尚、仲良くなれるとは言ってない。
その
唯でさえ通常の生物よりも五感の鋭い竜種がその超音波により飛行能力を狂わされて悉く落ちていくその様子は言葉にできないほどの凄惨さが物語っていた。
「な、何今の!? 新手の兵器!?」
「み、耳がキーンとします。ハッ、アマデウスさん大丈夫ですか!?」
並の聴力の立香でさえ立つことが儘ならない謎の超音波、マシュはデミサーヴァントの力のお陰か比較的軽傷だが、それでも地に膝を着いている事から三半規管が狂わされているのは明らかだ。
メンバーの中でも随一の耳の良さを誇るアマデウスなら、どれ程のダメージなのかは計り知れない。心配になったマシュが近くにいる筈の彼に安否を確認すると……。
「────」(ピクピク
「あ、アマデウスさーん!?」
白目剥いて吐血しているアマデウスにマシュは嘆きに満ちた叫び声を上げた。どうみても手遅れである。ガッカリしろ。
しかし、ダメージを受けているのは飛竜達やアマデウスだけではない。女性の声と思われる超音波攻撃は目の前の敵サーヴァントにまで影響が及んでいた。
「な、何なんだ今の不快な音は!? 処刑された人達の断末魔だって此処まで酷くはなかったぞ!?」
「あぁ、クリスティーヌ、クリス………ゴッフ」
踞る二人の敵対サーヴァント。オペラ座の怪人ことファントムとフランスの処刑人シャルル=アンリ・サンソン、この二人もまたアマデウス同様に音波攻撃によってダメージを受けていた。
「ま、マシュ、兎に角今は!」
「りょ、了解です!」
マスターである立香の指示を受け、いち早く立ち直ったマシュは盾を支えにして立ち上がる。未だ向こうのサーヴァントは立ち直れていない様子、本調子に戻る前に決着を付けようと立香もまた礼装の力を発動させる。
マスターからの最大限の支援を受け取ったマシュは、盾を前へと構え勢いを乗せたまま突貫。満足に動けない二騎のサーヴァントに向かって突き進み、ファントムとサンソンは大型車に吹っ飛ばされた様に宙を舞った。確かな手応えを感じたマシュは立香の前へと戻り油断なく盾を構えて倒れる二騎を見据える。
「おぉ、よもやこの様な結末になろうとは………クリスティーヌ………」
「何でだ。僕は、サーヴァントになって強くなった筈なのに、彼女の首を切り落とせるのは……僕だけの筈なのにィィィ……!」
光の粒子となって消滅していくファントムとサンソン、彼等の最期を見届けるのとアマデウスが再起動するのは殆んど同じタイミングだった。
「────ハッ!? なんだ!? 僕の身に一体何が起きていた!?」
「アマデウスさん! 良かった。正気に戻られたのですね」
「正気? ………そう言えば意識を失う直前、とてもおぞましいモノを聞いた気がする。音と呼ぶには剰りにも冒涜的で、音楽と呼ぶには原始的過ぎるモノを………う、頭が」
「おぉう、天才音楽家のSAN値がゴリゴリ減ってる」
「と、ともあれ、どうやらマシュ嬢がバカサンソン達を倒してくれたんだね。ありがとう、そして申し訳ない。せめてサンソンの野郎の最期は指差して笑ってやりたかったけど、こうなっては仕方ない。急いでマリー達のところへ戻ろう、向こうもきっと厄介な事になっているだろうからね」
正気を取り戻し、戦線に復帰可能となったアマデウスは自身の不甲斐なさを謝罪しつつマリー達がいる西側へ向かおうと提示する。周辺の飛竜が再起不能となっている今、向こうと合流するタイミングは今しかない。
立香もアマデウスと同意見だと頷き、急いでジャンヌ達がいる場所へ向かおうと走り出すが、そんな彼女達の所へ一人のサーヴァントが立ち塞がる。
「悪いけど行かせないよ。君達は此処で釘付けにされてもらう」
「チッ、コイツも此方に来てたのか。これは少々面倒だぞ」
「でも、今は進まなきゃ! マシュ、行ける?」
「はい先輩! マシュ=キリエライト、応戦します!」
盾を突きだし、掛けるマシュ。そんな彼女を静かに見据えながら流麗の剣士は告げる。
「勢いに任せるのもいいが、それは少々無謀と言うもの、さぁ見せてやる。最優と称されるサーヴァントの力を!」
「っ、不味い! 戻れマシュ!」
細剣を構えて魔力を高めるセイバー、その様子にただならぬ気配を感じたアマデウスはマシュに静止を呼び掛け、それを耳にしたマシュは咄嗟に盾を前にして防御の姿勢を取った。
「
瞬間、マシュ達の前に美しい花が咲くと無数の斬撃がマシュを襲った。
◇
「────か、あ、な、何だったんだ今の凄い音は? 人の声? みたいな感じだったけど………」
一方その頃、立香達と同じ超音波攻撃を受けた修司は両耳を手で抑え、何とかといった様子で耐えていた。
凄まじい音だった。マトモに耳にしていたら意識が根刮ぎ刈り取られてしまいかねないほどの恐ろしい音だった。爆発音の類いではない、鼓膜は疎か体の奥底に刻み込まれるかの様な恐ろしい音の暴力。咄嗟に防げたのは偶然に等しい、実際最初に音の出だしを耳にした瞬間、修司は嘗て味わった事のない恐怖を体感した。
両手で強く耳を抑えたのにまだ頭がクラクラする。三半規管が未だに正常に働いていない事に修司が危惧していると、隣であの大きなドラゴンが地に降りて踞っている。この様子から見て恐らく今の爆音は黒いジャンヌ側の攻撃ではなかったようだ。
巨大なドラゴンすら昏倒させる音に修司が戸惑っていると、横から声が掛けられる。
「ちょっとそこの豚、私の質問に答えなさい」
(誰だ? こんな所に生存者? いや、この強い気配………まさか、サーヴァント?)
敵側の新手か、それとも味方か、修司は戸惑いながら声のする方へ視線を向けると………そっと視線を外した。
「ちょっと! 今目線此方に向けたでしょ! 絶対今こっち見たでしょ! 何を見なかった事にしようとしてんのよ! 私の話を聞きなさいよそこの山吹色の豚ァッ!」
角と尻尾を生やし、槍を持った少女がズカズカと此方に歩み寄ってくる。明らかに普通の風貌ではない、サーヴァントなのは確実でしかも恐らく黒いジャンヌの方に付いていない野良のサーヴァントだ。
味方に引き込めば戦況は傾く。今頃あの黒い鎧の奴と戦っているジャンヌへ加勢しに行って貰うのも手だ。
だがこのサーヴァント、非常に面倒臭そう。人を豚呼ばわりするのもそうだが、何より言動がアレだ。しかし選り好みもしていられないのも事実、意を決した修司は近付いてくるUMAとの接触を試みる。
「あー、えっと……俺に何か用?」
「単刀直入に聞くわ。貴方、今此処でデカイ光を出した奴を知らない? 昨日からずっとこの辺りを探してるんだけど、全然見当たらないの」
角少女の言う光とは多分かめはめ波の事だろう。昨日から探していたと言うし、恐らく間違いない。何故そいつを探しているのかと訊ねると返ってきたのは思ってた以上にブッ飛んだモノだった。
「そんなの、私のライブの演出にする為に決まってるじゃない! あの空の彼方まで一直線に伸びる輝き、あれを私のライブに取り入れればオリコン総なめも夢じゃないわ!」
「…………」
どうしよう。言ってることの八割以上がワケわかんない。演出? オリコン? なにこの娘、歌手か何かなの? 頭に浮かぶのは疑問符の羅列、目の前の蜥蜴っぽい少女の言語が殆んど理解できていない修司は、隣にいる未だ悶えている邪竜の存在すら忘れかけていた。
「それで、貴方は知ってるのかしら? 知っているなら教えなさい。知らなくても教えなさい。言っとくけど嘘なんて吐こうモノなら私の連れが容赦しないわ………て、きよひー? どこ行ったのよー?」
話の半分は理解できないが、要するにこの蜥蜴娘は自分を探して此処まで来たのだと言う。なら、今はその状況を利用しよう、もうじき邪竜の方も正気を取り戻す。そうなったら本格的に戦いは激化するだろう、そうなる前に何としても戦局を此方の有利に進めなければならない。
「君、名前は?」
「え? あぁ、そう言えば名乗らなかったわね。私はエリザベート=バートリー、クラスはアイドルよ」
「ならエリちゃん、君に頼みがある。此処からあっちの方へ少し離れた所で白い女の人が黒い鎧の奴と戦っている。君には白い女の人の助けになって欲しい。その見返りに君の望みを叶えよう」
「え!? そ、それってまさか……!?」
「さぁ、早くいってくれ。もうじきこの邪竜も目を覚ます。そこの人を連れて早く行ってくれ」
「え? ───ま、マジ?」
言われて漸く気付いたのか、空で蠢く邪竜の存在を前にエリザベートはわわと慌てながら未だ目を回しているマリーの手を引いてその場を後にする。向かった先にはジャンヌと黒い鎧の奴が戦っているだろうから、これで少しは彼女の負担も軽くなるだろう。
今この場に残っているのは修司と黒い邪竜、そしてそれに跨がる黒いジャンヌのみ。
邪竜の瞼が開かれる。鋭く、おぞましく、視界に入るもの全てを震え上がらせるサーヴァントを超えた超極大の生命体。ドラゴン。その中でも最上位に位置する真の竜種がたった一人の人間に向けて殺意を放つ。
「………全く、人を苛つかせるのが上手い連中ですね。まさか音波兵器を隠し持っていたとは、お陰で折角用意した戦力がガタガタですよ」
「…………」
「しかし、貴方もつくづく愚かですね。たかだか人間一人がこの場に残って、一体何が出来ると言うのです」
起き上がり、見下ろしながら吐き捨てる黒いジャンヌ。彼女の言う通り、この邪竜からすれば修司はちっぽけな存在に見えるだろう。どれだけ実力があろうと所詮は人、たかがサーヴァントと互角程度の生命体が最強の幻想種に敵うわけがない。
嗤う。黒いジャンヌは目の前の修司をただ嗤う。運がなかったと嘲笑する彼女に修司は不敵に笑みを浮かべる。
「何が出来る………か、そうだな。先ずはアンタには俺の実力を知ってもらうとしよう」
「はっ、そんなもの知る必要はないわ。ここで貴方は終わり、他の奴もあの白いジャンヌも、生き残っている人間も、フランスの全てを焼き尽くしましょう。何故なら私はジャンヌ=ダルクなのだから!」
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️ッ!!」
ジャンヌが謳い邪竜が吼える。天と地を震え上がらせる咆哮を前にそれでも修司は逃げる素振りを見せない。
「それじゃあ、一丁やってみるか」
全身に気を纏わせ、構えを見せる修司の顔には伝説のドラゴンに挑めるこの状況にワクワクした笑みが浮かんでいた。
◇
「やりなさいファヴニール! 最上位のドラゴンの力、見せ付けてやりなさい!」
竜の一撃とは時折自然現象と同一視される事がある。雪崩、火山、嵐、雷、地震、その事象に嘗ての人類は神や超常の存在の仕業であると認識し、その影響を受けて神格が誕生した。
今、修司が目にしているのは………津波だ。崩れた瓦礫が津波のごとく押し寄せてくる。黒い巨大な邪竜がしたのは唯の尻尾を振り回しただけのモノ、しかしそれだけでも脅威的な威力を秘めていた。
押し寄せる瓦礫の波と巨大な尾、触れただけでもミンチになるのは確実なその凪ぎ払いを修司は正面から止めて見せた。黒いジャンヌと邪竜の目が大きく見開く一方、修司は笑みを崩さないまま邪竜の尾を掴む。
「今度は此方の番だな」
全身に纏う気を大きくさせ、修司はその場から回転を始める。最初はゆっくりだったのが徐々に勢いを増していき、軈ては修司を中心に大きな竜巻が生まれる。
周囲の瓦礫を巻き込みながらの大回転、邪竜はモチロン背中に乗っていた黒いジャンヌが悲鳴を上げる間もなく必死にファヴニールにしがみつく。
「オラァァッ!!」
遠心力を武器に修司は邪竜を自身の真上へと投げ飛ばす。その様子に進軍していたフランス軍が目を丸くさせて呆然と見ていた。
そんな吹き飛んだ邪竜に追い付こうと修司もまた跳躍する。明らかに人並み外れた脚力、瞬く間に邪竜の懐に潜り込み修司は邪竜のその大きな腹に握り締めた拳を叩き込んだ。
「ダララララララララッ!!」
一発、二発処ではない、両手の拳が分裂したと錯覚するほどの激しい
しかし、ただやられるだけの邪竜ではない。大きいというのはただそれだけで脅威、故に振り払うドラゴンの手もまた巨大で、ファヴニールと比べて羽虫も同然な修司は避けることは出来なかった。
バシンッ、音と共に地表へ落下する修司だが、体勢を整えてあるモノに着地する。それは邪竜を投げ飛ばす際に一緒に巻き上げた瓦礫だった。
良く見れば邪竜の周囲には幾つもの瓦礫が浮かんでいる。ただ闇雲に投げ飛ばしたのではない、飛行も可能なドラゴンに対抗するべく修司が編み出した即興の作戦に黒いジャンヌは瞠目した。
瓦礫から瓦礫へと飛び移り、ファヴニールへと接近していく。小癪なと邪竜もブレスを吐いて吹き飛ばそうとするが、高速で移動している修司には当たらない。
そして、遂に邪竜の背中へと到達した。飛行能力の要である翼へと向かおうとする修司だが、当然それを黒いジャンヌは許さない。
「いい加減にしなさいよ、このデタラメ男!」
「悪いがジャンヌさん、今はアンタの相手をしている暇はない!」
振り抜かれる旗を修司は難なく掴み取る。既に彼女の動きは見切っている。強力で豪胆だがそれ故に大雑把な一振り、そういう所も変わらないんだなと内心で笑うが、先もいった通り今は彼女に構っている暇はない。
彼女ごと旗を持ち上げ遠くへ投げ飛ばす。いつぞやとは逆となったが、回復したであろう一匹のワイバーンが邪竜から落ちていく黒ジャンヌを拾い上げる。そんな彼女を一瞥すると、修司はドラゴンの翼へ手を伸ばす。
強い力だ。それでも修司の手から逃れることはない、はためく翼を強引に掴み取った修司は、そのまま邪竜の背中を掛けて地表に向けて投げ飛ばす。
所謂一本背負いである。ブチブチと音を立てながら翼は千切れ、巨大な体躯がリヨンの大地へ激突する。地を揺るがすほどの振動、遠くでマシュ達の悲鳴が聞こえたが、戦闘に集中している修司の耳には届かない。
地表に着地し、修司は舞い上がる砂塵を油断なく構えて見据える。伝説のドラゴンがこの程度で参る訳がない、そんな確証めいた心境で砂塵の中へ睨み付けると、予想通り邪竜はゆっくりと起き上がった。
「アハハハ! バカね! そのドラゴンは邪竜ファヴニール、伝説に名を遺した稀代の竜種よ! そいつを殺したくば“
邪竜ファヴニール。伝説によれば大英雄であるジークフリートによって討たれたとされる正真正銘の伝説的な竜種。伝説上このドラゴンは竜殺しであるジークフリートには決して勝てないとされる運命にある。しかし逆を言えばジークフリートや竜殺しを除いてファヴニールを倒す事は不可能であると言うこと。
ファヴニールの伝説、それは既に一種の概念として世界に根付いている。引きちぎった筈の翼が瞬く間に再生されていくのがその証拠、ファヴニールを倒したことのない修司では今のファヴニールを倒す事は不可能なのだ。
しかし、その程度で修司が諦める訳がない。殴ったり千切ったりする程度で倒せないなら、粉微塵になるまで消し飛ばす迄だ。全身に力を滾らせ、再び修司はあの構えを取る。
「フンッ、またその技か。いい加減芸がないのよ、ファヴニール! 本当の閃光というのを見せてあげなさい!」
瞬間、邪竜の周囲に力が溢れ出す。それは大気に満ちるマナの集約、星の力すら手にしたファヴニールの最大出力だ。
周囲の瓦礫が溶解していく。空が朱く染まり、大地が血の色に染められていく。練り上げられた力の奔流は既にリヨンとその一帯ごと世界地図から消し飛ばすほどに高まっていく。
誰もが抱く終焉の二文字。しかし、修司は止まらない。
「かぁ………めぇ………」
確かに目の前のドラゴンが見せる力は凄い。その出力は10年前に見た騎士王の聖剣よりも単純な出力では上回っているだろう。正に伝説の再現………いや、復活だ。直撃を受ければ、修司でも無事では済まないだろう。
しかし。
「はぁ………めぇ……」
それがどうした。伝説のドラゴン? 避けきれない終焉? そんな理不尽、これ迄だって乗り越えてきた。今更その程度の壁に自分が怖じ気付くと思っているのか。
白河修司は偉大なる黄金の王、英雄王ギルガメッシュの臣下である。あらゆる理不尽と不条理に打ち克つため、彼の下で力を得た臣下の一人。そんな自分が目の前のトカゲ風情に負けるなど………あり得ない。
何より、昨日とさっきので自分の力を計ったつもりでいるのが我慢ならない。既に王から許可は戴いている。あとは思う存分、その力を放つだけである。
瞬間、眼前に紅い光が修司を覆っていく。圧倒的な破壊の力、命は勿論魂すら砕け散るその光を前に………。
「波ァァァァァッ!!」
修司もまた光を放った。紅と蒼、ぶつかり合った二つの光の拮抗は驚くほど呆気なく崩れ……。
邪竜の放った灼熱の閃光は修司の放った蒼い閃光に巨大なファヴニールごと呑み込みまれ、遥か空の彼方へと消えていった。
────あっ、今空にある光帯にかすった。
軈て、辺りは静まり返る。修司の体には特に怪我を負っている様子はなく、精々上の山吹色の胴着部分が衝撃の余波で吹き飛び紺色のインナーが露になっている程度。
対する邪竜の方はその殆どが消滅しかけていた。
「ふぅ、流石にちょっと疲れたかな」
口では体力の消耗を訴えているが、未だに修司の体力は底をついてはいない。肩を回し、体を解し、自分の体調を確認するその姿はまだまだ限界の様子ではなかった。
「な、なによ、何なのよアンタ、それだけの力、どうやって手に入れたって言うのよ!?」
先程までの威勢は修司の放ったかめはめ波によってファヴニールのブレス諸とも消し飛んだらしい。飛竜の上で明らかに狼狽している彼女に修司は何事もないように応える。
「どうって……普通に修行でだけど? あと実戦」
「ふざけないでよ、ただの人間がどう修行したら手からビームなんて出るのよ。おかしいでしょ、不条理だわ」
何やら酷い罵倒を受けた気がするが、戦意を削がれたのならそれでいい。捕まえて彼女から洗いざらい聞き出そうと修司が歩き出した時、半分となった邪竜が蠢きだした。
「───マジか、本当に粉微塵にしないと倒せないのかよ」
「◼️◼️◼️◼️……」
再生し、立ち上がる邪竜に修司は呆れ、魔女は笑みを浮かべる。形勢逆転、そう思わせる展開に黒ジャンヌは先程までの調子を取り戻す。
「あ、アハハハ! そうよ! 邪竜ファヴニールにはこれがあったのよ! 例え全身が砕かれても尚復活するその巨体! 竜殺し無くば崩れ得ぬ絶対的な不死性! 喩えお前がどれだけ強かろうと、それだけでは邪竜に勝てる道理はないと知るがいい!」
「………」
「さぁファヴニール! 今一度さっきの力で今度こそ目の前の男を殺しなさい!」
勝利を確信したかのような黒ジャンヌの叫び、しかしそれに反して邪竜の方は先程までの荒ぶりが嘘のように大人しくなっていた。
何せ、先程放った邪竜のブレスは間違いなく最大限の威力を秘めていた。リヨンは勿論、オルレアンや下手すればフランス全体が焦土となるほどの本気の一撃だった。
それを、目の前の男はあっさりと凌駕した。つまり、自分ではこの人間にはどうやっても勝てないと言う事、疲れたと男は言うが、精神的苦痛は寧ろ此方の方が大きいし、何よりあれだけのエネルギーを放出したのに未だ白河修司という人間は息一つ乱してはいない。
初めて理不尽というのを目の当たりにした。邪竜ファヴニールは初めて体験する理不尽に怯え、無意識に修司から後退る。
「◼️、◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️ッ!!」
しかし、それでも竜種としての矜持がファヴニールに逃避の選択を許さなかった。苦し紛れの雄叫びを上げ、その巨大な前足で踏み潰さんと迫るが。
「いいぜ、此処からは持久戦だ。けど覚悟しろよ邪竜さん、………こう見えて俺は、少しばかりしつこいぞ」
やはり、片腕で難なく防いでしまう。空いた片腕に力を込め、握り拳を突き出してくる修司に邪竜ファヴニールの目から大粒の涙が溢れ落ちた。
◇
────男にとってドラゴンは避けては通れぬ存在だった。ドラゴンの伝説はそのまま己の伝説であり、己の逸話もまたドラゴンと共にあった。
嘗て竜殺しを成し遂げたもの、ジークフリート。リヨンの人達の為に戦っていた男は現在瀕死の状態で街をさ迷っていた。
ジークフリート、嘗て邪竜を屠ったとされ人々に平和をもたらした英雄。人に利用され、王に利用され、その果てに裏切られた悲しき英雄。
そんな彼は現界した時点で邪竜の存在には気付いていた。竜殺しとしての因縁、ならば今回も断ち切る迄だと、瀕死の体を引き摺りながら邪竜の下へ向かおうとしていた。
その途中、顔を合わせた清姫なるサーヴァントの肩を借り、どうにか一太刀浴びせる程度にまで回復したジークフリート。
これで邪竜を屠る事ができる。刺し違える覚悟でその場所に辿り着いた彼が目にしたものは………。
「行くぞ! これが俺の、ペガサス流星拳だ!」
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️ッ!!」
「やめて、もう止めてよぉ……ファヴちゃん、この間誕生日を迎えたばかりなのよ。また一緒に誕生日を開くって約束したの、ねぇ、もういいでしょう? もう、止めて上げてよぉ!!」
「まだまだァッ! 今度は彗星拳だッ! 次はエクスカリバー、その次は気円斬で輪切りにしてやるぜ!」
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️ッ!?」
「どうしてそんな酷いことをするのぉっ!? これが、こんな事が…………人間のやることですかぁ!?」
「お前が、泣くまで、戦うのを、止めない!!」
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️ッ!!!!」
「もう泣いてんのよぉぉぉ!!」
「────おっふ」
その混沌とした光景にジークフリートから変な声が出た。
Q.もしもボッチがプリヤにいたら?
A.普段は温厚な激辛麻婆好きの変人。
ある日を境に並行世界へ渡りそこでの士郎達の事を知った彼は、黄金の王の力を借りて黄金聖闘士として戦うことを決意する。
ボッチ「くらえ、これが俺の流星拳だ!」
士郎「」
イリヤ&クロエ「」
美遊「」
子ギル「……なんか、変な化学反応起こしてません?」
言峰「くっ、何故か奴を見ていると胃が痛む」
それでは次回もまた見てボッチノシ