何故今彼女の顔が横切るのか。

 

『なぁ士郎、戦隊モノもライダーモノも、根っこの部分は同じなんだぜ』

 

何故、彼の言葉が頭に浮かぶのか。

 

(………もしかして、正義の味方って一人じゃ成り立たないのか?)

 

答えは未だ見付からない。けれどこの時衛宮士郎は正義の味方の問い掛けに一つの答えを得た。

 

そして───。

 

「何よ今の音は!?」

 

遠くから聞こえてくる音に衛宮邸にいた全員が外に出る。何事かと凛がアーチャーに問い詰めれば……。

 

「まさか、こんなに堂々と襲ってくるなんて!」

 

ここからでも見える赤い炎、場所は冬木大橋。深山町と新都を分ける未遠川にて一つの激戦が幕を上げようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………なぁジャンヌさん、セイバーさんは例の影に呑まれて消滅、聖杯戦争から脱落したって聞いたけど?」

 

「その筈です。彼女は、騎士王アルトリア=ペンドラゴンは、私を庇って消失しました。その最期を私自身がこの眼で見ています」

 

ジャンヌ=ダルクの震えた声で告げる言葉を修司は否定しなかった。勿論、修司も彼女がそんな嘘を吐く人間だとは思っていない、清廉にして潔白、その在り方は共に聖杯戦争を戦ってきた修司だからこそ理解できる。

 

だが、それでも問わずには入られなかった。例えジャンヌの言うことが全て正しくても目の前の光景が彼女の言葉を全力で否定しているのだから……。

 

燃え盛る橋の上から覗き込むように現れる黒の騎士、その鎧の細部は黒く変容して目元には顔隠しのバイザーが填めらて様相を明らかにしていないが、それでも修司には彼の人物に思い当たる人物が一人しかいなかった。

 

「なら、何でその騎士王が俺達の敵として出てくるんだ?」

 

「───っ」

 

理解しても納得できなかった状況を前に、修司は敢えて口にする。そうすることで認めたくない現実を直視するようになった二人は歯を食い縛り、それぞれ構えを取る。

 

背にした従者二人を下ろし、自分達の背後に誘導する。リーゼリットもセラもその事に異論を挟む事なく従っていく。四人とも気付いていた。今の自分達ではどうあってもあの黒い騎士王から逃げ延びる事は出来ないと。

 

きっと、あの黒い騎士王は再び此方に切り込んでくる。ジャンヌと修司の構えが自然と同調していった────その刹那。

 

黒い光が、再び四人を襲った。

 

「修司君!」

 

「おおっ!」

 

降り注がれる黒の光をジャンヌが旗を掲げて直撃を塞ぎ、修司が両腕を交差させて余波を防いでいく。防御に特化したジャンヌを前にしても全身を焼き付く程の熱気が修司を襲う。

 

やがて光は弾着地点であるジャンヌを中心に爆発し、修司を吹き飛ばす。

 

「あっ、ぐ、ジャンヌさん!?」

 

爆風によって空中へと打ち上げられ、無防備となった姿を晒しながらもジャンヌの安否を確認しようと修司は地上へ視線を向ける。見れば、所々焦げ目は有り、地に片膝を突いているようだが、どうやら無事らしい。魔術に特化したセラが回復の術式を施しているから、恐らくは大丈夫だろう。

 

そこでふと修司は違和感に気付く、あれほどの爆発を受けてほぼ無傷なジャンヌにではなく、彼女を狙ったであろう黒い光を発したセイバーが、ジャンヌに追撃を仕掛けて来ない事に。

 

一目見ただけで感じた寒気がするほどの殺気、あれほどの殺意を見せておきながら追撃を仕掛けないなんて……。

 

(まさか、奴の狙いはジャンヌさんではなく───)

 

黒いセイバーの思惑に気付いた瞬間、上空から黒の聖剣に禍々しい光を纏わせて斬りかかってくるセイバーと視線が重なるのはほぼ同時だった。

 

反応できたのは、殆ど運によるもの。培われてきた戦闘経験による咄嗟の行動――両腕を交差し、衝撃に備えた修司が次に感じたのは………想像を絶する痛みと熱と衝撃。

 

黒の光をマトモに受けた修司は未遠川へと叩き付けられ、底へと沈んでいく。これまで経験したことのない衝撃に一瞬意識が飛びかけたが、持ち前のタフさで何とか耐えきってみせる。両腕も黒く煤けてはいるが、軽い火傷程度で済んでいる。

 

どうやら、防御(・・)の方は上手くいったらしい。殆ど博打だったが、全身に漲る力と迸る白い炎を纏っている事で事なきを得たことに修司は僅かながら安堵した。

 

だが、呆けている場合ではない。既に相手は自分に更なる攻撃を仕掛けてくるに違いない。五感を研ぎ澄ませ、闇夜に染まる水の底で周囲を見渡し───。

 

「っ!!」

 

右方向から、先の黒い光が迫る。両手を突きだして防御の姿勢に入った修司は放たれる黒の光を正面から受け止めた。

 

勢いは殺せず、そのまま水底を進む修司はその足で未遠川の底に二本の線を刻んでいく。このままでは太平洋まで押し出されかねない、そんな死に様はごめんだと、修司は突きだした両手に力を込める。

 

黒光の勢いが削がれた。その瞬間を狙っていた修司は体を回転させて蹴りを放つ、放たれた蹴りは黒光の軌道をずらし、海面へと吹き飛ばしていく。

 

この時点で既に四発、まるで大砲の様な閃光をバカスカ撃ち込んでくる事から、これで終わりだとは思わない。

 

そして、遂に修司はその姿を捉える。

 

(そこかぁっ!)

 

お返しとばかりに拳を振り抜く。水中では意味のない行動、だが、白い光を纏い人としての可能性の扉を開けた今の修司が行えばそれは水の大砲へと昇華される。

 

振り抜かれた拳に押し出され、渦を描きながら押し進む水の濁流は見事なまでにその先にいる人物へと直撃する。

 

しかし、相手はそれに怯むことはなかった。直撃した事に何の反応も示さず、水底に佇む黒き騎士王はお構いなしに手にした剣を振るう。

 

剣を振るう。その度に黒の光は迸り、冬木の水中を抉っていく。大分目が馴れてきた為に何とか回避は出来ているが、このままでは何れ圧しきられる、遠くない自分の最期に抗い勝つ為に修司は再び賭けに出た。

 

(この、好き勝手にバカスカ撃ちやがって!)

 

沸いて出てくる苛立ちの感情すら力に変えて、修司は拳を頭上へ向けて振り抜き。

 

その瞬間、修司を中心に周囲の海水は吹き飛んだ。露になる地表、この現象を前にこれまで無感情だったセイバーの動きに揺らぎが見える。

 

そしてその千載一遇の好機を修司は見逃さなかった。脚に力を込めて一気に蹴り抜く、その勢いは水底だった大地を抉り、セイバーとの距離を一瞬の内に零へ変えてしまう。

 

ただの接近戦ではない、超至近距離での殴り合い。一撃二撃と、打ち出される拳を黒の剣士は持ち前の直感で捌くが………如何せん、速すぎる。

 

その技の速さ、それは嘗て柳堂寺の門にて戦った侍の技を修司なりにアレンジしたもの、一度に三つの斬撃を繰り出せるほど今の修司は器用ではないが、あの侍の繰り出した体捌き、或いは剣捌きを修司は己の内で吸収し、確立させた。

 

その技の冴えを以てセイバーの動きは封殺される。繰り出される筈の黒剣を振り抜かれるよりも早く弾き、セイバーの動きを牽制していく。

 

打ち出そうとすればするほど、セイバーが晒す隙は大きくなり、その隙が大きくなるに連れて修司の反撃の糸口もまた開けていく。

 

そして、その時は来た。ままならぬ状況に苛立ちを隠せなくなったセイバーが、遂に大振りの姿を晒した。それを回し蹴りで弾いて、反し刀の要領で修司は彼女の腹部へと拳をめり込ませた。

 

「さっきの……お返しだ!!」

 

振り抜いた拳は確かにセイバーを捉え、吹き飛んでいく。その様子を見ながら修司は土手へと跳躍し、未だ打ち上げられているセイバーを見やる。

 

放物線を描きながら海面へと落ちていくセイバー、それに伴って打ち上げられた水も元に戻り、海水を抉られた大地は再び元の形へと還っていく。

 

正直、手を抜ける相手ではなかった。この身に纏う力がなければきっとマトモに戦う事は不可能な程にあのセイバーの力は強大だった。

 

これで終りにして欲しい。別人の様に変わってしまったとは言え、相手は嘗て同盟を結んだことさえあったセイバーだ。心痛いし、何より友人である士郎の相棒をこれ以上殴り付ける様な事はしたくない。

 

しかし、そんな修司の心情を嘲笑うかのように黒き騎士王は水面へと着地する。先の一撃を受けてまだ戦えるのか、並の相手なら勿論、サーヴァント相手にすら暫くは身動きできないほどの一撃を放ったつもりだ。

 

「まさか、あの妙な感触、アレに防がれたのか!?」

 

心当たりがあるとすれば、修司の拳が当たる直前、まるで巨大な衝撃緩和材に触れる感触。アレが己の繰り出した一撃の威力を削いでしまったのか。

 

自身の内から生じた迷いと甘さ、それだけではない。かの騎士には如何なる物理、霊的力を阻害する魔力放出が鎧の様に身に纏っているからだ。

 

 

ドラゴンの因子を持つとされるアルトリア=ペンドラゴン、その最大の特徴はそこから生まれる膨大な魔力。そこから繰り出される斬撃は正しく伝説に刻まれる勝利の剣。

 

故に、修司は思い知る。今、自分の目の前にいるのは正真正銘の伝説なのだと。

 

「──────」

 

水面に立つ黒き騎士王、彼女が剣を両手で以て頭上に掲げた瞬間───大気が震えた。黒く、赤く、おぞましい程禍々しい光が黒に染まった聖剣を中心に凝縮し、圧縮されていく。

 

水面はざわめき、空が狂い出す。天地すら裂いてしまうような力の顕現に修司は全身から血の気が引いていくのを感じた。

 

解る。アレは、撃たせてはならない光だ。撃たせてしまってはその瞬間、自分なんて瞬く間に消し飛んでしまう。今すぐ逃げなくては、逃げて、次に繋げなくては………。

 

だが、それは叶わない。何故なら今の自分の背後には何も知らない冬木の人々の住宅地が並んでいるから、避けてしまえば無関係な人々が大勢死に絶えてしまう。

 

向こうでジャンヌが何かを叫びながら此方へ走ってくるが………間に合わない。彼女が割って入ってくるよりも早く、あの極光は放たれるだろう。

 

避けるのは無理、受けるのも不可能、ならばあとは────迎え撃つしかない。

 

(でも、出来るのか? 今の俺に、そんな事、本当に?)

 

 

 

 

 

 

 

『ガンドの撃ち方? そんな事訊いてどうするのよ?』

 

『もしかしたら長らく追い掛けてきた男のロマンが完成するかも知れない? はぁ、神秘の力を男のロマンにすげ替えるとか、本当あんたって私達魔術師に喧嘩売るのが好きね』

 

『あぁ、いいわよ。教えてやるわよ。その代わり感覚的によ。あんたの使っているのは私達魔術師の魔力とは色んな意味で違うみたいだから、知識的に教えるのは無理そうだもの』

 

『それでもいい、ね。ま、その勤勉さは嫌いじゃないわ。一応、私はあんたの姉弟子だからね。最低限の応援はしてあげる』

 

『いい? ガンド、もしくはそれに通じる魔力の放出の仕組みは往々にして似ているものなの、その真髄は即ち──』

 

『出力の操作、並びに圧縮と放出よ』

 

『自身の内に流れる力を自在に扱えるようになって初めて扱えるような技法、例えるなら自身の内に通っているパイプと其処に流れる力と言う名の水を操る様なもの』

 

『それが出来れば、アンタにもガンドみたいなモノが撃てるんじゃない? 知らないけど』

 

『良いわね、教えたんだから最低限の結果は出して見せなさいよ。でないと承知しないんだからね』

 

 

 

 

 

(───あぁ、そうだな。何もしないまま終わるのは一番ダメな事だよな)

 

ここに来る前、手短でも親身になってアドバイスしてくれた姉弟子に内心で感謝しながら修司は眼前の騎士王を見る。

 

臨界に達しつつある黒き光、これを抑えるには同規模の出力が必要、果たして今の自分にそれが出来るのか。

 

否、出来る出来ないのではない、やるしかないのだ。迷っている時間はない、修司は全身に力を込め、身に纏う白き光を迸らせ──。

 

両の手の付け根をくっ付け、そのまま腰回りへと待っていく。

 

「かぁ……」

 

それは、現代のこの国に於ける男子全員が一度は通った登竜門、その技に人種を越えた万人が真似をした。

 

「めぇ……」

 

それは、現代に於ける摩訶不思議なアドベンチャーの代名詞。多くの若者が夢見、夢想し、そして破れて潰えた幻想の奥義。

 

「はぁ……」

 

しかしてこの時この瞬間、夢想は現実に甦る。多くの夢を乗せて、数多の理想と共に……。

 

「めぇ……」

 

───光が、集った。その両の手の間に確かな熱と質を伴って。

 

約束された(エクス)───」

 

対するは極限に高めた黒き極光、高められた殺意の光を前にしかし修司の顔は何処までも穏やかだった。

 

高まりあう力、一瞬の静寂に世界が停止し───。

 

「波ァァァァッ!!」

 

勝利の剣(カリバー)!!」

 

 

瞬間、黒の極光と蒼白の光芒が未遠川にて激突した。

 

 

 

 

 

 




NGシーン。

もしも未遠川に蒔寺がいたら。

「波ァァァァッ!!」

「カリバー!!」


「…………」

ピッポッパッ

『もしもし、なんだ蒔の字こんな時間に』

「………おった」

『はぁ?』

「とうとう陸上部(うち)のエースがDBワールドの住人になりおったァァッ!」

『何を言ってるんだお前は』


三枝の場合。

「ど、どどどどうしよう氷室さん! 白河君がドラゴンでボールな世界の住人に~~!?」

『落ち着け三枝、先ずは携帯で証拠写真を撮るんだ。解くに腰回りに注意しろ。奴の事だ尻尾が生えているやもしれん』


氷室の場合。

「………よし、実写版DBはこれでいこう」


尚、機材や舞台設置は某黄金の王が用意してくれた模様。




それでは次回もまた見てボッチノシ


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