『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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待たせたな。

明けましておめでとうございます。


その10

 

 

 

 ────その日、人類は歴史ごとその存在を焼却された。レフ=ライノールと彼に王と仰がれる何者か分からない黒幕によって、2017年に人類は終焉を迎える事になった。

 

その証拠に未来を観測する筈だったカルデアスは炎の様に紅く染め上げられている。人類に希望はなく、同じ様に未来もまた存在しない。唯一残された生存区域であるカルデアもその時が来れば人理焼却の波に呑まれて消滅するだろう。

 

例えるなら、宇宙空間に漂流するコロニー。レフ=ライノールの残した言葉通り、人類に2017年以降の未来は訪れない。

 

 しかし、自分達は違った。カルデアは未だ未来に到達してはおらず、確定された未来を覆せる機会(チャンス)がまだ残されている。

 

崩れている特異点を修復出来る手段であるレイシフト。これを用いればレフ=ライノールと黒幕がもたらした人理焼却を覆す事に繋がるのは間違いない。

観測された七つの特異点にレイシフトし、崩された歴史を正しいカタチへと戻す。それだけが人類を救うただ一つの手段。

 

“この戦争がおわらなかったら”

 

“この航海が成功しなかったら”

 

“この発明が間違っていたら”

 

“この国が独立できなかったら”

 

そんな、現在の人類を決定づけた究極の選択点。これから自分達が挑むのはそんな人類史の分岐点なのだ。

 

故に、立ち向かう意思を示した時点で自分達の運命はここに決まった。

 

目的は人類史の保護、及び奪還。探索対象は各年代と、原因と思われる聖遺物・聖杯。

 

我々が戦うべき相手は歴史そのもの。立ちはだかるのは多くの英霊、伝説。

 

それは挑戦であると同時に過去へ弓を引く冒涜。我々は人類を守るために人類史に立ち向かう事になる。けれどそれしかない、自分達が生き残るには、これしか方法がない。未来を取り戻すためにはこれしかない。そこに例え、どのような結末が待っていたとしてもだ。

────以上の決意を以て、作戦名はファーストオーダーから改め、カルデア最後にして原初の使命。

 

人理守護指定・G.O(グランドオーダー)

 

魔術世界における最高位の使命を以て、我々は未来を取り戻す!

 

「────て、お互いの士気向上の為にあんな事言ってから三日程経った訳だが、その様子だとどうやら見付かったみたいだな。最初の特異点って奴が」

 

 Dr.ロマンからの呼び出しに応えて修司は管制室へやって来た。そこでは先に来ていたであろう藤丸達が修司の到着を見ると手を振って此方だと呼んでいる。

 

彼等の下へ歩みより、先の導入部分について語ると、ロマニは照れ臭そうに笑って頭をかく。

 

「いや、別に声真似までして言わなくても言いからね? ………コホン。と、まぁその通りだ。修司君の言う通り、僕達はあれから引き続き観測を継続していた結果、七つの特異点の一つを発見した。現在はレイシフトの最終調整中、突貫作業になったけどレイシフト関連は今回の作戦の要だ。集中的に修復したから精度の方は心配要らないよ」

 

「それはいいが、大丈夫か? アンタ達スタッフはカルデアの修復だけじゃなく、レイシフト中の俺達のバックアップも兼任している。あまり自分に負荷を掛けすぎていると、いつか取り返しのつかない事になるぞ」

 

 レフ=ライノールによる中央管制室の爆発によりカルデアは決して小さくないダメージを受けている。来れによりAチームを始めとした多くの魔術師達が再起不能になり、技術スタッフにも多くの被害が出た。

 

数少ない彼等を酷使させるのは忍びない。だから修司もせめて体が回復する迄の間と無理を言って技術的方面に手を貸すことにしたのだ。

 

「その点については心配いらないよ。何せ此処には世界屈指の天才、万能者たるこのダ・ヴィンチがいるのだからね!」

 

そこに絶世の美女として召喚されたダ・ヴィンチが応える。心配はいらないと語る彼女にそれが強がりではない事実であると分かった修司も一先ず胸を撫で下ろす。

 

「というか、あれから三日で特異点を見付けたことに危惧しているみたいだけど、それは君が手を貸してくれたからって分かってる?」

 

「え? 俺?」

 

「そう、折角技術者でもある君にマウントしてやろうと色々教えてやったら、あっという間に覚えちゃうんだもの。お陰で私から教えられる事は殆んど失くなったし、君も技術面でもカルデアに貢献できるスタッフの一員になったわけさ。しかも並外れた体力付き、君が手を貸してくれた事で観測側に人員を割くことが出来て他のスタッフ達の負荷も軽減されたってわけ。流石、英雄王の臣下なだけあるね」

 

 修司は過去の並行世界から何らかの理由でこの世界に訪れた渡航者、故に本当は未だ宇宙開発技術部門統括などと大層な肩書きを持ってはいないが、それでも彼自身が類い稀な技術者という事実はこの世界でも変わらない。

 

最初こそはカルデアの特殊な機材に戸惑いこそしたが、ダ・ヴィンチの的確な指導により施された論理(ロジック)を理解し、修繕修復の加担に成功した。

 

その上体力も並外れている為、普通の人より長く活動出来る修司は、リハビリと称して寝る間も惜しんで作業に没頭した。その集中ぶりにDr.ロマンも流石に不味いと思い一度半ば強制的に医務室に連行したが、そこで彼の口から出てきた台詞にDr.ロマンは呆れを通り越して関心すらしてしまった。

 

「まさか、作業が楽しくて寝るのを忘れてた。なんて言うんだからね。夢中になるのもいいけど、君こそ程々にしなよ」

 

「は、はは………その節は世話になりました。ごめんなさい」

 

カルデアという科学と魔術の合わさった施設に合法的に触れられたのは修司にとって大変実りのある経験だった。それ故に没頭し、熱中し過ぎた末に医療担当のトップに怒られる事態になってしまった。尤も、彼の頑張りのお陰で短時間の内にカルデアの大部分が修復された為、ロマニもあまり強く言うことはしなかったが………。

 

その後は半日近く爆睡した為に気力体力共に全快した修司が今度こそリハビリに専念した為に体の方も完全に元に戻り、今は前以上に力が満ちている気さえする。

 

「ん、んん! それじゃあブリーフィングを始めるとしよう。その後、僕達は第一の特異点の修復に取り掛かる。皆、準備はいいね?」

 

「はい! 取り敢えず、私は出来ることをやってみます! 部活には帰宅部に所属していたので逃げ足には多少自信があります!」

 

「先輩、自慢気に言うことではないかと」

 

「うんうん、二人とも元気そうでなによりだ」

 

 それから紆余曲折あってロマニから特異点の調査による大原則である行動の指針を説明された。

 

主に自分達が行うべき事は特異点の調査及び修正。その時代における人類の決定的なターニングポイント。

具体的に言えば、それがなければ人類はここまで至れなかった、所謂人類史における決定的な“事変”。それを調査ないし解明してこれの修正をしなくてはならない。

 

次に作戦第二の目的。それは《聖杯》の調査である。Dr.ロマンの推測によると特異点の発生には聖杯が関わっているとされ、レフも何らかな形で聖杯を入手し、悪用したと思われる。膨大な魔力の塊である聖杯を使わなければ時間旅行や歴史改変は不可能とDr.ロマンが断言している事から、この推測は間違いではないのだろう。

 

故に調査の際は聖杯を探索し、発見次第回収、もしくは破壊をするようにと厳命される。他にもレイシフト後の霊脈を発見からの補給物資を送るための召喚サークルの設置など細かい点を説明され、その全てを記憶するように藤丸は聞き入っている。そんな彼女の姿勢に有り難いと思いながらもロマニの説明は続いた。

 

その後、ダ・ヴィンチと藤丸の紹介も終わり、いよいよレイシフトが開始される………と、その前にDr.ロマンから修司に待ったが掛けられた。

 

「えっと……修司君? 君、本当にその格好で行く気かい?」

 

「ん? なんかおかしいか?」

 

「いや、寧ろおかしいところしかないんだけど………」

 

今の修司の格好は紺色のインナーとリストバンドにブーツ、そして山吹色の胴着を身に纏っている。知る人ぞ知る、あの格好である。

 

やっぱりアレなんだ! 藤丸は目を再びキラキラさせて修司を見てくる。やっぱりこの娘、キリシュタリアと何処か似ている。アイツがいればきっとこの困難も楽しく乗り越えられたのだろうな、そう思いながら修司はロマニへ説明しようとするが………。

 

「あぁ、それなら心配要らないよ。パッと見た限りだと彼のその礼装はレイシフトに何ら支障もない。寧ろ、カルデアが支給する礼装よりも性能は上だ。それはこのダ・ヴィンチちゃんが保証しよう」

 

「えぇ? 本当かい? このコスプレ紛いが?」

 

………このDr.ロマンとはこのカルデアへ来て1ヶ月程の付き合いしかないが、この男時折余計な一言を口にする悪癖がある。それと変にネガティブな所さえなければ良い指揮官になれるだろうに。

 

いや、ネガティブなのは現状を正しく認識しているが故に、という奴なのだろう。若干苛つく修司を余所にダ・ヴィンチが彼の礼装について熱弁している。

 

軈て修司の着る礼装が有用性のあるものだと無理矢理に自身を納得させ、Dr.ロマンはレイシフトへのGoサインを出す。藤丸とマシュ、そして修司の専用にと用意されたコフィンが現れる。

 

其所へ乗り込もうとした時、藤丸からある質問が投げ掛けられた。

 

「あの、修司さん」

 

「ん?」

 

「キリシュタリアって人、修司さんと同じAチームの人だったんですよね? どんな人なんです?」

 

 これ迄何度も出てきたキリシュタリアという名前、本来ならば彼が率いるAチームこそが人理修復に乗り出していた筈。だから、という訳ではないがそれでも彼女は知りたかった。キリシュタリアという人間がどういう人物だったのかを。

 

「そうだな。色々と面白おかしな奴だったけど、アイツを一言で表すなら……」

 

「表すなら?」

 

「君と、何処か似ている男だよ。ここにアイツがいたら、きっと君とは良いコンビになれる。そう断言できる奴だよ」

 

それだけ言って修司はコフィンへと向かう。扉が開かれ、いざ乗り込もうとした時、ふと何かを思い出したのか、修司はクルリと踵を返してロマニへ向き直る。

 

「ドクター、俺の格好をコスプレ紛いと言ったな。なら、一つ賭けをしようじゃないか」

 

「へ? な、何だいいきなり?」

 

「この胴着は伊達や酔狂で着ている訳じゃないって言ってるのさ。それを証明できた暁には………そうだな、アンタが隠している菓子を一つ貰うとしようか」

 

「えぇ!?」

 

 その後、なにやら喚いているDr.ロマンを無視して修司はコフィンへと乗り込む。藤丸もマシュもコフィンに入り、それを確認したロマニは戸惑いながらレイシフトの開始を宣言する。

 

レイシフト開始のプロセスが起動する。それに伴い意識は徐々に薄れていき、体には妙な浮遊感が纏わり付く。

 

 消えいく意識の中で修司はある台詞を思い出す。それは彼の偉大な黄金の英雄王から賜った修司の枷を外す一言だった。

 

『お前の力と威光、我の名の下に存分に奮う事を赦そう』

 

(あぁ、分かっているよ王様。こっから先、遠慮も容赦も一切なしだ。正真正銘全力全開で暴れてくるよ)

 

今、自分の世界がどうなっているのか、今の修司には知る術はない。しかし、それでも自分にはまだやるべき事がある。

 

王の名の下に力を奮う。自己満足な誓いを立てて、修司は光の中へと溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ふん、塵も残さず燃え尽きましたか。つまらない時間を取りました。ごめんなさい、ジル」

 

「何を仰る。これも全て意義のある鉄槌ゆえ。他に生き残った聖職者たちはどうします?」

 

「そうですね。いちいち審問をするのも面倒です。彼等に喰わせてあげましょう。喜びなさい。私の卑しい猟犬(サーヴァント)達。生き残った聖職者どもは貴方達のものです。マスターであるこの私、ジャンヌダルクが全てを許しましょう」

 

 フランスの某所。灰となり、塵も残さず燃え尽きた人だったモノを踏みにじり、その者は嗤う。

 

「魂を喰らいなさい。肉を咬み千切りなさい。湯水の様に血を啜りなさい。だって我々はまさに、“悪魔”として顕現したのですから!」

 

「私の命令はただ一つ。この国を、フランスという過ちを一掃する。刈り取る様に蹂躙なさい、まずはいと懐かしきオルレアンを」

 

「そして地に蔓延した春の沃地を荒野に帰す。老若男女の区別なく。異教信徒の区別なく。あらゆる者を平等に殺しなさい」

 

 自分を辱しめた国を許さない。自分を犯した全てが許さない。自分を笑い、踏みにじったあらゆるものが許さない。

 

それは、正しく黒い魔女。復讐に駆られ、あらゆるモノを殺すと誓う殺戮の破壊魔。

 

その名は────ジャンヌダルク。嘗て聖女と謡われた嘗ての彼女は黒い竜の魔女へと成り果てていた。

 

 

 

 

 

 

 




尚、格好いいジャンヌダルク(オルタ)は今回だけの模様。

それでは次回もまた見てボッチノシ



PS.

ふと思ったのだけれど、この時期にアスクレピオスを召喚したら。Aチームって復活できたのかな?


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