『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

210 / 417
ちょっとアトランティスに行ってきます。

追伸。

コメディは次回までとなります。


その49

 

 

「さて、此度の聖杯戦争もそろそろ佳境か。うむ、こうして振り返ってみれば中々どうして面白い余興ではあったな」

 

冬木の街並みを一望出来る冬木の教会にて英雄王はワインを片手に先の未遠川で起きた戦いを反芻し、その笑みを愉悦に歪める。

 

「理想を………いや、夢想を現実へ落とし込んだか。は、流石は我が臣下。やる事が派手だな、もし魔術師どもが先の光景を目にすれば発狂して死に絶えるであろうな」

 

その光景が目に出来ないのが残念だ。そう溢しながらワインを傾けて己の臣下の仕出かした偉業にご満悦に浸っていると、ふと横にいる神父に目を向ける。

 

「………聖杯戦争という舞台も間もなく終幕、だというのに聖杯に召し上がれたサーヴァントは反転した者達を除いて未だアサシンのみ、前のと合わせても二体だけという。しかもその相手が聖杯戦争に無関係な一般人だというのだから魔術師達からすれば前代未聞の光景だな」

 

「ではどうする? 予定調和の為に貴様も動くか?」

 

「まさか、今更手を加えよう等と思わんさ。正確に言えば手の施しようが無い。の方が正しいが」

 

肩を竦め、暗躍することを諦めると明言する言峰。その表情には達観の色が濃く現れ、心なしか頬も少し痩けているようにも見える。

 

「その様子だと、どうやら後始末の方は片が付いた様だな」

 

「───ふふ」

 

遠い目で疲れた笑みを浮かべる言峰の表情が全てを物語っていた。度重なる聖杯戦争による冬木の被害、それが魔術師同士による殺し合いというのを気付かれずに秘密裏に処理する。それが今回の聖杯戦争に於ける言峰綺礼の役割。

 

だが、予想以上に被害の規模が大きすぎた。先の間桐邸の爆発から未遠川での光、どれも通常の自然現象では片付けられない案件に流石の言峰も手を焼いた。

 

聖杯戦争に於けるガス爆発事故として処理しようにも、あんな派手な光の柱をどうやってガス爆発の所為に出来るというのか、未遠川で起きた光のぶつかり合いもそう、目撃者にどんな暗示を掛けて無かったことにするべきなのか、魔術協会や聖堂教会への根回しも含め、やることの多い言峰は寝る間も惜しんで隠蔽工作に勤めた。

 

暗躍? そんな暇なんて有りませんでしたが? ちょっかい出したくても出せない状況、この時の言峰綺礼の心境は夏休みの宿題を終わらすまで遊べない事を強要された小学生の気持ちと似ていた。

 

「いやな。本当に我が弟子ながら成長しすぎじゃね? なんなんあれ? どうして魔術の魔の字も知らない小僧が魔法の真似事が出来るの? そんなんどうやったって誤魔化し様がないじゃない。こんなん魔術協会に知られたら一発で介入案件じゃない。もう疲れた。本当に疲れた。これ以上やらかしてみろ、私は寝るからな。全てを放り投げて不貞寝するからな」

 

「落ち着かぬか戯け、色々ブレブレだぞ貴様」

 

膝から崩れ落ちて泣き言を呪詛のように呟く言峰に英雄王は呆れながら叱咤する。

 

「あぁ済まない。取り乱した。さて、諸々異常事態が続く此度の聖杯戦争、終幕の時は間もなく訪れる その時、我が弟子は聖杯戦争の真実に気付けるのか、そして気付いた時、果たして立ち向かえるのか、見物だな」

 

「我の見解としては、割りとあっさりと越えられてしまいそうだがな」

 

「おい止せやめろ。考えないようにしてるんだから」

 

話が逸れた。数回咳払い、場を取り直す言峰。その表情には先とは違う笑みが張り付く。

 

「ともあれ、その時が来るのなら私も否応なく表舞台に出るしかないな。今回の聖杯戦争で全てに決着がつけられるにしろ、私は聖杯戦争の勝利者に問わなくてはならない」

 

先の聖杯戦争にて言峰綺礼という男は死を迎えた。今、こうして此処に生きていられるのは偏に聖杯の力によるものに他ならない。

 

聖杯が破壊されれば聖杯と繋がっている自身もまた死に果てる。この結末はどう足掻いても変わらない、ならば最期にその瞬間を聖杯戦争の勝利者との問答にて消費する事を決めた言峰は今回の事後処理が終えた後、自身の目的の為に動く事を決めていた。

 

そう、10年も前の時から。

 

「往くか、言峰」

 

「往くとも、英雄王。既に賽は投げられた。ならば後は出た目に従うのみ。………この10年、中々楽しめたぞ」

 

「そうか……」

 

別れ行く言峰の背を一度だけ見送り、王は外へ視線を向ける。時刻は既に深夜を周り、未遠川付近に数十台のパトカーが集まっているのが見える。

 

もうじき聖杯戦争も終わりを迎える。それが一体どのような形となるのかは千里眼を封じられた英雄王でも計り知れない。

 

「一つだけ言えるのは、奴が、白河修司が確実に大きな事をしでかすという事だけ、だな」

 

その時、ふと懐にしまった携帯電話が鳴り響く。画面には見慣れない電話番号、何かと思い出てみれば、通話口の向こうからは今話題にした臣下の声が聞こえてきた。

 

「どうした修司こんな夜更けに、貴様にしては珍しいではないか。なに? 我に頼み? ………ほう、厄介事に巻き込まれているのか。相変わらず忙しないな貴様は」

 

「で、その頼みとは? ────ふはは、成る程。確かに危険性を考えればそうするのが当然だろうよ。確かに我は冬木の市長とも面識がある。我が声を掛ければ瞬く間に事態は進むだろう」

 

「だが、その案は今一つ現実味が足りないな。幾ら極東の島国とは言え冬木にも数千の人間が住んでいる。そやつらを一晩とはいえ全員避難させるには些か時間が足りん」

 

「故に、深山町の人間だけ新都へ避難させよ。場所は新公民館、彼処なら一時の避難所として申し分あるまい。………不安だと言うのなら、この一晩で全てを終わらせよ」

 

「───その気概があれば充分であろうよ。深くは訊かん。だが必ずやり遂げよ、我の臣下を名乗るのならば最後まで、徹底的にな」

 

その一言を最後に王は通信を切る。相変わらず世話の焼ける奴だと溢しながらもこれから何をしでかすのか分からない臣下の行動にその内心ではワクワクとドキドキで胸を高鳴らせていた。

 

「しかし修司め、よもやアレを会得するとはな。以前から行っていた修練は無駄では無かったか」

 

未遠川で見せた己の臣下の放つ光、その光景を目にした時は柄にもなく興奮した事を思い出す。

 

「確か……こうだったか、かーめーはーめー……」

 

「いつまで遊んでいるのかしら」

 

臣下にも出来るなら我にもワンチャンあるのでは? なんの根拠もなしにかめはめ波の練習を始めた英雄王、そんな彼の後ろから呆れた表情の女性が現れる。

 

「むっ、男の秘め事を覗き見るなど無礼千万。我が上機嫌でなければその首吹き飛んでいたぞキャスター(・・・・・)

 

「事態が動くのでしょう? ならば、早いところ指示を寄越しなさい。宗一郎様との逢瀬を中断までしてきたのだから」

 

「ふん、受肉を果たした途端これか。全く、世のメディアちゃんファンが見たら泣き崩れる事必至である。もう少し愛想というのを振り撒いたらどうだ」

 

「黙りなさい諸悪の根源、いい? 私が貴方に協力しているのはあくまでも受肉の為に寄越した宝具の返礼よ。私がするのはこれから起きる出来事の後処理、それが済めば私達は無関係の間柄よ。それを間違えないで頂戴」

 

「無論、心得ているとも。貴様の魔術の腕は業腹だが認めてやる。その力で以て我が臣下の後始末をする。その代わり貴様は定命の生を以て想い人と添い遂げる。うむ、これぞWin-Winな関係という奴よ」

 

それはキャスターが修司とジャンヌに敗れ、身を隠していた頃。魔力供給の源を失い、時間が過ぎる毎に現界に必要な魔力を失い、想い人の事を考えながらこれからの事をどうするか考えていた時だった。

 

黄金の王が目の前に現れ、ただ一言『命が惜しくば我に協力しろ』とだけ告げられた。

 

キャスターに断る選択肢は無かった。一目見ただけで分かってしまったのだ。今自分の目の前にいる黄金の王は自分など一捻りに殺せるのだと。そうしないのはこの男にとってまだ自分には利用価値があるという事。断れば即座に殺されるが、殺されなくても自分にはもう策を弄するだけの時間はない。

 

一か八かの賭けで結んだ契約だが、結果的に言えば最良の結果だった。与えられた宝具の力により肉体は得られ、魔力に関しても生前とほぼ変わることなく使用が可能、この時点でキャスターにとって最早聖杯戦争は意味の無いモノとなっていた。

 

流石は人類最古の英雄王、サーヴァント一騎程度なら現世に命として留めさせる事くらい訳はないと言うことか、その代償にこれから起きる出来事の後始末をさせられる事を考えると少なからず憂鬱な気分になるが。

 

というか、《魔女っ子メディアちゃん》等というふざけた黒歴史を産み出してくれた事を考えると、軽く腸煮え繰り返る思いだが……今は呑み込んでおこう。

 

「で? 私の出番はいつ頃かしら? 私としてもいつまでもあんな下らない争いを放置しておきたく無いのだけれど?」

 

「ふっ、まぁ暫し待て。貴様をここへ呼び立てたのだ。然程間を置かずに事態は動くであろうよ」

 

そう言いながらギルガメッシュは携帯電話を操作し、連絡先の一つとして登録してある市長に繋がる番号を押す。

 

市長と話をする英雄王の背中を眺めてキャスターは思う。あれ程の力を持つ英雄王が、何故あの小僧に其処まで拘っているのか。

 

力は強いと思う。勇気もあるし、恐怖に駆られても退かない度胸もある。自分が生きた時代でなら勇者と呼ばれてもおかしく無い程にあの少年は強く、そして強くなった。

 

確かに王という生き物は英雄や勇者といった生き物を好む傾向がある。それが自分の臣下であれば拘る気持ちも分からなくもない。

 

でも、それだけではない気がする。あの暴君と恐れられる英雄王がそれだけで彼の言葉に耳を傾けるとは到底思えない。彼には、修司という男には他にも隠された何かがあるのではないか。

 

(………まぁ、例えそうでも私には何の関係も無いんだけどね)

 

そう、今となってはキャスターにとってそんな事はどうでもよかった。ただ彼女が願う事があるのだとすれば、今後この地で生活するに当たり、なるべく被害は少なく、穏やかに聖杯戦争を終わらせて欲しいという事だけ。

 

好きな人が出来た。この人と一緒に人生をやり直したいと、そんな細やかな願いがもうじき叶う。これ以上下手な暗躍はせず、大人しく慎ましく生きていこうとキャスターことメディアは心に誓った。

 

しかし、そんな彼女の願望は色んな意味で裏切られる事になろうとは、この時の彼女は想像すら出来ていなかった。後に彼女は語る。

 

『あんなの、どうやって予想しろっていうのよ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───今晩中に何とかしろ。かぁ、王様も中々無茶言うなぁ。今に始まった事じゃないけど」

 

衛宮家での通話を終えた修司は受話器を静かに下ろす。自身の保護者であり、また直属の上司から齎された久々の無茶振りに頭を悩ませるが、修司としてもこのふざけた戦争を終わらせたい気持ちはあったので、決心が付いたから良いかと一人納得する。

 

問題は聖杯戦争の元凶である聖杯、それも大規模な魔力炉心であると予想される大聖杯の居所だ。現在遠坂とイリヤが冬木の地図を見ながらあれこれ考えているから、そう然程時間が掛かる事は無いだろうが………。

 

「修司、誰と話してたんだ? もしかして、例のお前の保護者の?」

 

「あぁ、今その人と話してきた。あの人は冬木の市長さんとも面識があって、結構話す間柄らしくてさ、その人にお願いして深山町の人達を新都の方へ避難させて貰えるよう手配して貰ったんだ」

 

サラリと何てこと無いように語る修司、一つの町に住む人々を隣の新都へ避難させるなんて大規模なことをすると誰もが思ったが、これから起きる戦いの事を考えれば、彼の行動は余り間違いとも思えなくなった。

 

「───まぁ、ここしばらくガス洩れ事件とか相次いでいたし、間桐邸の家の消滅はガス爆発の所為とされてきたから、流れとしては悪くはないんじゃないかしら」

 

「問題は、今回の聖杯戦争に於ける出来事を全てガス爆発の所為に出来るかってこと……て言うか前々から思ってたけど、冬木のガス会社風評被害凄くない? よく潰れないわね」

 

「まぁ、そこは綺礼辺りが上手くやっているんでしょ。伊達に監督役やってないだろうし、前回の事も踏まえて色々対策はしてるだろうしね」

 

「前回って、やっぱかなり激しかったのか?」

 

「聞いた限りだと相当派手にやらかしているみたいよ。聖杯戦争の参加者一人を潰すために一つのホテルを爆破したって記録があるくらいだから」

 

「ホテルの爆破って、下手しなくてもテロ案件じゃないか。普通警察とか………いや、自衛隊が動くんじゃないのか」

 

「それだけ魔術の力ってのはデカイんだろ。………正直、聞いててむかっ腹が立つぜ。大勢の人間を巻き込んでいて自分達は知らぬ顔とか。神秘ってのがどんなに大事か知らないが、魔術師のやり口ってのには反吐が出る」

 

「「─────」」

 

「っと、悪い。今言うことじゃないな。兎に角、パトカーの音が聞こえてきたら警察の人の誘導に従うように言われると思うから、今の内に役割を決めておこう」

 

前回の………いや、全ての聖杯戦争にて引き起こされた人災、魔術師によって一方的に決めた儀式にはいつだって多くの無関係な市民が巻き込まれている。それなのに魔術師側はいつも神秘の秘匿だけを優先して行い、後は知らぬ顔を決め込んでいる。

 

自分の仕出かした事に責任を取ろうともしない魔術師のやり方に心の底から怒りを覚える修司だが、それを今ここで吐き出すのには憚れた。遠坂もイリヤもある意味では聖杯戦争の被害者、当事者の家系ではあるが魔術師たれと教え込まれて育ってきた彼女達を一方的に責めることも、少し違うのではないかと思ったからだ。

 

ともあれ、これで一時的ではあるが時間は稼げるはずだ。後は大聖杯の在処が深山町付近にあることを願うだけだが……その前に、役割分担は決めておくべきだろう。

 

「………そうね。大聖杯の在処は一応絞れたから今の内に役割を決めておこうかしら。取り敢えず白河君と私とアーチャー、そしてルーラーが突入、衛宮君は私達の後ろで自身の身の安全を確保、イリヤスフィールとバゼットには後方を支援って事でいいかしら」

 

「あら? 私とバーサーカーが前でなくて良いの? 貴女のサーヴァントを疑うつもりは無いけれど、今後待ち構えている敵サーヴァントを考えると、私達の方が適任だと思うけど?」

 

「敵は何もサーヴァントだけじゃないわ。例の影、あれこそが向こうの主力と考えるべきよ。私のアーチャー曰く、自分ならある程度なら耐えられるけど、純粋な英霊であるバーサーカーとでは相性が悪い。だからいざとなったら瞬時に退路を確保できるバーサーカーを温存しておきたいの」

 

「ならば、私こそが前に出るべきでは?」

 

「そうね。正直私もそこは迷ったわ。アーチャーもどちらかと言えば後ろに控えた方が安全だし、何よりバランスが良いと思う。でも………」

 

「なぁバゼットさん。アンタ、ランサーのマスターだったんだろ? 倒せるのか? 嘗ての相棒相手に、アンタが」

 

向こう………即ち、桜とライダーの陣営にはライダーだけでなくランサーも顕在している。短い間とはいえ、共に寝食を共にしてきた相手をバゼットは打ち倒せるのか、疑問に思った修司が素直にそう口に出すと……。

 

「構いません。私は、魔術師であると同時に戦士でもあります。例え敵が見知った相手でも容赦なく拳は奮えます」

 

「───即答かよ。こっちは気を遣ったつもりなのに」

 

「その様な気遣いは、私には無用です」

 

ランサーだろうと自分は戦える。そう主張するバゼットに諦めた修司達は仕方ないと次に移る。

 

「で、最後は避難組………もとい藤村先生や知り合いの人達に遭遇した場合の言い訳を担当してもらう人なんだけど」

 

「うん、もしかしなくても僕しかいないよね? 僕戦えないしね。分かるよ。うん、スッゴい解る。適材適所っていうからね。そうなるのは分かってたさ」

 

「でもね。ちょっと待とうか、シドゥリさんだっけ? 彼女は良いよ。普通の一般人だし、修司の知り合いだって言えば通じそうだし、でもあのメイドはどうするの? てかあの二人今も寝ているまんまだよね? 何て言えばいいの? いや、それもよしんば何とかしたとしよう。でも、アレだけはどうやっても無理だから!」

 

そう言って慎二が指差す方向には未だハンバーガーを頬張る騎士王が頬をリスのように膨らませながらバクついている。自棄食いなんてレベルじゃない、衛宮邸の食材を食いきる勢いで頬張っている。

 

「どうやってアレを説明すんの? て言うかアレも僕の預りなの? 無理だから、絶対に無理だから、あの人の目、見た? 人をゴミみたいに見るんだよ? 目を合わせただけで死ぬかと思ったからね?」

 

顔をリスのように膨らませている時点で威厳もクソも無さそうだが、どうやら慎二には少々刺激が強かったらしい。ため息を溢しながらセイバーオルタへと近付き………。

 

「いつまで食ってんだよ、いい加減此方の話も聞け」

 

パシンと、容赦なく彼女の頭を叩いた。

 

「ちょ、修司君いきなりなにを!?」

 

「なに騎士王相手にツッコミ入れてんのよ! 衛宮君の家を吹き飛ばす気!?」

 

「いや、だってコイツも当事者の一人じゃん。話混ぜてやらないとあとで混乱するじゃん」

 

「いや、ですが……」

 

今のセイバーはあの黒い影に呑まれ通常とは異なる性質へ変異してしまっている。反転、そう呼ばれている事から今の彼女は根っこの部分こそは変わらないが、その在り方は冷酷にして残虐、一歩扱いを間違えれば冬木の街は焦土と化す。

 

「おら、そんだけ喰えばもう充分だろ。そろそろマジで話に混ざってくれなきゃ困るんだって」

 

しかし、それでも構うことなく修司はセイバーへの態度を改めない。この男、命を懸けた戦いをセイバーと繰り広げた所為か彼女に対する遠慮というものを無くしていた。

 

「───ヤダ」

 

「あ?」

 

「エクスカリバーが無ければヤダ」

 

ズズと鼻を啜り不貞腐れながらそう話す黒セイバーに修司の額からビキリと青筋が浮かびあがる。未遠川での激闘再びか? そう危惧する遠坂達を置いて修司は部屋の隅へと移り、其処にあった新聞紙へ手を伸ばす。

 

テキパキと何かを作り出す修司、近くにあったガムテープに手を伸ばし、最後に黄色のマジックペンを使う。時間にして二分も掛からない早業、再び黒セイバーの所へ戻ると。

 

「ほら、これでいいだろ」

 

ポイッと、一本のハリセンを彼女の前に置いた。其処には黄色くデカデカとエクスカリバーの文字が書き込まれている。

 

ウッソだろお前。修司の所業にイリヤすらも言葉を失い………。

 

「…………ふぇ」

 

セイバーが再びその目に大粒の涙を浮かべ……。

 

「この人でなしがぁぁっ! アンタの血の色は何色だぁぁっ!?」

 

「うお、何だよいきなり」

 

「いきなりじゃないわよ! アンタ、幾ら何でもそれはあんまりでしょうが!? 彼女騎士王、誇り高き騎士王だから! その人に対してアンタ、よりにもよって新聞紙はないでしょう!?」

 

「いや、騎士王だからこそだろう? 下手に刃物なんか持たせたら危ないし、何よりこの人、関係ない人間を巻き込もうとしたんだぞ? これくらいの扱いが妥当だろうが」

 

「それでも! もう少し扱い方ってのがあるでしょうが!」

 

「セイバー、大丈夫だから、俺がいつかキチンとした剣を用意してやるから! 今はまだ未熟だから何もしてやれないけど、少なくともハリセンよりは良いものを用意してやるから!」

 

「引っ込んでろ小僧! セイバー、何もこんな未熟者に頼る必要はない。聖剣が欲しいというのなら私が用意しよう。なに、確かに聖剣そのものは用意出来ないが、幸いにも君の剣の在り方は熟知している。そのものを生み出す事は叶わないが、真に迫ることは出来るとも。I am the bone of my sword.(───体は剣で出来ている)

 

「ってこらー、そっちもそっちでなに宝具を使おうとしてんのー!?」

 

錯乱したアーチャーに遠坂が止めに入る。もう話し合い処ではなくなった衛宮邸に修司はやれやれと肩を竦める。

 

「ったく、コイツら彼女に対して甘すぎだろ」

 

「というより、修司君が容赦無さすぎなのでは?」

 

「アハハ、やっぱりお兄ちゃんてば面白ーい」

 

深夜にも関わらず賑やかな衛宮邸、光が溢れる武家屋敷に暗く黒い闇が迫る。

 

「………随分、余裕なんですね。そうですか、そんなに私がいない方が楽しいんですか」

 

暗闇の中から黒い悪意が顔を覗かせる。

 

 

 

 

 




Q.藤村先生は出さないの?
A.出したら桜ちゃんの登場のタイミングが完全に失くなってしまうので………。






修司のいるカルデアWithマイルーム。

ランサーオルタの場合

「奴か、奴には何度も苦渋を味わったらしいからな。いつか意趣返しをしたいもんだ」

「あ? それにしては落ち着いている? 当然だ
。どうあれ奴は挑まれた勝負は基本的に逃げねぇ、逃げる事の無い獲物に焦れる必要が何処にある」

「まぁ、あいつとの戦いを“楽しい”と思えるのは癪だがな」



セイバーオルタの場合

「鬼、鬼畜、悪魔、これ程奴に相応しい言葉はあるまい。私の剣を一度ならず二度もへし折りおって、奴に慈悲という言葉はないのか!?」

「なに? 向かってきたから相手をしたまで? ふざけるな! それと私の剣を折ることに何の関係がある!」

「そんなんだから貴様も人の心が分からないといわれるのだ! やーいやーいこのボッチ、お前の上司金ぴかー」

「あ、おいやめろ! 私の剣を取り上げるな! お、おいまさか、また折るのか? また、私の聖剣を折るのか?」

「や、止めろーっ!!」


マーリンの場合

「この人でなし!!」

その後、カルデアの天井に突き刺さってる夢魔がいたとかいなかったとか。

???「フォウ!」


それでは次回もまた見てボッチノシ


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。