『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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ガイア「なんか静かっすね」




その57 後編

 

 

───燃える。何もかもが燃えている。

 

人も建物も等しく燃え尽き、残されているのは怨嗟の声だけ。其処に慈悲は無く、救いもない。

 

───助けを求める声が聞こえた。

 

死にたくないと、助けてくれと、この子だけでも、誰でもいいから、救いを求める声を呪いの泥と炎が掻き消していく。

 

その中で、一人の少年が彷徨歩く。その顔を涙と鼻水でグシャグシャにして助けを求める声を手で耳を塞ぎ、聞こえないように歩いていた。

 

『ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい………』

 

助ける声を耳にして、最初は助けようと藻掻いた。燃える電柱の下敷きになっている人を、瓦礫に、家屋に、押し潰されて動けない人達を少年は必死に助けようとした。

 

助けようと手を伸ばし………その悉くが零れ落ちていく。当然だ。当時はまだ幼い子供が人を助けるにはそうするだけの力が致命的に欠けている。誰かを助けるのに当時の少年では何もかもが足りていなかった。

 

他の誰かに助けを求めて動こうとしても炎と泥は容赦なく命を呑み込んだ。人も動物も、分け隔てなく蹂躙していく。

 

助けてと、誰かが呟いた。

 

助けてくれと、誰かが懇願した。

 

死にたくないと、誰かが命乞いをした。

 

その全てを炎が呑み込んでいく。

 

それは、隣に住む同い年の子だった。

 

それは、向かい側に住む気さくな親父さんだった。

 

それは────自分の両親だった。

 

『ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい───』

 

悔恨は尽きず、呪いは疵となって刻まれる。あの時自分が生き残れたのは何故なのか、何が、この身を生かしたのか。

 

分からない。分からないことだらけで吐き気がする。ただ一つ、確かなのは─────。

 

“どうして、お前は生きているの?”

 

この身は、何処までも望まれていなかった。自分には出来ないと、無理だと諦め、助けを求める声を振り切り、ひたすら自分だけを守った。死にたくないから、まだ生きていたいから、だからごめんなさいと口にして必死に許されようとしていた。

 

あの黄金の王に見初められ、生きる許しを得られ、努力を重ねてきたのは………偏に、そうする事で生きても良いのだと無意識に許しを乞うていたのだ。

 

死んだ皆の分まで頑張れば、自分は許されるのだと。だから我武者羅に鍛えた。武術も料理も勉強も、全ては生きても良いと言う許しを得たいが為に───。

 

だけど。

 

“許さない。お前が生きている事が”

 

“許せない。お前が存在している事が”

 

“何故、お前は生きている。私達の犠牲の上で成り立っている貴様が、何故のうのうと生きている”

 

“お前の生存は許されない。お前の存在は許されない”

 

───結局、白河修司の生存は誰も認めはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────本当に?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“お前は生きてはいけない”

 

───違う。

 

“自分だけ助かるなんて、なんて非道だ”

 

───違う。

 

“お前は生きてはいけない。お前の生存は許されてはならない”

 

───違う!

 

“お前が───死ねば良かったんだ!!”

 

断じて、違う!!

 

生存を、存在を、誰かの許しを必要とする。それ自体が間違いだ。第一、許しが必要だと宣うのなら、とうの昔に俺は得られている。

 

当時、家の中で火の手に囲まれていた自分を助けてくれたのは両親だ。炎に焼かれ、煤で汚れても、俺という人間を救ってくれたのは父と母だ。

 

酷い火傷を負い、煙も吸って倒壊した家屋に巻き込まれながらも、それでも二人は俺を助けてくれた。自分を見捨てても良かった筈だった。二人だけ逃げ出しても良かった筈だ。それでも父と母は、俺を救うために全てを差し出してくれた。

 

『生きてくれ。お前だけでも』

 

『生きて、貴方だけでも』

 

炎に包まれて、熱くて痛くて苦しいのに、二人は俺を生き延びさせようとして………笑って見送ってくれた。

 

生きてと、生き延びろと、父と母に命を託され、偉大な王に認められた。

 

両親の深い愛情が、王様と引き合わせてくれた。

 

───故に、この身には悔恨はない。あるのはただ命を救ってくれた人達への………感謝だけ。

 

───故に、俺のこの歩みに後悔はない。例え誰かに呪われていたとしても、俺のこの人生は、この歩みは………。

 

決して、間違いなんかでは無いのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地獄に、光が溢れる。幼い子供は青年となり、地獄の亡者を睨み付ける。

 

『さっきから黙って聞いてりゃベラベラと。恨み節を聴かせたくなるのも分かるが、生きている人間を引きずり込もうとするのは感心しねぇな』

 

“あぁ、生きている。まだ生きている”

 

“何でお前だけ生きている。俺だってまだ生きていたかったのに……”

 

“許せない許さない許し許し許し許し許し許しシシシシシィィィィィッ!!!”

 

『会話が成り立たねぇ。まぁ、ここがあの大聖杯の中なら、それも仕方のない話しか』

 

あのユスティーツアの操る影に貫かれて、この大聖杯の中に放り込まれて解った。この大聖杯には悪意しか入っていない。元は別の形………魔術師にとってはだろうが、この願望器はマトモな形をしていた。

 

間桐桜がおかしくなるわけだ。唯でさえ間桐臓硯の悪意に晒され、今度はこの大聖杯の悪意に呑まれてしまった。

 

絶対に助ける。そうする為にはここから脱出する必要がある。

 

『悪いな。魔術師さん、アンタらの夢は………俺が壊すよ。そもそも、その為に今日まで自分を鍛えて来たんだからな』

 

全身に力を込める。抱いたのは代わりのない決意と意志、思い出したのは嘗て描いた歪な願い。

 

“お前だけは、絶対に許さねぇ!”

 

それは、あの日地獄で王の前で誓ったモノ。自分の大事な物、その全てを奪ったモノへの復讐の誓い。それが原動力だった。

 

生への許し? 確かに一時期はそんな風に自分を追い詰めた事がある。自分だけが生き延びてしまった事に強迫観念の様な感情を抱いた事もある。

 

けれど、王は言ったのだ。それは違うと、それは命を賭して救ってくれた両親に対する最大の侮辱だと。黄金の王はそう言って本気で自分を叱り付けてくれた。

 

そう、父と母はそんな生き方をさせる為に俺を生かしたんじゃない。生きて生を謳歌して、自分らしく生きて欲しいが為に生かしたのだ。

 

──だから、決めた。自分の可能性を、生きていく意志と力を、死んだ両親に届くまであの黄金の王の下で示し続けるのだと。

 

それこそが、白河修司が選んだ生きる道────即ち、王道なのだと。

 

その為には、この世界からの脱出を。全身に力を迸らせ、白い炎で周囲の火炎を瓦礫ごと吹き飛ばしていく。

 

だが、悪意の影が修司の行く手を阻んでいく。命を奪う為に、殺す為に、呪う為だけに力を奮う悪意達に修司は言い表せない苛立ちを感じた。目の前にいる影達からは悪意しか感じられない。まるで人間には悪意しかないと断言するような影達の物言いに修司はいい加減文句を言いたくなった。

 

人の根底にあるのは悪意しかないと、それしか無いと。

 

…………ふざけるな。

 

人には悪意しかない? 人の根底にあるのは悪性だけ? 違う。人の中には悪意には決して負けない善性も存在するのだと、修司は断言する。

 

だって、この身は他ならぬ人の善性によって守られてきた。他ならぬ両親と王によって。

 

…………悪意を抱えるのは人の(サガ)、確かにそれは認めよう。人を愛すれば憎悪も増していき、人の成功に喜びもすれば妬む者もまた存在する。

 

けれど、それだけじゃないのが人間だ。憎み、蔑み、嫌悪するのも人ならば、慈しみ、想い、愛するのもまた人間だ。どれか片方だけが人間と呼ぶのではない、清濁合わせて初めて人はヒトと呼べる知的生命体へと昇華されるのだ。

 

混沌こそが人の本性、推し量れず、未知数だから其処に人は可能性を見いだしていく。可能性こそが人の、命が抱く無限の力なのだ。

 

故に、目の前の悪意に修司が負ける道理はない。だからこそ、修司は可能性を示す必要があった。人は、命は、悪意だけに縛られる存在ではないのだと。

 

『お前達が人には悪性しか残されていないと宣うなら、俺が見せてやる。人は、命は、もっと凄くて大きいモノだと───』

 

嘗て、自分は何も出来ない無力な子供だった。泣いて喚いて苦しんで、空虚になるまで自身を憎むまで追い詰める時があった。────■黙の巨■、■し■の■■、■■の■蠍。

 

そんな自分に生きる道を示してくれた王がいた。嘆くのはいい、喚くのはいい。だが自身を偽り、地に沈むのは命を賭して助けてくれた両親の深い愛を裏切る行為だと。─────■■の黒■、■■■■瓶。

 

王は言った。立ち上がれと、その足で前へと進み、己の可能性を示し続けろと。それこそが死んだ両親への最大の恩返しだと信じて。────■ち■がる射■、。

 

だから、修司は走り続けた。自分の可能性を示す為に、何よりも自分の為に、傷付きながらも貪欲に自身を鍛え、世界をこの目で見て回ってきた。────傷■■■の■■、■深■金■、■■■■■山羊。

 

故に、この戦いで修司は決めた。喩え好きな人に恨まれ、憎まれようと、彼女を助けると。────■れる■秤。

 

全ては、彼女の笑顔をもう一度みたいというエゴの為に。その笑顔が決して自分に向けられないと分かっていても。─────■見る■魚。

 

矛盾とエゴの塊。それを自覚しながらも尚進む。それこそが、人が人足り得る所以なのだから。───いがみ■■■■。

 

エゴと矛盾、それこそが人の本性。けれど、それでもいいのだ。可能性は混沌の中から生まれる。善も悪も、聖も邪も、根底として生まれるのは同じなのだから。

 

魔術なんて………神秘なんてものに縋らなくても、人は、命は、何処までも羽ばたいて往ける。

 

さぁ往こう。全ては可能性の先に待つ未来を掴み取る為に。

 

悪意も善意も越えて今、白河修司は限定的ではあるものの、命の可能性の極致───極みへと至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ。余興ではあったが………些か以上に愉しめたぞ。お前の足掻く様は四肢を切り落とされた虫の様で、実に滑稽であった」

 

「────」

 

円蔵山の内部、大空洞。未だ膨らみ続ける大聖杯を前に一人ユスティーツアを相手にしていた士郎は、無理矢理行使していた投影魔術に限界が訪れ、息も絶え絶えに地に膝を着いていた。

 

今、士郎が殺されていないのは偏にユスティーツアの戯れによるもの。既に悪性に汚染された彼女に嘗ての内面的面影は微塵もなく、その力はただ悪戯に士郎を嬲る事だけに費やされていた。

 

士郎は戦った。修司が大聖杯の中へ落とされてもきっとまだ生きている事を信じて、自分に出来る最善を繰り返し行ってきた。繰り返される投影魔術、その都度襲われる激痛。

 

魔力回路は焼き切れる寸前で、度重なる魔力消費も重なり、握られた干将莫耶もその刀身部分は砕かれてしまっている。

 

限界だ。これ以上魔力を消費すれば、魔力が尽きるよりも早く回路が焼き切れる。元より、既に衛宮士郎には満足に動ける体力も残されていない。

 

「これ以上の余興は無用よ。先の男共々───死に果てろ」

 

「ふざ………けるな」

 

「うん?」

 

「アイツが、修司が、死ぬものか。アイツは、凄い奴なんだ。誰よりも努力して、誰よりも戦って、誰よりも立ち上がって、誰よりも………桜の幸せを願っていた!」

 

「……………」

 

「そんなアイツが、何一つ約束を守らないままで、終わるわけ、ないだろ! 舐めすぎなんだよお前らは、アイツを、白河修司って人間を!!」

 

全身を血で染め上げながらも尚、士郎は吠え続けた。自分の友達は死んでなんかいない、絶対に立ち上がり、再びお前の前に現れるのだと。

 

酷い妄言だ。根拠も何もないただの空想、魔術師でありながら現実を直視出来ていない士郎を最早価値の無いモノと断定し、彼に向けて無数の影の槍を飛ばす。

 

既に、衛宮士郎に頭上を覆う影の雨を防ぐ手立てはない。しかし、その目には依然として輝きを纏っていた。絶望の淵に立たされても決して諦めてなんかいない、人間染みた悪足掻きの光を。

 

瞬間、ユスティーツアの背後から光が溢れた。其所は自分の力の原動力である要、大聖杯が埋め込まれた場所。まさか、有り得ないと否定しながらも振り返る彼女が目には───。

 

奴が立っていた。その身に先程の炎とは違う淡く輝く光を纏いながら、白河修司が立っていた。

 

「バカな……何故、生きている。たかが人間が、何故あの中で生きていられる?」

 

今の大聖杯の中身は“この世、全ての悪”によってその全てが汚染されている。魔術的防御手段もない只の人間が其処に落ちれば、発狂して死に果てるのが当然。

 

しかし、目の前の男は生きている。死に果てる処かユスティーツアですら理解し得ない光を纏って佇んでいる。一体奴は何をしたのか、それを問い詰めるよりも速く───。

 

「っ!?」

 

「え? あ、あれ?」

 

修司は士郎の側へ移動していた。その動きに反応出来ず、知覚する事すら出来なかった。攻撃手段である無数の影の槍はいつの間にか消え失せ、其処にはただ静寂だけが広がっていた。

 

「修司、お前、やっぱ生きてたのか。良かった。本当に………」

 

「遅くなって悪かった。お前にも大分迷惑を掛けた」

 

「迷惑な訳ないだろ。それに………はは、何か今のお前すげぇや。こんな近くにいるのに滅茶苦茶遠くに思える。この土壇場で覚醒とか、本当にヒーローみたいだな」

 

「───少し休んでろ。後は、俺が何とかする」

 

そう言って修司は士郎の胸元に手を当てる。士郎の体の中で張り巡らせる器官、それが魔術回路だと認識した修司は其所へ向けて意識を集中させる。

 

瞬間、士郎は自身の体に変化を起きているのを感じた。酷使し、焼ききれる寸前だった魔力回路が生き返っていくのが分かる。体力そのものは回復していないが、それでも全身を蝕む痛みが全くと言って良いほどに快復した事に士郎は目を丸くさせる。

 

「これで、少し休めば体力の方も回復する筈だ。頼むぜ正義の味方、お前の出番はもう少し先だからよ」

 

「修司………」

 

大聖杯の中で何が起こったのか、明らかに以前とは異なる様子の修司。だが、士郎以上に戸惑い困惑しているのは他ならぬユスティーツアの方だった。

 

「………嘘だ。有り得ない。こんな事、有り得る訳がない。何故魔術回路を持たぬお前が“ソコ”へ往ける? 魔術も神秘も解さない一介の人間風情が、何故その領域に踏み入れられる?」

 

その声は何処までも震えていた。まるで今の修司が有り得ない存在だと言うように、ユスティーツアの声は何処までも驚愕と怯えで染まりきっていた。

 

「その境地は、一介の人間が辿り着けるモノではない。何だ、 何なのだ貴様は!?」

 

「さてな。今の俺が何なのかは俺自身が知りたい所だが………今は、そんな事はどうでもいい。俺がやるべき事は何一つ変わらない。いい加減、桜ちゃんを返して貰うぞ」

 

それは、全ての魔術師が追い求めて焦がれるモノ。

 

“根源”

 

似て非なる力を発現させた修司にユスティーツアは発狂の雄叫びを上げる。

 

「それは、貴様ごときが触れていい力ではない! 返せ、その力、返せぇぇぇぇっ!!」

 

「別に、お前のモノじゃないだろ」

 

ユスティーツアの叫びに呼応して、影が無数に現れる。天井から、壁から、地面から、人の形をした無貌の影が獲物を補食しようと大空洞の全てから溢れ出る。

 

既に悪意の泥が円蔵山に浸透しつつある状況、僅かでも触れれば魂ごと汚染される強烈な悪性の塊達を前に──。

 

「フンッ」

 

修司はその腕を横に凪ぐ。それだけで影は形もなく霧散していき、その光景にユスティーツアは言葉を失う。

 

士郎もまた同様に目を大きく見開かせていた。今の修司は明らかに今までと異なっている。けれど、それは決して悪いことではなく、士郎には友人のその姿が何故か凄くしっくり感じた。

 

「嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ───嘘だぁァァァッ!!」

 

認められない現実を押し潰そうと、ユスティーツアは叫び、再び影が形作る。それは、一つの波だった。大空洞の全てを覆い、埋め尽くすだけの影の波が修司達の頭上に生み出される。

 

今、修司達がいるのは出入り口を塞がれた閉鎖空間にいる。外界から隔離され、外との繋がりを立たれた現在の大空洞は言わば一つの固有結界。

 

「私の前から………消えろォォォッ!!」

 

降り注がれる泥、津波の如く降り注がれるソレを修司は避けもせず佇み───片手を翳した瞬間。

 

押し寄せる影の泥を一切の抵抗なく掻き消していく。その光景にユスティーツアの思考が停止する。有り得ない光景に遂に彼女の思考回路が停止したのだ。

 

そして、その瞬間を修司は見逃さない。思考を停止させて動かなくなったユスティーツアに修司はすかさず眼前まで移動する。その際の挙動や初動の気配を一切の感じ取れないまま、ユスティーツアは懐へ潜り込まれ………。

 

「桜ちゃんから───出ていけ」

 

眼前に翳した掌から、力を放つ。其処に物理的干渉はなかった。霊的力も、魔力の欠片も感じ取れなかった。────なのに。

 

(そんな、引き剥がされていく!? 魔術による契約を、魂レベルの融合を、何の抵抗もなく!?)

 

間桐桜の器から汚染されたユスティーツアが引き剥がされていく。そこに一切の制約はなく、ただ一方的に、無慈悲に、抵抗すら許さないまま。

 

それはユスティーツア、多くの魔術師によって定められた不条理が更なる理不尽によって覆される瞬間だった。ユスティーツアが桜から引き剥がされるのと同時に彼女との繋がりも断たれていく。

 

断末魔も上げられぬまま、ユスティーツアはその魂ごと大聖杯へと返される。一分にも満たない攻防、しかしその間に全ての決着は付いた。

 

大聖杯の呪いから解放され、臓硯によって施された蟲達もその全てが除去された。付けられた傷や失ったモノは帰ってこない、しかし修司の腕の中には確かに息づく桜の姿があった。

 

「修司!」

 

修司の側へ士郎が駆け寄って来る。どうやら走り回れるだけの体力は回復したようだ。全快までとはいかなくともそれなりに元気になった友人に修司は安堵しながら振り返る。

 

「………やったんだな?」

 

「あぁ、この通り、桜ちゃんは無事だ」

 

修司の腕の中で意識を失いながらも静かに息をする桜に士郎は安堵する。これで本来の最終目的も完遂された。ならば後は帰るだけなのだが。

 

『許さない。逃がさない。お前だけはここで死ぬべきだ。お前だけは私に殺されるべきなんだ』

 

瞬間、地響きと共に大聖杯が肉の触腕を生やしてクレーターから浮上する。大聖杯の中身と思われる剥き出しの女神像、歪み吠えるその姿は先程まで桜に憑依していたユスティーツアの成れの果てに酷似していた。

 

「嘘だろ!? あれだけの質量が浮かぶか普通!?」

 

直径一キロにも及ぶ大空洞を埋め尽くす程に巨大な大聖杯、至る所から腐蝕し、汚染された液体を振り撒き此方に狙いを定めるそれに修司は一つの決断を下す。

 

「士郎、桜ちゃんを頼む。そして出来るだけ離れて屈んでくれ。運が良ければこれで全部が終わる」

 

「終わるって、何をするつもりなんだよ!?」

 

「説明は後、桜ちゃんを守ってくれよ。正義の味方」

 

「───分かった」

 

修司の抱く策にどれだけ自分が協力できるか分からない。渋々ながら了承した士郎は桜を抱え壁際まで退避していく。

 

その間に大聖杯は更にその姿を膨らませ続けていた。そこに嘗ての願望器の姿はない、それは何処までも凝縮した人の悪性。人に、命に対して何処までも負の面しか映さない呪いの虚像。

 

らしくもなく、憐れだと思ってしまった。本来ならばこの大聖杯もこの様な終わり方だって望んではいないだろうに。魔術師の手で生み出され、汚染され、そして望まれる事なく終わっていく。

 

その最期に同情もするが、此方も生きるために必死に戦っているのだ。人の歴史を終わらせない為にも、修司は全ての力を解放させる。

 

「───漸く、俺の願いが果たせそうだ」

 

頭上に浮かぶ黒い孔がドンドン肥大化していく。それは、あの日の冬木の空に何処と無く似ていて、その光景を目の当たりにした修司は内心で感謝した。

 

ここまで自分を繋いでくれた全ての因果に。

 

白河修司が抱く願いは10年前からずっと変わらない。嘗て自分の全てを奪ったモノを思い切りブッ飛ばすという願いを。

 

『シュウジィィィィッ!!!!』

 

怨霊が、怨嗟の叫びと共に全てを吐き出してくる。それは、嘗て冬木を襲った呪いの泥、押し寄せてくる大海の如き呪いを修司は静かに見据え───構えを取った。

 

「か………め………は………め───」

 

嘗て、この冬木には多くの苦しみがあった。多くの嘆きが起きた。たった一つの願いを巡り、その所為で多くの命が散っていった。

 

悔しさがあり、憎しみもあった。けれど、それも今日で終わり。

 

悲しみも憎しみも、後悔も憎悪も、全て余さず消し飛ばす。万感の思いを込めて───。

 

「波ァァァッ!!」

 

全てを振り絞る勢いで放たれた閃光は押し寄せる泥の波を吹き飛ばし、大聖杯へ雪崩れ込んでいく。

 

溢れ出る閃光は円蔵山を内側から蹂躙していく。崩れる瓦礫も、岩盤も、何もかも吹き飛ばし。

 

軈て円蔵山に建てられた柳洞寺はその山ごと吹き飛んでいき、嘗て五百年前に埋められた大聖杯は空の彼方へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 




Q.洞窟内でかめはめ波射ったら瓦礫で生き埋めになるんじゃ?

A.山ごと瓦礫も吹き飛んだので無問題。

尚柳洞寺も。つまりは。


一成「お山がぁーっ! お山そのものがぁーっ!!」


Q.誰が事後処理すんの?

A.僕らのスーパー魔女っ子メディアちゃん

Q.………事後処理仕切れるの?

A.
AUO「知らん、そんなのは我の管轄外だ」




修司のいるFGOWith第7特異点 前編

シドゥリさんの場合。

「はぁ、貴方もギルガメッシュ王の臣下………ですか? だから自分の事は後輩だと思って、好きに扱き使って欲しい?」

「フフ、カルデアの人は随分愉快なんですね。あぁ、すみません。侮辱のつもりは無いんです。ただ、我が王に此処まで慕ってくれる臣下の人は中々いませんので」

「えぇ、貴方のその力、存分に頼らせて戴きますよ。宜しくね。シュウジ」




アナちゃんの場合。

「なんか、執拗にサインをネダラレたんですけど? え、小さい頃からずっと視てた?」

「それは、どういう?」

マーリンの場合。

「知ってるんだからね! 君が先の特異点で円卓の皆に、何より僕の王にどんな仕打ちをしたのか! 人間に対してこんな気持ちを抱くなんて初めてだよ!」

「君なんて、嫌いだい! 君の応援なんかするもんか!」

「やーいやーいこのボッチ! アイダダダダ! 暴力に訴えるのは卑怯だぞ!」

「フォウ……」


イシュタルの場合。

「喜びなさい。アンタみたいな人間にこの最上の女神、イシュタルが相手してあげるんだから。人間なんて、私に頭を垂れてれば良いのよ」

「はぁ? 人間だって必死に努力すれば神様だって超えられるかもよ。ですって? ハッ、面白い冗談ね」

「なら、努力ではどうしようもない壁というモノを………見せて上げるわ」

数秒後。

「ケツガー!?」


エルキドゥ(?)の場合

「ふん、人間の癖にやるじゃないか」




賢王ギルガメッシュの場合。

「来るか、人類最後のマスター達よ。さぁ神々よ、刮目して見るがいい」

「ハチャメチャが押し寄せてくるぞぉぉぉっ!!」




次回、降臨。

それでは次回もまた見てボッチノシ













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