いつも通り、軽い気持ちで読んでくださると幸いです。
δ月γ日
オルガマリーちゃんの実に理不尽な説教から一夜明け、今日の自分はAチームの一人と組んでシミュレーターにてサバイバル実習訓練が行われた。
レイシフト先で待っているのは何も文明栄えた人の都市だけじゃない。寧ろ当時の年代を考えれば何もない荒野や猛獣が多く生息する密林の中に放り込まれる可能性だってある。人理を守る前に現地トラブルで命を落とすのは控えめに言って最悪なので、現地での適応性と順応性を磨く為のサバイバル訓練なのだとか。因みに、監修はオルガマリーちゃんとペペさんが担当したらしい。
自分が組んだのはオフェリアちゃん。Aチームの中でも儚げで可憐な少女風な彼女を最初こそは守ってやらないと思ってたのだが、どうやら彼女にはその様な気遣いは不要だったのだと思い知る。
自分達がやって来たのは密林で、拠点や食料の調達をどうするかと相談しようとした所、トントン拍子に彼女はそそくさと目的事項を片付けてしまう。自分も食料を調達しようと近くの虎擬きとか、ニワトリみたいな生物を狩ったりしたが、オフェリアちゃんは少食なのか、あまり食べようとしない。というかシミュレーターなので、実際は食べることは出来ない。物凄い質感と現実味のあるのに、これが実はデータの塊だと言うのだから凄いよなぁ。
魔術と科学の融合具合に感心しながら状況を進めていくと、とある敵性個体が自分達の前に現れた。
デッカイ蛇。人一人位余裕で呑み込めそうな巨大な蛇にオフェリアちゃんは驚いた様子だった。後から聞いた話だけど、どうやらこの時のシミュレーターに何らかの不具合があったらしく、オフェリアちゃんも外部との通信が切れていたと言っていたから、割りとこの時の状況は危なかったらしいのだ。
相手はシミュレーター、データの塊とはいえ魔術と科学の力で再現された怪物。個体名は……ヒュドラだっけ? ゲームや漫画で良く見かけるモンスター、コイツの毒はシミュレーターと言えど危険なモノで本来ならばサーヴァントが召喚されてから初めて試される難易度のモノなのだとか。
仕方ないので自分はオフェリアちゃんを抱えながら逃走。お姫様抱っこじゃないよ? そんな暇ないし、何より両手が空いてないんじゃいざという時の対処ができない。所謂お米様抱っ子のスタイルで森林を蹴散らしながら追ってくるヒュドラ、跳躍し、此方を追うことで全容が明らかになった大蛇に向けて気で作った円盤を投擲する。そう、気円斬である。
スパンと綺麗に切り裂かれたヒュドラはそのまま崩れ落ちる様に霧散していった。アレだけの大きな蛇なのだから栄養価の高そうな食材になりそうなのに勿体ない。なんて愚痴ると、流石に悪食過ぎない? と呆れられた。
その後は特に問題なく訓練は進み、本日の成果は満点の評価だったようだ。特にペペさん辺りは気円斬に興奮したのか、キリシュタリアに自慢してやろうと声高に叫んでいる。
その後の事後処理はペペさんやスタッフの皆さんに任せる事になり、自分は着替えてラウンジに向かった。すると、其処には奇遇にオフェリアちゃんもいたので反省会も兼ねて話をする事にしたのだが、何故かオフェリアちゃんからは別の話ばかり振られてしまった。
どうして自分がキリシュタリアと意気投合出来ているのか、魔術師でもないのに魔術師と共にいられるのか、どうして其処まで強くいられるのか等々、いつぞやのペペさんに似た質問を投げ掛けられた。
前にペペさんにも言ったかもしれないが、別に自分は強く在ろうとしている訳ではない。ただ、負けたくないから結果的にそう見えているだけ、理不尽や不条理に屈したり、負かされたままでいるのが嫌だから鍛えただけ。
自分が魔術師と一緒にいても平気なのは……まぁ、簡単に言えば慣れである。実際自分には何人か知り合いに魔術師いるし、中には神代の魔術師という現在は奥様は魔女を地でやってる人もいる。今更魔術師にビビるのも………ねぇ?
キリシュタリアは……うん、あんなに親しみのある魔術師だったとは自分も予想だに出来なかった。やたら日本のサブカルチャーに明るいし、ガンプラ作る際はマイニッパーを持ってくる位だ。それでいて公の時はビシッとしているのだから、色んな意味で凄いやつである。
と、一応一通り質問に応えるとオフェリアちゃんは一言『羨ましい』と返され、次いで『私は日曜日が嫌いなの』と意味深な言葉を聞かされた。はて? 日曜日が嫌いとは一体どういう事なのか?
アレかな? 日曜日の次はまた月曜日が始まって繰り返される学校の登校や会社への出勤に嫌になっている学生や社会人……的な意味合いの事なのかな? だとすればオフェリアちゃんってサ⚪エさんとか苦手なタイプ? 個人的には彼女にはワン⚪ースを押したかったんだけど、日曜日が嫌いなオフェリアちゃんにアラバスタ編は酷かもしれない。
返答に困っている自分にオフェリアちゃんはごめんなさいと微笑みながら言ってきた。多分、今言った日曜日が嫌い云々な話は忘れて欲しいという事なのだろう。席から立ち上がり自室に戻る彼女に困ったことがあるなら何でも言えと口にすると、やはり彼女は困ったような笑みを浮かべて『その時はお願いね』と達観した様で言うのだった。
日曜日が嫌いか………いつか、オフェリアちゃんの悩みが解消出来ればいいな。
PS.
そう言えば、今日の訓練で起きたトラブル。結局原因は何だったのか、未だに原因は分かっていないらしい。高難易度のクエストは特殊な暗号鍵で
オルガマリーちゃんはその事に酷く憤慨していたみたいだけど、取り敢えず今は様子を見るしかないとのこと。一先ず自分達が無事だった事を良しとし、原因究明はまた後日という事でその場はそれで終わったらしい。
因みに、憤るオルガマリーちゃんを説得したのが………レフ=ライノールだったらしい。オルガマリーちゃんは彼に心を許しているのか、いつもそのレフ某がくると、ベッタリと隣にいるのだとか。
レフ=ライノール………かぁ。
「おのれ、まだ生き残ったのか。忌々しい奴め、まるでゴキブリの様な人間だ。吐き気がする。大人しくここで死んでおけばまだ絶望せずに済むというのに、つくづく人間というのは度し難いな」
「………どうやら、予定を少しばかり繰り上げる必要がありそうだ」
δ月※日
今日は、何だか皆がピリピリしていた。他の魔術師達は勿論、カルデアのスタッフ、カドック君やオフェリアちゃんも何処か緊張している様子でオルガマリーちゃんは普段の三割増しにピリピリしていた。
食堂に休憩がてらの食事を摂りに来たDr.ロマンに聞くと。曰く、どうやら明日いよいよ人理修復の為のレイシフトが開始されるので、それが原因で皆ピリピリしているのだとか。
ペペさんやデイビット君はいつも通りにしていたから自分も気にしていなかったが、どうやら人理修復に挑むと言うのは歴史そのものへの挑戦という意味もあるしく、場合によっては歴史そのものと敵対する可能性もある危険なモノであって、その辺りのリスクを加味して皆少々ナーバスになっている。
同席していた技術師の人も顔色悪くしていた為、これ以上の緊迫した状況は却って士気に影響が出かねない。そう思い自分は王様から教わったある屁理屈を語ることにした。
曰く、世界を掛けた戦いに要らぬ緊張こそ無意味。 何故なら負ければ世界は滅ぶのだから、必然的に責める者もまたいない。故に世界の危機を存分に楽しむ事こそが人が最大の力を奮えるに足る。という。
Dr.ロマンは酷い屁理屈だと苦笑うが、技術師の人は多少気が楽になったのか、先程よりも少し顔色が良くなっていた。我ながら酷い理屈だと思うが、実際その通りなのだからバカに出来ない。王様なりの応援の仕方に当時の自分も何とも言えなくなっていたっけ。
その後、食事も終えて本日の業務と報告書の提出も終わり、後は部屋でその時が来るまで待機しておこうと通路を歩いていた時、背後からオルガマリーちゃんに呼び止められた。
食堂での台詞はどういう意味だと凄まじい怒気を醸し出しながら訊ねてくる彼女に、素直にそのままの意味だと伝えると、彼女はこれ迄見たことのないヒステリックさを見せてきた。
貴方は強いからそんな呑気に言えるのよ。とか、勝手なことばかり言わないでとか、自分が来てから頼みのAチームは可笑しくなったとか、そんな超然とした自分が大嫌いとか、その後も色々と彼女から罵詈雑言の嵐を感情のまま投げ付けられた。
何というか、この時の彼女はまるで年相応の女の子で、今まで塞き止められていた感情があるがままに溢れ出している彼女に何故か俺は放っておく事が出来なかった。
だからだろうか、どんなに口汚く罵られても彼女から離れようとは思わなかった。
思えば、一つの組織を一人の少女が抱え込む事、それ事態が普通じゃないのだ。アニムスフィア家がどれだけ優れた魔術師を輩出してきたのかは知らないが、オルガマリーちゃんも魔術師である前に一人の女の子、そんな彼女に全ての責任を押し付けていたのは………他ならぬ自分達だ。
気付いたら、彼女の頭に手を乗せていた。涙を流しながら憤慨する彼女に、哀れみではなく感謝の気持ちを込めて自分なりの言葉で激励した。
まぁその結果、脇腹を殴られて終わったんだけどね! いやぁ、やはり年頃の娘の頭をいきなり撫でるのは良くなかったよね! 自分なりにエールを送ったけど全くの逆効果だよ畜生!
何処でスタンバっていたのか途中からやってきたペペさんにもないわーって笑いながらダメ出しされたし、本当今日は災難だったわへへーん!
………あぁ、明日が憂鬱だぁ。
────私にとって白河修司は、魔術の理解もないただの素人としか見ていなかった。国連からの直々の命令状、これに従わないのならばカルデアは没収するという分かりやすい脅しを添えての指示に私は従う他無かった。
自分の無力さを呪いながら彼を受け入れ、僅かでも無能さを晒せばすぐにでもカルデアから叩き出すつもりだったのに、規格外に過ぎる奴の強さに私も他の魔術師達も全員揃いも揃って黙り込んでいた。
奴は、サーヴァントを使役できない代わりにサーヴァントと同等の力を有している。その事実が奴をAチームに在籍させる証明になってしまった。
それからも奴の影響でAチームはおかしくなっていくし、私が唯一心の拠り所にしていたレフも、最近あまり姿を見せなくなっていた。
不安ばかりが募っていていよいよ初の実戦を明日に控えた今日、心を落ち着かせようと施設を散策していた私に最悪の言葉が耳に入ってきた。
『そんなに気を張る必要はないさ。これは俺の王さ───保護者の言葉なんだけど、世界を掛けた戦いに必要以上に緊張する必要は無いんだってさ。必要なのはやってやるって開き直りにも似た気持ち、どうせ人理とやらが滅んだら人類も終わるんでしょ? と言うことは失敗したことを責める人間もいないんだから、気に病む必要は無いって話』
その言葉は私にとって何よりも許されざるモノだった。責める人間がいない? だったら気にする必要もない? ふざけるな、なら失敗を誰よりも恐れている私は、誰よりも滑稽な存在という事になる。
これ迄の自分の努力を土足で踏みにじられた。怒りでこれ迄塞き止めていた感情が一気に噴き出してきた私は、奴に全てを叩き付けた。
『ふざけないでよ! 何であんたなんかにあんなことを言われなきゃいけないの!? 私がいつも、どれだけ必死になってると思ってるの! 誰も責める者がいない? 私が許せないわよ! 私は、お父様に託されたの! そう受け取ったの! なのに、なのに! 何であんたみたいなのに軽く扱われなきゃならないのよ!』
魔術師ならばあってはならない無様な姿だった。誰かに認めて欲しくて、父に認めて欲しくて、がむしゃらに頑張って………なのに、それでも誰も私を認めてくれなくて。
“これくらい出来て当たり前”
“そんなことでいちいち呼び立てるな”
“お前のその成果とやらを聞くに足るメリットがあるのか?”
だから、私は────。
「そうか、凄い奴なんだな。君は」
「────へ?」
気付けば、私の頭には暖かい温もりある感触があった。
「そうだよな。一人でこの施設を支えて、頑張ってない訳が無かったんだよな。ごめんな、気付いてやれなくて。ありがとうな。今まで頑張ってくれて」
それは、憐れみの言葉じゃなかった。それは、これまで努力を重ねてきたオルガマリーに対しての心からの謝罪と感謝の言葉だった。
頭には嘗て一度たりとも感じたことのない感触。人の温もりの感触にオルガマリーは一瞬、自分が何をされているのか理解できなかった。
「だからさ、これからは俺も頑張るからさ。何でも言ってくれよ、そりゃあ、魔術師じゃない俺に出来ることなんてたかが知れてるけどさ、こう見えて腕っぷしにはそこそこ自信があるんだ。だからさ──」
『もう、自分を追い詰めるのは止めておこう』
気付けば、私は奴の手を振りほどき、力一杯込めた拳を脇腹に叩き付けていた。嘘でしょ、身体強化で固めたのに殴った拳の方が痛いとか、あの男の体は鋼か何かで出来ているのか。
────本当に、ふざけた男だった。こっちの気持ちも考えないで土足に踏み込んで勝手なことを言うだけ言って、あまつさえこの私の、私の頭を撫でてきた!
悔しい。悔しい。悔しい。悔しい! あれだけ好き勝手言われたのに何も言い返さなかった自分が、誰にもされなかった事をされた自分が。
何より、彼の言葉に“嬉しい”と感じてしまった自分が、何よりも悔しくて仕方がなかった。
◇
────翌日。
「あー、もうすぐミーティングかぁ。オルガマリーちゃん、昨日の事忘れてないかなぁ。無理っぽいよなぁ」
すっかり昨日の出来事で落ち込んでいた修司はミーティングが行われる時間のギリギリまで施設内をウロウロしていた。
あの後、反省会と称してペペロンチーノにラウンジへ連行され、そこで偶々居合わせていたAチームの面々に事の顛末を暴露され、それぞれボロカスにダメ出しされたのだ。
オフェリアからは「シンプルに気持ち悪い」。
芥ヒナコからは「上から目線とか何様? ビ⚪ス様と項羽様の爪でも煎じて飲めば? あぁ、貴方には項羽様の爪は勿体ないわね。寧ろ私が欲しい」。
カドックからは「それは駄目だろ」。
ベリルからは「プギャー」m9(^Д^)。
デイビットからは「それは今必要な話か?」
等々、散々な言われようだった。唯一キリシュタリアからは「そうか………済まないな。本来その役割は私の筈だったのに」と、普段とは違う真面目な顔付きで言われたのが心の救いだった。
あとベリルはいつかシバく。
そんな事があって現在顔を合わせるのに抵抗があってカルデア内をウロウロとしていると、いつの間にか施設の出入口付近にまで戻っていた。
そろそろミーティングに向かうか。ここまで来て漸く気持ちを固めた修司が踵を返した時、ふと小動物の声が聞こえてきた。
フォウ君だ。こんな所に来ているなんて珍しいと、興味本意で鳴き声の方へ向かっていくと───少女が倒れていた。
「うぅ~、頭がクラクラする~。えーっと、ここは……何処だっけ?」
「………君は?」
「ん? あ、はい! 私、藤丸立香と言います! それで、その、いきなりなんですけど………ここ、何処ですか?」
それは修司よりも一般人な文字通り唯の人間である少女との邂逅。
この日より、運命は回り始める。
オルガマリー=アニムスフィア。
銀髪で癇癪持ちだけど頑張り屋さん。
ンンンンン? 確か似たような女子が
次回、
それでは次回もまた見てボッチノシ