翌日、聖女と王妃の女子会トークやら偉大なる音楽家の変態性等が垣間見られ、レイシフト初日の夜を満喫した修司達は、現在は近くの街にてサーヴァントに関する目撃情報を集めていた。
修司と立香とマシュ、そしてマリー=アントワネットの三人による情報収集、そのお陰でこの街では有益な情報を得ることが出来た。
「リヨンの守り神、ですか」
「えぇ、既にそのリヨンという街は焼き払われているみたいだけど、その地に大きな剣を持った騎士様が骸骨兵やワイバーンを蹴散らしていたみたいなの」
この街にいる人々、その多くが焼き払われたリヨンの街に住んでいた者だ。現在は避難民としてこの街に移住しているが、それ以前ではそんな守り神と呼ばれる騎士に助けられていたという。
ワイバーンや骸骨兵を一人で駆逐出来る人間なんてそうはいない、十中八九サーヴァントであることは間違いないだろうと全員が納得する。
「でも、そんな騎士様も複数の恐ろしい人達によって追い詰められ、今では行方不明だそうよ」
「恐らくは、ジャンヌ・ブラック達の仕業だな」
「え? その呼び方で固定なのです?」
「他にも、シャルル七世が討たれたのを切っ掛けに混乱していた兵を纏め上げたのがジル・ド・レェ元帥なのだそうよ」
「ジルが!?」
ジル・ド・レェ。百年戦争期のフランス軍の元帥にして貴族の一人でもあった男性。ジャンヌに取っては共に戦場を駆け抜けた戦友、そんな彼がリヨンを取り戻すために攻め入るという情報に一時は彼等に加勢する話も出てきたが、それを拒否したのは他ならぬジャンヌだった。
向こうに竜の魔女としてのジャンヌが入る以上、この時代のジルが知らない筈がない。ここで合流しては却って混乱に繋がってしまうと思ったジャンヌは、彼等と共に戦う道を拒んだ。彼女の心境、そして事情も理解したマシュと立香もその事に同意し、マリーもまたこれに納得した。
そんな中、唯一渋い顔をしていたのは意外な事に修司だった。難しい表情で何かを考えている様子の修司にマシュは恐る恐る訊ねた。
「あの、もしかして修司さんはこの話しに何か不審な点があるのでしょうか? 確かに現役フランス軍の人達の力を借りるのは一つの手段でしょうが……その、ワイバーンやエネミーを相手に戦うのは、些か無理があるかと」
「………ん? あぁ、違う違う。そういう事じゃないんだ。俺もジャンヌさんがフランス軍と合流するのは反対だ。実はちょっと考えていてね」
「考え? 今の話しで他に分かった事が?」
ジャンヌを始めとした好奇の視線が一斉に修司へ向けられる。混迷するフランスを一刻も早く何とかしたいと願うジャンヌは勿論、フランス王妃も興味津々の様子だ。
「いや、でも……あくまで俺の推測だし、本当にそうであるかは定かではないし」
しかし、そんな彼女たちとは余所に修司の様子は何処かたどたどしい。知ってはならない真実に気付いた様な、これをジャンヌの前で口にするのは憚れる様な、その様子は何処までも他者に対する気遣いのソレであった。
「だとしても、あのジャンヌの謎を明らかにするのであれば、私はそれに賭けたい。お願いします修司さん、迷える私達にどうか救いの手を」
そんな修司の優しさに触れながら、それでも今は確かな情報が欲しいとジャンヌは一歩前に出る。
「わ、分かったよ! 分かったから跪くのは止めてくれ! アンタにそんな事されたら多方面から怒られそうだ!」
膝を折り、祈りを捧げようとしてくる彼女に修司は慌てて呼び止める。こういう頑固な所は以前と変わらない、厄介且つ何処までも正直な彼女に呆れと僅かな嬉しさを抱いた修司は、ポツリポツリと自身の考えから来る推測を口にしだした。
話を進むに連れて先の修司同様に難しい顔をする立香達、話を全て聞き終える頃には誰もが修司の抱いていた気持ちに納得がいっていた。
「あの、ドクター。そういう事って起こり得るのでしょうか?」
『………可能性はゼロじゃない。聖杯によるサーヴァントの召喚は時間軸に縛られたりはしないからね。現にこの時代からは遥か未来の人物である王妃と天才音楽家がいるんだ。修司君の推測は強ち間違いではないと思うよ』
「まぁ、道理と言えば道理か。向こうにはジャンヌ=ダルクがいる。だとするなら、彼女の右腕である
「アマデウス、それは………」
「事実だよマリー。でも、早めに分かって良かった。これで気持ちの整理にも多少時間がとれる。そこのデタラメ君には感謝した方がいいかもね」
憎まれ口を叩き、進んで嫌われ役に徹しようとする友人をマリーは軽く小突いて嗜める。そう言うのは貴方のやることじゃないでしょう? 頬を膨らませて叱る王妃に天才音楽家は勝てないなと素直に頭を下げた。
「………ジャンヌさん。今のはあくまで俺の推測だ。状況と言葉を合わせただけのまやかし、だから」
「えぇ、ですがその可能性もあるという心構えが出来ました。ありがとう修司さん」
「………そっか」
明らかに無理をしている笑顔だが、それを修司は指摘しない。何故なら、修司は知っているからだ。彼女も理不尽に抗い立ち上がった一人の人間、苦境や逆境に苛まされても必ずやり遂げるという確固たる決意を持った強く格好いい女性である事を。
故にこれ以上修司が語る事は無かった。いや、語れなかった。語る言葉がないからではない、それを必要としないほどに彼女はその事実を呑み込んだのだから。
「さぁ、それではリヨンに向かいましょう。そこでサーヴァントがいるなら、せめて話だけでもしておかないと」
そう言ってジャンヌはリヨンへ足を進め、マリーや藤丸達も後に続く。修司も自分の言葉に僅かな後悔を抱きながら、彼等の後に続いた。
黒いジャンヌ=ダルク、その背後にいるのは恐らく嘗ての元帥ジル・ド・レェ、彼が何らかの方法であの黒いジャンヌを召喚し、竜を操る力を与えた。
確証はない、証拠もない、ただそうあったら色々辻褄が合うなと言う願望に近い推測。本当ならもう少し情報を集め、吟味してから結論付けたかったがこうなってしまっては仕方ない。
(いや、違うな。誰よりもそうあって欲しいと願っているのは………俺自身だ)
嘗て、修司の住んでいた故郷で想像を絶する惨劇が起きた。幼い子供達を対象に連続して起きた殺人事件、被害者となった人数は数知れず少年少女達の両親は絶望の涙を流した。その犯人は既に何者かの手によって討たれ絶命し、人の裁きを受けずにこの世を去った。
そんな子供達の命を弄び、殺してきた者の名前を知ったのは全てが終わった後だった。
『ジル・ド・レェだって?』
『然り。その者が10年前に起きた童達を狙った連続殺人事件の首謀者の片割れの名だ』
ジル・ド・レェ、史実からして英雄とは程遠い悪行を繰り返してきた狂人。しかしそんな怪物を相手に当時の修司が相手に出来る筈はなく、精々が死体の数が一つ増える程度に変わるだけだろう。
だがもし、もしもそんな奴と面と向かって
(酷い八つ当たりだ。この世界の奴が俺の世界にいた奴と同じであるかは分からないのに………)
しかし、心の内でその時が来るのを待ち望んでいる自分がいるのもまた事実。ならば今は待とう。いつの間にか握りしめていた手を解き、今度こそジャンヌ達の後を追うのだった。
(うわぁ、彼って怒らせたら不味い人だったのね。気を付けておこ)
そんな修司の様子を持ち前の耳の良さで聞き取っていたアマデウスは修司の逆鱗に触れたと思われる人物に内心で哀悼するのだった。
◇
リヨン。辿り着いたその街はやはり崩れ落ちており、微かに残った人の営みの痕がより一層当時の悲惨さを物語っていた。
「では、一度二手に別れましょう。私とマリー、そして修司さんが西側を、マシュと立香、アマデウスさんが東側をお願いします!」
「了解。あ、そうだ修司。マリーは気分が昂れば好き勝手にベーゼをしてくるから一応気を付けてね」
「あぁ、それはもうさっき知ったから」
ここへ来る前に見たフランス王妃と聖女の
そんなアマデウスからの緊張を解す為の揶揄を受けながら、修司達は情報にあった騎士を探そうとする。ロマニは立香のフォローに回っている為、探索の手伝いは望めない。
それから暫く探し続けたのだが、例の騎士を一向に見付けられず、藤丸達に合流しようか悩んでいた時にソイツは現れた。
『全員、直ちにそこから離れるんだ! サーヴァントを越えた霊基反応、超極大の生命反応がそっちに接近している!!』
「あれは!?」
「まぁ!」
遥か空の彼方から飛来してくるのは空を覆い尽くそうと迫る飛竜の群れが此方に向かって接近している。中でも中央に停滞しているそれは周囲の飛竜と比べモノにならない程に巨大且つ強大。
多くの伝説神話に登場するドラゴン、正に真竜とも呼べる最強の幻想種が此方に狙いを定めて一直線に飛んできている。
一刻も早く藤丸達と合流し、この街から離れろと叫んでくるロマニだが、修司はこの時デカイ飛竜が力を溜めているのを感じた。
「ジャンヌさん、マリーさん、伏せろ!」
「え!?」
「こ、こうかしら?」
「波ァァァァァッ!!」
修司の突然の言葉に驚きながらも従った二人を見ると、即座に修司はワイバーンの群れに向かってかめはめ波を放った。再びお目にかかる最強の必殺技にモニターしていたカルデアは再び沸いたが、その興奮は長くは続かなかった。
飛竜の群れ、その中心に位置するドラゴンから赤い熱線が放たれる。それは世界中の誰もが知る竜の息吹き。全てを薙ぎ倒し、全てを焼き払う正にドラゴンの代名詞とも呼べる一撃が修司のかめはめ波と激突する。
ぶつかり合った場所を中心に爆風が辺りを蹂躙する。雲は消し飛び、瓦礫は消し飛び、周辺の地域一帯にさえ及んでしまう破壊の衝撃はそれだけでフランスの大地を蹂躙してしまう。
「な、ろぅぅ!!」
このままでは結果的に此方の方がダメージを負ってしまう。修司は全身に力を込め、更に出力を上げて赤い熱線を押し上げる。
拮抗は呆気なく崩れた。まるで最初から勝負するつもりなど無かったと、ドラゴンの放つブレスは掻き消えた。
不思議に思うのも束の間、ドラゴンの群れはまるで最初からこうする為だと言わんばかりに飛散し、かめはめ波を避けていく。
巨大なドラゴンも騎乗しているだろう黒いジャンヌの影響もあってか素早い軌道でかめはめ波を避けていく。それでも余波は受けたのかドラゴンの体のあちこちが焼け爛れているのは確認できた。
ダメージこそ多少は与えられたが、今のは明らかにこちらの動きを読んでの行動だった。嫌な予感がした修司は次の攻撃に備えるが、飛竜の群れは予想外の行動に出た。
「なっ!?」
「ワイバーン達がバラバラの方角へ!?」
此処まで纏まっていた飛竜が突然バラけるようにそれぞれ別行動を始めたのだ。西へ東へ、北へ南へとそれぞれ向かう飛竜に修司達は面食らい戸惑ってしまう。
だが、同時に気付いた。この飛竜達が向かっているのはそれぞれ生存者達が避難している街があるという事を、その事にいち早く気付いたジャンヌは飛竜達を倒そうと移動を試みるが、そんな彼女の前に巨大な竜が降り立った。
見上げるほどに巨大な竜、体の節々から火傷の痕が見られるが、それも竜の桁違いな回復力によって瞬く間に消えていく。全快したドラゴンはその鋭い目で修司達を見下ろし、炎の吐息を口端から洩らす。
「アハハハ! 無様ねぇジャンヌ=ダルク、フランスを救おうと立ち上がり、フランスによって捨てられた哀れな女。さぁどうします? 此処で貴女がもたつけばそれだけ多くの民が死にますよ? 急ぎなさい、慌てなさいな。どのみちもう手遅れですけどね!」
「Arrrrrrr!!」
「っ!」
「ジャンヌさん!」
黒い竜と魔女、唯でさえ厄介な状況に加えてそこへ黒い鎧に身を包んだサーヴァントがジャンヌへと襲い掛かる。遠くから別の戦闘音が聞こえることから、恐らくは向こうでも同様の戦いが行われているのだろう。
「さて、後は生意気な箱入り王妃とふざけた力を持つあんただけね。感謝するといいわ、貴方達の様な無価値な存在が邪竜ファヴニールの餌になるのだから!」
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️ッ!!」
魔女が嗤い邪竜が吼える。分断され、孤立され、そしてフランス全土へ飛竜が解き放たれた。目の前には彼の伝説上の存在とされていた邪竜、これだけの窮地を前に覆す術は有り得ない。そう、奇跡でも起こらない限り絶対にこの理不尽は覆る事はない。
しかし、そんな理不尽が罷り通る事を彼は許さない。向こうが理不尽を押し通すなら、此方も理不尽を持って捩じ伏せるのみ。
「────させるかよ」
「………あ?」
本来なら、この技を出すのはもう少し後にする筈だった。力や技の威力が増す分、自身への負担が大きく土壇場以外で多用することを控えていた技。
しかし、それが原因で理不尽を受け入れるのは修司にとって最も避けるべきモノ、自分の保身の為に使うのを控えるより、誰かに降りかかる理不尽を払い除ける為に修司はこの技を使う事に一切の迷いはない。
「ここで遊んでいる訳にはいかない。一瞬で終わらせてやるぞ!」
「無駄なことを、今楽にしてあげるわ!」
黒いジャンヌが邪竜と共に押し寄せ、修司が体に
「私の歌を、聞けぇぇぇっ!!」
リヨンの地に特大の音波兵器が轟いた。
Q.もしもボッチが第四次聖杯戦争に参加したら?
A.キャスター組を滅侭滅相♪
次回、邪竜
確かこの特異点での邪竜って、竜殺しじゃないと倒せないんですよね?
スパロボで例えるなら倒した途端に復活する敵ユニット。
つまり?
それでは次回もまた見てボッチノシ