『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回は話が短い上に進みません。

済まない。済まない……。


その15  第一特異点

 

 

「へぇ、そちらのお二人が彼の有名なヴォルフガング=アマデウス=モーツァルトさんとマリー=アントワネット王妃か」

 

「フフ、堅苦しいことは良いのよ逞しい戦士の方。マシュと同じく気軽にマリーと呼んでちょうだい」

 

「僕はどっちでもいいけどね。敬われるのは慣れてるから」

 

 修司がマルタと名乗るサーヴァントを打破し、立香達に合流しようと元の場所へ戻ると、其処には黒いジャンヌと剣士の姿はなく。此方に敵意の無い二騎のサーヴァントが立香達と和気藹々と言った様子で自己紹介混じりの談笑をしていた。

 

話を聞いた限りだとどうやら黒いジャンヌと剣士は立香達に二騎が加勢する事になり、その事もあって戦力的に自分達が不利であると判断すると即座に撤退。こちらもジャンヌが傷を負った事もあり、立香は追撃はしないことを選択したようだ。

 

相手側の戦力を結構削いだとはいえ、敵拠点の近いこの場所で限られた戦力で追撃するのは些か以上に不安要素は大きい。向こうも何かしらの対策は練っているだろうし、勢いに任せて無茶な強行突破をしなかった立香を修司は素直に誉めた。

 

そして、加勢に来てくれたという二人のサーヴァントと話をしている内に修司が駆け付けたという所で話は冒頭に戻る。

 

「それじゃあマリーさんとアマさん二人はこれから俺達と行動を共にしてくれる。という事で宜しいか?」

 

「宜しくてよ。フフ、最初見たときは荒ぶるお方と思っていたのに、とても紳士的で驚いちゃった! マシュや立香もそうだけど、貴方もとても不思議な人なのですね。Mr.修司」

 

「ねぇ、それよりもアマさんって僕の事? 確かに必要以上に敬われるのは鬱陶しいけどさ、それにしたってアマさんって……」

 

「え、そう? 私は良いと思うけどなアマさん。日本の海女さんに似た感じで親しみ持てるよ?」

 

「えぇ……」

 

「可愛いじゃない。私は好きよアマさん」

 

「マリーまで……」

 

 修司なりのジョークのつもりだったのだが、思った以上に女性陣に受けたようですっかりアマさん呼びが定着してしまったフランスの偉大な音楽家は、ガックリと肩を落として項垂れる。

 

そんな彼等のやり取りを少し離れた瓦礫の上で腰掛けて微笑んでいるジャンヌに気付いた修司が歩み寄っていく。

 

「ジャンヌさん。体の方は大丈夫か? ダメージを負ったと聞いたけど……」

 

「修司さん。えぇ、此方の方はなんとか……傷の方も少し休めば大丈夫です。ご心配おかけして、すみません」

 

「謝る必要なんかねぇさ、お互い無事だったんだ。今はそれを喜んでおこう」

 

 そうは言うが、修司から見て今のジャンヌは色々と辛そうに見えた。自分に瓜二つの女がフランスを滅ぼすと言って竜種を操って暴れている。今自分が座っている所だって嘗ては思い出のある場所だった。

 

彼女にとって今のフランスは過去のものではない。続いているのだ。彼女にとってこの特異点はあの日、火刑に処された時から未だ区切りはついていない。

 

それでも止まるわけにはいかない。迷いながらも進む決意を固めている彼女に修司は呆れながらも笑みを浮かべる。仕方のない人だ。そう言って彼女に手を向けると、修司の手から光の塊が放出される。

 

光の珠がジャンヌに触れると彼女の体は忽ち回復し、怪我をした場所も瞬く間に綺麗に塞がっている。突然の事に目を丸くさせるジャンヌ、まるでダメージを受ける前までの状態に戻った自身の体にジャンヌはワナワナと身震いをさせていた。

 

「し、修司さん! 貴方、これ、私に何をしたのです!?」

 

「何って、俺の気を少し分けただけなんだけど? 何処か気分でも悪かったりする?」

 

「いえ、体調は頗る良好です。いえ、そうではなくて!」

 

 驚き震え、狼狽えるジャンヌに周囲の視線が修司に向けられる。その視線に修司もまた訳がわからないと言った様子で肩を竦めた。

 

「なに? 修司さんまた何かやらかしたの?」

 

「いや立香ちゃんよ、そんな俺が問題児みたいな言い方止めてくれない? まぁ、確かに此処までの効果があるとは思わなかったけどさ、やっぱサーヴァント相手だと効果も違ったりするのかね?」

 

『いやいやいや、攻撃だけじゃなく回復にも使えるとか、ちょっと万能過ぎやしない君の力。一体どういう原理?』

 

「そんな大層なモノでもないだろ? 魔術師(お前達)だって攻撃とか防御とか、回復とか使えたりするみたいだし、なぁ立香ちゃん」

 

回復や援護の類いは立香だって礼装を使って行っている。そもそも、摩訶不思議な力を使うのは魔術師の専売特許の筈だ。疑問に首を傾げるロマニにおいおいしっかりしろよと笑いながら隣の立香へ同意を求めるも……。

 

「うん。私はこの件に関してはノータッチにするね。絶対ややこしい事になるから」

 

「ですね先輩、これが俗に言う触らぬ神に祟り無し、なのですね」

 

「うん、ちょっと違うかな」

 

「成る程、君はそう言う類いの天才なのか。これは周囲の人間は大変だなぁ」

 

「ヴィヴ・ラ・フラーンス」

 

「フォーウ!」

 

立香は苦笑いで誤魔化し、偉大なる音楽家は他人事のように笑い、王妃は小動物と戯れている。誰も味方になってくれる人がいない、そんな理不尽に挫けそうになりながらも、修司は話を続けるのだった。

 

「兎も角、今は此処から離れよう。またさっきの連中が大群押し寄せて来るかもしれない」

 

「そ、そうですね。そうなったら私たちだけでなく周囲の人達も危ない。一旦ここから離れて話は其所で続けましょう」

 

「ドクター、近くで身を隠すのに最適な場所はありますか?」

 

『其処からだと近くの森が比較的安全そうかな。ただ、森の中には凶暴化した魔獣や亡者の類いもいるかもしれない。気を付けてね!』

 

「猪だったら、美味い鍋が作れるんだけどな」

 

「え? 修司さん料理も出来るの!?」

 

「おう、こう見えて料理は数少ない特技だからな。期待してくれていいぞ」

 

「一家に一人は欲しいね君」

 

そんなこんなで修司達は近くの森へ一時身を潜める事にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな、あの聖女マルタまでが……」

 

 森へと入り、安全確保の為に周囲の敵性エネミーを一通り排除し終え、カルデアから送られた夜営設備と食糧を使って修司の料理を舌鼓を打つ中、修司の話す情報により場の空気は少しばかり重くなってしまっていた。

 

聖女マルタ。悪竜として知られるリヴァイアサンの子、タラスクをその祈りで以て鎮め、あのイエス=キリストとも親交があった女性。その信仰深さと逸話から聖女として知られていた彼女が、黒いジャンヌの手先になっていたという事実に白のジャンヌは悔しそうに歯を食い締めた。

 

『で、でもその聖女マルタも修司君が倒したんだろ! なら、そんなに心配する必要はないんじゃないか?』

 

「いえドクター、恐らくこの場合は聖女として知られるマルタさんまでもがあの黒いジャンヌさんに支配されてしまう事実に驚いているかと思います」

 

(マジか、あの人聖女だったの? 聖女というより凄女って感じだけど……)

 

 皆が驚きを隠せないでいる中、唯一修司だけは手に持った器の中のスープを飲みながら検討違いの感想を抱いていた。いやだって聖女には見えないんだもの、聖人って皆あんななの? ジャンヌさんもいつかはあんな感じになっちゃうの? それは………ちょっと嫌だなぁ。なんて事を考えていると、話はドンドン進み、軈て一つの結論に至った。

 

あの黒いジャンヌは聖人すらも従わせ狂化させる力を持っている。今この特異点にはマリーやアマデウス以外にもサーヴァントがいるかもしれない、彼等を敵陣営に取り込まれると此方に不利になるのは明白、故に先回りをして他のサーヴァントを仲間にしてしまおう。

 

 そんな訳で、明日からは他にいるサーヴァントを見付ける所から始めよう。という事になった。

 

「………どうでもいいけどさ、いい加減二人のジャンヌの呼び方何とかしない?」

 

「例えば?」

 

「黒い方はジャンヌ・ブラック、白い方はジャンヌ・ホワイトとか」

 

「な、何ですかそれ! そんなの私イヤですよ!?」

 

「そう? シンプルだし、プリキ⚪ア見たいで格好いいじゃん。ドクターもそう思うだろ?」

 

『ちょ、そこで僕に振るの止めて!?』

 

「プリ⚪ュアって何かしら?」

 

「それはですね……」

 

「そこー、その人一応フランスの王妃だった人だからねー?」

 

重苦しい空気も何処へやら、そこからは比較的楽しい談笑になり、第一特異点の初日は幕を下ろすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう事よジル! 何でワイバーンを、腐っても飛竜を! サーヴァントを! 生身の人間が倒しているのよ!?」

 

「落ち着いてくださいジャンヌ、我が聖処女よ。貴女の怒り、憤り、全て解りますとも。えぇ、えぇ、怒りの原因はあの忌まわしい山吹色の男なのでしょう?」

 

「……知ってたの? ジル」

 

「あの光、ここオルレアンからでも見えましたからなぁ、全く不愉快極まりない光景でした」

 

「───苛立っても仕方ないわ。ジル、向こうに無視できない強敵がいる以上、もう此方も遠慮する必要はないわ」

 

「おぉ、では?」

 

「全てのワイバーンを出します。無論サーヴァントも。そして………邪竜の方もね」

 

「……全てとなると、準備に些か手間が取ってしまいますな。勿論、急いで用意はしますが」

 

「どれくらい掛かりそう?」

 

「明日の正午、でなら如何でしょう?」

 

「了解よ。聞いてたわね? バーサーカー、アサシン………いえ。湖の騎士ランスロット。処刑人シャルル=アンリ・サンソン」

 

「────urrrr」

 

「………了解しました。マスター、王妃の首の話なら僕以外に適任はおりません」

 

血にまみれた城の中でも狂った怪物の目に映るのは……やはり、何処までも血にまみれた光景だった。

 

 

 

 




次回、多分話が一気に飛びます。

故に、出てこないサーヴァントがちらほらいるかも……。

済まない。テンポが悪くて済まない。

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