『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回は日常(?)回です。


その22

 

 

○月▲日

 

 謎の組織の襲撃から数日、どうにか落ち着きを取り戻したIS学園は少し緊張感を抱きながら、いつもと変わらない時間を過ごしていた。

 

織斑先生や多くの先生方のその後の生徒達への対応も的確であった為、不安を顔に出す生徒はいないが、それでも何人かに一人は表情を暗くさせる子がいた。

 

自分も相談相手として生徒達の話を聞かせて貰っているが、それの多くは学園祭の事だった。一年生にとっては高校最初の、三年生にとっては高校最後の学園祭が、誰とも知らないテロリストによって台無しにされて悔しいという話ばかり。

 

皆、あれだけ一生懸命に学園祭の為に準備していたものなぁ。それがテロリスト達の勝手な思想で台無しにされたとあっては……悔しいに決まっている。

 

 あの後、どうにかテロリストの一人を撃退する事が出来たのだが、その後に現れた見たことのないISによって蜘蛛女を連れ去られてしまったのだ。何でもあのISはサイレント・ゼフィルスと呼ばれる機体で、それはイギリスから強奪された実験機らしく、あの機体を目にしたセシリアちゃんは「何故あれがここに!?」と、酷く狼狽していたのを覚えている。

 

その後は合流した箒ちゃん、簪ちゃん達専用機持ちのメンバーで囲んで二人まとめて捕まえようと思っていたが、例のスコールと呼ばれるもう一人が姿を見せていない事や、不安材料を残したまま強行手段に移るのはリスクが高いと思い、自分の独断で奴らを逃がす事となった。

 

たかが用務員が独断でそんな判断を下すのは間違っていると思うのは百も承知だ。しかし、テロリストという輩は本当に厄介な連中で、自分達の主義主張を貫く為にはあらゆる手段を用いる事も辞さない事で有名だ。

 

爆弾や自爆、人質を使っての脅し、様々な手口や手段を用いてくる。下劣にして最悪な存在、個人的にはインベーダーやアンチスパイラル並に恐ろしく、そして腹の立つ存在だ。

 

そんな奴らの内の一人が、未だ姿を現さずにいる。どこか遠くで見ているのか、それとも既に学園内で爆破物の設置に成功しているのか、避難している他の生徒達や来賓の方々を巻き込んでしまう可能性がある以上、無理な行動は控えた方がいいと判断し、自分は奴らを逃がす事にした。

 

その後は周囲に敵影がいない事を確認した後に先生達と一緒に学園内を隅々と見回した所、どうやら危険物を仕込まれた様子はないらしく、取り敢えず安心した。

 

 一夏君や他の皆を危険な目に遭わせておきながら犯人達を見逃すという愚考、当然専用機持ちの子達から何らかの苦情や文句は来るかと覚悟していたが……何故か、そんな言葉は一言もなかった。

 

ラウラちゃんも自分の言葉に賛同してくれてたし、セシリアちゃんや鈴音ちゃんも笑って誤魔化してばかり、シャルロットちゃんと箒ちゃんに至っては目を逸らして自分と視線を合わせようとしない。

 

やはり自分の勝手な判断が皆に不満を抱かせているのだろう。今回自分は織斑先生に事の顛末を報告して用務員の役割から余りにも外れた行為の償いをする為、壊れた学園の外壁を全部自分で直す事にした。

 

織斑先生は自分の判断は間違ってなかったから気にするなと言ってくれるが、理解は出来ても納得できないのが人間の性だ。皆の悔しい気持ちを少しでも和らげる為に自分は自分の出来ることを全力でこなす事にしようと思う。

 

それに、学園の壁を破壊したのは他ならぬ自分だ。ならば壊した壁を直すのもまた自分の仕事だと言えるだろう。

 

 学園の安全面に関して大きく見直す事になるかもしれない今回の一件、余計な事かもしれないが、今度織斑先生と相談し、政府に自分が学園の防衛システムに手を加えても良いか打診してみようかと考えてみる。

 

前々から考えていたIS学園に対する安全面、期間的に手を出すのは例の一ヶ月が過ぎた頃になるだろうか……幾つか既に案はあるので、IS制作と平行して頑張ってみようと思う。

 

 ……けれど、やっぱり皆テロリストに襲撃を受けてどこか不安に思う所があるんだろうなぁ。気丈に振る舞っているけれど、彼女達がいつも通りの笑顔を取り戻すにはもう少し時間が掛かるだろう。

 

特に専用機持ち達、みんな自分が話しかけると何故か挙動不審になる。ラウラちゃんに至っては自分を見かける度に敬礼するし……。

 

箒ちゃんとシャルロットちゃんも自分と合流した時は白目剥いて立ったまま気絶していたし、今も自分を見かける度に涙目になっている。一度、キチンとカウンセラーの人に看てもらった方がいいと思う。

 

まぁ、この件は一夏君にそれとなく頼んでおいたし、律儀な彼の事だからきっと聞き入れてくれた事だろう。

 

それに、人は衝撃的な事実を受け入れる事によってそれに見合った強さを得ていくもの、自分もそういった経験をしてきたから、きっと皆も今回の事を乗り越えて強くなっていくのだろう。

 

そう思うと、一ヶ月後が楽しみに思えてくるな。

 

 

 

○月L日

 

 今日、政府からISのコアが届いた。壊した外壁の修理も終えてこれから月と火星方面に向けて出立しようと思う。

 

本当はテロリストからの襲撃を受けた為に出立しようか迷ったが、織斑先生の後押しもあって結局行く事にした。山田先生と織斑先生、そして十蔵さんに見送られて自分は暫し学園を離れる事にする。

 

自分がIS学園から離れて一ヶ月、時期的に帰りは専用機持ち同士のタッグマッチトーナメント戦と重なるだろうけど、ギリギリ間に合わないと思う。自分の考えるISは目的はシンプルだがそこまでに至る過程が長い。二度三度の制作失敗は覚悟した方がいいだろう。

 

今、自分はとある海洋の海底でグランゾンのコックピットに座っている。横にあるケースは厳重に封印されており、幾つものロックが施されている。

 

これを使って自分なりのISを作りだし、世間にISの本当の役割を思い出させる。それが、篠ノ之束博士の手助けになる事を信じて……。

 

────しかし、篠ノ之博士はそもそもどうして姿を消したのだろう。前も色々考えてはみたが、どうも原因となるモノが足りない気がする。

 

もしかしたら、例のテロリストと何らかの関係があるのだろうか。連中は一夏君のISを狙っていたし、彼のISコアにも何らかの秘密があるようだ。

 

……篠ノ之博士と一夏君の白式、そしてテロリスト。これらが繋がっているように想えるのは自分だけだろうか?

 

帰ったら織斑先生と相談してみようと思う。その為にも、まずはこれからの一ヶ月、しっかり乗り越えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぬぬぬぬ~! 白河修司めぇ! なんちゃって用務員の癖に生意気だぞ~!」

 

 薄暗い空間、幾つもの電子モニターが浮かび上がる異質な空間にキーボードを叩く音が響きわたる。女性がキーボードを叩く速さは異常だった。幾つものパネルをドラム奏者の様に叩きながら、様々なプログラムを作り出す光景は他の者から見てると圧巻とも言えた。

 

「何がISをあるべき姿に帰すだよ! 余計なお世話だってんだ! 余所者は余所者らしく大人しく隅で引っ込んでろよ!」

 

苛立ちと悪意を乗せた罵倒の数々が部屋の中で木霊する。憎たらしい奴を倒すため、その算段と方法を頭の中で構築させていくのは世界を変えた一人の天災、篠ノ之束その人だった。

 

気に入らないから潰す。そんな単純な思考の中で生まれる情報量は膨大。幾つものプログラムを生み出す彼女の手は未だ止まることはない。

 

そんな時、束の後ろにある扉が開かれ、奥から一人の少女が現れる。その人物に気付いた時、束は先程までの怒りの表情を一瞬の合間に四散させ……。

 

「あ、クーちゃんだ!」

 

「お待たせしました束様、お昼のご用意が出来ましたのでお呼びに上がりました」

 

「あっはは~、ありがとう! でも私の事はいい加減ママって呼んで欲しいかな~?」

 

満面の顔で座っていた椅子から飛び上がり、後ろに控える少女に抱きつく。少女はそれに驚きこそしても、決して束を拒絶する事なく、戸惑いながらも彼女を受け入れた。

 

と、そんな時だ。抱きつかれている少女の目にある人物の姿が入ってきた。映し出されているのはモニターに映る一人の青年。紫色の髪が特徴的な青年が不敵な笑みで画面中央で佇んでいる光景だった。

 

「束様、あちらの方は……お知り合いですか?」

 

「知り合い!? 全然違うよクーちゃん! アイツはね、敵だよ! 私の邪魔をするムカつく敵!」

 

「……敵?」

 

首を傾げて訊ねる少女に束はウンウンと頷いて肯定する。それを受けた少女は閉じた目で再び画面へと視線を戻し……。

 

(あの男は束様の敵、それは同時に私の敵であるということ……ならば)

 

(白河修司、いずれ貴方の命を貰い受けます)

 

開いた彼女の目は黒と金で覆われていた。

 

 

 

 




Q束博士は主人公がはっちゃけた事を知らないの?
A博士は現在主人公にお仕置きする算段で忙しいので……代わりに助手の子が頑張ります。


クーちゃん「束博士の為に、お命頂戴します!」
主人公「篠ノ之博士の助手!? これは丁重に扱わないと!(使命感)」

みたいな?(笑)

次回は他視点の話になる……かも?

また見てボッチノシ





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