『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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シリアス「バイバイ、みんな」







その58

 

 

 

 

薄暗かった大空洞に風が吹き抜け、頭上には満天の星空が瞬いている。その光景に目を奪われた士郎はこの光景を生み出した男に呆れの混じった笑みを浮かべる。

 

「は、はは………マジかよ」

 

先程まで自分達の前には絶望が広がっていた。膨張し、肥大化された悪意の結晶。それが溢れ出た時にこの冬木は………いや、世界中が10年前の大災害を体験していた事だろう。

 

この地球という星に住まう生きとし生ける全ての命を殺し尽くすまで、あの泥は止まらない。実際士郎は死を覚悟したし、頭の中には桜だけでも守らなければという思考だけで埋め尽くされていた。

 

が、そんな思案も次の瞬間には消し飛んでいた。中学からの縁で友人関係を築いている陸上部のエース、白河修司。彼が放つ蒼白い閃光はあの穢れた大聖杯をその泥ごと吹き飛ばし、成層圏の彼方へと吹っ飛ばしてしまった。

 

最早、笑うことしか出来なかった。迫り来る不条理な絶望を希望という理不尽を以て凌駕する。悲劇しか無かった未来を一瞬にして喜劇へと変えてしまった友人に士郎は桜を抱え、笑顔を振り撒きながら歩み寄っていく。

 

───彼の側まで歩み寄る頃にはもう彼を包むあの輝きは消え失せていた。

 

「………やったな。修司」

 

「…………へへ」

 

士郎の呼び掛けに振り向き、肩で息をしながらサムズアップをしてくる修司に士郎は肩を竦めた。

 

「はーっ、つっっっかれたぁぁ」

 

「はは、お疲れ様」

 

明らかに普通じゃない力を発現させたあげく、大聖杯を地球外へ吹き飛ばしておきながら“疲れた”程度で済ませる修司に、士郎は呆れながらも労った。

 

身体中傷を付けながらも、五体満足で大聖杯の中から帰還し、元凶諸とも凶悪を屠ってみせた。桜を見殺しにする事なく、殺すこともなく、人質も無事に救出してみせた。この結果は士郎が予見してきた中でも最上位の結末。

 

それをもたらしたのは他でもない修司だ。きっと、自分ではどうにも出来ない場面はあった。諦めたり、仕方ないと言い訳して最上ではなく最善の結末を選んだ筈だ。

 

対して修司は決して妥協せず、どんな苦境や逆境を前にしても、折れずに最後まで足掻き、その果てに自らの意思と力でこの結果を勝ち取って見せた。そんな友人の無茶苦茶ながらも必死に、我武者羅に、自分の我を通すその在り方に士郎の内心は悔しさや羨望以上に嬉しさがあった。

 

「本当、大した奴だよ。お前は」

 

「あぁ? 何か言ったか?」

 

どうやら余程疲れているのか、両手を両膝に付けて肩で息をして聞こえていない様子の修司に士郎は何でもないと返す。

 

「さて、これで元は断たれた筈だ。あとは………」

 

「遠坂達の方だな」

 

元凶である大聖杯はもう此処にはない。そろそろその影響が出始める頃合いだろう。あの面々ならランサーも倒せた筈だろう、そう思いながら二人はこの場から立ち去ろうとするが………。

 

「………なんだ?」

 

ふと、遥か彼方から気配が膨れ上がるのを感じた。

 

「修司? どうした?」

 

立ち止まり、振り返れば空を見上げている修司を訝しむ。何だと思い同じように空を見上げれば───うっすらと空が黒く滲み出しているのが見えた。

 

嘘だ。頭に真っ先に浮かぶのは否定の言葉、だって大聖杯は確かに修司の手によって破壊された筈。桜を守るのに必死で直接目にした訳ではないが、大聖杯が破壊されるだけのエネルギーが放たれた筈だ。

 

「まさかユスティーツアの奴、大聖杯の自爆をしようとしているのか?」

 

「なっ!?」

 

そんなバカな。あれだけの膨大なエネルギーの奔流を受けて、まだその機能を停止………いや、破壊されていないのか。予想以上の頑強さに修司も士郎も言葉を失っていた。

 

否、大聖杯は既に大部分が破壊されている。その機能は本来の三割にも稼働されてはいない、出来ても精々これ迄溜め込んでいたモノをぶち撒ける程度(・・・・・・・)

 

しかし、それで充分だった。大聖杯が悪意に染まったその日から貯めに溜めた悪意の炎。長い年月を掛けて霊脈から吸い上げた魔力は世界中を覆う迄に達している。

 

其処に最早意志はなく、あるのはただ悪意という名の怨念のみ。生者を憎み、命を妬む、人類を含めた総ての生命体に対する悪意。それが大聖杯に残されたモノだった。

 

止められる術はない。既に大聖杯は大気圏外を越え人の届かぬ場所へと上げられた。他ならぬ人の手によって……。

 

この状況を覆す事は不可能、最早地球の命はただその時を待つだけだ。この不条理を超えるのは不可能、この理不尽を凌駕する事は───不可能なのだ。

 

地上からでも認識できる悪意の膨張、黒の夜空がよりどす黒く滲んでいく光景に士郎が地に膝を着けようとして────。

 

「そっか、なら────仕方ないか」

 

「修司?」

 

何処か、悟った様子の修司に士郎は隣の彼を見る。その顔に諦めは無かった。絶望も無く、ただ何処までも自然体な笑顔を浮かべて………何かを決めた顔をしていた。

 

「士郎、桜ちゃんを頼む」

 

「頼むって、お前はどうするんだよ?」

 

「決まってる。大聖杯を破壊する。ここまで来てあんなどんでん返しなんて……俺は、認めるつもりはねぇからよ」

 

そう言って修司は山吹色の胴着、その上着を脱いで裸の桜へと覆い被せる。男性ながらの大きさで士郎に抱き抱えられた桜を覆うには充分な大きさだった。

 

「悪いな桜ちゃん、こんな汚いヤツで」

 

「修司、お前………一体何をするつもりなんだ?」

 

大聖杯は空の彼方へと飛ばされ、そこは人の手には届かない場所でどんなに手を尽くしてもどうにもならない状況となっている。なのに修司のこの自信はなんだ? どうしてこの状況でそこまで笑っていられる?

 

諦めたわけでも悟った訳でもない。ただ覚悟を決めた修司に士郎は何をするつもりかと問い詰めるが………その問いに答える事は無かった。

 

「士郎、何度も言うようだが桜ちゃんを頼む。彼女には………お前が必要だ」

 

「修司?」

 

「万人の為の正義の味方、か。それも格好いいけど、大切な一人の為に正義の味方を張るのも悪くは無いと思うぜ」

 

「……………」

 

笑みを浮かべながらそう言う修司に士郎は何も言い返せなくなった。あぁそうか、目の前の男は今、この状況を覆す為に覚悟を決めたのだ。

 

自分達の頭上で膨れ上がる理不尽を、地球を死の星に変えてしまう不条理を、悪性の塊を消す為に修司は自ら更なる理不尽になることを決めたのだ。

 

衛宮士郎はそれ以上、何かを口にすること無く修司から離れていった。離れていく士郎を一瞥し、修司は再び空を見上げる。

 

「さて、そろそろ夜も明ける。最速で最短で、一直線に────決めてやる」

 

ソレ(・・)を喚べば、きっと自分はあの者に近い存在となるのだろう。夢で見たあの怪物の様に………でも、不思議とそこに恐怖は無かった。

 

だって、自分はあの男とは違うから。どれだけ自分が奴に近付いても、根底にある想いは変えられないと確信しているから。

 

王様がいる。シドゥリさんも、師父も、士郎も、慎二も、学校の皆も…………だから、自分は大丈夫だ。

 

自分はアイツのようにはならない。それは強がりではない確かなもの、だからコレを喚ぶのに迷いは無い。全ては自分が失いたく無いものを護る為、それに仇なす輩を滅する為………。

 

「目覚めの時だ。来い────ネオ・グランゾン!!

 

白河修司はその名を叫ぶ。

 

瞬間、地の底が割れるように空間が裂けていく。修司の喚び掛けに応え、顕れるのは蒼き魔神。日輪を背負い、禍々しくも何処か神々しいソレは自分を見下ろしてくる。

 

その魔神を見て修司は正しく認識する。この魔神の乗り手は自分なのだと。

 

後ろを見れば言葉を失い口を大きく開かせた士郎が、離れた所で魔神を見上げていた。それを見て思わず吹き出してしまった修司はそれでも彼に聞こえる様に声を張る。

 

「んじゃ、行ってくる」

 

修司の言葉に我に返った士郎は何も言わずサムズアップで返してくる。それを見て修司もまた親指を立てると、魔神へと乗り込んだ。

 

自分を迎え入れる様に魔神の胸部の一部が開かれる。其処が自分の入る所なのだと察した修司は導かれるままに其処へと入る。

 

そこは、何処か見覚えのある光景だった。未来的で、革新的なコックピット。世界中何処を探してもこれ以上の代物はお目に掛かれないだろう。

 

戸惑いながらも修司は操縦桿らしきモノを握り締める。すると、頭に魔神を動かす術と技術が流れ込んでくるのを感じた。

 

圧倒的情報量、しかし不思議と嫌悪感や忌避感はなかった。あるのは既視感のみ、ここへ意識を持って来るのは初めての筈なのに、何処か修司には懐かしさを感じた。

 

同時に今まで何の反応もなかったコックピットに光が灯る。薄暗い空間に瞬く間に光が広がり、外の景色が全面に渡って映し出されている。

 

目の前で浮かび上がるコンソール、其処には幾つものシステムらしき文字の羅列が展開され、機械的に処理されていく。けれど何故だろう、今日が初対面の筈なのに修司にはこの文字の羅列が魔神からのメッセージの様に思えた。

 

“お帰り”そう言われた気がする修司はふっと笑みを溢し、操縦桿を握る手に力を込める。

 

さぁ往こう。降り注がれる理不尽を覆す為に、絶望を凌駕する為に。

 

「往くぞ、ネオ・グランゾン!!」

 

主の声に応えるように魔神の双眸は輝きを放つ。垂直に浮遊し、飛び立つ魔神を見て………。

 

「スゲー。スーパーロボットだ」

 

衛宮士郎はその光景を見て不謹慎ながらワクワクしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソコは、誰も届かない場所。人類が地球に誕生して数千年、未だこの領域に辿り着いた者は数える程にしか存在しない。

 

星という最大級の生命体の外側の領域、宇宙。無限に広がる空間で最大限に膨れた悪意はその標的足る地球に向けて今その泥を溢れさせようとしていた。

 

大聖杯に意志は無く、あるのは何処までも深い悪意のみ。全ての命は許さないと、染め上げられた悪性は叫ぶ。

 

滅ぼせ、殺せ、全ての命は死に絶えろ。慟哭の様に叫びながら広がる泥、最早止められる者はいない。

 

人類の歴史は今日終わる。そう確信していたのに───。

 

『悪いが、此処までだ』

 

割れた空間から顕れる日輪を背負う魔神に遮られる。蒼く巨大な機械の魔神、一切の予兆も前兆も無しに顕れた魔神。大聖杯に意思や自我と呼ばれるものは存在しないが、この魔神を前にしたとき何故か震えた気がした。

 

怨念達が騒ぎだす。止めろ、邪魔をするなと。地獄の蓋は開けられた。もう誰にも止められはしない。

 

足掻くのを止めろ。運命を受け入れろ。不条理に抗うな、理不尽に呑まれろ。そんな悪意に満ちた怨嗟の声を………。

 

『ふざけんなバカ野郎。誰がそんなものに従うかよ』

 

誰よりも理不尽、不条理を許さない男が両断する。その言葉に一切の慈悲はなく、そこにはただ怒りが満ちていた。

 

『さぁ、仕上げだネオ・グランゾン。出てきたばかりで悪いが………本気でやろう』

 

『相転移出力───最大限』

 

瞬間、魔神の全体にエネルギーが満ち溢れる。迸るエネルギーは日輪を更に輝かせ、甲高い金属音が宇宙空間であるにも関わらず響き渡る。

 

『縮退圧────増大』

 

無尽蔵に膨れ上がる力、それは既に大聖杯すらも凌駕し、空間を裂く程に増大していく。そこに抑止や星の意思が介在する余地はなく、それは遍く全ての事象が一体の魔神と一人の魔人に捩じ伏せられた瞬間でもあった。

 

割れる空間、広がる異空間。それに呑まれた大聖杯が次に座していたのは………地球ではない何処か。世界の外側の更に外、理の埒外の世界。

 

もう、怨嗟の声は聞こえない。悪意の言葉は囁かれない、どんなに恨み節を語ろうともその結末は変わらないのだから。

 

『重力崩壊臨界点………突破』

 

体の内側から何かが崩れかける。溶けて、消えてしまいそうなソレを修司は精一杯繋ぎ止める。自分は消えない、自分は壊れない。この程度の負荷で白河修司は………偉大なる王の臣下は挫けない。

 

『お前の存在を、この宇宙から抹消してやろう』

 

そして、因子の侵食すらも耐えきった先にそれは顕現する。それは何処までも純粋な破壊の結晶。

 

『縮退砲────発射ッ!』

 

落とされるのは破壊の落涙、溢れるのは創世の光。呑まれ、消え逝く果てに大聖杯が最後に聞いたのは………。

 

『いや、あんなの無理っしょ』

 

何処までも黒に染まる少年の白旗を挙げる声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────水平線の向こうから太陽が覗いてくる。朝だ。魑魅魍魎の時間は終わり、人の世界、日常が戻ってくる。

 

けれど、人の世界が魔の侵食に怯える夜は………もう来ない。魔神────グランゾンのコックピットで朝日に照らされる冬木の街を見下ろして修司は思う。

 

「父さん、母さん、フィーネ婆ちゃん………終わったよ」

 

嘗て、この地に災いが起きた。それは大勢の人の命を奪い、今日まで人の心を蝕み続けていた。

 

でも、それももう終わり。悔恨に満ちた日は終わり、これよりこの街は本当の意味で前に進める事ができる。父と母の無念を晴らし、祖母との思い出を汚した元凶を破壊する事が出来た。

 

久し振りに晴れ晴れとした気分だ。そう思うのも束の間、修司の表情は引き攣るモノになる。

 

「さて、この騒ぎ………どうすっかなぁ~」

 

夜中に起きた円蔵山の消滅、そしてそこから出現する巨大ロボット。当然、コレを隠蔽する術など今の修司にある訳がなく。

 

有り体に言えば………冬木は大混乱に陥っていたのである。騒ぎ立てる街の住民、その多くが目を輝かせる若者ばかりで、お年寄りに至っては冬木の守り神が降臨されたと拝む始末。

 

警察もどんどん来てるし、何なら県外からも来てる。赤いサイレンに囲まれつつある状況に考えが纏まらなくなった修司は……。

 

「よし、逃げよう」

 

冷静に的確に、逃走の一手を選んだ。

 

後に、この騒動はとある魔女と黄金の王が総力を挙げて沈静化させるのだが、途中何度もその二人が喧嘩したというのは別のお話。

 

「あんなの、どう誤魔化せって言うのよ!?」

 

ちゃんちゃん。

 




Q.この世界にスパロボあるの
A.ないけどスーパーロボットという概念は存在します。
勇者シリーズとか普通にあったり。



修司のいるFGOWith第7特異点。中編

ジャガーマンの場合。

「待って、ちょっと待って、貴方この依り代と知り合いなのよね? ならどうして其処まで容赦がないの? 普通知り合いなら多少なりとも躊躇はある筈じゃない!」

「え? それを差し引いてもマシュちゃんを足蹴にしたのは許さない? うわー、コイツロリコンだ。しかも重度のロリコンだー」

「あ、すみません。調子に乗りすぎました。謝るのでその国民的気功波をぶつけようとしないで───」

「アッーー!?」


ゴルゴーンの場合。

「な、何故だ。何故貴様を前にすると震えが止まらぬ!? えぇい不快だ! 消えろ、消えてしまえ!」

「な、何故だ!? 何故我が魔眼が効かぬ!? なに? 魔眼だろうとそれが光による現象なら重力操作の応用で屈折させればいい? な、何を言っている!?」

「く、来るな。手をポキポキさせながら近付いてくるな。我が尾を掴むな! あ、アァァァァァッ!!」


「伝令! 女神ゴルゴーンが修司殿によってジャアイアントスイングで投げ飛ばされた模様!」

「うん知ってる。見えてたもの」

「まぁ」

「オッフォウ」




ケツァルコアトルの場合。

「アハハ! こんなに滾るのは生まれて初めて! 貴方は善き人間なのに私にダメージを与えてくる。こんなの初めてデース!」

「そう、人は此処まで己を高めることが出来るのね! 素敵! さぁ、貴方の輝きを見せて! 貴方の魂の息吹、その熱さ、情熱をもっと感じさせて下サーイ!」

「伝令! 女神ケツァルコアトルと修司殿、戦闘を開始! 周辺のジャングルを破壊しながらド派手にバトッている模様です!」

「うん、知ってる。ここからでも見えるもの」

「まぁ」

「オッフォウ」


エレシュキガルの場合。

「ちょ、ちょっと! 貴方もギルガメッシュを取り戻しに来たんでしょ!? 何で戦おうとしないのよ!」

「はぁ? 貴女の様な女神に手を上げることなんて出来ない? そ、そそそそんな事言って、私を油断させる気ね!」

「ちょっと、何かアイツ私の時とは態度が違い過ぎるんですけど? 私に至っては蹴りを入れられたんですけど?」

「当たり前だ戯け」



それでは次回もまた見てボッチノシ


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