『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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最終決戦、開幕。


その53

 

────ユスティーツァ=リズライヒ=フォン=アインツベルン。それは嘗てアインツベルンの中から偶発的に産まれた個体であり、唯一第三の魔法へと至った神域の天才。

 

彼女と彼女に協力した者達、後に御三家と称される者達によって大聖杯は生まれ、霊脈が豊富とされる冬木に大聖杯を埋め込み、奇跡へと至る儀式の為の舞台を作り出した。それこそが多くの悲劇と惨劇を生み出した元凶、聖杯戦争の全容である。

 

全ては一人の天才が齎した災厄なのだと、道中イリヤから聞いた修司は内心で沸々と怒りを滾らせていた。ユスティーツァの意図したものが何なのかは分からないが、随分余計な事をしてくれたものだと、そう思わずにはいられない程にその人物に対して嫌悪感を持った。

 

「それで、そのユスティーツァって奴は大聖杯の炉心とやらになって既に数百年が経っているんだろ? ソイツ、まだ自我とか残ってるのかよ?」

 

「ユーブスタクハイト………アハト翁は、自我は既に残っていない筈だと言ってたわ。大聖杯の礎になる時点で自我はとっくに喪失しているだろうって」

 

他人の命処か自身の自我の有無まで度外視するその所業、何処までも一般的倫理を持つ修司としてはユスティーツァなる人物の考えが到底理解出来なかった。

 

魔術師にとって魔法というのはそこまでして手に入れておきたい代物なのだろうか。そこまでしがみついて後世に残しておきたいモノなのか、分からない。

 

分からないから、ユスティーツァなる人物に付いて考えるのは止めた。どうであれ、間桐桜を助け、大聖杯を破壊するまで修司の聖杯戦争は終わらない。そのユスティーツァなるものがどれだけ凄かろうと、立ち塞がるなら蹴散らすまで。

 

そもそも、これ迄の惨劇を生み出してきた元凶、その一人が待ち構えているというなら、俄然としてヤル気が沸いてくるというもの。どのみち戦うのなら必ずぶち倒して冬木に住まう人々に土下座して詫びさせる勢いで望んだ方がいい。

 

「あーあ、10年掛けて準備した私の聖杯戦争が、まさかこんな事になろうなんてね。ホント、人生ってば不測の事態の連発よね」

 

「なら、これを機に魔術師であることを見直したらどうなんだ? 10年掛けて準備した戦いが不意になったんだ。ここらで身を引いてもバチはあたらないんじゃないか?」

 

「冗談、この程度で音を上げるなら最初から魔術師なんてやってないわよ。元々聖杯が無くても根源を目指すつもりだったし、これまで培ってきた遠坂の魔術を捨てるつもりもないわ。白河君こそ、あまり首を突っ込まない方がいいんじゃない?」

 

「勿論関わるつもりはねぇよ。人に迷惑ばかり掛ける魔術なんてこっちから願い下げだ。だが、そっちから向かってくる以上、俺も全霊を以て抵抗するからな」

 

魔術師という生き物が碌でもないというのは今回の件で嫌と言うほど理解した。そしてそんな連中を相手に容赦をする必要もないことも、今回の事件で痛感した。

 

魔術師には魔術師の事情がある。だから修司は彼等のやり方に口を挟むつもりはないし、関与するつもりもない。ただ、連中が敵意を以て接してくるならば容赦なく対応するまで、………なんだ、結局はいつも通りかと、そこまで考えて修司から笑みが溢れた。

 

「さて、改めて流れを確認するわよ。円蔵山の大空洞に侵入したら、そこからはノンストップで駆け抜けるわよ。イリヤスフィールはこの時点でバーサーカーを実体化、バーサーカーを先頭に最深部まで突っ切って大聖杯と対面、ルーラーが大聖杯を壊すまでの合間、私達で時間を稼ぐのよ」

 

「そして大聖杯を壊したら桜ちゃんと一緒に脱出と、なんか超特急の流れだなぁ。本当に上手くいくのか?」

 

「上手くいかせるのよ。いい? ここから先の戦いは全てアンタに掛かっていると思いなさい。サーヴァントでも魔術師でもない、自称一般人であるアンタこそがこの聖杯戦争を終わらせる鍵なんだから」

 

「───あぁ、分かってる」

 

ここから先、大空洞へ入った時状況は二転三転と変わるだろう。だが、足を止めてはならない。桜を救い出して大聖杯の破壊という目的を達成させるにはノンストップの行動を余儀なくされる。

 

僅かな迷いも油断も許されない、そんな緊迫した状況が続くであろう────その前に、今まで黙っている士郎に一同の視線が向けられる。

 

「その、大丈夫か士郎? ここから本番な訳なのだけど………その、行けそうか?」

 

「はぁ、はぁ、はぁ………んっ、ぐ、はぁ、だ、大丈夫だ。問題ない」

 

「問題ありまくりに聞こえるんだけど」

 

衛宮邸からここまで一度の休憩も挟まずに円蔵山までやって来た修司達、遠坂やイリヤはそれぞれサーヴァントに抱えられているから体力的消耗はないし、バゼットも執行者として鍛えられているから何の問題はない。修司も言わずもがな、士郎を除く誰もが汗一つ流さず平然としている。

 

これより向かうは死地、なのに既に死にかけている士郎をどうすれば良いのかと悩んでいると、これ迄敢えて沈黙を保っていたアーチャーが口を開く。

 

「なんだったら、ここで置いていくのもありなんじゃないのかね? この程度で疲れ果てた未熟者を連れていく必要などあるまい」

 

「ンだと、テメェ……!」

 

「事実だ。そして今立ち上がらなければ、貴様は最早正義の味方処か一人の後輩すら助けられん愚図に成り下がる。それが嫌ならば顔を上げろ、肺がつぶれても尚動け、どのみち、貴様に出来るのはそれくらいしかないだろうが」

 

「そんな事、お前に言われる………までもない!」

 

「───ホント、不器用な奴ね」

 

「いや、此処まで来ると最早器用な部類に入るのでは?」

 

悪態を吐きたいのか激励したいのか、そのどちらとも言えるアーチャーの対応に修司と遠坂は苦笑う。どうやら遠坂もアーチャーの正体に心当たりがあるらしく、その笑みは何処か慈愛に見えた。

 

「歓談出来る程度の余力があるようで何よりです。では向かいましょう、もとより我々に残された時間はありません。急ぎましょう」

 

「余裕を持つのも良いけど、そろそろ気を引き締めないとねー」

 

バゼットに急かされ、イリヤに気持ちを切り換えられ、一同の表情が再び引き締まる。目の前に広がる大空洞への入り口が口開く物の怪の顎にも見える。もう後戻りは出来ない、最後までやり遂げる決意を固め、修司達は大空洞への一歩を踏み出した。

 

そして、同時に思い知る。自分達は確かに慢心も油断もしていなかった。戦力も充分、最悪の事態が起きても最低限の勝利は約束されていると、確信しながらもそれに甘えるような思考は唾棄していた。

 

修司達が見落としていたのは相手の戦力ではなく心境。追い詰められ、手段を選ばなくなった者が行う悪魔的発想による凶行を全く予想出来なかった。

 

詰まる所、一行を襲ったのは足場の崩壊。大空洞の崩落も辞さない初見殺しの罠だった。

 

その崩壊にいち早く気付いたのはバーサーカーとアーチャー、そして修司のみ。アーチャーと修司は崩落していく足場を頼りに罠を避けようとするが、それを銀の鎖が行く手を阻む。

 

そして、物陰から現れたのは桜が使役する最初のサーヴァント、ライダー。眼を隠すバイザー越しの視線が修司と交差し。

 

「───恨んでくれて結構ですよ」

 

どこか諦めた様な、達観された言葉と共に繰り出される蹴りにより、修司達は今度こそ闇の谷底へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───あいててて、皆無事!?」

 

突然の足場の崩落に巻き込まれ、ライダーに気圧された一行。サーヴァントの助けがあったとは言え、結構な高さから落ちた衝撃は魔術師である遠坂達には少しばかり堪えたらしい。時間にして一分足らず、その間に意識を失っていた事を自覚した遠坂は急いで他の面々の安否を問うた。

 

「もう、遅いわよ凛。もう少し遅かったら置いていく所だったわ」

 

「イリヤスフィール、そう。一応アンタは無事だった訳ね」

 

聞こえてくるのは生意気な少女の悪態、暗闇で良く見えていないが、この分だと然程遠くない位置に要るようだ。魔力的繋がりでアーチャーも側にいるのが分かる。取り敢えず現在の状況を確認しようと、遠坂は予め用意していた宝石を取り出し、灯りの為の魔術を行使する。

 

「───これは、不味いわね」

 

そして、目の前に現れた現実に打ちのめされかけた。遠坂の目の前にあるのは瓦礫の山、どこにも行き場のない空洞だけが広がる場所にポツンと自分達だけ落ちて来たことに気付き、少しばかり嫌気が指す。

 

「───これ、無理に突き進んだらどうなるかしらね?」

 

「生き埋めになりたいなら他所でやって」

 

分かりきった答えを前に項垂れる凛、折角此処まで来たのにここへ来てまさかの足止め。時間が残り少ないのに余計な手間を掛けさせられる事態に遠坂は地団駄を踏みたくなったが、遠坂の家訓を思い出しこれを懸命に押さえる。

 

と、向こうから足音が近付いてくる。ガンドの構えのまま足音の主を待つと、影の中から現れるルーラーとバゼットの姿に安堵し、遠坂はその腕を下ろした。

 

「皆さん、ご無事でしたか」

 

「ルーラーに、それとバゼット。これであの二人を除く全員が此処に落とされたって訳ね」

 

「っ、では、やはり修司君達は………」

 

「えぇ、恐らくは意図的に通されたのでしょうね。今頃は桜とご対面、もしくはもう戦っているか、全てが終るまで私達は此処で足止めされるって訳」

 

無論、遠坂が相手の思惑に乗るつもりはない。守りに特化したルーラーが此方にいる以上、ここで足止めを受ける必要性は無くなった。

 

アーチャーとバーサーカーの力を以て此処から脱出する。恐らく瓦礫を吹き飛ばした際に更なる崩落が待っているが、そこら辺はジャンヌに任せる他ない。負担の割合が増えるが、もう躊躇している場合ではない。

 

そんな時、足音が聞こえた。自分達以外いないであろう人物が存在していた事に驚くが、もしかしたら修司か士郎の何れかがまだ此処に残っているかもしれない。

 

だが、そんな甘い考えは直ぐに吹き飛ぶ事になる。闇の中から這い出るように現れた黒いランサー、尾を生やし、更なる人外と成り果てた反転したケルトの大英雄が遠坂達の前に立ちはだかった。

 

「ちっ、やはり修司はいないか。あの女、最初からこうする腹積もりだったか」

 

「貴様が此処にいると言うことは、やはり二人は向こうにいるのか。ランサー、君も随分と酷い貧乏クジを引かされたモノだな」

 

「業腹だがその通りだ。事此処に至って、よりにもよって貴様らなんぞを相手にしないといけないとはな」

 

現界しながらも溢すアーチャーの皮肉をランサーは眉一つ動かすことなく応える。何せランサーにとってこれが修司と戦える最後のチャンスと思っていたからだ。その望みが断たれた今、彼の胸中にあるのは惰性による殺戮しか残されていない。

 

「───」

 

バゼットは変わり果てたランサーを見て静かに瞑目する。全ては自分が至らなかった事が原因、ならばせめて全力で相対する事で払拭しようと、彼女の拳に自然と力が込められる。

 

「……さて、事此処に至って互いに出し惜しむ事はあるまい。死にたくなければ、精々全力で足掻くが良い」

 

「来るわよ、アーチャー!」

 

「了解した!」

 

「バーサーカー! お願い!」

 

「■■■■■■ッ!!」

 

ランサー一騎を相手にアーチャーが矢を放ちバーサーカーが疾走する。有無を言わさぬ速攻、この攻撃を前に並みのサーヴァントならば圧殺される事は避けられない。

 

だが………反転したランサーは怯まない。

 

「───全呪解放、加減は無しだ」

 

その瞬間、バーサーカーの左胴体が巨大な顎に喰われた様に抉られて………。

 

「っ、アーチャーッ!!」

 

矢を放った筈のアーチャーの片腕が宙を舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 




ボッチ一人いないだけで此処までのシリアス……やはりFateはシリアスの宝庫じゃったか。


ボッチのいるカルデアWithマイルーム

ノッブの場合。

「アヤツ、森の奴と似た感じがするのじゃが……ワシの勘違いかな?」

「いや、普通に礼儀正しいし、基本的に良いやつなのは分かるよ? うん、アヤツは良いやつじゃ」

「じゃが、何とも言えぬ不安を感じるのはワシだけじゃろうか? これ、ワシの気の所為?」


殺生院キアラの場合。

「あらあらウフフ、私があのお方に思うところはありませんよ。そも、私はあの方に見向きもされませんもの」

「ですが………嗚呼、もしあのお方に振り向いて戴けるのなら、その許しが得られるのなら、私はきっと如何なる手段を用いても振り向かせるのでしょうね」

「毅然として、己が信じる理念に基づき正義を実行する。フフ、まるでお伽噺に出てくる正義のヒーローなお方」

「そんなあの人に振り向いて貰えると思うと………ふふ、想像するだけで昂ってしまいそうですわ」

「絶望や怒り、悲しみや憎しみ、それらに満ちた形相で彼に睨まれると………ふふ、フフフフ」






「だ、誰かー! 英雄王とアンデルセン先生を呼んでこーい!!」

「あの二人を止められるのはあの人たちしかいねぇ!」

「可能ならば他のサーヴァントの皆さんも連れてきてー! カルデアが吹き飛ぶぞぉぉぉっ!!」





Q.ボッチとキアラの関係性は?
A.某蟲柱と某上弦の弐の様な関係。ある理由からここのキアラにとってボッチに振り向いて貰うことが至上の喜びとしている。
それが憐憫であろうと憎しみ、怒り、悲しみといったモノであってもその全てがキアラにとっての“喜び”となる。

ボッチとキアラがカルデア内で出会した時、殆どの高確率でバトルとなる。勝つのは当然ボッチだがその際に生じる被害が笑えない。

止められるのはアンデルセンと英雄王のみ、尚その二人は心底嫌がる模様。

ヘクトール「仲間ができた」




それでは次回もまた見てボッチノシ

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