『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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シリアス「定刻道理に只今到着!」


その55

 

 

冬木市新都にある冬木中央公園。嘗ての大災害で多くの人命を失い、慰霊碑が置かれ、曰く付きの場所として知られるこの場所に深山町方面に住む人々が警察の指示に従い此処へ避難していた。

 

冬木に起きるガス漏れ、或いはガス爆発による事故、それは大戦中に冬木に落とされた爆弾が原因であるとされ、その不発弾が深山町にあると断定された。ガス爆発による誘爆で更なる被害が出るかもしれないととある情報から入手した話を元に、冬木市市長は即座に警察と連携、深山町方面に住まう人々に避難勧告を促した。

 

突然の出来事に戸惑いながらも、警察の指示に従い速やかに新都へ避難した深山町の人々、その中には士郎の姉貴分にして保護者である藤村大河の姿もあった。

 

「よし、これで冬木方面の生徒達の安否はほぼ完了っと、葛木先生、協力ありがとうございます」

 

「気にする必要はありません。生徒達の身の安全を考慮するのも教師である私達の責務です」

 

「でも、葛木先生には婚約者の方がいらっしゃるのでしょう? 此方にはうちの組の子達もいるし、安心させる為にも側に付いていてあげた方が……」

 

藤村大河は藤村組の頭目の孫娘である。それ故に教師という役職に就いても子分の者達に最低限の命令を下す事は可能であり、現在も彼女の指示の下、避難してきた住人に寒さで凍えないよう毛布等を配っている。

 

人手は足りてるから未来の奥さんの側にいてやれと、大河は促すがその必要はないと葛木は首を横に振る。

 

「ご心配には及びません。アレは聡い女ですから………先程連絡があり既に冬木から発っているとの事、それと私の事よりも自分の出来る事をしろとも言われました」

 

「それは……色々、凄い人なんですね」

 

「えぇ、自慢の伴侶です」

 

相変わらず無愛想で無表情の男だが、それ故にその口から紡がれる言葉にはいつも真実味が込められていた。未来の夫の負担にならない様に即座に行動する奥方もそうだが、それを前向きに受け止めているこの男も色々と凄い。結婚する前から深く繋がっているであろう二人に羨ましく思いながら大河はそうですかと納得する。

 

「分かりました。では私は一先ずこれで、後は衛宮君達の安否を確認するだけですので」

 

「分かりました。何かあれば声を掛けてください」

 

それではと、互いに会釈した後二人は其々の持ち場へと戻る。葛木は自治体と一緒になって行動している一成達の下へ、大河は色々と話を誤魔化して煙に巻こうとした慎二に事の追及をする為にその足を進めていく。

 

だが、その歩みはそれに気が付いた者の言葉によって止められる。

 

「な、なぁ、あれなんだ?」

 

「何アレ………煙?」

 

「煙……なのか? 煙にしてはなんか様子が変だぞ?」

 

一般の男性が指差す方へ視線を向けると、其所にはうっすらとだが煙の様なモノが浮かび上がっているのが見える。方向からして円蔵山の方角、つまりは一成達が住まう寺………柳堂寺の方だ。

 

まさかあれはガス漏れによって引き起こされたモノなのか、それとも不発弾による何らかの事象が引き起こされているのか、困惑する人々を余所に事態は更に深刻化していく。

 

「お、おい。どうしたんだよお前、いきなりふらついて……」

 

「わ、分かんね。なんか、急に眩暈が……」

 

「なんか、私も……意識が……」

 

「ちょっと、大丈夫?」

 

突然、周囲の人間が体調の不良を訴え始めた。眩暈を覚える者、意識が朦朧として昏倒しそうになる者、症状は其々で今の所重い症状を訴える者はいない。

 

だが、明らかに不自然な症状だった。先程まで健康そのものだった者がどうしてこうも唐突に不調を訴え始めたのか。年齢も性別も問わずに襲い来る症状、その中には頑丈な藤村組の人間もいた。

 

そして、藤村にはこの感覚に覚えがあった。先の所属する学校が休校となった原因であるガス漏れ事故、あの時陥った自分達の症状と彼等が訴える症状はどれも似通っている。

 

今、この冬木で何かが起きている。そしてその原因は恐らくあの煙の立ち上る円蔵山に起因している。周囲の人々が不安にうち震える中、藤村大河は静かに円蔵山の方へ睨み付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞い上がる砂塵、ガラガラと音を立てて転がり落ちる岩の瓦礫、岩壁に突き立てられた刀剣の如く突き刺さるライダーを尻目に修司は士郎へと向き直る。

 

「悪い士郎、無事か?」

 

「あ、あぁ、どうにか……つぅ」

 

サーヴァントに襲われ、あわや命の危機に瀕していた士郎だったが、唐突に現れた友人によりどうにか窮地を脱する事が出来た。自身の命よりも友人が無事だった事に安堵する士郎だが、次に肉体に襲い来る痛みにその表情を歪ませ、膝を地に付ける。

 

同時に手にした干将莫耶が魔力の残滓となって霧散する。士郎が行ったと思われる魔術行使に一瞬見とれる修司だが、士郎の尋常でない疲弊具合にも気付き急いで彼の下へ走り寄る。

 

「おい、本当に大丈夫かよ。酷く辛そうだぞ」

 

「へ、平気だ。これくらい何て事………ない」

 

明らかに強がりだが、今はそれで問答する暇はない。皆と一丸となって決戦に望んだのはいいが、向こうの策略によって分断、現在修司達は孤立した状態にある。早く他の面々と合流し大聖杯の所へ向かわなければならない。故に士郎の事は取り合えず先送りにするしか無いだろう。

 

「分かった。お前がそう言うなら俺は何も言わない。でも状況が状況だ。悪いが、此くらいの手は出させてもらうぞ」

 

「ちょ、お、おい!」

 

物言う士郎を無視し、修司は彼の体を背負う。士郎を動けるようになるまでどうにかこれで遣り過ごすしかない。

 

「おい暴れるな。そんな事で体力を消耗させる位なら少しでも早く回復するよう努めろよ」

 

「だ、だからっておんぶってお前……!」

 

「気にするな、旅先でお年寄りに良くしていたからな。誰かを背負うのは慣れている」

 

「いや、でも………」

 

良い歳して男に───しかも同学年の友人に背負われる事実に士郎は色々と恥ずかしくなった。だが、修司の言うことも正論でここであれこれ文句を言っている場合ではない。大人しく体力の回復に努める事にした士郎に安心しながらこの場から立ち去ろうとする修司だが……。

 

「いか……せま、せん。桜は……私が守らなければ!」

 

「っ、ライダー!」

 

二人の前にライダーが立ち塞がる。しかし修司の奇襲の一撃が予想以上に効いたのか、彼女の佇まいには以前の様な洗練さはない。ふらつきながらも主の為に戦うその姿は正しいサーヴァントの在り方なのだろう。

 

しかし。

 

「──なぁ、ライダーさん。アンタ………一体何がしたいんだ?」

 

「なに?」

 

そんな彼女を修司は何処までも冷めきった眼で見つめ返す。

 

「桜ちゃんを守りたいというアンタの想い、それに嘘はないんだろ。あぁ、それは分かる。察しの悪い俺でもアンタの桜ちゃんに対する想いは本物であることくらい………伝わってるよ」

 

「でもさ、これ迄の聖杯戦争でアンタ一体何をしてきた? 桜ちゃんを守ると言って、具体的に何をしてきた?」

 

静かに、淡々と、事情聴取の様に問い掛ける。一つ一つ丁寧に訊ねてくる修司にライダーの心は真綿でジックリと締め付けられる感覚を覚えた。

 

「何も、だよな? アンタは桜ちゃんを守ると言ったが、助けるとは一言も言っていない。現状維持、アンタがしてきたのはただそれだけだ」

 

「っ!」

 

「あの間桐臓硯がどんなに恐ろしいかは知らないし、アンタの事情も知らない。アンタからすれば俺の言葉なんて癪に障るだろうが………それでも言わせてもらう」

 

「アンタさ、空回ってんだよ。本当に思っている事とやりたい事が致命的な迄に噛み合ってないんだよ。アンタ、昔どん臭いとか言われた事ないか?」

 

「わ、私は──ちが、そんな事は………」

 

「アンタがやるべき事は桜ちゃんを守る事だけじゃない。桜ちゃんを助けるべく…………誰かに、助けを求めるべきだったんだ」

 

ライダーは終始、桜を守ろうとしていた。慎二にマスター権限を譲渡され、それに従おうとしたのも全てはマスターである桜を守る為。その為には他の多くを犠牲にしても構わないと、そう思ったからあの学校に張った結界もそのままにした。

 

だが、その時点で彼女は間違っていた。桜を守るのも良い、だが、それ以上の結末を望まなかった。彼女をより日の当たる場所に連れていこうと、何の行動もしなかった。所詮この身はサーヴァントなのだからと、無意識に諦めた。

 

ライダーが、メドゥーサの彼女に間違いがあるというのなら、それは他者に頼るという事をしなかった事にある。

 

しかし聖杯戦争は全てのマスターが敵、協力関係になることは有り得ない。

 

下手に情報を与えてしまえばそこから全てが崩れ去ってしまう。守りたいと思った桜にまで危害が及んでしまう。と、尤もらしい理屈を考えて。

 

修司自身、無茶な事を言っていると理解している。だがそれでも考えずにはいられない、もしライダーが早い段階で自分やジャンヌに助けを求めれば、もっと違う未来があったのではないかと。

 

「わた………しは、私はただ、あの娘の幸せを」

 

「幸せってのは未来にあるものだろうが、今にしか目を向けていない奴が手に入られるものかよ」

 

崩れ落ちるライダー、敵対する意思も戦意すら叩き折られた彼女を修司は一切触れる事なく彼女の横を通りすぎその場から立ち去った。遠くなっていくライダーの背中、そんな彼女を士郎だけが憐れみの籠った瞳で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ最深部か」

 

士郎を背負い、洞窟内を進むこと数分。道中瓦礫で塞がれていた道もあった為、結局ジャンヌ達と合流出来ぬまま最深部と思われる場所へ到達した二人。

 

ここまでの道中、まるで導かれる様に何事もなく進めたのは僥倖だが、今の二人はそれを素直に受け止める事はできない。本来ならば此処にジャンヌやアーチャー、バーサーカーやバゼットなど万全の陣営で挑むはずだった作戦も今ではもう成り立たない。

 

完全な作戦失敗───とまではいかないでも、状況は最悪の一歩手前まで追い詰められている。奥の方………恐らくは最深部から感じ取れるのはこれ迄にない“濃い”モノ。

 

死と呪いが詰め込まれたモノがこの先で待っている。逃げられる状況ではない、此処で僅かな望みに懸けてジャンヌ達が来てくれるのを信じたい所だが………それが許されるだけの時間は残されていなかった。

 

「………士郎、立てるか?」

 

「あぁ、お陰で楽になった。ありがとな修司」

 

溢れ出る死の気配が時間が経つに連れてより膨大に膨れ上がっている。このままではジャンヌ達が来る前に暴発しかねない、知識も何もない自分達だが、それでもやるしかないと覚悟を決め、修司は士郎に声を掛けて背中から降りてもらう。

 

士郎の表情は先程よりもマシになっていた。どうやら魔術行使による疲労は幾分か回復したらしい。自力で歩けるようになった士郎に安堵し、修司は改めて奥の方へ視線を向ける。

 

「悪い、色々と不都合が重なって結局は俺達だけで対処しなくちゃならなくなった。本音を言うならここでジャンヌさん達を待ちたい所だけど………正直、期待は出来ない」

 

恐らくだが、ジャンヌ達は今別のサーヴァントと戦っている可能性が高い。士郎の所へライダーが待ち受けていた様に、ジャンヌ達の所へは恐らくあの異形のランサーが待ち伏せていたに違いない。奴を相手にしていると考えれば、ジャンヌ達が苦戦しているのも頷ける。

 

故に、援軍は期待出来ないと修司は正直に口にした。それはつまり自分達の身の危険性がぐんと高くなることを意味しているからだ。

 

「お前が気にする必要は無いだろ。寧ろ、魔術師の癖に何の役に立てていない俺こそが謝るべきだろ」

 

暗に、ここから先は士郎を守れる保証がない。そう語る修司に士郎は笑みを浮かべて気にするなと語る。

 

「それに、ここから先はお前が如何に本気で戦えるかによって結果が変わる。だから修司、俺の事は気にせず、思いっきり暴れてくれ。その方がきっと早く片付けるし、桜を助け出せる可能性が高くなる」

 

「………あぁ、そうだな」

 

士郎には自衛に専念してもらい、戦いは修司が全面的に受け持つ。悔しいが、今はこれがベストだと士郎は悟る。無力な自分、友人に頼ることしか出来ない自分に内心で憤慨しながらも、それでも修司に頼るしかない今に縋るしかない。

 

滲み出る衝動を飲み干しながらそう言う士郎に修司もまた頷き、決意を固める。必ず、全員で生きて帰ると。

 

そして、二人は遂に到達する。円蔵山の内部、その奥底に在る最深部。地下大空洞へと辿り着く。

 

そこで目にしたのは………黒い月。忘れもしない、10年前の冬木の空で見た暗闇の孔が穿たれていた。

 

全身が強ばる。当時の光景と全く同じソレに修司の内から凄まじい迄の感情のエネルギーが溢れ出そうになる。

 

全身から迸るエネルギー。だが、それは寸での所で鎮火する。何故なら、自分達の向かい側に一人の女性らしき人影が佇んでいるから。

 

桜ちゃん? 訝しむ修司だが次の瞬間、目の前の人物が桜でないことを確信する。目の前の黒いドレスを着た者は桜じゃない。桜という依り代を得て現世に顕れたナニかであると、本能的に理解した。

 

「………お前、誰だ。桜ちゃんじゃないな」

 

「───ククク、漸く来てくれたか。待ちわびたぞ」

 

艶やかな声音だった。優しく、丁寧で、それでいて………自分達を羽虫程度にしか思っていない眼差し。黒いドレスと王冠を纏い、死者の様な白い素肌と髪を覗かせるその女は────何処と無くイリヤと似ていた。

 

「さて、先ずは名乗ろうか。我が名はユスティーツア=リズライヒ=フォン=アインツベルン。ホムンクルスであり第三の魔法へと至った魔法使いなり」

 

そう言って嗤う彼女の顔には何処までも底無しな悪意が滲み出ていた。

 

 

 

 

 

 

 




Q.大河がシリアス………だと!?
A.たまには真面目な藤村先生もアリだと思います。

Q.AUOはなにしてるん?
A.ポップコーン片手に眺めています。
気分は超大作の映画を見ている気分。
おっかなビックリだけど楽しみで仕方ない。そんな子供のような気分です。





修司のいるFGOWith特異点

ガウェインの場合。

「きさま、我が王の裁定の邪魔をするか!」

「ならば受けるが良い! 我が聖剣の輝きを!」

「な、なに!? 何だその赤い炎は!? 身に纏う赤い炎はなんだ!? 其方が三倍ならこっちは四倍? な、何を言って───」

「バカな、我が聖剣がこうも容易く奪われるだと!? ───て、ちょっと待て、待ちなさい。貴様、私の聖剣をどうするつも」

「アッーーー!?!?」


モードレッドの場合

「テメェか、ガウェインの野郎を降したってのは。ハッ、上等だ。テメェの首はこのモードレッド様が貰い受けるぜ」

「喰らえ、クラレント───あれ? な、何で俺の剣が無いんだ? な、何で俺の剣がテメェの手の中にあるんだ!?」

「お、おい止めろ! それは俺が王の、父上から奪った唯一の───」

「アッーーー!?!?」



ランスロットの場合

「アッーーー!?!?」


ベディヴィエールの場合。

「わ、私の腕も………へし折られるのでしょうか?」

「修司さん、ストップ! ストップです! ベディヴィエールさんまで怯えてしまっています!」



獅子王の場合

「あ、あの修司さん。もうそこまでにした方が………いえ、修司さんの言葉を否定するつもりは無いんです」

「ただ、その……その辺にして戴かないとその、戦闘に移しづらいと言いますか。あの、獅子王が号泣していますし、その辺で終わってあげても……」

「うーん、現代社会に於ける理路整然とした理屈は女神の心にまで届くとはね。流石は正論の暴力者、相手の戦意を先にへし折るとはえげつない」

「うわ、滅んだ国の王と次代に繋げた王を比べるだけでも烏滸がましいとか、オジマンディアス王をそこで出す? 今回の彼、何時にも増して容赦がなくね?」

「ダ・ヴィンチちゃんも感心してないで止めて下さい!」

「我が王、申し訳ない。我が王───」

「フォウ………」





次回、この世全ての悪。

それでは次回もまた見てボッチノシ

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