温泉旅館の建て直しとゼノイフ、どちらのイベントをこなさなければならないのがマスター&騎空士の辛いところだな。
覚悟は出来たか? 俺は出来てる!
何をした? 棒立ちしている桜目掛けて、寸での所で突き出した拳を止める修司を見て、士郎達はその行動に何一つ理解出来ないまま、困惑した表情で二人を見ていた。
桜の体内に寄生していた臓硯――気を失った桜を意のままに操ろうとした魔術師も、修司が拳を突きだしてからピクリとも動こうとしない。
恐らく、臓硯は本気で桜を道連れにするつもりだった。あの時断末魔にも似た脅しも演技の類いには聞こえなかったし、何より寄生虫になってまで死から逃れようとした奴が、生粋の魔術師が、外道に落ちた生き物がそういう意地汚い真似をしない訳がない。
だが、修司が拳を突きだしてから臓硯に怪しい動きは見られない。断末魔の如き悲鳴も聞こえず、完全に動きを停止した意識の無い棒立ちの桜だけ。
すると、今まで棒立ちの状態だった桜だったが、次の瞬間彼女の足下に影が泥の様に波紋を立たせながら広がっていく。
まさか、まだ臓硯は生きていて桜を動かしているのか、 それとも桜が目を醒ましたのか、何れにせよ修司の決断は無駄に終わったのかと思われた。
広がる影の泥に飛び退く修司、その表情には困惑の色が濃く滲み出ていた。
「白河君、もしかして失敗?」
「………違う。俺の一撃は確かに臓硯を捉えた。衝撃を奴にだけ届くように調節し、桜ちゃんの肉体には外も内も傷一つ付いていない筈だ」
焦りと困惑を見せる修司に遠坂は彼の試みは失敗したと思っていた。が、返ってきたのは否定の言葉、桜の肉体に一切の傷跡を付けず、臓硯だけを狙った武の秘奥の一撃は確かに奴の息の根を止めた筈だと、修司は語る。
彼がこのタイミングで嘘や冗談を口にするタイプでは無いことは分かっている。サラリと信じられないことをやり遂げた修司に戸惑いつつも、言葉通りに彼の言葉を受け入れた遠坂は未だ意識が戻っている様子のない実の妹───桜に視線を向けた。
「アンタ、一体誰? 臓硯? それとも桜? それとも───」
「─────」
警戒しながら問い詰める遠坂に桜は応える事はなかった。返ってくるのは沈黙、やはり意識が戻っていないのか、しかしそれに反して影は未だに緩やかではあるが広がりつつある。このままでは軈て衛宮の家が影の泥に呑まれてしまう。そうなる前になんとしてもこの状況を何とかしないといけない。
修司が今一度桜を行動不能にしようとした時───彼女の口から言葉が紡がれる。
「───ユスティーツァ」
「っ!?」
人名、らしき言葉に修司達が戸惑う一方、反応したのはイリヤだけだった。ユスティーツァ、そう口にした桜は此処へ訪れた時のような表情ではなく、感情の無い能面の様な表情で影に呑み込まれて消えていく。
「っ、させるかよ!」
当然ながら、修司は彼女を逃がさんとした。影の中へ沈み行く桜へ手を伸ばそうとして───。
その行く手を赤い槍と銀の鎖が防いでいく。右から飛んできた赤槍は屋根にアーチャーとバゼットを相手にしているランサーが、鎖は今まで呆然としていたライダーが。
ランサーの槍に阻まれた所でライダーの鎖に巻き取られていく。腹ただしい程に見事な連携、苛立ちに思考を鈍らせている内に桜の体は影の中へと消えていく。
届かなかった。目の前にいた筈の、助けられた筈の女の子が、助けると決めた女の子が再び遠くへ行ってしまった。その事実に苛立ちを覚えた修司は自身の腕を掴む鎖の持ち主へ睨み付け。
「───そんなに」
「え?」
「そこまでして聖杯が欲しいのか。彼女を、桜ちゃんをあんなにしてまで、そこまでして聖杯が欲しいのか? 万能の願望器? 何でも願いが叶う? そんな胡散臭い売り文句に良くもまぁそこまで必死になれるもんだ」
「ち、ちが、私はただ───」
それ以上、ライダーが言葉を口にすることは無かった。目の前の修司が見せる苛立ちと侮蔑の篭った眼、桜を助け出せる千載一遇の好機を不意にされた怒りによる睨み付けが彼女をこれ以上言葉を紡がせる事をさせなかった。
「───失せろ。そして待っていろ。俺達が桜ちゃんを助け出すのを首を洗ってな」
その言葉を最後に修司がライダーに視線を向ける事はなかった。敵対者に情けを掛けたのではない、単に時間の無駄だから気に留めるのを止めただけ。最早ライダーに割く時間はない、最後の難関に立ちはだかるであろう障害は黒く歪んだランサーだけ。
アーチャーとバゼットの二人を相手に難なく対応しているランサーに目を向け、修司は再び白い炎を纏う。すると戦況が変わったのを認識したのか、ランサーは二人と距離を開けるように後ろに飛び退き、衛宮邸から離れた位置にある電柱に立ち、感情の薄い眼で一行を見下ろす。
「マスターは引いたか、これ以上ここで闘うのは無意味だな」
「逃げるか、ランサー」
「場所を変えると言っているのだ間抜け、どうせすぐに殺し合うんだ。せめて舞台位は相応な所を用意させて欲しいものだろう」
「ならば、その決闘の場所へ案内しなさい。貴方のその顔に私の拳をねじ込ませて差し上げます」
「吼えるな執行者、直に舞台は整う。後は役者だけ待てば良い。………頗る面倒だが、貴様らは俺が殺し尽くす。セイバーが使い物にならなくなったのは誤算だったが、なに、最期を飾るのにこれ程面白い舞台はそうそうない」
そう言って修司を見るランサーの眼には僅かだが喜色の色が少しばかり強く滲み出ていた。泥に呑まれた事で本来あり得ない別の存在へと変質されたランサーであったが、どうやら多少ではあるが以前の様な気質も持ち合わせているようだ。
その事実に嬉しくもあり、悲しくもあり、寂しくもあったバゼットは気持ちを固める様に拳を握り締める。もう、彼を止める事は出来ないのだと。セイバーの様に戦意を砕くことで無力化出来ない以上、バゼットとクーフーリンは最後まで殺し合う間柄になるだろう。
それ以上、何かを語る事なくランサーもまた闇夜の中へと消えていった。後に残されたのは少しばかり抉れた衛宮邸の庭と屋根、補修される事は間違いないし、今後藤村に事の説明を考えなければならないと思うと頭が痛くなるが、それでも今は動くことが先決だ。
「修司」
「あぁ、分かってる。遠坂、イリヤのお嬢ちゃん、場所は特定出来たか?」
既にパトカーのサイレンが深山町に近付いてくる。行動を起こすなら今しかない、士郎に促されながら修司は遠坂へと向き直り、遠坂もまた追跡が終えたのか、その表情を覚悟と決意で染め上げている。
「今、私の使い魔が場所を特定したわ。場所は円蔵山、恐らくはその内部にある大空洞に桜達はいるわ」
遂に、桜達がいるとされる居場所が判明した。向こうが体勢を建て直す前に一気に攻め立てる。チャンスは一度きり、今度こそ失敗は許されないと修司達は円蔵山へ向かおうとするが。
「ごめん、その前に私の話、聞いて貰えるかな?」
「イリヤ?」
「それって、もしかしてさっき桜が口にしたユスティーツァって名前みたいな奴の事か?」
どうやら、あの時彼女が溢した台詞は修司だけでなく全員が耳にしていたらしい。士郎が首を傾げながら訊ねる横でイリヤは小さく頷き。
「もしかしたら次に私達が相手にするのは、相当厄介な相手かもしれない」
そう口にするイリヤはユスティーツァなる神域の天才について語り始めた。
◇
『───おぉのれぇ、おぉのれぇぇ』
何故だ。何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ。
何故、悉く邪魔をされる。何故、我が望みは成就されない。何故、我が野望は果たされない。
全て、全ては、そう、奴の所為だ。白河修司、奴をただの人間と侮ったのが我が過ちの全てだった。何故、あの様な男が存在しているのか、どうして、あんな人間が存在しているのか。
サーヴァントを斃し、アヴェンジャーと化した桜を退け、それでも尚底知れぬ強さを持つあの男は本当にただの人間だというのか。
認めぬ。認めてはならぬ。あの様な小僧が聖杯戦争の勝者だという事を、マスターどころか魔術師ですらない男が、聖杯戦争の勝利者である事など断じて許しはしない。
全ては我が願いの成就、その為にここまで来た。その為にここまで生き長らえてきた。
全ては………全ては、この身が決して朽ち得ぬ存在、不老不死へと至らんが為に───!
────不老、不死? そう、だったのか?
何故、不老不死を願った? 何故己は決して朽ち得ぬ存在を願った?
何の為に? 何を為し得る為に? 何を、目的としていたのか?
分からない。分からない、分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない───。
一体、私は───何の、為に? 多くの、命を、喰らって────。
『さようなら、ゾォルケン』
嗚呼、それはきっと───。
『ユスティー───』
ブチュリと、地を這いずる蟲の潰れる音が聞こえた気がした。
闇の中、地獄の釜の中でそれは生まれる。間桐桜という器を媒体にして、それは変容し、変質し、体現し、誕生する。
それは、嘗て魔法使いの弟子だったもの。それは、嘗て神域の天才だったもの。第三の魔法を会得した魔法使い。
嘗て、大聖杯の炉心となったもの。万能の願望器の礎となったソレは間桐桜を母体に再誕する。
『───さぁ、願いを叶えましょう』
その身にこの世全ての悪意を携えて。
Q.これは本当にユスティーツァなの?
A.ユスティーツァのガワを被った別物。
Q.桜は無事なの? 本当に生きて戻れるの?
A.ヒントつボッチ。
修司のいるFGOWith特異点。
レフの場合。
「開幕顔合わせからの問答無用コークスクリューブローは卑怯だと思う。これだから人間は!」
イアソンの場合
「俺の、俺のヘラクレスは最強なんだ! お前なんかに負ける訳がない。お前なんか怖くねぇ!」
「───ギャーーー!!」
ソロモン王の場合。
「蟲の小便以下の人類が、貴様に生きる価値などありは───ぶべら!?」
「お、己ぇぇ! 其処まで死に急ぐなら良いだろう! 望み通り粉微塵───に?」
「おい、何だその巨人は? そんな、こんなの、我は知らん! なんだ、なんなのだこの機械仕掛けの巨人は!? 貴様は、貴様は一体何者───」
「バカな!? たかが人間が、魔力も無しに剥き出しの特異点を創造するだと!? 貴様は、本当に人間、なのか!?」
「う、うわぁぁぁぁぁっ!!??」
修司のいるカルデアWithマイルーム
愛くるしい小動物の場合。
『ん? どうして僕がビースト化しないのかって? 二人のマスターがいるのに、比較の獣である僕に何の変化が無いのか分からないって?』
『だって、どっちも唯一無二の存在なんだもの、藤丸ちゃんは文字通り人類最後のマスターだ。僕の比較の対象になり得る事はないさ』
『………まぁ、彼の場合唯一無二というより比較しようがないって部分が大きいかな。本人は気付いていないだろうけどね』
『まぁ、仮にビースト化した所で僕が彼を殺せるとは思えないし、だって彼───』
『既に、半数以上の星の侵略者を単独で打ち倒しているしね。あの宝石爺が寄越してくる訳だよ』
「フォウさん、此処にいたんですね」
「フォウフォーウ!」
それでは次回もまた見てボッチノシ