『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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もうすぐ2019年も終わり。

早いものですね。


その48

 

 

 

黒と蒼白、二つの極光がぶつかり合って既に10分近くの時が過ぎようとしていた。中心地点である未遠川は隕石でも落ちたかのようなクレーター、更に海へと続く水平線の彼方には蒼白の光が黒の閃光に打ち勝った際に出来た一筋の溝が出来上がっている。

 

既に多くの住民が現地へ野次馬根性で殺到しているだろう、神秘の秘匿の秘の字もない所業に魔術師の一員である遠坂は内心酷く憤慨した。一体何処の大馬鹿がこんな大規模な魔力行使を行ったのか、この分では事後処理の件も此方に回ってきそうな騒動に遠坂が怒りと焦りと不安で百面相をしていると……。

 

「遠坂、修司達が帰ってきたぞ!」

 

タイミング良く様子見から戻ってきた士郎のその一言に遠坂の目が光る。状況と先に見えた間桐邸からの光の柱の件と重なって今回の件も原因はあの男に違いないと察した遠坂はノコノコとやってくる元凶に向かって一直線に駆け出していく。

 

それをアーチャーは止めようとはしなかった。止めた所でどうにもならないし、何より分かりきっている結末に手を出すのも気が引けたからだ。遠坂凛の読みは間違いではない、神秘の秘匿に関しても彼女の魔術師としての気持ちを考えれば間違ってはいないからだ。

 

しかし、それをぶつけるのに遠坂が向かっていた相手は………剰りにも分が悪すぎた。

 

「あっぶねぇなぁ、ヘトヘトになって帰ってきた弟弟子に蹴りを放ってくるとか、ウチの姉弟子はやることがえげつないなぁ」

 

「~~~~っ!!」

 

学校一の美少女の顔を片手で鷲掴みをする修司が坂の向こう側から姿を表す。山吹色の胴着を身に纏い、所々煤けた修司がホムンクルスの女性を背に担いで呆れ顔を晒しながら遠坂と共に現れる。その後ろには聖女が苦笑いを浮かべながら追随し、彼女の背にもやはりホムンクルスの女性が抱えられていた。

 

どうやら、目的は達成できた様だ。道中トラブルに見舞われた様だが、全員無事で戻ってきた事に安堵するアーチャーだが………最後に現れた人影を見て絶句する。

 

「ほらセイバー、いい加減機嫌直せって。修司も悪気はないし、寧ろお前を止めるために頑張ったんだ。もう愚図るのは止めろって」

 

「だっで、だっでぇぇ~~」

 

士郎に手を引かれ、涙を流す黒い騎士の少女。唯でさえ意味の分からない状況に困惑するアーチャーだが、彼女の片方の手に握られた折れた剣の柄を見て、彼の思考は完全に停止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セイバーの聖剣をへし折ったぁぁぁっ!?」

 

状況整理の為に今一度衛宮邸の居間へと再度集まった修司達、ジャンヌから簡単な手当てを受けながら修司は夜中にも関わらず大声を出す遠坂に半目で睨む。

 

「声がデケーよ遠坂、近所迷惑だろ。隣にはセラさん達も寝てるんだから」

 

「いや何シレッと言ってんのよアンタ、自分のしたことが分かってんの? 聖剣よ聖剣、レジェンドソード、伝説の中の伝説の聖剣を折った? アンタが? なんで、どうやって!?」

 

「どうって………普通に膝でだけど? こう、テイヤって」

 

「テイヤって………嘘でしょう」

 

「残念ながら事実です。私も、この目で見ましたから……」

 

修司が事の顛末を詳細に話すと、返ってきたのは絶叫の嵐だった。伝説に謡われた聖剣、一度奮えば勝利は確約される栄光のある剣を目の前の男は平然と、一切悪びれる事なく折ったと断言した。

 

「仕方ないだろ。セイバーさんってば剣を振る度にバカスカとビームを撃ってくるし、勝ったと思えば止めを刺せ刺せ煩いし、黙らせ………もとい、納得させるにはこれが最善だと思ったんだよ」

 

「いや確かにそうかも知れないけど……」

 

隣を見れば泣きながら士郎の作ったハンバーガーを頬張るセイバー、泣くのか食べるのかどっちかにしろと言いたいところだが、修司の話を聞く限りそれを言うのは酷に思えた。

 

「言っておくけど、俺に神秘の秘匿云々の話は止めてくれよ。俺魔術師じゃないし、魔術師の常識を説かれても困る」

 

「じゃあ、何で私が教えた魔力のコントロールが出来てるのよ」

 

「さぁ? 出来たから出来た。としか言えねぇよ」

 

これである。聞けばこの男は魔力回路なんて欠片も持ち合わせてはいない癖に特大の魔力放出をぶっ放したと言う。残念なことにそれを否定出来るものはおらず、眠る前のセラも同意し、リーゼリットに至っては興奮しながらその時の修司のポージングをしながら解説していた。

 

「そっかー、かめはめ波かー、僕も間近で見てみたかったなー」

 

なんて、酷く羨ましがった様子の慎二がそんな事を口にしていた。この男、聖杯戦争から脱落してからか憑き物が取れたようにさっぱりとし、今では他人事のように話を聞くだけである。

 

「慎二もやってみるか? 相当修練が必要だけどやってみると楽しいぞ。テンションで頭が可笑しくなりそうだったし」

 

「いやぁ、僕は良いよ。やるよりも見る専門だから」

 

やんわりと笑顔で断る辺り、相当強かさを身に付けている様である。その笑顔の裏では二度と修司とは対立しない事への絶対的な誓いを立てていた。

 

「て言うか、俺がかめはめ波を撃てたのは姉弟子のお陰なんだぜ。あの時遠坂のアドバイスがなければ、多分被害はもっと大きくなってた」

 

「え? そうなの?」

 

「あぁ、だから、姉弟子には感謝してるんだぜ?」

 

そう言って笑みを浮かべて礼を口にする修司に遠坂はなにも言えなくなった。そのつもりは欠片も無かったのに、結果として自分のアドバイスが冬木の街を、更に言えば弟弟子の命を守ることに繋がった。自分の教えが実を結んだ事に内心嬉しく思う遠坂だが、同時に自分のした事への大きさを自覚する事になる。

 

(え? じゃあなに? コイツがそのナンとか波を撃てたのは私の所為で、あれだけの騒ぎを起こしたのも私の所為ってこと?)

 

サーッと遠坂の顔から血の気が引いていく。神秘の秘匿を守る処か進んで破っていく怪物を己のアドバイス一つで生み出した事実に漸く彼女は気が付いた。

 

いや、魔力回路は持ってないので厳密には神秘とは異なる力かも知れないが………今この場においてはそれすらもどうでも良かった(良くない)。

 

表情を青褪めながら冷や汗をダラダラと垂れ流す遠坂を訝しむが、それに誰も突っ込もうとはしなかった。口を出すのも憚れたとも言う。

 

「まぁ、そんな訳でセイバーは何とか無力化し、迎えに来てくれた士郎が人目に付かないルートで此処まで案内してくれたって訳だ」

 

「へー、結構大変だったんだ。あーあ、私もその場で見てみたかったなぁ。かめはめ波ってアレでしょ? お兄ちゃんの所のマンションで仮住まいしていた時、暇なら読んで良いって渡してくれた漫画の主人公の必殺技」

 

「おっ、読んでくれたんだ。お嬢様にはちょっと合わないかと思ってたけど、その分だと楽しんで貰えたみたいだな」

 

「楽しんだ。と言うより、色々と思う所が出来たお話ね。七つのボールを集めて呪文を唱えれば願いが叶うとか、聖杯戦争顔負けじゃない」

 

「やっぱ、殺し合いを前提としている時点で色々ダメだからじゃね?」

 

「………どうしよう。何だか私もそんな気がしてきた」

 

修司との何気無い会話でイリヤの中にある魔術的な常識が徐々に崩れていく気がした。何故この男は目の前に立ち塞がる不条理の壁を更なる理不尽で捩じ伏せていくのか、しかもその言動と理念が一般常識からのごく自然なモノであるから、世界の裏の面である魔術とは致命的な迄に剃り合わない。

 

仮に今此処で魔術協会の強硬派が修司の行いを弾劾しようと襲ってきても、本人は正当防衛を主張して返り討ちにしてしまうだろう。自分達のプライドに傷を付けた修司を魔術側は許さないだろうし、修司もまた一方的な言い分で襲ってくる魔術師達を悉く打ち倒していくのは想像に容易い。

 

その先に起こりうるのは魔術と一人の男の戦争。しかもそうなったとき不利なのは常日頃から魔術を秘匿する事を是とする魔術側に他ならない。対して修司は昼間だろうと深夜だろうと襲ってくるならば容赦なく例の集束砲をぶっ放してくるだろう。

 

空へ、海へ、陸へ、最強の聖剣の宝具を打ち破った理不尽の塊の様な一撃が際限なく撃ち込まれていく。………うん、悪夢だ。

 

「と、色々と言いたい所はあるだろうけど、今は取り敢えず横に置いておこう。セイバーさんの様子からして恐らくは間桐の………ライダー陣営からの刺客なのではないかと俺は考えている」

 

「………だろうね。キャスターの仕業って可能性も有りそうだけど、あのランサーとの類似性から見て、このセイバーが桜の送ってきた奴だと見て間違いないだろうね」

 

「なっ、ま、待ってくれよ二人とも! どうして桜の仕業なんだ! ライダーの陣営は裏で操っていた臓硯が元凶だったんだろう? その元凶も修司が倒した。なら、自由になった桜がそんな事をする筈がないだろ」

 

「気持ちは分かるけどね衛宮、なら何でその桜は今此処にいない? 桜にとってお前のいるこの家は何にも勝る大事な居場所だった筈だ。ライダーに拘束されている? 有り得ないね。残念ながらあの大女が桜に其処までする事は絶対に無い」

 

「っ!」

 

桜が修司達に刺客を差し向けた。それも、セイバーという死線を潜り抜けてきた者を。

 

臓硯の縛りから解放され、自由を得た桜がそんな事をする筈がない。だから士郎はそれを強く否定しようとするが、反ってきた慎二の問いにその口許は強く結ばれてしまう。

 

「───なぁ、イリヤちゃん。臓硯は桜ちゃんを聖杯の門にするとか宣ってたけど、魔術的にそんな事は可能なのかい?」

 

「………普通なら無理よ。如何に魔術が神秘を伴う秘術だとしても、大聖杯規模の魔力炉心を受け止めるなんて意思を持つ人間には不可能に近いわ」

 

だが、間桐臓硯は10年前の聖杯戦争の折りに聖杯の欠片なるモノを入手し、それを桜に植え付けた。虚数属性という魔術的にも稀有な才能を持った彼女と聖杯の欠片が長い時間の中でゆっくりと溶け合う事で不可能とされる壁を排除したと言うのなら。

 

「確率で言えば、結構高いかも。でも、だとしてもそうなった時の桜は………もう桜じゃない。桜という器を持った別のナニかよ」

 

「そんなっ!?」

 

臓硯を倒した所で根本的解決には至らない。やはり聖杯そのものを破壊しなければ桜もこの街も危ない。セイバーを取り戻してきて得た平穏への道筋が一気に遠退いていく感覚に士郎は足元が崩れる錯覚を起こした。

 

「……………」

 

「修司君、どうしました?」

 

重苦しい沈黙のなか、手当ての終えた修司は徐に立ち上がり居間を後にしようとする。ジャンヌは何か意を決した様子の彼に声を掛けるが……。

 

「ちょっと連絡することがあって………士郎、電話借りるぞ」

 

「あ、あぁ………」

 

後を追いたいが、今はこの場をどう取り持つかが重要だ。桜を取り戻すに残された時間はもうあまり無い。ジャンヌも必死に無い知恵を絞り出そうとする一方で。

 

「シロウ、シロウ、ハンバーガーまだー?」

 

「小僧は少し取り乱している様だ。ここから先は私が作ろう」

 

「アーチャー? うむ、よかろう」

 

聖剣がへし折れ、戦意も誇りも砕かれた騎士王を赤の弓兵が涙を流しながら給仕に徹していた。

 

「ちょっとアーチャー!? アンタ何か透けてない!? ちょ、もしかして座に還ろうとしていない!?」

 

「ふふふ、心は硝子だぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────光が、来る。

 

大きくて、あつくて、眩しくて………まるで、燦々と輝く太陽の様な光がもうすぐ私の所へ迫ってくる。

 

鬱陶しい、煩わしい。どうして私に迫るのだ。私が一体何をしたと言うのだ。私は何もしていないのに、悪いことなど………何一つしていないのに。

 

いつも、いつも私の周りだけが幸福に包まれている。私だけを仲間外れにして、皆が皆、幸せそうに嗤っている。

 

許さない。許さない許さない許さない許さない許さない許さない。何故私だけが苦しまなければならない、どうして私がこんな辛い目に合わなければならない。

 

嫌いだ。皆嫌いだ。私を殺す世界が嫌いだ。私を犯す世界が嫌いだ。私を照らす………光が嫌いだ。

 

────殺してやる。

 

殺して犯して嬲って殺して撃って焼いて引き裂いて殺して炙って殺して殴って殺して消して殺して殺して殺して殺して殺して殺して………。

 

《───そうじゃ桜、憎め、恨め。お主のその憎しみは正しい。お主の絶望は正しい。故に吐き出せ、全てを犯せ。お主にはそれだけの許しがある》

 

「───はい、お爺様」

 

奈落の底、淡く蠢く地獄の釜の淵にて少女は黒いドレスを纏う。全ては───。

 

「光に照らされて、皆ペラペラの影法師みたい。そんなに薄くて小さなモノなら………無くなっても、誰も困らないでしょ?」

 

「………ねぇ、貴方もそう思うでしょ?」

 

 

“修司センパイ”

 

目障りな全てを消したい、ただそれだけの為に。

 

 

奈落の底で黒の少女は嗤う。

 

 

 

 

 




士郎………『LAST STARDUST』

桜……………『I beg you』

ボッチ……『super survivor』

以上、三人のイメージソングでした(笑)


次回からいよいよ最終局面、そしてFate編が終わったら本編にも手を出していく所存。

読んでくださっている皆様にはもう暫くお付き合い願いたいと思います。




それでは次回もまた見てボッチノシ


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