『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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グラブルと鬼滅の刃がコラボすると聞いて。


その6

 

 

 

 

「さて、鬼の首魁を討ち取った所で………君はこれからどうする?」

 

 鬼舞辻無惨という鬼を倒し、一応の決着を着けたシュウジは朝日が昇る空を見上げる義勇に語りかける。先程まで涙を流して感極まっていた様子だったが、今はもう落ち着きを取り戻し、元の無表情な顔をしている。その事に安堵しつつ、シュウジは訊ねた。果たして彼はこれからどう生きるのだろう、会話の流れから先の無惨は目の前の義勇が属している鬼殺隊が長い間追い求めていた仇みたいだったし、もしかしたらその組織に報告するために戻るかもしれない。

 

そうなったら、自分も同伴しなくてはならないのだろうか? 実際に無惨を倒したのは自分だし、謂わば鬼殺隊が求めて止まない敵の総大将を勝手に横から討ち取っているのだ。

 

(きっと追求は免れないだろうなぁ。やだなぁ、怖い人とかいたらどうしよう)

 

人の手柄を横取りされて良い気持ちでいられる人間なんてそうはいない。シュウジも嘗て憎き仇はいたし、それを必ずと言って良いほどに報復してきた。復讐は人間だけが行える行為、今の時代がどうかは定かではないが、シュウジは復讐という報復行為自体を悪だとは思わない。

 

鬼舞辻無惨が義勇の属する組織鬼殺隊、そこの隊員達全員の仇だとするならば、それを横取りした形で屠った自分はもしかしたら彼等の怒りを買う事になるのかもしれない。

 

というかそうなるのは目に見える。自分だってそうなるもの、必ず報復すると誓った相手がどこ奴も知れない奴に始末されたと知れば、誰だって少なからず不満に思うだろう。

 

 もし自分もその鬼殺隊の本拠地に赴くのならば、目の前の義勇君に助け船を出して貰おう。そう思い青年の言葉を待っていると………突如、辺りに暴風が吹き荒れた。

 

「冨岡ァァッ!! テメェ、此処で何していやがるッ!!」

 

「─────」

 

「何故鬼を斬っていねぇ! いや、そもそも鬼どもは何処にいる!? テメェが先行していたんだろ!? 質問に答えろや冨岡ァァッ!!」

 

(なんか無茶苦茶怖い人が来たぁァァッ!!)

 

 風の中から現れたのは顔や体の至る所に傷を着けた銀髪の青年だった。この寒い冬空の下で胸元をはだけさせている事に色んな意味で驚くシュウジだが、目の前の青年の血走った目にそれ以上にビビっていた。

 

「テメェまさか、逃がした訳じゃねぇよなァ? 鬼の数にビビって、テメェ一人日が昇るまで隠れてたんじゃねぇだろうなぁ? 仮にもテメェも柱だ。そんな無様な姿、晒す訳ねェよなァ?」

 

(すみません。鬼より貴方の方が遥かに怖いです)

 

控えめに言っても堅気の人間には見えない銀髪の青年、血走った目で義勇に詰め寄り睨み付けるその様子はどう見ても借金を取り立てる裏組織のソレである。この人も鬼殺隊? 嘘でしょ、鬼より恐ろしい風貌してるんだけど。

 

 心の内で誰よりもビビるシュウジ、どうか自分に話を振らないで欲しい。そしてどうか義勇青年、上手く事情説明をしてくれ。これ迄少ししか言葉を交わしていないが、義勇青年は人情味溢れる好青年だ。きっと、この場を上手く纏めてくれるだろう。シュウジは猛る銀髪青年の鎮静化を義勇に委ねて内心で祈る。

 

「………俺から言えることは何もない」

 

(ファっ!?)

 

しかし、その祈りは最悪な形で裏切られる事になる。どうしてこの場面でそんな台詞が言えるのか、さっきの無惨相手にはあんなに口早く喋っていたのにどうしてここへ来てそんな口数が少なくなってしまうのか。

 

もしかしてこの義勇青年、コミュ障だったりするのだろうか? だったらごめんね気付いてやれなくて、フォローすべきは自分の方だった。そんな風にシュウジが後悔するも時すでに遅し、義勇青年の一言にプルプル震えていた銀髪の青年は遂に此方へ狙いを定めるのだった。

 

「………おいそこの紫頭、テメェ、いつから此処にいた? 何か知っているなら教えろ」

 

冷静さを装っているのだろう。銀髪青年の声は低く大人しいモノになっている。しかし悲しいかな、先のやり取りを見ていたシュウジとしては銀髪青年の声が凄まじく恐ろしいモノに聞こえてしまって仕方がない。

 

「言っておくが、妙な嘘を吐くんじゃねェぞ? 今の俺は少々気が立っているからなァ、出来れば手荒なことはしたくねェ」

 

(いやもう怖すぎィィッ! 今すぐ竈門家の皆に会いたいよぉぉぉっ!!)

 

思い浮かぶのは数時間前まで一緒にご飯を食べていた竈門家の人達、屈託のない笑みを浮かべる子供達、それを見て困りながらも幸せそうに微笑む母、そんな家族と共に囲う食卓は言葉にできない癒しの空間が出来上がっていた。

 

あの空間に帰りたい。最近は禰豆子ちゃんともけっこう話すようになったし、花子ちゃんとも炭治郎程でないにしろ自分に懐いてくれるようになった。

 

竹雄君には空手を教える約束をしていたし、茂君と六太君には凧上げのコツを教えて上げる約束をしている。そうだ。自分にはまだ、やるべき事がある。ここで恐怖に屈する訳にはいかない。

 

自分は一人っ子だ。妹や弟はいないが、それでも一人っ子なりに頑張ってきた。

 

(頑張れシュウジ頑張れ!! 俺は今までよくやってきた! 俺はやれば出来る奴だ!)

 

(そして今日も、これからも! 俺が挫ける事は───絶対にない!)

 

 シュウジは内心で己を勇気づける。そして毅然とした態度でことの顛末を話そう。未だ睨んでくる銀髪青年に向き直り、佇まいを正したシュウジは一言。

 

「スミマセン。鬼舞辻無惨は、俺が倒しました」

 

それは簡潔で齟齬のない完璧なモノだった。変に言い訳染みた事は言わず、相手に伝わりやすいシンプルな説明。確かに自分は鬼殺隊の仇敵である無惨を横取りするような形で倒した。そこに罪悪感がないと言えば嘘になる。だが、それを嘘や誤魔化しで話さないのは彼等に対する不義理になる。

 

彼等からすれば自分は横からでしゃばった無関係の人間、ならばせめて真実を包み隠さず話すことがこの場における最良の選択の筈だ。自信に満ちた表情で語るシュウジ、義勇からは何のツッコミも無かったし、きっとこれが正解なのだろうと………。

 

「おいテメェ、なに笑えない嘘吐いてんだコラ?」

 

顔中に筋を浮かべて爆発秒読み開始となった銀髪青年に、シュウジは己の自信が砕け散った音を聞いた気がした。

 

(あ、こりゃダメだわ。地雷踏んだわ)

 

義勇青年に対する物言いよりも声音が低くなった分恐ろしい形相となった銀髪青年にシュウジは先程以上の恐怖を覚えた。

 

おかしい、今は朝日が出て始めて体は暖かくなってきている筈なのに背筋が氷を突っ込まれた様に冷たい。助けを求めて義勇青年に視線を送るが、義勇青年はのほほんと無表情のままで何かを言うつもりはないらしい。

 

(嘘でしょ!? 君鬼殺隊の人間なんでしょ!? 仲間なんでしょ!? 何で情報共有しないの!? 何で詳しく説明しようとしないの!? 口下手なの!? 人見知りなの!?)

 

 心の中で可能な限りつっこむシュウジだが、現実逃避ももうじき限界がくる。銀髪青年は此方にメンチ切ったまま動かないし、義勇青年に再度訊ねたりしない。折角奮い立たせた心が再び挫けそうになった時、救いの手は舞い降りた。

 

「不死川! 冨岡! 生きてるか!」

 

「加勢に来ました! 鬼は………あれ?」

 

向こうから現れたのは溌剌とした青年と優美な女性がやって来た。女性の方には覚えがある。先の雪の日に助けた女性の妹さん、あの頃より少し髪が伸びたのだろうか。顔付きも大人びており、あのお姉さんと似た雰囲気になっている。

 

そんな新たにやって来た二人にシュウジは助かったと安堵する。片方の男性は終始笑顔の耐えない好青年の様だし、片方の女性に至っては一方的だが面識がある。最悪自分が巷を騒がせた仮面の男だと口にすれば少なくとも話は聞いてくれる筈。

 

なにより、この銀髪青年よりは話が通じそう。なんて割りと失礼なことを考えながら、このチャンスを逃す手はないとシュウジは二人の前に出る。

 

「お二方も、鬼殺隊の隊員と見て宜しいですか?」

 

「え? えぇ、まぁ、はい。そうですが」

 

「うむ! 見たところ貴方がこの状況について一番詳しい様だ! 説明をお願いしても宜しいか!」

 

「それでは先ずは自己紹介から、私は白河修司。旅の行商人をしていて今は彼方にある竈門家の人達の所にお世話になっている者です」

 

「商人? そんな方が何故ここに?」

 

 首をコテンと傾げる女性にシュウジは此処だと説明を続ける。先の説明は省略し過ぎた。ならば今度はこれ迄の経緯をなるべく短くまとめて話していこう。何故商人の自分がこの山に来ているのか、そこら辺を上手く誤魔化しながら話を繋げ、自分が鬼と呼ばれる怪物達を倒したことも簡潔に説明していく。

 

「────と、まぁ要するに竈門家の人達を守る為に鬼舞辻無惨を撃滅した訳です。理解して頂けましたか?」

 

因みにこの事は義勇君も知ってますよ。と、付け加えて説明を終えたシュウジは今度こそ手応えありと満足げに頷いた。途中上弦の名前とか出す度に皆ビクッと反応していたけど、まぁ死者を貶める様な事を言うつもりはないし、そこら辺はささっと流させて貰ったが、重要な無惨を倒した所は話したからこれで納得してもらっただろう。

 

最後まで話終えたことで満足するシュウジ、しかし鬼殺隊の人達は納得仕切れなかった様で………。

 

「うむ! 修司さんと言ったな! 残念だがにわかには信じがたい! けれど嘘を言っている様子もない! 申し訳ないが、お館様の前で今一度詳しい話を聞かせてくれないだろうか!」

 

「て言うか冨岡さん。貴方も現場にいたのですから何故その事を話さないのですか! 貴方が証言すれば、それだけで済むと言うのに!」

 

「───俺から話せることは何もない」

 

「……………そんなんだから皆から嫌われてるって、どうして分からないんでしょうかねぇ?」

 

「俺は嫌われてない」

 

「そうかァ、クソ鬼ども………いねぇのかァ」

 

 爽やか青年は爽やかなままシュウジを連行しようとし、女性は冨岡に詰め寄っている。銀髪青年はなにやら意気消沈の様子で踞っているし、後から駆け付けた他の隊士や隠の人達は混沌としたその場に唖然としていた。

 

その後、半ば連れ去られそうになっていたシュウジを救ったのは人の言葉を話す烏だったという。

 

 




次回で鬼滅編が終われば良いなぁ。

もし次に異世界編を書くことがあったら、多分FGO編になりそう。

その時はFate編の続きになるかもです。

て言うか、ここから世界大戦が始まるんだよねこの世界。
………どうしよ。



それでは次回もまた見てボッチノシ

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