『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回は短め。

すまぬ、すまぬ。


その11 第一特異点

 

 

 

 ────レイシフトが完了した直後、修司が最初に感じたのは心地よい風の音と草葉の匂いだった。

 

目を開ければ、そこに広がるのは草原と澄み渡った青空。人理が焼却されたとは思えない程に平穏な場所だった。

 

辺りを見渡せば無事にレイシフト完了していた立香とマシュの姿も確認できる。前回とは違い安全に転移出来たことに修司は一先ず安堵する。

 

「フォウ!」

 

「ふ、フォウさん!? また付いてきてしまったんですか!?」

 

何故か前回に続いてレイシフトに付いてきた小動物、恐らくマシュか立香のコフィンに忍び込んだであろうフォウはマシュの頭に登ってご満悦そうにしている。レイシフトの影響による異常もないとの事だし、仕方ないと割り切ってフォウも連れていく事にした一行、直後に立香は何かを目にしたのか、驚いた表情である方角の空を見て固まっている。

 

一体何を見たというのか、不思議に思った修司は彼女が視線を向けている方角へ目を向けて────絶句した。

 

 其処にあるのは巨大な光の帯が円形状となって自分達を見下ろしていた。明らかに自然現象には見えないソレ、後から通信を開いてきたロマニもその様な現象はその時代に記録されていないと断言している事から、人理焼却に関わりのある事象と見て間違いないだろう。

 

一先ずあの巨大な光の帯については後回しにするしかないと判断したロマニは、修司達に送り出した時代の背景について詳しい説明を始めた。

 

レイシフトに訪れた年代は1431年。イギリスとフランスとの間で起きている争い、所謂百年戦争の真っ只中であり、マシュが付け足して説明するとどうやら現在は戦争の休止期間に当たる時期らしい。

 

戦争に休止期間があるという話に立香は首を傾げ、マシュが事細かく補足説明をしている。ちょっとした歴史の勉強をしている二人に和んでいると、修司はふと周囲から視線を向けられている事に気づいた。感じた視線の先に向き直ると、其処には槍や剣を手にしたフランス兵らしき人々が自分達を取り囲もうとしている。

 

その目には敵意の類いではなく、どちらかと言えば怯えや戸惑いといった様子のモノに近い。確かに自分達はこの時代から見て風変わりな格好をしていると自覚しているが、それでもあの怯えようは異常だ。

 

マシュと立香は未だ気付いている様子もないし、ロマニも警戒している様子はない。恐らくは自分に任せるつもりでいるのだろう、歴史の勉強を行っている彼女達に修司は気付かれないようにソッとその場から離れていき、にじり寄ってくるフランス兵に声を掛ける。

 

「失礼。貴方達はフランス側の兵士と見て間違いないだろうか?」

 

「な、何だお前達は!? おかしな格好をして、何処からやって来た!」

 

「カルデアという此処より少々遠い地からやった来た旅の者です。見た限り皆さんは何かに怯えていたご様子でしたが、この国で一体何が起きているのですか?」

 

 現地人になら特異点であるフランス、つまりは自分達の住んでいる故郷に付いて何か知っている事があるかもしれない。情報収集を兼ねて努めて穏やかな口調で訊ねる修司だが、どうやら今のフランスは余程の異常事態に陥っているらしい。

 

「た、旅の者だと!? 嘘を吐くな! このフランスに今はもう見るべきモノはないぞ! さては、貴様等も魔女の手先だな!? 仲間の仇だ。覚悟しろ!!」

 

そう言って襲ってくるフランス兵に修司は仕方なく応戦した。とは言え、相手はこの時代に生きる生身の人間。サーヴァントが相手でもないのに本気で相手をするわけにも行かず、峰打ち感覚で彼等に応戦した。

 

『と、まぁ百年戦争に関する話は大体こんな所───て、どうしたの修司君!? 何を勝手に死体の山を築き上げてるのさ!?』

 

 話を一通り終え、今まで大人しくしていた修司に話し掛けようとしたら、いつの間にか出来上がっていた人の山にDr.ロマンを始めとした全員が目を大きく見開かせて驚きを露にしていた。

 

「いや、殺してねぇから。適当に小突いて大人しくさせただけだからね?」

 

端から見れば大量殺戮の現場責任者にしか見えない光景、ドン引いているロマニへ違うと否定しながら、修司は倒れている彼等を近くの木に寄り掛からせる。

 

「本当なら情報収集も兼ねて色々と聞き出したかったんだけど、どうにも彼等は余程何かに怯えているっぽくてさ、碌に情報が聞けなかった。折角そっちが御膳立てしてくれたのに申し訳ない」

 

『へ? あ、うん。そうだね。それなら仕方ないよね』

 

「ドクター?」

 

 明らかに索敵を怠っていたであろうロマニは、この場を自分に任せていたであろうと勘違いしてくれた修司に全力で乗っかる事にした。当然マシュには気付かれており、その目を一瞬う⚪美ちゃんの如く鋭くさせるが、気付けなかったのは自分も同じなので修司に軽く謝る事で流すことにした。

 

「でも、気になる事も言ってたな。“魔女”、確か彼等はそんな事を口にしていた」

 

『魔女か。確かに気になるワードだね』

 

「取り敢えず進もうか。何人か逃がしておいたし、後を付ければ人のいるところに出る筈。本格的な調査はそこから始めるとしよう。マシュちゃん、立香ちゃんの護衛、宜しく頼むよ」

 

「了解です。先輩の安全は私が護りましゅ………」

 

「マシュ、もしかして今噛んだ?」

 

「か、噛みました………すみません」

 

フォウフォーウ(噛み噛み戴きましたー)!」

 

気絶させた兵達も直に目を覚ますその前に移動して新たな情報を探す為に一向は足早くその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辿り着いた所はとある砦。砦と呼ぶにはその内側はあまりにも酷い有り様となっているその建物に修司達三人は目を丸くさせる。戦争中ではない筈なのにこの有り様では負傷兵の治療もままならないだろう。

 

1431年、フランス側は当時の国王シャルル七世がイギリス側についたフィリップ三世と休戦条約を結んでいる筈。小さな小競り合い程度の争いはあってもここまで大規模な戦闘は無かった筈だとマシュは語る。

 

ともあれ先ずは情報を集めることから始めよう。修司は一時二人から離れ、骨折等の負傷をした兵達の現地でも出来る簡単な処置を施しながら話を聞き出すことにした。

 

「あ、アンタ。随分手馴れているんだな。もしかして何処かの偉い名医だったりするのか?」

 

「んなわけないさ。俺が処置しているのは折れた骨が綺麗にくっ付くように整えているだけだ。骨折程度なら何とかしてやれるが、それ以上の処置となると専門的な知識と技術、なにより施設が必要になる」

 

「良く分からんが、アンタのお陰で少し楽になったよ。ありがとう」

 

「礼ついでに一つ教えてくれないか? この国で一体何が起きている? 今は休戦状態じゃなかったのか?」

 

「あぁ、そういやアンタ達は旅人なんだってな。全く、大変な時に来たものだぜ。運がねぇな」

 

 そう言って負傷兵の話を聞いていくと、驚くべき事実が明るみに出た。フランスの国王だったシャルル七世はすでに殺されており、イングランドは当の昔に撤退し現在フランスは戦時以上の国家存亡の危機に立たされていた。

 

ジャンヌ=ダルク。嘗て火刑に処された筈のフランスの英雄が“竜の魔女”として蘇り、フランスの大地を血で染め上げているという。

 

それを聞かされた修司は絶句した。ジャンヌ=ダルクは救国の英雄として世界的に知られた女性だ。若干17という歳でフランスの為に立ち上がり、僅か一年でオルレアン奪回を果たした者。

 

イングランドに捕らえられ、火刑に処されるまでの間、あまりにも惨い拷問と屈辱を受けて、それでも尚祈りを止めなかった女性。そんな彼女がフランスを滅ぼそうとしている。

 

到底信じられない話だ。しかしそれはジャンヌ=ダルクが救国の英雄だからではない。

 

知っているからだ。彼女がどれだけ優しく、強く、気高い女性であることを修司は誰よりも近くで眼にしてきたからだ。

 

自分の知るジャンヌ=ダルクは無闇に人を傷付けたり、辱しめたりはしない。人に慈しみを持ち、尊重し、時には叱ってくれる………修司にとってシドゥリに続くもう一人の姉貴分として慕ってきた人だ。

 

そんな彼女が竜の魔女と呼ばれ、フランスを蹂躙している。目の前の負傷兵は実際にその様子を見たと言っているが、それでも修司には信じがたい話だ。

 

しかし、現実逃避をしている場合ではない。一通り彼等の処置を終えた修司は立香達との情報のすり合わせの為に合流しようとすると………。

 

「来たぞ! ドラゴンだ!」

 

「動けるものは立って戦え! そうでないものは何とか自力で逃げてくれ!」

 

 空から飛来してくるのは───ドラゴン。竜の亜種体とされる幻想種、ワイバーンの襲来である。間違っても15世紀のフランスにいていい生物ではない。

 

それが数頭、大口を開けて空から飛来してくる。ここには多くの負傷者達がいる。やらせるわけにはいかないと修司は跳躍し、一匹のワイバーンの前に出る。

 

「ヌンッ!」

 

 全身の筋肉をしならせ、回し蹴りを放つ。空気が爆ぜる音と共に吹き飛んだワイバーンは他のを巻き込んで地に落下する。

 

「悪いが、これ以上好きにはさせねぇ。一瞬で終わらせてやる」

 

そう言って掲げた左手に気を集中させて一つのエネルギーの塊を生成する。光輝くそれをワイバーン達に向けて放つと、光は爆発しワイバーン達は粉微塵に消し飛んでいく。

 

亜種とはいえワイバーンも竜、即ちドラゴンと呼ばれる存在だ。そんな幻想種が苦戦どころか秒で始末される光景にマシュ達は勿論フランス兵達もアングリと口を開いて固まっている。

 

「ドクター、索敵を頼む。マシュちゃん立香ちゃん、お疲れ様」

 

『りょ、了解!』

 

「いや、お疲れって言うほど何もしてないんだけど……」

 

「そんなことないさ。俺が情報収集している間、骸骨と戦ってくれてたんだろ?」

 

「え? 修司さん、気付いてたの?」

 

「そりゃあんだけ外で騒がれてたらね」

 

ワイバーンが襲来する少し前、マシュと立香が戦っているのを修司は知っていた。本当なら修司も手伝うつもりだったが、彼女達がいい感じに戦えていた事に安心し、その場での戦闘を任せることにしたのだ。お陰で負傷者達の簡単な治療処置を終えることができ、彼等をここから逃がす算段も整えることができた。

 

「カルデアでの三日、君達も頑張ってくれてたんだな。君達と一緒に戦える事、頼もしく思うよ」

 

「そ、そうですか? えへへ」

 

 修司がこのカルデアでの三日間を濃厚に過ごしていた様に立香とマシュもまたそれぞれ思い思いに過ごしてきた。忙しいダ・ヴィンチとロマニに頭を下げてシミュレーターを起動させ、其処で可能な限り二人はサーヴァントとマスターとしての戦闘訓練に勤しんでいた。

 

取り戻したい未来がある。その為に頑張ると口にした彼女の言葉は嘘じゃなかった。本当は怖い筈なのに、それでも前を向いて進み続ける彼女達に修司はAチームの皆とは何処か違う可能性を感じ始めていた。

 

「さて、それはそれとして………そこにいる奴、いい加減出てこいよ」

 

「え!?」

 

「ドクター!?」

 

『ご、ゴメンよぉ! 今こっちでも確認した! 向こうの木の影に魔力反応! ………これは、サーヴァントだ!』

 

修司君の探知、速すぎるよぉ! そんなロマニの嘆きの叫びを無視して盾を構えるマシュとその後ろで身構える立香、サーヴァントと聞いて前回の特異点でのアーチャーと騎士王を思い出しているのだろう。

 

そんな二人にいい反応だと感心しながら二人を庇うように修司は前に出る。木の影に隠れた何者かは依然として出てくる気配はない、此方の様子を伺っているのかと勘繰っていると………。

 

「あの……その………すみません。戦いの助力になろうかと駆け付けたのですが………アハハ、出遅れてしまって………」

 

 両手に旗を巻いた棒を持ち、気まずそうに出てくるその女性に修司は目を見開いた。

 

「そのポンコツ具合、間違いない! ジャンヌさんだ!」

 

「だ、誰がポンコツですかぁ!」

 

まさかの聖女(?)の登場に立香達は驚きを隠せなかった。

 

 

 

 





ボッチの得意技その1

エネルギー弾。

体を巡る気をエネルギーとして放出! 其処らの壁なら簡単に壊せるぞ!
他にも、派生技として色々な気力技が使えるぞ!
気円斬もその一つだ!


次回、ご唱和下さい、奴の名を。


それでは次回もまた見てボッチノシ


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